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休息

ー/ー



【ラギルーガ】、マエナスの店、兼住居。

「珍しい…これは、見たことの無い魔術考察論の書物だ…ほう…。」

「クロウさん!お手合わせねがうっす!」

「お?いいぜ!簡単にへばるなよ?」

「ぬぬっ…とぁ!っと、こんな感じでやるんだぉ?」

「す、すごいです…勉強になります!」

昼下がり、昼食を済ませたアクリスたちは思い思いに過ごしていた。

「何でこんなやかましくなってんだ…チッ!」

家主であるマエナス、かなり不機嫌な様子でファランクスが淹れたお茶をすすっている。6日前にはなかった新調した大きいテーブルにアクリス、ファランクス、マエナスが向かい合うように座っていた。

「いや、ほんとにごめん…。まさかあの子たちと一緒になるとは思わなくって。は…ははっ…。」

「まったく…まぁ、来ちまったもんは仕方ねぇわ。」

「期待以上だった癖に素直じゃないですねぇ…。」

マエナスに言われた条件ギリギリ、5日目の夕方にアクリスは帰還した。まさかの、5人連れで。マエナスは呆れたような喜んでいるような複雑な笑みを浮かべ、ファランクスはアクリスの無事に安堵した。詳しい話は翌日、と言うことになり、一晩体を休めたのち、あらためて集まっている。

「んで?…ファラ、おまえの呼んだやつもそろそろくるんだろ?」

「えぇ。私は王子と行動を共にして情報を集め、彼らは別行動、別方面から収集してもらっていました。は、いいんですけど…急に追加で調べろって人使い粗いんですよまったく。」

「ファラの友人だっていう同郷のエルフ達だよね、本当にありがたいよ。」

襲撃の時受けた傷を癒やした後、各地を巡り、都市の状況を探りながら旅をしていたが、大陸全土の情報を得るには2人では流石に骨が折れ、時間がかかり、日々状況は変化もしていく。その為、なるべく誤差が生まれないよう、ファランクスは友人に声をかけたのだ。そのおかげか、実質情報収集は1年もかかっていない。ファランクスの友人たちの協力がなければこの速度で行動に移すまでには至らなかっただろう。

「どんな情報持ってくるか楽しみにしてるぜ?それと、あと、2人。いや…成功すればもっと増えるか…。」

「もっと感謝してくださいマエナス!も~またブツブツ言って自分の世界入ってる…はぁ~。」

妙に距離が近いなと思ったアクリス。ふたりを見て、

「んー…聞きたいんだけどさ、なんか急に仲良くなってない?もしかして…もしかする?俺の気のせい?」

ふたりしてきょとんとした顔をした。
アクリスが飛び出して行った後、もちろんこれからの事についても話はしていたのだが―。

「な、何を言ってるんですか王子は!別に何もありませんよ!マエナスの軍師たるところの話を色々して学んでいただけでですね…お、思い出したくもない…。」

と、身震いし、それを見てマエナスは堪えらなくなったのか、笑いながら答えた。

「ぶはっ!まぁ…クククッ、そうそう、ファラの言う通り、ゆっくり、じっくり、お話してたのよ、な?」

「そうなのか?やっとファラにも春がきたかぁ!と思ったんだけど…。」

察しがいいのか悪いのか…とはいえ、本当にそういった事はなく、マエナスの商売のひとつに薬の販売がある。ファランクスは開発中の新薬剤の実験台にされて遊ばれていただけなのである。

「いやいや王子、この人、男ですからね?ね?」

ファラは必死である。マエナスはツボに入ったのか笑い続けている。そこにタイミングよく、

「こんにちわ…ここでよかったかな?」

「失礼する。」

アクリス達に声をかけ、店内へ入ってくる2人のエルフ。

「マーク!トム!よく来てくれましたぁ~!さぁさぁ座ってください!」

助けが来た!と、言わんばかりに急いで駆け寄りふたりを招き入れるファランクス。

オレンジがかった茶色の髪に緑色の瞳を持つマーク、黄色味の強い薄緑色の髪、長い前髪で両目を隠しているのがトム。ファランクスの友人のエルフだ。ファランクスはテキパキと人数分のお茶を用意、淹れ直しをして話し合いの場を早々に設ける。

「クククッ…久々にあんなに笑ったな。…さて、着いた早々でわるいが、始めようか?」

マエナスが大陸の地図を、トムが何枚かメモが書かれた紙をテーブルに広げる。

「まず、各主要都市の状況から話そう。」

トムがメモの1枚をマエナスに渡し、話し始めた。

「先の襲撃で落とされた【ウィンドール】と【エンカ】は、異常な速度で以前と変わりない状態まで戻ってきている。それが王都【サザンライト】に新王の即位があった直後からだ。」

「突然襲撃が終わったのと同じ時期、ね。まぁ十中八九その新王ってのがあいつだろ?逆に分かりやすくて助かるわ。」

「同感だ。今の所、その意図が読み取れないのが歯がゆいところだが…それに、復興と銘打ちながら何かの基盤を作ってるような動きがある。」

この大陸はほぼ円形で、バツ印で4等分、緑溢れる地域、雪と氷の地域、灼熱の地域、実り溢れる地域ときれいに別れた作りをしていて、各地域には王城が建つ中心都市がある。ちなみに【ラギルーガ】はそのほぼ中心の位置にある中立都市で領主はいるものの、城は構えてはいない。

「何も知らない人々はその(はたら)きを見て王を讃えるか…皮肉なものですね…。」

「俺たちが見てきた時とは状況が突然変わってるね。自分でした事をいいように逆手に取って掌握しようとしてるなんて…そんなの許される事じゃない!弄んでるだけじゃないか!そんなもの、王とは呼べない…!」

「クククッ…それをお前が変えるんだろ?その助けをするのが俺たちの役目だぜ?」

落ち着けと言うかのように、マエナスはアクリスを指差す。

「【ウィンドール】と【エンカ】両方とも潜入してきたんだけど、人を入れずに隠れて作業してる感じだったね、魔族だらけだったよ。」

「真っ先に手を加えるのはやっぱそこだよな。もし反乱勢力が攻めて来たとしても【ウィンドール】なら元々の作りが要塞だ。簡単には落ちることはねぇし、【エンカ】はその土地柄、普通の装備じゃ簡単に攻めれねぇ。王都にいられなくなる事態が万が一起きたとて、どっちかに逃げ込めばいい。反乱する側には厄介だが今更仕方がねぇか。」

沈んだ表情で、だが冷静に推測して状況を読み取る。

「【ハルト】に関してはまだ調べてるから、もう2、3日待ってもらっていいかな?追加の件についてもね。」

その他の周辺の町や村はさほど変わりなく、大きく動きがあったのは王城を構えた都市だった。都市の…不死の王の動きには不審な点が多いが、アクリス達はまだ、現状手の出せる状態ではない。それをわかってか、マエナスは偵察と情報収集、そして警戒を継続するよう指示し、今の所の課題である仲間を集めるという話題に移る。

「そうそう、仲間に関して面白いのがあってね。北にある【魔晶石の塔】なんだけど…。」

と、マークは先程トムが置いた紙の一枚を差し出した。内容は『討伐隊求む。報酬は望みのまま。詳細はルナ・ノースフィールドまで。』というアバウトな内容だ。

「ノースフィールドって―国交で何度か父上と話ししてるのを見たことがあるよ。確か魔晶石の採掘を取り締まってる【エンカ】の王族の姓だよね?生きてくれていたんだ…。」

「うん。ただ、その子だけみたいだけど、ね。有事の時、たまたま塔に居たらしくて生き残ったらしいんだ。」

氷炎(ひょうえん)(みやこ)【エンカ】
雪に閉ざされたこの都は、魔術師が多く生まれるこの大陸に相応しい、魔法の力を増幅することのできる魔晶石の採掘、加工、出荷、販売を生業にしており、生きる事が厳しい土地でも豊かに暮らしていた。それだけではなく、この厳しい環境を利用して、有事に備えた戦士や魔術師の育成も行っていて、ここで育て上げられた戦士達を各地に派遣している傭兵の排出都市でもある。

「そう、か。ひとりなら心細いだろうし、条件を顧みないくらいに困っている感じもする。助けになるなら、是非向かってほしい。」

「王子、なんとお優しい…。」

「そう思ってもう登録してきちゃったんだ。魔鳩(まばと)レターでさっき採用の返事も来たし、ここは僕が行くつもりだよ。討伐隊ってくらいだから何人か優秀な人材も見つけられるとおもうんだ。勧誘もしてみるよ。」

「ありがとうマーク!ルナさんによろしく伝えてくれると嬉しいな。あと、無茶はしないでほしい。」

「わかりました。」と、相手を和ませる優しい笑顔を見せるマーク。その後ろからロアと手合わせをしていたはずのクロウが顔を出した。飲み水を取りに戻った時、たまたま話が耳に入ったらしく、

「あ~…マークっつったっけ。俺からも1つ頼まれてくれるか?そのぉ…ルナって奴に、これ。渡してもらえるとありがたいんだけど…。」

なにやらもじもじとしながら、小さな革袋を取り出してマークに渡す。

「知り合いなの?クロウ。」

「ぁーまぁちょっとな、ちょっと。」

「僕は構わないよ、任せてクロウさん。」

そんなクロウの歯切れの悪い返事に、

「なんだぉクロウ~?大好きなルナっちに俺は生きてるぞって伝えてくれー!って言えばいいのにぉ~?」

「だぁぁぁーーだだ大好きじゃねぇし!世話になってたから礼をだな?!」

「自分で言えないのか、臆病者。」

「お前に言われたかねぇわ!!」

コムとシモンも参戦してクロウをおちょくりだした。先程まで静かにできていた話し合いが、一気に騒がしくなる。

「お知り合いとは…世間は意外と狭い、って事でしょうかねぇ。」

「ほんとだなぁ…。」

「和んでんじゃねぇよ…こいつら出てくると話し合いにならねぇじゃねぇか。」

そんな時にまた、マエナスの店の前に人影が。ゆっくりと、入り口にかけられた布をくぐり、足を踏み入れた。

「占術師マエナスの店はここでしょうか?人探しをお願いしたいのですが…。」

薄い紫色のセミロングの髪、右側に小さく三編みをしている。銀と深紫色のオッドアイの女性が訪れた。

「クククッ…来たな?」

マエナスは軍師であり、魔術師でもあった。呪いを受け、性別が変わった反動でか、魔晶石の水晶を使えば眠ることなく、直接、はっきりとした『未来視』として情報を得れるほど【魔術師の予見】の力は昇華していた。その力で見たのが、今、訪れた人物。

「メディナと申します。双子の姉のセルフィーナを助けるために。もし、差し支えなければお力も貸していただきたいのです…。報酬は…なんでも!」

その表情は切羽詰まっているギリギリの状態といった感情が見て取れた。

「なんでも、だそうだ。どうするアクリス?」

「お、俺?!えっと、うん。もちろん困っているなら力を貸すよ。大丈夫、安心して。」

「王子…なんとお優しい!」

「ファラよ…さっきも同じこと言ってたぞ…。」

マエナスは水晶に手をかざして、予見をした。

「場所は…【銀狼の洞窟】だな。」

「!!ありがとうございます!」

マエナスから居場所を聞いたメディナは店をすぐさま飛び出そうとしたが、呼び止められた。

「落ち着けメディナ。ひとりじゃあぶねぇ場所だ。力を貸してほしいって言ったのわすれんな?そこの3人を連れてけ。役に立つと思うぜ。あと報酬の件だが―」

と、アクリスの足を軽く小突く。

「あ、あぁ。無事にお姉さんを見つけることができたら、今度は俺達の力に、仲間として、一緒についてきてほしいんだ、いいかな?」

少し驚いた表情をみせるが、無事に終わったらと、了承してくれた。

「交渉成立だな?よし、各々準備でき次第すぐに向かえ!去ね!」

まだ横で騒いでいるクロウ、シモン、コムの3人に出立の準備をさせる―なんて、ほとんどする間もなくマエナスに追い出される形で店を出た。
マークもマークで、すぐにとは言われたもののもったいないからと淹れてもらったお茶をゆっくりと飲んでからマエナスの店を出た。

「ふぅ。これで効率よく集まりそうだな。」

「クロウさんたちを体よく追い出しただけじゃないですか…?」

ファランクスの言うとおりなのだろう、人数が減り、とたんに静かになったのだ。

「今度は俺が留守番?」

「ん?不服か?大人しくしてるのが嫌なら中庭で剣を振ってるロアのところにでも行って稽古してやったらいい。」

「マエナス…。言うのが遅くなったけど、力に、仲間になってくれてありがとう。」

「はっ!そんな低姿勢じゃリーダーは務まらねぇぞ?堂々としてな!この先やらなきゃならねぇ事は山ほどあるからな。今は…今は少しだけ我慢の時だ。大人しくしてろ。」

「なるほど。ファラの言うとおり…ははっツンデレなんだねマエナ…あ、ごめんごめん!向こうに行くよ!」

マエナスに睨まれ、アクリスは中庭にそそくさと移動する。その背中を睨みつけているかの如く鋭く見つめるトムが口を開いた。

「ファラよ、お前の王子のあの輝きはなんだ…?見たことの無い光の色をしている。」

トムは両目とも失明している。だが、光の精霊と繋がっており、姿形ははっきり認識できないが、光の色として、対象を認識している。

「…【王の瞳】の輝きのことか?元々真っ直ぐで、人に好かれる奴なんだろうがな。そいつのおかげで俺もクロウ達も心を燃やされた。」

「なるほど。俺も見えたのなら、その色を直に確認したかったものだ。」

「生まれた時より共に過ごしていましたが、あの瞳を確認したのはごく最近で、いつ宿ったかは…恐らく―あの日の出来事からでしょう。ですが、その瞳の力が無くとも、王子は立派に私たちを導いてくれる存在であると思っています。」

志を共にする者たちを鼓舞し、先へ進む力を湧き立たせる【王の瞳】。もちろん、本人がより強い思いを持たなければその瞳を持つことはない。魔力を持ち、魅了する瞳とはまた違う、意志の力である。

「侵略戦争は今までいくつもあったが…あいつのやり方は、ただ自分の欲を満たす為に遊んでるようにしか見えねぇ。気に入らねぇ。取られたもんは取り返すぜ…。」

夕暮れが照らす中庭から剣の合わさる音と、声が響く。

「もっと強く…!」

各々に宿る強い思い。
皆を導く為、よりいっそう奮起するアクリス。今、少しずつ、確実に、道を歩み始めたのだ。


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【ラギルーガ】、マエナスの店、兼住居。
「珍しい…これは、見たことの無い魔術考察論の書物だ…ほう…。」
「クロウさん!お手合わせねがうっす!」
「お?いいぜ!簡単にへばるなよ?」
「ぬぬっ…とぁ!っと、こんな感じでやるんだぉ?」
「す、すごいです…勉強になります!」
昼下がり、昼食を済ませたアクリスたちは思い思いに過ごしていた。
「何でこんなやかましくなってんだ…チッ!」
家主であるマエナス、かなり不機嫌な様子でファランクスが淹れたお茶をすすっている。6日前にはなかった新調した大きいテーブルにアクリス、ファランクス、マエナスが向かい合うように座っていた。
「いや、ほんとにごめん…。まさかあの子たちと一緒になるとは思わなくって。は…ははっ…。」
「まったく…まぁ、来ちまったもんは仕方ねぇわ。」
「期待以上だった癖に素直じゃないですねぇ…。」
マエナスに言われた条件ギリギリ、5日目の夕方にアクリスは帰還した。まさかの、5人連れで。マエナスは呆れたような喜んでいるような複雑な笑みを浮かべ、ファランクスはアクリスの無事に安堵した。詳しい話は翌日、と言うことになり、一晩体を休めたのち、あらためて集まっている。
「んで?…ファラ、おまえの呼んだやつもそろそろくるんだろ?」
「えぇ。私は王子と行動を共にして情報を集め、彼らは別行動、別方面から収集してもらっていました。は、いいんですけど…急に追加で調べろって人使い粗いんですよまったく。」
「ファラの友人だっていう同郷のエルフ達だよね、本当にありがたいよ。」
襲撃の時受けた傷を癒やした後、各地を巡り、都市の状況を探りながら旅をしていたが、大陸全土の情報を得るには2人では流石に骨が折れ、時間がかかり、日々状況は変化もしていく。その為、なるべく誤差が生まれないよう、ファランクスは友人に声をかけたのだ。そのおかげか、実質情報収集は1年もかかっていない。ファランクスの友人たちの協力がなければこの速度で行動に移すまでには至らなかっただろう。
「どんな情報持ってくるか楽しみにしてるぜ?それと、あと、2人。いや…成功すればもっと増えるか…。」
「もっと感謝してくださいマエナス!も~またブツブツ言って自分の世界入ってる…はぁ~。」
妙に距離が近いなと思ったアクリス。ふたりを見て、
「んー…聞きたいんだけどさ、なんか急に仲良くなってない?もしかして…もしかする?俺の気のせい?」
ふたりしてきょとんとした顔をした。
アクリスが飛び出して行った後、もちろんこれからの事についても話はしていたのだが―。
「な、何を言ってるんですか王子は!別に何もありませんよ!マエナスの軍師たるところの話を色々して学んでいただけでですね…お、思い出したくもない…。」
と、身震いし、それを見てマエナスは堪えらなくなったのか、笑いながら答えた。
「ぶはっ!まぁ…クククッ、そうそう、ファラの言う通り、ゆっくり、じっくり、お話してたのよ、な?」
「そうなのか?やっとファラにも春がきたかぁ!と思ったんだけど…。」
察しがいいのか悪いのか…とはいえ、本当にそういった事はなく、マエナスの商売のひとつに薬の販売がある。ファランクスは開発中の新薬剤の実験台にされて遊ばれていただけなのである。
「いやいや王子、この人、男ですからね?ね?」
ファラは必死である。マエナスはツボに入ったのか笑い続けている。そこにタイミングよく、
「こんにちわ…ここでよかったかな?」
「失礼する。」
アクリス達に声をかけ、店内へ入ってくる2人のエルフ。
「マーク!トム!よく来てくれましたぁ~!さぁさぁ座ってください!」
助けが来た!と、言わんばかりに急いで駆け寄りふたりを招き入れるファランクス。
オレンジがかった茶色の髪に緑色の瞳を持つマーク、黄色味の強い薄緑色の髪、長い前髪で両目を隠しているのがトム。ファランクスの友人のエルフだ。ファランクスはテキパキと人数分のお茶を用意、淹れ直しをして話し合いの場を早々に設ける。
「クククッ…久々にあんなに笑ったな。…さて、着いた早々でわるいが、始めようか?」
マエナスが大陸の地図を、トムが何枚かメモが書かれた紙をテーブルに広げる。
「まず、各主要都市の状況から話そう。」
トムがメモの1枚をマエナスに渡し、話し始めた。
「先の襲撃で落とされた【ウィンドール】と【エンカ】は、異常な速度で以前と変わりない状態まで戻ってきている。それが王都【サザンライト】に新王の即位があった直後からだ。」
「突然襲撃が終わったのと同じ時期、ね。まぁ十中八九その新王ってのがあいつだろ?逆に分かりやすくて助かるわ。」
「同感だ。今の所、その意図が読み取れないのが歯がゆいところだが…それに、復興と銘打ちながら何かの基盤を作ってるような動きがある。」
この大陸はほぼ円形で、バツ印で4等分、緑溢れる地域、雪と氷の地域、灼熱の地域、実り溢れる地域ときれいに別れた作りをしていて、各地域には王城が建つ中心都市がある。ちなみに【ラギルーガ】はそのほぼ中心の位置にある中立都市で領主はいるものの、城は構えてはいない。
「何も知らない人々はその|働《はたら》きを見て王を讃えるか…皮肉なものですね…。」
「俺たちが見てきた時とは状況が突然変わってるね。自分でした事をいいように逆手に取って掌握しようとしてるなんて…そんなの許される事じゃない!弄んでるだけじゃないか!そんなもの、王とは呼べない…!」
「クククッ…それをお前が変えるんだろ?その助けをするのが俺たちの役目だぜ?」
落ち着けと言うかのように、マエナスはアクリスを指差す。
「【ウィンドール】と【エンカ】両方とも潜入してきたんだけど、人を入れずに隠れて作業してる感じだったね、魔族だらけだったよ。」
「真っ先に手を加えるのはやっぱそこだよな。もし反乱勢力が攻めて来たとしても【ウィンドール】なら元々の作りが要塞だ。簡単には落ちることはねぇし、【エンカ】はその土地柄、普通の装備じゃ簡単に攻めれねぇ。王都にいられなくなる事態が万が一起きたとて、どっちかに逃げ込めばいい。反乱する側には厄介だが今更仕方がねぇか。」
沈んだ表情で、だが冷静に推測して状況を読み取る。
「【ハルト】に関してはまだ調べてるから、もう2、3日待ってもらっていいかな?追加の件についてもね。」
その他の周辺の町や村はさほど変わりなく、大きく動きがあったのは王城を構えた都市だった。都市の…不死の王の動きには不審な点が多いが、アクリス達はまだ、現状手の出せる状態ではない。それをわかってか、マエナスは偵察と情報収集、そして警戒を継続するよう指示し、今の所の課題である仲間を集めるという話題に移る。
「そうそう、仲間に関して面白いのがあってね。北にある【魔晶石の塔】なんだけど…。」
と、マークは先程トムが置いた紙の一枚を差し出した。内容は『討伐隊求む。報酬は望みのまま。詳細はルナ・ノースフィールドまで。』というアバウトな内容だ。
「ノースフィールドって―国交で何度か父上と話ししてるのを見たことがあるよ。確か魔晶石の採掘を取り締まってる【エンカ】の王族の姓だよね?生きてくれていたんだ…。」
「うん。ただ、その子だけみたいだけど、ね。有事の時、たまたま塔に居たらしくて生き残ったらしいんだ。」
|氷炎《ひょうえん》の|都《みやこ》【エンカ】
雪に閉ざされたこの都は、魔術師が多く生まれるこの大陸に相応しい、魔法の力を増幅することのできる魔晶石の採掘、加工、出荷、販売を生業にしており、生きる事が厳しい土地でも豊かに暮らしていた。それだけではなく、この厳しい環境を利用して、有事に備えた戦士や魔術師の育成も行っていて、ここで育て上げられた戦士達を各地に派遣している傭兵の排出都市でもある。
「そう、か。ひとりなら心細いだろうし、条件を顧みないくらいに困っている感じもする。助けになるなら、是非向かってほしい。」
「王子、なんとお優しい…。」
「そう思ってもう登録してきちゃったんだ。|魔鳩《まばと》レターでさっき採用の返事も来たし、ここは僕が行くつもりだよ。討伐隊ってくらいだから何人か優秀な人材も見つけられるとおもうんだ。勧誘もしてみるよ。」
「ありがとうマーク!ルナさんによろしく伝えてくれると嬉しいな。あと、無茶はしないでほしい。」
「わかりました。」と、相手を和ませる優しい笑顔を見せるマーク。その後ろからロアと手合わせをしていたはずのクロウが顔を出した。飲み水を取りに戻った時、たまたま話が耳に入ったらしく、
「あ~…マークっつったっけ。俺からも1つ頼まれてくれるか?そのぉ…ルナって奴に、これ。渡してもらえるとありがたいんだけど…。」
なにやらもじもじとしながら、小さな革袋を取り出してマークに渡す。
「知り合いなの?クロウ。」
「ぁーまぁちょっとな、ちょっと。」
「僕は構わないよ、任せてクロウさん。」
そんなクロウの歯切れの悪い返事に、
「なんだぉクロウ~?大好きなルナっちに俺は生きてるぞって伝えてくれー!って言えばいいのにぉ~?」
「だぁぁぁーーだだ大好きじゃねぇし!世話になってたから礼をだな?!」
「自分で言えないのか、臆病者。」
「お前に言われたかねぇわ!!」
コムとシモンも参戦してクロウをおちょくりだした。先程まで静かにできていた話し合いが、一気に騒がしくなる。
「お知り合いとは…世間は意外と狭い、って事でしょうかねぇ。」
「ほんとだなぁ…。」
「和んでんじゃねぇよ…こいつら出てくると話し合いにならねぇじゃねぇか。」
そんな時にまた、マエナスの店の前に人影が。ゆっくりと、入り口にかけられた布をくぐり、足を踏み入れた。
「占術師マエナスの店はここでしょうか?人探しをお願いしたいのですが…。」
薄い紫色のセミロングの髪、右側に小さく三編みをしている。銀と深紫色のオッドアイの女性が訪れた。
「クククッ…来たな?」
マエナスは軍師であり、魔術師でもあった。呪いを受け、性別が変わった反動でか、魔晶石の水晶を使えば眠ることなく、直接、はっきりとした『未来視』として情報を得れるほど【魔術師の予見】の力は昇華していた。その力で見たのが、今、訪れた人物。
「メディナと申します。双子の姉のセルフィーナを助けるために。もし、差し支えなければお力も貸していただきたいのです…。報酬は…なんでも!」
その表情は切羽詰まっているギリギリの状態といった感情が見て取れた。
「なんでも、だそうだ。どうするアクリス?」
「お、俺?!えっと、うん。もちろん困っているなら力を貸すよ。大丈夫、安心して。」
「王子…なんとお優しい!」
「ファラよ…さっきも同じこと言ってたぞ…。」
マエナスは水晶に手をかざして、予見をした。
「場所は…【銀狼の洞窟】だな。」
「!!ありがとうございます!」
マエナスから居場所を聞いたメディナは店をすぐさま飛び出そうとしたが、呼び止められた。
「落ち着けメディナ。ひとりじゃあぶねぇ場所だ。力を貸してほしいって言ったのわすれんな?そこの3人を連れてけ。役に立つと思うぜ。あと報酬の件だが―」
と、アクリスの足を軽く小突く。
「あ、あぁ。無事にお姉さんを見つけることができたら、今度は俺達の力に、仲間として、一緒についてきてほしいんだ、いいかな?」
少し驚いた表情をみせるが、無事に終わったらと、了承してくれた。
「交渉成立だな?よし、各々準備でき次第すぐに向かえ!去ね!」
まだ横で騒いでいるクロウ、シモン、コムの3人に出立の準備をさせる―なんて、ほとんどする間もなくマエナスに追い出される形で店を出た。
マークもマークで、すぐにとは言われたもののもったいないからと淹れてもらったお茶をゆっくりと飲んでからマエナスの店を出た。
「ふぅ。これで効率よく集まりそうだな。」
「クロウさんたちを体よく追い出しただけじゃないですか…?」
ファランクスの言うとおりなのだろう、人数が減り、とたんに静かになったのだ。
「今度は俺が留守番?」
「ん?不服か?大人しくしてるのが嫌なら中庭で剣を振ってるロアのところにでも行って稽古してやったらいい。」
「マエナス…。言うのが遅くなったけど、力に、仲間になってくれてありがとう。」
「はっ!そんな低姿勢じゃリーダーは務まらねぇぞ?堂々としてな!この先やらなきゃならねぇ事は山ほどあるからな。今は…今は少しだけ我慢の時だ。大人しくしてろ。」
「なるほど。ファラの言うとおり…ははっツンデレなんだねマエナ…あ、ごめんごめん!向こうに行くよ!」
マエナスに睨まれ、アクリスは中庭にそそくさと移動する。その背中を睨みつけているかの如く鋭く見つめるトムが口を開いた。
「ファラよ、お前の王子のあの輝きはなんだ…?見たことの無い光の色をしている。」
トムは両目とも失明している。だが、光の精霊と繋がっており、姿形ははっきり認識できないが、光の色として、対象を認識している。
「…【王の瞳】の輝きのことか?元々真っ直ぐで、人に好かれる奴なんだろうがな。そいつのおかげで俺もクロウ達も心を燃やされた。」
「なるほど。俺も見えたのなら、その色を直に確認したかったものだ。」
「生まれた時より共に過ごしていましたが、あの瞳を確認したのはごく最近で、いつ宿ったかは…恐らく―あの日の出来事からでしょう。ですが、その瞳の力が無くとも、王子は立派に私たちを導いてくれる存在であると思っています。」
志を共にする者たちを鼓舞し、先へ進む力を湧き立たせる【王の瞳】。もちろん、本人がより強い思いを持たなければその瞳を持つことはない。魔力を持ち、魅了する瞳とはまた違う、意志の力である。
「侵略戦争は今までいくつもあったが…あいつのやり方は、ただ自分の欲を満たす為に遊んでるようにしか見えねぇ。気に入らねぇ。取られたもんは取り返すぜ…。」
夕暮れが照らす中庭から剣の合わさる音と、声が響く。
「もっと強く…!」
各々に宿る強い思い。
皆を導く為、よりいっそう奮起するアクリス。今、少しずつ、確実に、道を歩み始めたのだ。