三年生の夏休み、ふいに予定変更で時間が空いて俺は家に帰ることにした。
言うまでもなく、それが入学以来初めての帰宅ってことはないよ。
それまでにも特に春や夏の休みにはぽつぽつ帰ってはいたけど、帰省って距離じゃないしせいぜい二泊してまた戻るってパターンだったんだ。
なんせ近いから「いつでも帰れる」と思うと、かえって「いつでもいいや」になっちゃうんだよな。
「ただいまぁ」
ドア開けて久し振りに家に入った俺の声に、姉ちゃんがリビングから顔出した。
もちろん前もって連絡はしてるよ。お母さんに。
「……
巽」
姉ちゃんはなんていうか、いつも俺にはつっけんどんだ。小さい頃からあんまり合わなかった。
だからって、別に苛められたことなんかないよ。どっちかってーと相手にされてないくらい。
「お母さんは? 今日は休みって聞いたんだけど」
「買い物行ってる」
素っ気なく答えてさっさとリビングに戻ろうとした姉ちゃんは、癖で鞄を玄関先にポイっと置いた俺に顔を
顰めた。
「ちょっと! なんでそこに置くの? リビングまで持って、……せめて端に寄せなさいよ」
「え? いーじゃん、別に」
俺だって玄関上がってすぐの、しかもド真ん中に鞄があるのが行儀いいとは思ってない。
だけど、自分の家でくらい構わなくない? うち、まず客も来ないんだし。
お母さんも別に何も言わなかったよ?
「あんた、
お父さんにそっくりだね」
姉ちゃんの
刺々しい言葉に、俺は急に思い出した。
お父さんも確かにそういういい加減なところがあって、よくお母さんに注意されてたなって。
「そんな子どもみたいなこと言われたくない!」
お父さんの逆ギレに、お母さんは「だったら最初から『子どもみたい』なことしなきゃいいでしょ」ってぴしゃって返してた。
……そういえば俺も、小さい頃はお母さんにいちいち怒られてたけど、そのたびにお父さんが「それくらい」って──。それでもお母さんはいろいろ言ってくれてたのに、お父さんが横から邪魔してたな。
だから俺も、「これくらい」別にいーじゃん、って考えてたんだ。たぶん、今も。
お父さんとお母さんはもう離婚する予定だった、らしい。結構長いこと話し合いしてたんだって。
ちなみに、お母さんは大人同士の話を子どもに愚痴ることなんかない。
その辺は全部お父さんに聞いた、ってか聞かされたんだ。
俺たちに味方になって欲しかったんじゃないのかな、無駄だったけど。お母さんはそういうのもイヤだったのかも。
……今更だけど、お父さんて自分の何が悪いかも全然わかってなかったんじゃねーの?