母は完璧な人だった。
結婚前からの仕事を、
葉月が生まれてからも今までずっと続けている。
何もしない父を当てにすることもなく、家事もすべて一人で担って。
せめて何か手伝おうとすると、必ず止められた。
「いいのよ、これはママの仕事だから」
優しく告げて、葉月の相手をするために中断した作業に戻る。
いつも忙しくしていた母。とにかく時間がない中で子どもの半端な手伝いなど迷惑だったのだろう、と大学ももうすぐ卒業する今の葉月ならわかる。
やり直す分だけ時間と労力が無駄になるからだ。
葉月は母を尊敬している。
一人っ子だがあまり構われることもなく、なんでも自由にさせてくれた。
習い事も進路も、葉月が決めたことに反対されたことなどない。
「もー、ウチのお母さんうるさくって! 勉強しろ、手伝いもしろ、女の子はもっと細かいことに気づかなきゃ! 見た目ばっか気にするな、でもだらしない格好もダメ! 矛盾してんじゃん。一体あたしにどうしろってんだよ!」
高校時代、親しい友人がよく母親の愚痴を零していた。
「うちはそういうのないな~。ママは
私の人生なんだから自分で決めればいい、って言うよ。まあ忙しいからね」
いつものことなので気軽に返した葉月に、彼女は大きく頷く。
「葉月んちのお母さん、バリキャリだもんね。それだけでも違うよ。だってお母さん、あたしを自分の『評価』に使いたがるんだもん。アノヒト、『旦那が~、子どもが~』しかないんだよね。やっぱその気になれば一人でも生きてける力って必要なんだなぁ」
「あー、まあそれはあるかも。私もだし
春野も、将来のこと考えて頑張らないとね」
当たり障りのない言葉を選びながらも、「自分は恵まれている」とどこか友人に対して優越感も覚えていた。