漆黒の3人衆
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熱風が吹き抜け砂埃を巻き上げる、乾いた黄色の大地。
所々に岩や石、白骨化した動物たちの死骸はあるものの、生き物の気配は日陰を探して這って歩くトカゲ程度。ここを住処にしているのは『生ける屍』のみ。
【竜骨の谷】
人にとって有益な資源もないここは一般人が近づく事はない。この地を好き好んで住まいにしているのは魔物のみ。特に水や食料が必要のない渇いた魔物だ。故にスケルトンが好んで住み着いてると言われている。ただここのスケルトン、最奥にある洞窟を守るかのように生息している、とも言われている。お宝があるんだろう。と、物好きな冒険者が時おり訪れ攻略に向かうのだが、辿り着けなかった者、帰れなかった者はこの地のスケルトンとして生き続けることになるいわくつきの場所。
あれから2日。やっとたどり着いた【竜骨の谷】。
巻き上げられた砂で見上げる空は霞がかり、太陽は見えず遮られているはずなのに、ただ歩いているだけでも汗が滲み出る暑さだ。
「ここに着いたら急に空気が変わった。熱い空気と砂のせいか?息がしづらいな。」
強い向かい風が吹き付ける谷底の道を、その風に逆らうように進むアクリスたち。
「なんかここ、嫌なところだね、ロアくん…。」
「あぁ、そこら中に何かが潜んでる気配がするな。でも安心しろよな、俺が守ってやるから。」
後ろのふたりは、お互いにお互いを守る形で、アクリスから少し離れたうしろを付いてきている。
ここまで来る間にアクリスがひとりでいた理由を話していた。「師匠の邪魔はしないっす!」と、理解を示し、足手まといにならないと了承し、距離を取って付き添っている。
竜の骨と言われるだけあり、先に進むに連れて分岐が増えて行く。恐らく骨格で言うところのろっ骨部分だろうことが想像できる。
「まるで…腹の中にいるみたいだ。」
今まで何もなかった谷底の道に、枯れた大木が点々と現れ始め、違和感を強く感じる。それはこの谷に入ってからと言ってもいいだろう。なにしろ、1度も魔物と遭遇していない、からだ。
「師匠…!」
一瞬。なにかの揺らぎを3人は感じ取った。
「わかってる。すまないが自分の身は自分で守ってほしい。いいか?」
「問題ないっす!」
と、元気よく返事をするロアは、突然地面から現れたスケルトンに剣撃を鮮やかに入れる。ボコボコと音を立て、数十体のスケルトンが次々に姿を表していく。
「なるほどね、まさにここが胃袋ってこと、か。スケルトンの癖に上手いこと考えるものだ…!」
襲いかかるスケルトンの群れ。
1匹2匹倒したところで攻撃が止むわけもなく、むしろ勢いがついてきている。そしてすぐに、散らばった骨が集まり、再生する。
「なっにぃ?!斬っても斬ってもっ!っくしょー!」
「確実にここで仕留めてやるって感じがするね。脆いからすぐ倒せるけど、再生が厄介。体力がどれだけ持つか…。」
「私、水の精霊魔法使えます!回復なら…!」
と、言っても回復魔法も無限で使える訳ではないだろう。いざという時の為に温存はしておきたい。どうにか対処法を考えるアクリスだったが、粉々に粉砕する、あるいは魔法で―この面子では、どちらも現実的ではない。しかし抵抗をやめればここのスケルトンの仲間入りだ。それだけはあってはならない。アクリスはなるべく細かく斬撃を与え、再生を遅らせるように努める。足手まといになるな、とロアたちに言ったものの、自然とふたりの負担を減らすよな動きを取っていた。
異様な暑さと長距離の移動の疲れ、普段よりも息が上がるのが早い。
「…還れ。」
パチンッ。
指を鳴らす音が突然、谷に響く。
すると、アクリスたちを囲んでいたすべてのスケルトンの体に魔法陣が重なるように現れ、その体を次々と砕いていった。
「な、にが…?」
「不死者への鎮魂歌。」
影になっている脇道から声と共にひとりの男が姿を表す。
「久しぶりに使ってみたが…ふむ、まだまだ甘いか…。」
自分の放った魔法に満足していないかの様子で、ほぼ砂と化したスケルトンだったものを観察している。
しかしこの魔法、同時に発動するのは普通の魔術師ならせいぜい2体が限界。その上、成功率は約50%という未完成の高等魔術のひとつである。それをいとも容易く何十体というスケルトンに全て成功させている。この男は只者ではない。しかし、おかげで助かったのは事実だ。
「ありがとう、助かったよ。」
ひと息つき、続けてロアとカインもお礼を言った。
「…騒がしいのが好ましくないだけだ。助けたつもりもない。」
冷たい表情で3人のお礼の言葉を拒否する態度をとる。少しムッとした表情を見せ言い返そうとするロアをカインが止めた。
「お前たち、なぜこんな場所を訪れた?」
男が話しかける。男も怪しいが、相手からすればこちらも怪しい人物には変わりない。お互いに警戒しながら歩み寄る。
アクリスは、懐から取り出した手配所を男に向かって見えるように広げる。
「それは…なるほど、そうか。」
「俺はこの3人を…。」
アクリスの言葉を遮るように火の礫が襲う。体を横にそらしてギリギリで避けた―というよりはわざと当たらないよう調整して放ったようにも見える。放ったのは目の前のあの男だ。警戒から攻撃へ転じ、アクリスたちへ敵意と殺意を向けている。手に持っていた手配書は宙に舞い、礫の火の粉が移ってのだろう、燻りながらヒラヒラと。男とアクリスの間に落ちていく。
手配書を挟んで、目が合う。
似顔絵の1人と、目の前の男は同じ顔。
シルバーゴールドの細い髪、蒼く闇を孕んだ鋭い瞳も持つその男の名はシモン。
「…この骨共、やけに多いと思わなかったか?」
一切表情を変えず淡々とした口調で問いかける。
3人は砕かれた骨の残骸に目をやる。焼け焦げた衣服の切れ端、剣で貫かれたであろう鎧の傷。ここを訪れた冒険者、あるいは賞金稼ぎだろうことが伺えた。もちろん、手にかけたのは―
「俺らが増やしてやったんだよ、なっ!」
完全なる不意打ち。
シモンの後ろの暗闇から黒い何かがアクリスの心臓めがけて飛び込んできていた。まるで獲物を喰らおうとする獣のようだった。
ガギンッ!と重く鈍い音、剣から火花が散るほどの衝撃をアクリスはかろうじて受け止めていた。警戒を解いて、剣を収めていたら命はなかっただろう。
「師匠っ!」
「来るな!!」
反撃ができないこの状況、ロアが動けば恐らく後ろに立つシモンが魔術で攻撃を加えるだろう。声を上げ、ロアの前進を制止させる。
艷やかな黒い髪、鈍く光る金色の瞳、真っ黒の鎧を纏った男。手配書の中のもうひとり。名はクロウ。
「これ、受け止めれるんだ?ふーん…やるね。」
不意打ちが失敗し、体制を整えるようにシモンのいる方へヒラリと跳び、引き下がる。
「お前が撃ち損じるとは珍しいな。」
「だってさ~…ふぁあ…寝起きだから?」
シモンと違い、クロウはどこか軽い物言いをする。
しかし、攻撃を防いだものの、一撃を食らったアクリスはクロウも只者ではないことをその身を持って確信した。剣を握っている手が未だ震えて力が入りにくく感じている。体に疲労が溜まっていることは言い訳にできない。力をこめ、改めて剣を構えなおし、臨戦態勢をとった。
チラリと。クロウがアクリスを見て少し驚いた表情を見せた後、すぐシモンに問いかける。
「あのさぁ…シモン。また問答無用に殺そうとしてたわけ?」
「ふん…手配書を持っていたからだ。敵だろ。敵は始末する。」
「あ~ね…気持ちはわかる。攻撃しちゃった俺が言うのもなんだけどもう少しよく見てからにした方がいいかもよ?」
と、対峙するように向き直ったクロウ。剣は構えていない。
「わりぃ、こいつ顔に似合わず話聞かないで体が動くタイプなんだわ。アクリス王子様、と。連れのふたりも。驚かせて悪かった。」
拍子抜けもいいところだ。アクリスは思わず構えた剣を地面についてしまった。
「…何?」
「何?じゃねぇわ!お前が予見したんだろーがよ!忘れんなこの魔術バカが!」
【魔術師の予見】
完全なる未来の予言とまではいかないものだが、魔力量が多く強い、選ばれた魔術師が稀に見る事ができる不思議な現象のことを指す。ほとんどが夢の程度の曖昧な情報しか生まず、忘れてしまうのだがそこそこ当たっていたりする。シモンがなんとなく話していた予見の内容をクロウは覚えていたらしい。
「師匠、これ止めないとずっと放置されちゃうんじゃないっすかね?」
「確かにそうだね。えーっと、俺たちの話をしても、いいかな?」
延々と口喧嘩をしているシモンとクロウに恐る恐るアクリスは話しかける。やはり、存在を忘れるくらい夢中になっていたらしい。掛けられた声に気付き、ピタッと喧嘩をやめ、咳払いをしたクロウが言う。
「うん、いいよ。聞こうじゃん?」
シモンは後ろを向いて不機嫌そうにしているが、これから自分達が進もうとする道、国を、世界を取り戻すという事―、
「不死の王から国を取り戻す。奪われた世界を変える。その為に俺は仲間を探している。」
クロウの顔つきが変わる。
「…んで?俺たちを『仲間』にしようって?」
「仲間を増やせばなんて、安易な考えかもしれない。けど、立ち向かうための力が必要なんだ。」
「へぇ?」っと口にしたかと思うと、先程と同じようにアクリスへ向かって突っ込んできた。斬りつける形は取らず、剣の柄で腹部を強打する。息が止まる程の痛みを感じ、体が下へ沈みそうになるが、ギリギリ地面に膝をつくことはなく耐えたアクリス。
「がはっ!…な、ん…!」
にやりと、「今度は避けれなかったな?」と笑うクロウ。
そのまま足を後ろに下げ、強く踏み込む。素早く剣を抜いてアクリスの首めがけて攻撃が繰り出される。確実に急所を狙ってきていた。
とっさに上半身を後ろに下げたおかげで浅く顎を切られた程度で済んだ。が、続けて繰り出される攻撃に対して自身もたまらず剣を構えて対応するものの、アクリスは受けるのみで反撃には転じない。
「俺たちがどうしてこんな所に逃げ込んで、コソコソ生き長らえてるかなんて知りもしないだろうがよ。駒にされるのはもうウンザリなんだよっ!」
仲間という言葉に過剰な反応を見せるクロウ。その様子をシモンも見ているが止めようとしない。
「あんた!なんで止めないんすか!」
「人に話を聞かないやつ、なんて言ってたが…これもあいつのやり方だ。見ていればいい。」
「はぁぁ??なんなんだこの人たち…!」
「ロアくん…。」
ロアも止めに入りたい衝動に駆られるが、アクリスが「ひとりでやり遂げなければならない」と言っていたことを思い出し、イラつきながらも手を出さず見守る。
攻撃は止まない。アクリスは押されている。このままでは何も遂げることなくクロウに倒され―そう頭によぎった時、振り下ろされた剣撃を受け止めながらアクリスは叫んだ。
「俺、はぁっ!!!…俺は、まだ未熟で、弱い…っ!」
「ちぃっ…!」
力強い声と、押し返された衝撃でクロウの体制が一瞬崩れた。肩で息をしながらアクリスは続ける。
「でも、心まで弱いとは思ってはいない!仲間を駒だなんて思ったことなんて一度もない!扱いもしない!それは、今も!これからも!変わりはしないからっ!!」
熱い炎を宿した青い瞳がクロウの瞳を奪い一瞬の隙が生まれた。目を逸らすことはできなかった。真っ直ぐに向かってくるアクリスの一振りを避けることができず―、
ザシュッ…!!
肉を切り裂く音がした。そしてひと筋の細い弯曲の血が宙をきり、空を舞った剣が地面へ突き刺さった。
「…終わったか。」
「ってぇ…!!はぁぁ~ぁっ!まいったまいったぁ!俺の負け!」
地面に刺さったのはクロウの剣であった。アクリスの持つ剣の先にはわずかに血が滴っている。
「はぁはぁ…ま、負け…?」
「そ、お前の勝ち。あの状況、俺に隙きを作ってなおかつ手加減して切るってなぁ大したもんよ?いててて…。」
腕に受けた傷を庇いながらその場にドカッと尻をつく。
その様子をみてアクリスはハッと、カインに急いで治療するよう声をかけ、クロウの傍へ駆け寄る。
「い、今治しますね!」
一瞬の出来事に呆然として動けずにいたが、ロアと共にすぐ様アクリスの元に向かい、水の精霊を呼び出して傷の治療を始めた。
「ありがとう~っておぉ~水の…あーそういえばあいつ―…。」
「アクリスさんも一緒に治療しますのでクロウさんの隣にいてくださいね。」
申し訳なさそうにクロウの隣に座ったアクリスも、一緒にあたたかい精霊の水に包まれ、癒えていく傷口を見てほっとした様子だ。そんなふたりを見ながらカインの後ろについていたロアがため息混じりに呟いた。
「はぁ…結局、クロウさんもシモンさんも、どっちも脳筋で喧嘩っ早いだけじゃないっすか。」
「ふんっ…今回は聞かなかったことにしておいてやる少年。」
「のわっ?!い、いつの間に?!」
クロウの飛ばされた剣を持ち、気配無く近づいて来ていたシモンに驚く。剣をクロウに返しながらシモンは言う。
「俺たちは仲間にこっ酷く裏切られててな。その結果世に出されたのがあの手配書だ。ゆえに自由に動こうにも動けず、このまま隠れて生きるのだろうと諦めかけていた。お前について行った所でそれが変わるかどうかは俺には今すぐ判断はできない…が、こいつが決めたことなら、俺も、それに従う。」
「ははっ!珍しく饒舌だなシモン?」
カインの回復魔法を受けながら、シモンに触発されたのか、クロウもゆっくりと自分たちのことを話しだす。
「騙され、奪われ、裏切られ、追い出され、追いかけられ。なんでこんな仕打ちを受けるのかわからないまま隠れて生きてた。あいつらが悪いわけじゃないんだって分かってんのに、なんも出来ないでいた。そんで、今だ。ただただその状況を受け入れてた俺達の前に現れたのがお前だ、アクリス。伝わったぜ?想いが乗った剣だった…うん、気合い入れてくれてありがとうな。まぁ、あれだ、俺達はお前についていくってことで…よろしく?」
コツン、と左手でアクリスの頭を軽く叩く。アクリスもほっとした様子で答える。
「殺気のない太刀筋だったから、試されてるかもとはおもって傷つけちゃいけないって思ってたんだけど、さすがにちょっとしんどくて振り上げてしまって…ごめん。でも、ありがとうクロウ、シモン。これから先、ずっと。共に歩んでくれると嬉しいな。」
「あーやっぱりバレてたのか。はは…うん。ずっと、か。いいね、悪くない。な?シモン。」
「…諦めていた事、無意識に求めていたのかもしれない、な。」
無意識に求めていたもの。
それはかつての仲間たちと同じ、共に同じ志を持って歩んでいく日々。過酷な状況も、喜び合う瞬間も、繋がり育む想い、絆。この気持ちを与え、与えられる仲間を、クロウもシモンも捨てきれず望んでいた。
―治療を終えたクロウはブンブンとケガを負っていた方の腕を回し、状態が回復していることを確認した
「カイン、だっけか。ありがとうな、おかげで元通り、問題なしだぜ。」
「い、いえ!とんでもないです!私ハーフエルフで…さっきは必死だったので自信満々に言っちゃったんですけど、実は精霊との繋がりを強く保てないから踏ん張らないとそこまで効果は出せなくて不安でした。でも、褒めてもらえて嬉しいです。」
カインの言葉にぴくっと反応したかと思うと、シモンは素早く、彼女の元に移動して張り付いていた。
「ハーフエルフだと?それは珍しい。繋がり方はどう違うんだ?魔力の流れは?発動の時どんな―」
「へ?!あ、あの、その…???」
「あ!な、なに触ってんすか!!ちょっと!」
「まーたはじまったよ。」
元々強い魔力を持っているシモンは魔術探究が趣味―らしく、魔術や魔法に関して珍しい事象があれば知識を得たがるようだ。カインに詰め寄り、手を触ったり、頬をつついたりしながらあれやこれやと質問をしている。
それが面白くないロアはふたりの間に入りぎゃあぎゃあと騒いで阻止しようとしている。
「水の精霊魔法なんてあいつのを見てるんだから珍しくもないはずなんだけどなぁ。ほんと、魔術バカだわ。」
「あいつ?あ、確か3人で行動してるんだったよね?もうひとりは、エルフの?」
マエナスが言っていたのは「3人」。キョロキョロしているアクリスに、クロウは言う。
「予見の話しした時にさ、なんか急に飛び出してからぜーんぜん帰ってこないんだよ。ほんとにどこいってんだか俺らもわからねぇの。そのせいでシモンが四六時中ソワソワイライラしててさ、こっちの身になれっての。」
ふてくされ、シモンを見つめているその表情は、確かに不満そうではあるが、仲間を思いやる温かさが伝わってくる優しいものだった。
「ふっ…あはははっ!なるほど、クロウだけに苦労人って言う感じだね?」
「ばっか!寒いぞお前!」
和気あいあいとそんな話をしていた直後、崖の上から人影が―落ちてきたのである。
「なぁわっああぁーー!!」
「おいおいおいおい、うっそだろ…ぐばっぁ!!」
クロウめがけて。
「おまえたちぃ!おでたちの邪魔をしに来たのはわかってるぉ!覚悟しろぉ!…お?クロウお前なにつぶれてるんだぉ?」
見事にダイブし、無事怪我もなく、サッと立ち上がり元気よくアクリスたちに言い放った。長いストレートの金髪を緩めに結び、生地が少ない服に身を包んだ女エルフ、コム。レイピアを構え、堂々とクロウを踏みつけて仁王立ちしている。
「誰の、せいだと、思ってんだ、この、ボケエルフ!さっさとどけぇっ!」
「わっわっ!なんで突き飛ばすんだぉ!!ねぇ、シモン!って?!なにしてるんだぉ?!こいつらは邪魔しに来てるんじゃないのかぉ?!えっ?えっ?」
コムは訳がわからずオロオロとしだした。
「勝手に飛び出してどこでなにをしていたんだ?あまり心配をかけるな、コム。」
「あ、えと、それはごめんだけぉ。でもなんで皆、仲良くしてるんだぉ?」
「あの予見をどう解釈したらそうなるんだよ?まぁ、ちょっとひと悶着はあったけど俺たちはもう仲間なの!洞窟の中で生活しなくてよくなったの!わかったらさっさと準備しろよ!」
「え?え?わ、わからないぉ??」
「ついて行けば自然とわかる。」
「そ~ゆう事!ほら、あいさつしとけよ~。」
「むむむ…。じゃあ『漆黒の3人衆』は解散ってことかぉ?」
「「そのこっ恥ずかしいアホみたいな呼び名を出すな!」」
クロウとシモンが見事にハモる。
「なーんか…いいっすねぇ。」
「そうだね、羨ましいくらいだね。」
本当に仲が良いんだ。そして、信じられたのは3人だけだったのだと、アクリスは思い知る。どれだけの仕打ちを受けて傷んできたかは計り知れないだろう。それでも、応えてくれた事に責任と重みを感じ、守らなければならないと、誓う。
「それでどこに向かう?」
「【ラギルーガ】へ!そこで待っている人がいるんだ。」
「おっし!街なんてひっさしぶりだなぁ~ついたら酒場で1杯やろーぜ?」
「手配書出てるのに大丈夫なんすか?」
「心配です…。」
「あ!ちょっと待つんだぉ!おいてくなぁ!」
【ラギルーガ】までの帰路は、とても騒がしくなりそうだ。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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所々に岩や石、白骨化した動物たちの死骸はあるものの、生き物の気配は日陰を探して|這《は》って歩くトカゲ程度。ここを住処にしているのは『生ける屍』のみ。
【|竜骨《りゅうこつ》の谷】
人にとって有益な資源もないここは一般人が近づく事はない。この地を好き好んで住まいにしているのは魔物のみ。特に水や食料が必要のない渇いた魔物だ。故にスケルトンが好んで住み着いてると言われている。ただここのスケルトン、最奥にある洞窟を守るかのように生息している、とも言われている。お宝があるんだろう。と、物好きな冒険者が時おり訪れ攻略に向かうのだが、辿り着けなかった者、帰れなかった者はこの地のスケルトンとして生き続けることになるいわくつきの場所。
あれから2日。やっとたどり着いた【竜骨の谷】。
巻き上げられた砂で見上げる空は霞がかり、太陽は見えず遮られているはずなのに、ただ歩いているだけでも汗が滲み出る暑さだ。
「ここに着いたら急に空気が変わった。熱い空気と砂のせいか?息がしづらいな。」
強い向かい風が吹き付ける谷底の道を、その風に逆らうように進むアクリスたち。
「なんかここ、嫌なところだね、ロアくん…。」
「あぁ、そこら中に何かが潜んでる気配がするな。でも安心しろよな、俺が守ってやるから。」
後ろのふたりは、お互いにお互いを守る形で、アクリスから少し離れたうしろを付いてきている。
ここまで来る間にアクリスがひとりでいた理由を話していた。「師匠の邪魔はしないっす!」と、理解を示し、足手まといにならないと了承し、距離を取って付き添っている。
竜の骨と言われるだけあり、先に進むに連れて分岐が増えて行く。恐らく骨格で言うところのろっ骨部分だろうことが想像できる。
「まるで…腹の中にいるみたいだ。」
今まで何もなかった谷底の道に、枯れた大木が点々と現れ始め、違和感を強く感じる。それはこの谷に入ってからと言ってもいいだろう。なにしろ、1度も魔物と遭遇していない、からだ。
「師匠…!」
一瞬。なにかの揺らぎを3人は感じ取った。
「わかってる。すまないが自分の身は自分で守ってほしい。いいか?」
「問題ないっす!」
と、元気よく返事をするロアは、突然地面から現れたスケルトンに剣撃を鮮やかに入れる。ボコボコと音を立て、数十体のスケルトンが次々に姿を表していく。
「なるほどね、まさにここが胃袋ってこと、か。スケルトンの癖に上手いこと考えるものだ…!」
襲いかかるスケルトンの群れ。
1匹2匹倒したところで攻撃が止むわけもなく、むしろ勢いがついてきている。そしてすぐに、散らばった骨が集まり、再生する。
「なっにぃ?!斬っても斬ってもっ!っくしょー!」
「確実にここで仕留めてやるって感じがするね。|脆《もろ》いからすぐ倒せるけど、再生が厄介。体力がどれだけ持つか…。」
「私、水の精霊魔法使えます!回復なら…!」
と、言っても回復魔法も無限で使える訳ではないだろう。いざという時の為に温存はしておきたい。どうにか対処法を考えるアクリスだったが、粉々に粉砕する、あるいは魔法で―この面子では、どちらも現実的ではない。しかし抵抗をやめればここのスケルトンの仲間入りだ。それだけはあってはならない。アクリスはなるべく細かく斬撃を与え、再生を遅らせるように努める。足手まといになるな、とロアたちに言ったものの、自然とふたりの負担を減らすよな動きを取っていた。
異様な暑さと長距離の移動の疲れ、普段よりも息が上がるのが早い。
「…還れ。」
パチンッ。
指を鳴らす音が突然、谷に響く。
すると、アクリスたちを囲んでいたすべてのスケルトンの体に魔法陣が重なるように現れ、その体を次々と砕いていった。
「な、にが…?」
「|不死者への鎮魂歌《アンデットレクイエム》。」
影になっている脇道から声と共にひとりの男が姿を表す。
「久しぶりに使ってみたが…ふむ、まだまだ甘いか…。」
自分の放った魔法に満足していないかの様子で、ほぼ砂と化したスケルトンだったものを観察している。
しかしこの魔法、同時に発動するのは普通の魔術師ならせいぜい2体が限界。その上、成功率は約50%という未完成の高等魔術のひとつである。それをいとも容易く何十体というスケルトンに全て成功させている。この男は只者ではない。しかし、おかげで助かったのは事実だ。
「ありがとう、助かったよ。」
ひと息つき、続けてロアとカインもお礼を言った。
「…騒がしいのが好ましくないだけだ。助けたつもりもない。」
冷たい表情で3人のお礼の言葉を拒否する態度をとる。少しムッとした表情を見せ言い返そうとするロアをカインが止めた。
「お前たち、なぜこんな場所を訪れた?」
男が話しかける。男も怪しいが、相手からすればこちらも怪しい人物には変わりない。お互いに警戒しながら歩み寄る。
アクリスは、懐から取り出した手配所を男に向かって見えるように広げる。
「それは…なるほど、そうか。」
「俺はこの3人を…。」
アクリスの言葉を遮るように火の|礫《つぶて》が襲う。体を横にそらしてギリギリで避けた―というよりはわざと当たらないよう調整して放ったようにも見える。放ったのは目の前のあの男だ。警戒から攻撃へ転じ、アクリスたちへ敵意と殺意を向けている。手に持っていた手配書は宙に舞い、礫の火の粉が移ってのだろう、|燻《くすぶ》りながらヒラヒラと。男とアクリスの間に落ちていく。
手配書を挟んで、目が合う。
似顔絵の1人と、目の前の男は同じ顔。
シルバーゴールドの細い髪、蒼く闇を孕んだ鋭い瞳も持つその男の名はシモン。
「…この骨共、やけに多いと思わなかったか?」
一切表情を変えず淡々とした口調で問いかける。
3人は砕かれた骨の残骸に目をやる。焼け焦げた衣服の切れ端、剣で貫かれたであろう鎧の傷。ここを訪れた冒険者、あるいは賞金稼ぎだろうことが伺えた。もちろん、手にかけたのは―
「俺らが増やしてやったんだよ、なっ!」
完全なる不意打ち。
シモンの後ろの暗闇から黒い何かがアクリスの心臓めがけて飛び込んできていた。まるで獲物を喰らおうとする獣のようだった。
ガギンッ!と重く鈍い音、剣から火花が散るほどの衝撃をアクリスはかろうじて受け止めていた。警戒を解いて、剣を収めていたら命はなかっただろう。
「師匠っ!」
「来るな!!」
反撃ができないこの状況、ロアが動けば恐らく後ろに立つシモンが魔術で攻撃を加えるだろう。声を上げ、ロアの前進を制止させる。
艷やかな黒い髪、鈍く光る金色の瞳、真っ黒の鎧を|纏《まと》った男。手配書の中のもうひとり。名はクロウ。
「これ、受け止めれるんだ?ふーん…やるね。」
不意打ちが失敗し、体制を整えるようにシモンのいる方へヒラリと跳び、引き下がる。
「お前が撃ち損じるとは珍しいな。」
「だってさ~…ふぁあ…寝起きだから?」
シモンと違い、クロウはどこか軽い物言いをする。
しかし、攻撃を防いだものの、一撃を食らったアクリスはクロウも只者ではないことをその身を持って確信した。剣を握っている手が未だ震えて力が入りにくく感じている。体に疲労が溜まっていることは言い訳にできない。力をこめ、改めて剣を構えなおし、臨戦態勢をとった。
チラリと。クロウがアクリスを見て少し驚いた表情を見せた後、すぐシモンに問いかける。
「あのさぁ…シモン。また問答無用に殺そうとしてたわけ?」
「ふん…手配書を持っていたからだ。敵だろ。敵は始末する。」
「あ~ね…気持ちはわかる。攻撃しちゃった俺が言うのもなんだけどもう少しよく見てからにした方がいいかもよ?」
と、対峙するように向き直ったクロウ。剣は構えていない。
「わりぃ、こいつ顔に似合わず話聞かないで体が動くタイプなんだわ。アクリス王子様、と。連れのふたりも。驚かせて悪かった。」
拍子抜けもいいところだ。アクリスは思わず構えた剣を地面についてしまった。
「…何?」
「何?じゃねぇわ!お前が予見したんだろーがよ!忘れんなこの魔術バカが!」
【魔術師の予見】
完全なる未来の予言とまではいかないものだが、魔力量が多く強い、選ばれた魔術師が稀に見る事ができる不思議な現象のことを指す。ほとんどが夢の程度の曖昧な情報しか生まず、忘れてしまうのだがそこそこ当たっていたりする。シモンがなんとなく話していた予見の内容をクロウは覚えていたらしい。
「師匠、これ止めないとずっと放置されちゃうんじゃないっすかね?」
「確かにそうだね。えーっと、俺たちの話をしても、いいかな?」
延々と口喧嘩をしているシモンとクロウに恐る恐るアクリスは話しかける。やはり、存在を忘れるくらい夢中になっていたらしい。掛けられた声に気付き、ピタッと喧嘩をやめ、咳払いをしたクロウが言う。
「うん、いいよ。聞こうじゃん?」
シモンは後ろを向いて不機嫌そうにしているが、これから自分達が進もうとする道、国を、世界を取り戻すという事―、
「不死の王から国を取り戻す。奪われた世界を変える。その為に俺は仲間を探している。」
クロウの顔つきが変わる。
「…んで?俺たちを『仲間』にしようって?」
「仲間を増やせばなんて、安易な考えかもしれない。けど、立ち向かうための力が必要なんだ。」
「へぇ?」っと口にしたかと思うと、先程と同じようにアクリスへ向かって突っ込んできた。斬りつける形は取らず、剣の柄で腹部を強打する。息が止まる程の痛みを感じ、体が下へ沈みそうになるが、ギリギリ地面に膝をつくことはなく耐えたアクリス。
「がはっ!…な、ん…!」
にやりと、「今度は避けれなかったな?」と笑うクロウ。
そのまま足を後ろに下げ、強く踏み込む。素早く剣を抜いてアクリスの首めがけて攻撃が繰り出される。確実に急所を狙ってきていた。
とっさに上半身を後ろに下げたおかげで浅く|顎《あご》を切られた程度で済んだ。が、続けて繰り出される攻撃に対して自身もたまらず剣を構えて対応するものの、アクリスは受けるのみで反撃には転じない。
「俺たちがどうしてこんな所に逃げ込んで、コソコソ生き長らえてるかなんて知りもしないだろうがよ。駒にされるのはもうウンザリなんだよっ!」
仲間という言葉に過剰な反応を見せるクロウ。その様子をシモンも見ているが止めようとしない。
「あんた!なんで止めないんすか!」
「人に話を聞かないやつ、なんて言ってたが…これもあいつのやり方だ。見ていればいい。」
「はぁぁ??なんなんだこの人たち…!」
「ロアくん…。」
ロアも止めに入りたい衝動に駆られるが、アクリスが「ひとりでやり遂げなければならない」と言っていたことを思い出し、イラつきながらも手を出さず見守る。
攻撃は止まない。アクリスは押されている。このままでは何も遂げることなくクロウに倒され―そう頭によぎった時、振り下ろされた剣撃を受け止めながらアクリスは叫んだ。
「俺、はぁっ!!!…俺は、まだ未熟で、弱い…っ!」
「ちぃっ…!」
力強い声と、押し返された衝撃でクロウの体制が一瞬崩れた。肩で息をしながらアクリスは続ける。
「でも、心まで弱いとは思ってはいない!仲間を駒だなんて思ったことなんて一度もない!扱いもしない!それは、今も!これからも!変わりはしないからっ!!」
熱い炎を宿した青い瞳がクロウの瞳を奪い一瞬の隙が生まれた。目を逸らすことはできなかった。真っ直ぐに向かってくるアクリスの一振りを避けることができず―、
ザシュッ…!!
肉を切り裂く音がした。そしてひと筋の細い弯曲の血が宙をきり、空を舞った剣が地面へ突き刺さった。
「…終わったか。」
「ってぇ…!!はぁぁ~ぁっ!まいったまいったぁ!俺の負け!」
地面に刺さったのはクロウの剣であった。アクリスの持つ剣の先にはわずかに血が滴っている。
「はぁはぁ…ま、負け…?」
「そ、お前の勝ち。あの状況、俺に隙きを作ってなおかつ手加減して切るってなぁ大したもんよ?いててて…。」
腕に受けた傷を庇いながらその場にドカッと尻をつく。
その様子をみてアクリスはハッと、カインに急いで治療するよう声をかけ、クロウの傍へ駆け寄る。
「い、今治しますね!」
一瞬の出来事に呆然として動けずにいたが、ロアと共にすぐ様アクリスの元に向かい、水の精霊を呼び出して傷の治療を始めた。
「ありがとう~っておぉ~水の…あーそういえばあいつ―…。」
「アクリスさんも一緒に治療しますのでクロウさんの隣にいてくださいね。」
申し訳なさそうにクロウの隣に座ったアクリスも、一緒にあたたかい精霊の水に包まれ、癒えていく傷口を見てほっとした様子だ。そんなふたりを見ながらカインの後ろについていたロアがため息混じりに呟いた。
「はぁ…結局、クロウさんもシモンさんも、どっちも脳筋で喧嘩っ早いだけじゃないっすか。」
「ふんっ…今回は聞かなかったことにしておいてやる少年。」
「のわっ?!い、いつの間に?!」
クロウの飛ばされた剣を持ち、気配無く近づいて来ていたシモンに驚く。剣をクロウに返しながらシモンは言う。
「俺たちは仲間にこっ酷く裏切られててな。その結果世に出されたのがあの手配書だ。ゆえに自由に動こうにも動けず、このまま隠れて生きるのだろうと諦めかけていた。お前について行った所でそれが変わるかどうかは俺には今すぐ判断はできない…が、こいつが決めたことなら、俺も、それに従う。」
「ははっ!珍しく|饒舌《じょうぜつ》だなシモン?」
カインの回復魔法を受けながら、シモンに触発されたのか、クロウもゆっくりと自分たちのことを話しだす。
「騙され、奪われ、裏切られ、追い出され、追いかけられ。なんでこんな仕打ちを受けるのかわからないまま隠れて生きてた。あいつらが悪いわけじゃないんだって分かってんのに、なんも出来ないでいた。そんで、今だ。ただただその状況を受け入れてた俺達の前に現れたのがお前だ、アクリス。伝わったぜ?想いが乗った剣だった…うん、気合い入れてくれてありがとうな。まぁ、あれだ、俺達はお前についていくってことで…よろしく?」
コツン、と左手でアクリスの頭を軽く叩く。アクリスもほっとした様子で答える。
「殺気のない太刀筋だったから、試されてるかもとはおもって傷つけちゃいけないって思ってたんだけど、さすがにちょっとしんどくて振り上げてしまって…ごめん。でも、ありがとうクロウ、シモン。これから先、ずっと。共に歩んでくれると嬉しいな。」
「あーやっぱりバレてたのか。はは…うん。ずっと、か。いいね、悪くない。な?シモン。」
「…諦めていた事、無意識に求めていたのかもしれない、な。」
無意識に求めていたもの。
それはかつての仲間たちと同じ、共に同じ|志《こころざし》を持って歩んでいく日々。過酷な状況も、喜び合う瞬間も、繋がり育む想い、絆。この気持ちを与え、与えられる仲間を、クロウもシモンも捨てきれず望んでいた。
―治療を終えたクロウはブンブンとケガを負っていた方の腕を回し、状態が回復していることを確認した
「カイン、だっけか。ありがとうな、おかげで元通り、問題なしだぜ。」
「い、いえ!とんでもないです!私ハーフエルフで…さっきは必死だったので自信満々に言っちゃったんですけど、実は精霊との繋がりを強く保てないから踏ん張らないとそこまで効果は出せなくて不安でした。でも、褒めてもらえて嬉しいです。」
カインの言葉にぴくっと反応したかと思うと、シモンは素早く、彼女の元に移動して張り付いていた。
「ハーフエルフだと?それは珍しい。繋がり方はどう違うんだ?魔力の流れは?発動の時どんな―」
「へ?!あ、あの、その…???」
「あ!な、なに触ってんすか!!ちょっと!」
「まーたはじまったよ。」
元々強い魔力を持っているシモンは魔術探究が趣味―らしく、魔術や魔法に関して珍しい事象があれば知識を得たがるようだ。カインに詰め寄り、手を触ったり、頬をつついたりしながらあれやこれやと質問をしている。
それが面白くないロアはふたりの間に入りぎゃあぎゃあと騒いで阻止しようとしている。
「水の精霊魔法なんてあいつのを見てるんだから珍しくもないはずなんだけどなぁ。ほんと、魔術バカだわ。」
「あいつ?あ、確か3人で行動してるんだったよね?もうひとりは、エルフの?」
マエナスが言っていたのは「3人」。キョロキョロしているアクリスに、クロウは言う。
「予見の話しした時にさ、なんか急に飛び出してからぜーんぜん帰ってこないんだよ。ほんとにどこいってんだか俺らもわからねぇの。そのせいでシモンが四六時中ソワソワイライラしててさ、こっちの身になれっての。」
ふてくされ、シモンを見つめているその表情は、確かに不満そうではあるが、仲間を思いやる温かさが伝わってくる優しいものだった。
「ふっ…あはははっ!なるほど、クロウだけに苦労人って言う感じだね?」
「ばっか!寒いぞお前!」
和気あいあいとそんな話をしていた直後、崖の上から人影が―落ちてきたのである。
「なぁわっああぁーー!!」
「おいおいおいおい、うっそだろ…ぐばっぁ!!」
クロウめがけて。
「おまえたちぃ!おでたちの邪魔をしに来たのはわかってるぉ!覚悟しろぉ!…お?クロウお前なにつぶれてるんだぉ?」
見事にダイブし、無事怪我もなく、サッと立ち上がり元気よくアクリスたちに言い放った。長いストレートの金髪を緩めに結び、生地が少ない服に身を包んだ女エルフ、コム。レイピアを構え、堂々とクロウを踏みつけて仁王立ちしている。
「誰の、せいだと、思ってんだ、この、ボケエルフ!さっさとどけぇっ!」
「わっわっ!なんで突き飛ばすんだぉ!!ねぇ、シモン!って?!なにしてるんだぉ?!こいつらは邪魔しに来てるんじゃないのかぉ?!えっ?えっ?」
コムは訳がわからずオロオロとしだした。
「勝手に飛び出してどこでなにをしていたんだ?あまり心配をかけるな、コム。」
「あ、えと、それはごめんだけぉ。でもなんで皆、仲良くしてるんだぉ?」
「あの予見をどう解釈したらそうなるんだよ?まぁ、ちょっとひと悶着はあったけど俺たちはもう仲間なの!洞窟の中で生活しなくてよくなったの!わかったらさっさと準備しろよ!」
「え?え?わ、わからないぉ??」
「ついて行けば自然とわかる。」
「そ~ゆう事!ほら、あいさつしとけよ~。」
「むむむ…。じゃあ『|漆黒《しっこく》の3人衆』は解散ってことかぉ?」
「「そのこっ恥ずかしいアホみたいな呼び名を出すな!」」
クロウとシモンが見事にハモる。
「なーんか…いいっすねぇ。」
「そうだね、羨ましいくらいだね。」
本当に仲が良いんだ。そして、信じられたのは3人だけだったのだと、アクリスは思い知る。どれだけの仕打ちを受けて|傷《いた》んできたかは計り知れないだろう。それでも、応えてくれた事に責任と重みを感じ、守らなければならないと、誓う。
「それでどこに向かう?」
「【ラギルーガ】へ!そこで待っている人がいるんだ。」
「おっし!街なんてひっさしぶりだなぁ~ついたら酒場で1杯やろーぜ?」
「手配書出てるのに大丈夫なんすか?」
「心配です…。」
「あ!ちょっと待つんだぉ!おいてくなぁ!」
【ラギルーガ】までの帰路は、とても騒がしくなりそうだ。