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パーティー

ー/ー



 二日後、丸一日バイトを休みにした私は、二日分の稼ぎを注ぎ込んだジュエールと飲食物を用意し、ハヤトのサポートに臨むことにした。飲み食いしながらなのでログイン空間からではなく現実空間からのサポートだ。

 早起きして町の噴水広場に座っているハヤトを冒険に誘うべく使ったのは、【女神の囁き】という御業だ。

「なになに、効果は『なんとなく気づきを与える』……なんとなくってなんだよ!」

 気づきを与えるっていうことは、こちらの意図を伝えられるってことだろう。

「効果時間は六十秒ってのがよくわからないけど、使ってみるか」

 対象者を選択すると『伝えるべき内容を入力してください(十文字)』というメッセージとテキストボックスが表示された。

「十文字、少な!」

 『本格攻略、冒険日和』などと入力するも何も起こらない。だけど、六十秒のカウントダウンは進んで行く。

「なんでよ!」

 『なんとなく(・・・・・)』なのが激しく怪しい。そうこうしているうちに十五秒が経過していた。スマホ画面には再びメッセージ入力画面が表示されている。ということは、六十秒で何度も送れるに違いない。

 『本格攻略』、『冒険日和』、『運気向上』、『本格攻略』、『冒険日和』、『運気向上』…………残り時間を使って何度も何度もメッセージを送った。

 ……2……1……0

 三百(ジュエール)を費やして送った私の渾身の念はちゃんとハヤトに伝わったのか? 
 大あくびをしてから重そうに腰を持ち上げたハヤトは、のんびりと出発の準備を整えて町を出ていった。で、伝わったの?

 レベリングついでに森で食料調達の狩りをした帰り道のことだ。

 道から少し外れた丘に人だかりがあった。気になったハヤトが登っていくと、そこには直径二メートルほどの白い光の玉が浮いていた。

「ダンジョン……か?」

 見上げながらハヤトはつぶやいた。

 出現して間もないダンジョンのゲートの光は白い。それが次第に青味がかっていき、黄緑、黄色、橙色、赤色に変化して、黒くなったときにモンスターが溢れるダンジョンブレイクが起こるという設定だ。

 最初に攻略した人には特別なボーナスがあるため、見つけた人は超ラッキー。管理されているわけではないので早い者勝ちだから、辺境の地で見つけたら仲間たちで独占するもよし、ひとり占めにするもよし。

 だけど、ダンジョンブレイクが起きてしまったら大変な事態になる。

 フィールドで不意に強力なモンスターに出くわしたり、ゲーム内の物価が高騰するなどだ。そこまでならまだいいのだけど、ゲーム内の課金アイテムの値段も変動するというので、プレイヤーはダンジョンブレイクが起きないように頑張る必要があった。これはログインを促す施策として正しいの?

 この光の玉の大きさがダンジョンの危険度をおおまかに示している。正確にはこのダンジョンのレベルは六。今のハヤトでも挑めないことはないだろうけど、それには同レベル帯の仲間が必要だ。

 ギルドでサポート仲間をひとり雇うだけでもけっこうなお金がかかる。今の経済事情では厳しいのでハヤトは現在ソロプレイ。そうなると一緒にダンジョンに入るためのメンバーを現地で調達するしかない。この人だかりの理由はそういうことだ。

 まわりの声から三日前に攻略されたダンジョンだとわかった。すでに攻略されているのであと四日もすれば消えてしまう。その前に踏破したいプレイヤーがダンジョンの入口でメンバーを募集していた。

 ハヤトは物理アタッカー募集のパーティーに交渉している。相手のレベルは四、四、七の三人。同じくらいのビギナーだ。

「あっ、フラれた」

 交渉が決裂したのは片手剣使いが被るからかな?

 その後もレベルや役割が合致せず、三組のパーティーにフラれてしまった。

 『ハヤトのステータスが【悄然】になりました。攻撃力と敏捷力が一割低下します』

「そんなんあるん?」

 深いな、フロンティア。

「装備も初期装備だしなぁ」

 それから五分が経過したとき、新たにやってきた男女二人組が話しかけてきた。

「おっ、もしかして?」

 筋力系アタッカービルド:レベル三のレガシー君と、回復系ビルド:レベル三のサーラちゃんだ。

 ふたりは今日の早朝から始めたばかりのビギナーで初めてのダンジョンだという。そんな彼らの誘いをハヤトはふたつ返事でOKしたけど、私はちょっと不安だった。

 こうして運頼り系バランス型アタッカービルド:レベル五のハヤトはパーティーを組むことができた。だけど、もうひとりのメンバーは得ることはできなかったので、三人でダンジョンに挑むことになってしまう。

 レガシー君とサーラちゃんは三人でも気にしないだろうけど、ゲームの中の『死』は現実の『死』に繋がるハヤトにとっては死活問題だ。なのにハヤトのステータスから【悄然】が消えた。仲間ってのは心強いな!

 攻略者の情報によるとこのダンジョンは三階層まで。全体マップと近くのモンスターの場所がわかるのは女神の特権だ。なので、ハヤトたちが順調に進んでいることがわかった。

「なんだ、意外とやることないじゃん」

 この事件に巻き込まれてからの最初の三日はハラハラしながら見ていたけど、こうしてパソコンの前にどっしりと構えてみるとぜんぜん違う。スマホと違ってモニターから得られる情報量は多いし、女神の御業の一覧をすべて表示できるので素早く選択できる。

 三人が楽しく話しながら歩いているところをみると、ずいぶんとリラックスしていることがわかる。

「これは気負い過ぎたかな」

 危なげのない四度の戦闘を終えて地下二階に下りたところで、ハヤトのステータスの表示が消えた。同時に女神の御業の文字が赤くなっていることに気がついた。

「あれ? バグなの? これってメンテ入ったりするわけ?」

 あれこれと操作しているあいだに地下三階に到達すると、今度はフロンティアを映す画面が薄暗くなった。視点を切り替えてもそれは変わらず、ハヤトの様子がわかりづらい。

 もしも、ゲーム機の異常だったらたまったもんじゃない。修理には日数がかかるし、新しい物を買う資金も無いのだから。

 不安に駆られながらもダンジョン攻略は進んでいく。女神の私に異常はあるけど冒険者三人は順調だ。

「こんなんでサポートできるわけないでしょ! ちょっと、女神! アドミス!」
「はーい。なんでしょうか、女神ヒナコ」

 私の呼びかけにアドミスが応え、チュルリ~ンという効果音と共にモニターの隅に現れた。
「これどうなってるのよ。画面は暗いしステータスの確認もできないって。バグってるわよ!」

 私の抗議に対してアドミスは「そのことですかぁ」と落ち着いた反応だ。そして、これらの異常がゲーム機やフロンティアの問題ではないと説明した。

「女神の心得を読んでないんですか?」
「わかってるなら説明して。どういうこと!」
「それはですね、あなたの女神レベルが低いからです。まだレベル二ですから」

 一昨日、満員電車で私の女神レベルは二になったばかりだ。

「レベルが三に上がると【女神の瞳】を使えるようになります。それを使うともう少し先の階層まで見通せるようになりますよ」

 この説明を聞いた私は嫌な予感を覚えて質問した。

「もしかして……それもジュエール使うの?」
「当たり前じゃないですか」

 ころころと笑うアドミスが憎々しい!

「一生懸命レベルを上げてくださいねぇ。では、また何かあったら呼んでください」

 そう言ってアドミスはチュルリ~ンと消えた。

「どんだけ絞り取るつもりだ!」



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 早起きして町の噴水広場に座っているハヤトを冒険に誘うべく使ったのは、【女神の囁き】という御業だ。
「なになに、効果は『なんとなく気づきを与える』……なんとなくってなんだよ!」
 気づきを与えるっていうことは、こちらの意図を伝えられるってことだろう。
「効果時間は六十秒ってのがよくわからないけど、使ってみるか」
 対象者を選択すると『伝えるべき内容を入力してください(十文字)』というメッセージとテキストボックスが表示された。
「十文字、少な!」
 『本格攻略、冒険日和』などと入力するも何も起こらない。だけど、六十秒のカウントダウンは進んで行く。
「なんでよ!」
 『|なんとなく《・・・・・》』なのが激しく怪しい。そうこうしているうちに十五秒が経過していた。スマホ画面には再びメッセージ入力画面が表示されている。ということは、六十秒で何度も送れるに違いない。
 『本格攻略』、『冒険日和』、『運気向上』、『本格攻略』、『冒険日和』、『運気向上』…………残り時間を使って何度も何度もメッセージを送った。
 ……2……1……0
 三百|J《ジュエール》を費やして送った私の渾身の念はちゃんとハヤトに伝わったのか? 
 大あくびをしてから重そうに腰を持ち上げたハヤトは、のんびりと出発の準備を整えて町を出ていった。で、伝わったの?
 レベリングついでに森で食料調達の狩りをした帰り道のことだ。
 道から少し外れた丘に人だかりがあった。気になったハヤトが登っていくと、そこには直径二メートルほどの白い光の玉が浮いていた。
「ダンジョン……か?」
 見上げながらハヤトはつぶやいた。
 出現して間もないダンジョンのゲートの光は白い。それが次第に青味がかっていき、黄緑、黄色、橙色、赤色に変化して、黒くなったときにモンスターが溢れるダンジョンブレイクが起こるという設定だ。
 最初に攻略した人には特別なボーナスがあるため、見つけた人は超ラッキー。管理されているわけではないので早い者勝ちだから、辺境の地で見つけたら仲間たちで独占するもよし、ひとり占めにするもよし。
 だけど、ダンジョンブレイクが起きてしまったら大変な事態になる。
 フィールドで不意に強力なモンスターに出くわしたり、ゲーム内の物価が高騰するなどだ。そこまでならまだいいのだけど、ゲーム内の課金アイテムの値段も変動するというので、プレイヤーはダンジョンブレイクが起きないように頑張る必要があった。これはログインを促す施策として正しいの?
 この光の玉の大きさがダンジョンの危険度をおおまかに示している。正確にはこのダンジョンのレベルは六。今のハヤトでも挑めないことはないだろうけど、それには同レベル帯の仲間が必要だ。
 ギルドでサポート仲間をひとり雇うだけでもけっこうなお金がかかる。今の経済事情では厳しいのでハヤトは現在ソロプレイ。そうなると一緒にダンジョンに入るためのメンバーを現地で調達するしかない。この人だかりの理由はそういうことだ。
 まわりの声から三日前に攻略されたダンジョンだとわかった。すでに攻略されているのであと四日もすれば消えてしまう。その前に踏破したいプレイヤーがダンジョンの入口でメンバーを募集していた。
 ハヤトは物理アタッカー募集のパーティーに交渉している。相手のレベルは四、四、七の三人。同じくらいのビギナーだ。
「あっ、フラれた」
 交渉が決裂したのは片手剣使いが被るからかな?
 その後もレベルや役割が合致せず、三組のパーティーにフラれてしまった。
 『ハヤトのステータスが【悄然】になりました。攻撃力と敏捷力が一割低下します』
「そんなんあるん?」
 深いな、フロンティア。
「装備も初期装備だしなぁ」
 それから五分が経過したとき、新たにやってきた男女二人組が話しかけてきた。
「おっ、もしかして?」
 筋力系アタッカービルド:レベル三のレガシー君と、回復系ビルド:レベル三のサーラちゃんだ。
 ふたりは今日の早朝から始めたばかりのビギナーで初めてのダンジョンだという。そんな彼らの誘いをハヤトはふたつ返事でOKしたけど、私はちょっと不安だった。
 こうして運頼り系バランス型アタッカービルド:レベル五のハヤトはパーティーを組むことができた。だけど、もうひとりのメンバーは得ることはできなかったので、三人でダンジョンに挑むことになってしまう。
 レガシー君とサーラちゃんは三人でも気にしないだろうけど、ゲームの中の『死』は現実の『死』に繋がるハヤトにとっては死活問題だ。なのにハヤトのステータスから【悄然】が消えた。仲間ってのは心強いな!
 攻略者の情報によるとこのダンジョンは三階層まで。全体マップと近くのモンスターの場所がわかるのは女神の特権だ。なので、ハヤトたちが順調に進んでいることがわかった。
「なんだ、意外とやることないじゃん」
 この事件に巻き込まれてからの最初の三日はハラハラしながら見ていたけど、こうしてパソコンの前にどっしりと構えてみるとぜんぜん違う。スマホと違ってモニターから得られる情報量は多いし、女神の御業の一覧をすべて表示できるので素早く選択できる。
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「これは気負い過ぎたかな」
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「あれ? バグなの? これってメンテ入ったりするわけ?」
 あれこれと操作しているあいだに地下三階に到達すると、今度はフロンティアを映す画面が薄暗くなった。視点を切り替えてもそれは変わらず、ハヤトの様子がわかりづらい。
 もしも、ゲーム機の異常だったらたまったもんじゃない。修理には日数がかかるし、新しい物を買う資金も無いのだから。
 不安に駆られながらもダンジョン攻略は進んでいく。女神の私に異常はあるけど冒険者三人は順調だ。
「こんなんでサポートできるわけないでしょ! ちょっと、女神! アドミス!」
「はーい。なんでしょうか、女神ヒナコ」
 私の呼びかけにアドミスが応え、チュルリ~ンという効果音と共にモニターの隅に現れた。
「これどうなってるのよ。画面は暗いしステータスの確認もできないって。バグってるわよ!」
 私の抗議に対してアドミスは「そのことですかぁ」と落ち着いた反応だ。そして、これらの異常がゲーム機やフロンティアの問題ではないと説明した。
「女神の心得を読んでないんですか?」
「わかってるなら説明して。どういうこと!」
「それはですね、あなたの女神レベルが低いからです。まだレベル二ですから」
 一昨日、満員電車で私の女神レベルは二になったばかりだ。
「レベルが三に上がると【女神の瞳】を使えるようになります。それを使うともう少し先の階層まで見通せるようになりますよ」
 この説明を聞いた私は嫌な予感を覚えて質問した。
「もしかして……それもジュエール使うの?」
「当たり前じゃないですか」
 ころころと笑うアドミスが憎々しい!
「一生懸命レベルを上げてくださいねぇ。では、また何かあったら呼んでください」
 そう言ってアドミスはチュルリ~ンと消えた。
「どんだけ絞り取るつもりだ!」