第029話 リリスの憂鬱 後編
ー/ーパーティ一行は、大急ぎで馬車に乗り込むとアムッチャの森へと駆けていった。
「うーん。これでは馬車は通れないな」
森の入口で、シロウは言う。
入口は長いこと人が通ってなかったのか、ぼうぼうに草が覆い茂っていた。
しかし、そのことで分かったこともある。
「これは……子供が通った跡だな」
二足歩行の小さな者は子供に限らないが、シロウは歩幅によってその足跡を人の子供と断定した。
「よし、この足跡を追っていくぞ」
シロウの意見に賛同した一行は、森の中へと足を進めた。
「全く…人族の小娘は迷惑ばかり掛けますわね」
特に誰かに話しかけているわけでもなく、リリスはそう呟いた。
「そう焦るでない。このあたり一帯は危険なモンスターもおらん」
エリスは、念のため左右を気にかけながら言う。
こうして、一行は森の中を更に歩き進めて行った。
バサバサバサバサ
「わっ!!!なになに!?」
サーシャは、マコトにしがみつきながら言う。
「ただの野鳥だよ」
夜目の比較的利くマコトは答える。
「なんだぁ、ただの鳥かぁ。驚かさないで欲しいわね」
そんな出来事があってから10分ほど経過した頃、不意にシロウは足を止めた。
「ここで足跡が途絶えている!」
シロウの言葉に、一行はすぐさま辺りを見回した。
「どこに行ったんだろう………………」
サーシャが森の中へ足を踏み入れようとしたところで、エリスは彼女のローブを掴み引き戻した。
「わっぷ!………………………って、何するのよ!」
「勝手に動くでない。どこに何があるのか分からんのじゃ。滑り落ちたら最悪死ぬぞ」
「恐らく、サーシャ君と同様に鳥の羽ばたく音に驚いて、どこかに滑り落ちたに違いない」
シロウは、少しの痕跡も残すまいと草むらを凝視する。
「………………………あった。ということは………ここだな」
シロウは、リリスが森に入る前に出していた神光の光の玉をかざした。
そこは急こう配の坂になっているようで、そこから足を滑らせたようだ。
しかし、神光の光では広範囲まで照らすことが出来ない為、彼女の姿をうかがい知ることは出来なかった。
「こりゃあ、降りてみるしかないな。」
シロウは、木にロープを巻き、自身の肩、胸、腰にも巻くと神光を頼りに降りていった。
そして、シロウは程なく見つけた少女のアンと共に戻ってきたが、喜べる状況でない事は皆直ぐに分かった。
アンは既に意識が無く、体温も下がっており唇が紫に変色している。
更に、足に大きな傷を負っていた。
町まで運んでいる余裕はない。
「私の外套使って」
サーシャはそう言うと、ローブを脱いで地面にそれを敷き彼女を寝かせる。
彼女は、代わりにマコトが着ているローブに包まった。
「後はわたくしに任せて下さいまし」
リリスは、シロウが止血のために巻いていた布をほどくと、傷口を聖水で洗い流す。
「どうだ?」
神光で傷口を照らすシロウは訊く。
「えぇ………大丈夫ですわ。血管まで損傷は行っていませんわ」
そう言うと、リリスは、鑷子、持針器を取り出し、既に縫合糸を通していた縫合針を手に取ると、素早い手つきで傷口を縫っていった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「………………………ん………………あ………れ………?………なんでお姉ちゃんがいるの?」
「それは馬車の中だからですわ」
リリスの言葉にアンは起き上がり、辺りを見回す。
「いたっ!」
意識が戻ったことで痛みも戻ったのか、彼女は大けがをした右足の縫い目に目をやる。
「……これは?」
「貴方、意識が無かったので傷を縫ったのですわ。ほら、これをお飲みなさい」
リリスが差し出したポーションを受け取ると、のども乾いていたのかアンはゴクゴクと飲み干した。
それにより、足の傷口は瞬く間に塞がり回復したのであった。
「わー、すごーい!痛みが無くなってお肌もツルツルだー」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「いえ……わたくしが回復の呪文が使えたら、こんなまどろっこしいことはしなくて済みましたわ」
リリスは少女から目を逸らして言う。
「お姉ちゃん、回復魔法使えないの?」
少女の何気ない一言が、リリスの胸に突き刺さる。
重苦しい雰囲気が流れる中、サーシャが背後からリリスの両肩を掴み口を開いた。
「そーなのよぉー、このお姉ちゃんは回復魔法が使えない回復職なのよぉー」
サーシャの言葉に、リリスは何も言い返さず無言のままだった。
「ちょっとサーシャ………」
マコトが止めに入ろうとしたが、エリスがそれを止めた。
「でもねー。その回復魔法が使えない回復職のおかげで、あなたは助かったの」
「もっと感謝の意を表するべきだわ」
「うん。ありがとうお姉ちゃん」
「声が小さーいっ!」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「まだまだー!!!声が小さーいっ!!!」
「ありがと……!もごもご」
アンの口は、リリスによって塞がれた。
「貴方、楽しんでやってるでしょ」
「ち、バレちまったか」
しかし、この事で場の雰囲気は一気に和らいだのであった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「アン!」
「お母さんっ!」
母子は無事再会を果たし、アンはポポラの実と共に家へと帰ることが出来たのである。
そして、一行はいったん宿屋まで戻り馬車を駐馬場に繋いだのち、銭湯に足を運んで身を綺麗にしたのだが、シロウとリリスを除いた面々はいつの間にか銭湯から姿を消していた。
「全く、あの小娘たちはどこへ行ったのかしら」
「エリスも居ないし、先に帰ったんじゃないか」
「そうですわね」
二人は、夜風にあたりながら散歩がてら宿屋に向けて歩き出す。
「ところでシロウ。あれだけの短期間でよくポポラの実を採取して来れましたわね」
「あぁ。あれはあの子がポポラの実を握ってたんだよ。だから近くにあると思ってね」
「それであの時、一人だけあの場に残ったんですのね」
「そういうことだ」
それから、少しの間の沈黙があったのちリリスが口を開いた。
「わたくしは、まだパーティに居てもいいのかしら」
「ん?いいんじゃないの」
「でも、回復魔法も使えない回復職なんて………今回だって使えたらすぐにあの子は良くなってましたわ」
「確かそうだな」
シロウの言葉に、リリスの胸はズキンと痛みのようなものを感じる。
「だが、あの時、俺達の他にあの子を助けようなんていうパーティは居たか?」
「あ………」
「そう、誰も名乗りを上げなかった。十数という数のパーティがあの場に居たにもかかわらず、だ」
「つまり、あの子を助けられたのはリリスひとりだけだったってことさ」
「シロウ………」
「だから、これからもよろしく頼むよ」
「し……仕方ありませんわね……………でも、イザベラを連れて来られたらどうしようかと………」
リリスは照れ隠しをしながらもそれに応えたのだが、思わず妄想の中の恋敵の名も口に出してしまう。
「ん?イザベラって誰?」
「なっ!………何でもありませんわっ!」
こうして、回復魔法の使えないヒーラーの旅は、まだまだ続くのであった。
「うーん。これでは馬車は通れないな」
森の入口で、シロウは言う。
入口は長いこと人が通ってなかったのか、ぼうぼうに草が覆い茂っていた。
しかし、そのことで分かったこともある。
「これは……子供が通った跡だな」
二足歩行の小さな者は子供に限らないが、シロウは歩幅によってその足跡を人の子供と断定した。
「よし、この足跡を追っていくぞ」
シロウの意見に賛同した一行は、森の中へと足を進めた。
「全く…人族の小娘は迷惑ばかり掛けますわね」
特に誰かに話しかけているわけでもなく、リリスはそう呟いた。
「そう焦るでない。このあたり一帯は危険なモンスターもおらん」
エリスは、念のため左右を気にかけながら言う。
こうして、一行は森の中を更に歩き進めて行った。
バサバサバサバサ
「わっ!!!なになに!?」
サーシャは、マコトにしがみつきながら言う。
「ただの野鳥だよ」
夜目の比較的利くマコトは答える。
「なんだぁ、ただの鳥かぁ。驚かさないで欲しいわね」
そんな出来事があってから10分ほど経過した頃、不意にシロウは足を止めた。
「ここで足跡が途絶えている!」
シロウの言葉に、一行はすぐさま辺りを見回した。
「どこに行ったんだろう………………」
サーシャが森の中へ足を踏み入れようとしたところで、エリスは彼女のローブを掴み引き戻した。
「わっぷ!………………………って、何するのよ!」
「勝手に動くでない。どこに何があるのか分からんのじゃ。滑り落ちたら最悪死ぬぞ」
「恐らく、サーシャ君と同様に鳥の羽ばたく音に驚いて、どこかに滑り落ちたに違いない」
シロウは、少しの痕跡も残すまいと草むらを凝視する。
「………………………あった。ということは………ここだな」
シロウは、リリスが森に入る前に出していた神光の光の玉をかざした。
そこは急こう配の坂になっているようで、そこから足を滑らせたようだ。
しかし、神光の光では広範囲まで照らすことが出来ない為、彼女の姿をうかがい知ることは出来なかった。
「こりゃあ、降りてみるしかないな。」
シロウは、木にロープを巻き、自身の肩、胸、腰にも巻くと神光を頼りに降りていった。
そして、シロウは程なく見つけた少女のアンと共に戻ってきたが、喜べる状況でない事は皆直ぐに分かった。
アンは既に意識が無く、体温も下がっており唇が紫に変色している。
更に、足に大きな傷を負っていた。
町まで運んでいる余裕はない。
「私の外套使って」
サーシャはそう言うと、ローブを脱いで地面にそれを敷き彼女を寝かせる。
彼女は、代わりにマコトが着ているローブに包まった。
「後はわたくしに任せて下さいまし」
リリスは、シロウが止血のために巻いていた布をほどくと、傷口を聖水で洗い流す。
「どうだ?」
神光で傷口を照らすシロウは訊く。
「えぇ………大丈夫ですわ。血管まで損傷は行っていませんわ」
そう言うと、リリスは、鑷子、持針器を取り出し、既に縫合糸を通していた縫合針を手に取ると、素早い手つきで傷口を縫っていった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「………………………ん………………あ………れ………?………なんでお姉ちゃんがいるの?」
「それは馬車の中だからですわ」
リリスの言葉にアンは起き上がり、辺りを見回す。
「いたっ!」
意識が戻ったことで痛みも戻ったのか、彼女は大けがをした右足の縫い目に目をやる。
「……これは?」
「貴方、意識が無かったので傷を縫ったのですわ。ほら、これをお飲みなさい」
リリスが差し出したポーションを受け取ると、のども乾いていたのかアンはゴクゴクと飲み干した。
それにより、足の傷口は瞬く間に塞がり回復したのであった。
「わー、すごーい!痛みが無くなってお肌もツルツルだー」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「いえ……わたくしが回復の呪文が使えたら、こんなまどろっこしいことはしなくて済みましたわ」
リリスは少女から目を逸らして言う。
「お姉ちゃん、回復魔法使えないの?」
少女の何気ない一言が、リリスの胸に突き刺さる。
重苦しい雰囲気が流れる中、サーシャが背後からリリスの両肩を掴み口を開いた。
「そーなのよぉー、このお姉ちゃんは回復魔法が使えない回復職なのよぉー」
サーシャの言葉に、リリスは何も言い返さず無言のままだった。
「ちょっとサーシャ………」
マコトが止めに入ろうとしたが、エリスがそれを止めた。
「でもねー。その回復魔法が使えない回復職のおかげで、あなたは助かったの」
「もっと感謝の意を表するべきだわ」
「うん。ありがとうお姉ちゃん」
「声が小さーいっ!」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「まだまだー!!!声が小さーいっ!!!」
「ありがと……!もごもご」
アンの口は、リリスによって塞がれた。
「貴方、楽しんでやってるでしょ」
「ち、バレちまったか」
しかし、この事で場の雰囲気は一気に和らいだのであった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「アン!」
「お母さんっ!」
母子は無事再会を果たし、アンはポポラの実と共に家へと帰ることが出来たのである。
そして、一行はいったん宿屋まで戻り馬車を駐馬場に繋いだのち、銭湯に足を運んで身を綺麗にしたのだが、シロウとリリスを除いた面々はいつの間にか銭湯から姿を消していた。
「全く、あの小娘たちはどこへ行ったのかしら」
「エリスも居ないし、先に帰ったんじゃないか」
「そうですわね」
二人は、夜風にあたりながら散歩がてら宿屋に向けて歩き出す。
「ところでシロウ。あれだけの短期間でよくポポラの実を採取して来れましたわね」
「あぁ。あれはあの子がポポラの実を握ってたんだよ。だから近くにあると思ってね」
「それであの時、一人だけあの場に残ったんですのね」
「そういうことだ」
それから、少しの間の沈黙があったのちリリスが口を開いた。
「わたくしは、まだパーティに居てもいいのかしら」
「ん?いいんじゃないの」
「でも、回復魔法も使えない回復職なんて………今回だって使えたらすぐにあの子は良くなってましたわ」
「確かそうだな」
シロウの言葉に、リリスの胸はズキンと痛みのようなものを感じる。
「だが、あの時、俺達の他にあの子を助けようなんていうパーティは居たか?」
「あ………」
「そう、誰も名乗りを上げなかった。十数という数のパーティがあの場に居たにもかかわらず、だ」
「つまり、あの子を助けられたのはリリスひとりだけだったってことさ」
「シロウ………」
「だから、これからもよろしく頼むよ」
「し……仕方ありませんわね……………でも、イザベラを連れて来られたらどうしようかと………」
リリスは照れ隠しをしながらもそれに応えたのだが、思わず妄想の中の恋敵の名も口に出してしまう。
「ん?イザベラって誰?」
「なっ!………何でもありませんわっ!」
こうして、回復魔法の使えないヒーラーの旅は、まだまだ続くのであった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
パーティ一行は、大急ぎで馬車に乗り込むとアムッチャの森へと駆けていった。
「うーん。これでは馬車は通れないな」
森の入口で、シロウは言う。
入口は長いこと人が通ってなかったのか、ぼうぼうに草が覆い茂っていた。
しかし、そのことで分かったこともある。
入口は長いこと人が通ってなかったのか、ぼうぼうに草が覆い茂っていた。
しかし、そのことで分かったこともある。
「これは……子供が通った跡だな」
二足歩行の小さな者は子供に限らないが、シロウは歩幅によってその足跡を人の子供と断定した。
「よし、この足跡を追っていくぞ」
シロウの意見に賛同した一行は、森の中へと足を進めた。
「全く…人族の小娘は迷惑ばかり掛けますわね」
特に誰かに話しかけているわけでもなく、リリスはそう呟いた。
「そう焦るでない。このあたり一帯は危険なモンスターもおらん」
エリスは、念のため左右を気にかけながら言う。
こうして、一行は森の中を更に歩き進めて行った。
バサバサバサバサ
「わっ!!!なになに!?」
サーシャは、マコトにしがみつきながら言う。
「ただの野鳥だよ」
夜目の比較的利くマコトは答える。
「なんだぁ、ただの鳥かぁ。驚かさないで欲しいわね」
そんな出来事があってから10分ほど経過した頃、不意にシロウは足を止めた。
「ここで足跡が途絶えている!」
シロウの言葉に、一行はすぐさま辺りを見回した。
「どこに行ったんだろう………………」
サーシャが森の中へ足を踏み入れようとしたところで、エリスは彼女のローブを掴み引き戻した。
「わっぷ!………………………って、何するのよ!」
「勝手に動くでない。どこに何があるのか分からんのじゃ。滑り落ちたら最悪死ぬぞ」
「恐らく、サーシャ君と同様に鳥の羽ばたく音に驚いて、どこかに滑り落ちたに違いない」
シロウは、少しの痕跡も残すまいと草むらを凝視する。
「………………………あった。ということは………ここだな」
シロウは、リリスが森に入る前に出していた|神光《ディバイン》の光の玉をかざした。
そこは急こう配の坂になっているようで、そこから足を滑らせたようだ。
しかし、|神光《ディバイン》の光では広範囲まで照らすことが出来ない為、彼女の姿をうかがい知ることは出来なかった。
そこは急こう配の坂になっているようで、そこから足を滑らせたようだ。
しかし、|神光《ディバイン》の光では広範囲まで照らすことが出来ない為、彼女の姿をうかがい知ることは出来なかった。
「こりゃあ、降りてみるしかないな。」
シロウは、木にロープを巻き、自身の肩、胸、腰にも巻くと|神光《ディバイン》を頼りに降りていった。
そして、シロウは程なく見つけた少女のアンと共に戻ってきたが、喜べる状況でない事は皆直ぐに分かった。
アンは既に意識が無く、体温も下がっており唇が紫に変色している。
更に、足に大きな傷を負っていた。
町まで運んでいる余裕はない。
アンは既に意識が無く、体温も下がっており唇が紫に変色している。
更に、足に大きな傷を負っていた。
町まで運んでいる余裕はない。
「私の|外套《ローブ》使って」
サーシャはそう言うと、ローブを脱いで地面にそれを敷き彼女を寝かせる。
彼女は、代わりにマコトが着ているローブに包まった。
彼女は、代わりにマコトが着ているローブに包まった。
「後はわたくしに任せて下さいまし」
リリスは、シロウが止血のために巻いていた布をほどくと、傷口を聖水で洗い流す。
「どうだ?」
|神光《ディバイン》で傷口を照らすシロウは訊く。
「えぇ………大丈夫ですわ。血管まで損傷は行っていませんわ」
そう言うと、リリスは、|鑷子《せっし》、|持針器《じしんき》を取り出し、既に|縫合糸《ほうごうし》を通していた|縫合針《ほうごうばり》を手に取ると、素早い手つきで傷口を縫っていった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「………………………ん………………あ………れ………?………なんでお姉ちゃんがいるの?」
「それは馬車の中だからですわ」
リリスの言葉にアンは起き上がり、辺りを見回す。
「いたっ!」
意識が戻ったことで痛みも戻ったのか、彼女は大けがをした右足の縫い目に目をやる。
「……これは?」
「貴方、意識が無かったので傷を縫ったのですわ。ほら、これをお飲みなさい」
リリスが差し出したポーションを受け取ると、のども乾いていたのかアンはゴクゴクと飲み干した。
それにより、足の傷口は瞬く間に塞がり回復したのであった。
それにより、足の傷口は瞬く間に塞がり回復したのであった。
「わー、すごーい!痛みが無くなってお肌もツルツルだー」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「いえ……わたくしが回復の呪文が使えたら、こんなまどろっこしいことはしなくて済みましたわ」
リリスは少女から目を逸らして言う。
「お姉ちゃん、回復魔法使えないの?」
少女の何気ない一言が、リリスの胸に突き刺さる。
重苦しい雰囲気が流れる中、サーシャが背後からリリスの両肩を掴み口を開いた。
重苦しい雰囲気が流れる中、サーシャが背後からリリスの両肩を掴み口を開いた。
「そーなのよぉー、このお姉ちゃんは回復魔法が使えない|回復職《ヒーラー》なのよぉー」
サーシャの言葉に、リリスは何も言い返さず無言のままだった。
「ちょっとサーシャ………」
マコトが止めに入ろうとしたが、エリスがそれを止めた。
「でもねー。その回復魔法が使えない|回復職《ヒーラー》のおかげで、あなたは助かったの」
「もっと感謝の意を表するべきだわ」
「もっと感謝の意を表するべきだわ」
「うん。ありがとうお姉ちゃん」
「声が小さーいっ!」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「まだまだー!!!声が小さーいっ!!!」
「ありがと……!もごもご」
アンの口は、リリスによって塞がれた。
「貴方、楽しんでやってるでしょ」
「ち、バレちまったか」
しかし、この事で場の雰囲気は一気に和らいだのであった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
「アン!」
「お母さんっ!」
母子は無事再会を果たし、アンはポポラの実と共に家へと帰ることが出来たのである。
そして、一行はいったん宿屋まで戻り馬車を駐馬場に繋いだのち、銭湯に足を運んで身を綺麗にしたのだが、シロウとリリスを除いた面々はいつの間にか銭湯から姿を消していた。
「全く、あの小娘たちはどこへ行ったのかしら」
「エリスも居ないし、先に帰ったんじゃないか」
「そうですわね」
二人は、夜風にあたりながら散歩がてら宿屋に向けて歩き出す。
「ところでシロウ。あれだけの短期間でよくポポラの実を採取して来れましたわね」
「あぁ。あれはあの子がポポラの実を握ってたんだよ。だから近くにあると思ってね」
「それであの時、一人だけあの場に残ったんですのね」
「そういうことだ」
それから、少しの間の沈黙があったのちリリスが口を開いた。
「わたくしは、まだパーティに居てもいいのかしら」
「ん?いいんじゃないの」
「でも、回復魔法も使えない|回復職《ヒーラー》なんて………今回だって使えたらすぐにあの子は良くなってましたわ」
「確かそうだな」
シロウの言葉に、リリスの胸はズキンと痛みのようなものを感じる。
「だが、あの時、俺達の他にあの子を助けようなんていうパーティは居たか?」
「あ………」
「そう、誰も名乗りを上げなかった。十数という数のパーティがあの場に居たにもかかわらず、だ」
「つまり、あの子を助けられたのはリリスひとりだけだったってことさ」
「つまり、あの子を助けられたのはリリスひとりだけだったってことさ」
「シロウ………」
「だから、これからもよろしく頼むよ」
「し……仕方ありませんわね……………でも、イザベラを連れて来られたらどうしようかと………」
リリスは照れ隠しをしながらもそれに応えたのだが、思わず妄想の中の恋敵の名も口に出してしまう。
「ん?イザベラって誰?」
「なっ!………何でもありませんわっ!」
こうして、回復魔法の使えないヒーラーの旅は、まだまだ続くのであった。