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弾劾裁判

ー/ー



 リョーガイがソキンと密談した翌日の朝、リョーガイの屋敷はアルポート王国の憲兵たちによって包囲された。西地区の住民たちはその物々しさにあれよあれよ何事かと集まってきている。

「リョーガイ・ウォームリック! リョーガイ・ウォームリックはいるか!」

 軍隊を引き連れた憲兵隊長が叫ぶ。

「リョーガイ・ウォームリック! 出て来ぬかリョーガイ・ウォームリック! 出てこねば我々憲兵隊が屋敷に踏み入るぞ!」

 そこまで叫ぶと、屋敷の主であるリョーガイが寝間着姿で現れた。

「これは一体何の真似だ! 何の権限があって貴様らは私の屋敷にやって来たのだ!」

「ユーグリッド陛下直々の勅命により、お前を逮捕せよとの命令が下っている! 罪状は国家反逆罪だ! すぐにアルポート王城の玉座の間まで出廷してもらおう!」

「何だとっ! これは濡れ衣だ! 私は無実だ! 離せ下郎どもッ! これは陛下が何か勘違いしておるのだ!」

「ええいっ、黙れッ! 神妙にしろ! 大人しくせねば、この場で叩き斬るぞッ!」

 憲兵隊長に脅され、リョーガイはそこで暴れるのを止める。手を後ろに回され手枷をかけられる。6月の中頃、リョーガイは逮捕された。


 しばらくして後、リョーガイは玉座の間で拘束されて跪いていた。その姿は寝間着のままで日頃の貿易大臣としての威厳は微塵もない。玉座の間にはアルポート王国の全諸侯が集められていた。

「……リョーガイ・ウォームリックよ」

 玉座に座るユーグリッドが厳かに口を開く。

「お主が何故こうしてここに連れてこられたのかわかっておるな?」

「いいえ陛下っ! 私にはちっともわかりません! 私は何の罪も犯しておりませぬ! このような蛮行は、例え王であるあなたといえど天が許しませんぞ! かような辱めは私の人生の中で始めてでございます! 臣下たちの顰蹙(ひんしゅく)を買う前に、早く私を釈放してくださいっ!」

 リョーガイは体を激しく揺らしながら喚き散らす。立ち上がろうとする容疑者は隣にいる二人の憲兵によって取り押さえられる。

「そうか、飽くまでお主はシラを切るつもりか。ならばよかろう。徹底的にお主の悪事を暴くとしよう」

 ユーグリッドはスウっと息を吸う。

「これより、リョーガイ・ウォームリックの弾劾裁判を始める! 罪状は国家反逆罪! この者はアルポート王城を攻め入り、国王であるこの俺を殺害しようと謀略を図っていた!」

 ユーグリッドは臣下たちにリョーガイの審問開始を宣言した。臣下たちは一様にざわめき互いの顔を見合わせる。玉座の間は一斉に騒々しい気配が漂った。

「さてリョーガイよ。お主の罪状について一つずつ話すとしよう。まずお主は近縁であるレボクという男をアルポート王国の衛兵として推薦したそうだな? その事実に相違はないか?」

 リョーガイは沈黙を貫く。王を睨み、今の恥辱に怒りを露わにしている。

「喋る気はないか。ならばテンテイイ、兵士名簿の記録にはどう書かれているか申してみよ」

「は、はい」

 テンテイイは予め持ってきていた兵士名簿の(ぺーじ)をめくり確認する。

「……確かにレボクはリョーガイ殿の推薦によりアルポート王城の衛兵に入隊したと書かれております。リョーガイ殿の近縁であることも間違いありません」

「そうか。リョーガイよ、この記録をなんと説明する? 確かにお主がレボクを推薦したと書かれてあるぞ」

「……そんな記録が何だと言うのです? 私はレボクという男なぞ知りもしません」

 リョーガイは吐き捨てるように言った。

「そうか、まだシラを切るか。なれば兵務庁の長を連れてこい」

 ユーグリッドの命令とともに、憲兵によって手枷をつけられた兵務庁の長が連れてこられる。その者は暗い顔をして俯いていた。

「そこの者、お主は確かゴーガスといったな。お主の職業は何だ?」

「も、元は兵務庁の長をしておりました。で、ですが今は何も職についておりません……」

「そうか。なればお主はリョーガイから賄賂を受け取り、レボクをアルポート王城の衛兵にしたか?」

「は、はい……私は、その、賄賂を受け取りました。リョーガイ殿から、

『このレボクは兵士として優秀だからぜひアルポート王城の衛兵にしてほしい。金はいくらでもやる』

 と言われ、金を差し出されました。
私はそれで、その、受け取ってしまいました……」

 元兵務庁の長は意気消沈した様子で懺悔する。もはや完全にユーグリッドの詰問に屈していた。

「リョーガイ。この者はやはりお主がレボクを推薦したと言っておるぞ。賄賂まで受け取ったともな。お主はこれでもシラを切るつもりか?」

「……ああ、そうでございますよ! 私がレボクを衛兵に推薦したのでございます!」

 リョーガイがぶっきらぼうに白状する。

「レボクはかつて私が保有する西地区の港で警備を務めておりました。それで少しばかり可愛がってやっていたのです。

 けれどそれが一体何だと言うのです? 私が犯した罪などせいぜい賄賂を渡したぐらいのものだ。これほどの辱めを受ける謂れはないでしょう」

 リョーガイは突っ慳貪(けんどん)に開き直る。
だがユーグリッドはそのふてぶてしい態度に向かってはっきりと言い渡した。

「ならばずばり言ってやろう。そのレボクが、お主がアルポート王城に攻め入ろうと企んでいると告白したのだ」

 リョーガイの目がかっと見開かれる。僅かに体を震わせ冷や汗を流す。だがリョーガイは飽くまで強情な態度を取った。

「……そんなことはレボクの戯言にございます。どうせ酒にでも酔ってついおかしなことを口走ったのでしょう。そんなたった一人の下郎の言うことを陛下は本気で信じているのですか?」

「ああ、信じておるぞ。お主がとんでもなく腹黒い反逆者であるということをな」

 ユーグリッドは真っ直ぐに見据え、リョーガイを謀反人であると断定する。
だがリョーガイもその糾弾の瞳を見返し、王の言いがかりに反駁する。

「それこそ陛下の勘違いでございますっ! 陛下はそこまでして私を罪人に仕立てあげたいのですか! こんな魔女裁判の真似事なぞ、世の人々は誰も認めませんぞ! もし陛下の言うことが正しいと言うのなら、レボクをここに連れてきてください! そいつがいかに大嘘つきの妄言野郎か、このリョーガイめが証明してみせましょうぞ!」

 リョーガイが王に向かって吠え散らかす。
だがユーグリッドはその挑戦的な言葉に(かぶり)を振った。

「いや、レボクはいない。奴は今行方不明だ」

 リョーガイはキョトンとした顔になる。だがその顔はすぐにへらへらとした苦笑いに変わり、王を嗜めるような呆れ声を出す。

「陛下、冗談もいい加減にしてくださいよ。それこそ魔女裁判ではありませんか。私が城攻めを企んだという証拠もなく、証人すらいない。そこまでして私を反逆者だと決めつけたいのですか? こんな不当でいい加減な裁判などしていては、アルポート王国の国民全員から笑われますぞ?」

「いや、証拠も証人も既に揃っておる。お主が確実にアルポート王城を攻め落とそうとしていたという証拠がな」

 そこでユーグリッドは大声で呼びかける。

「ソキン! 前に出よ!!」

「はっ、ユーグリッド陛下!」

 ソキンが勢いよく玉座手前の階段を上る。
リョーガイは目を皿のように見開いた。
最上段まで階段を上り切ると、ソキンはハキハキと証言を始める。

「諸侯、私は昨夜リョーガイよりアルポート王城の城攻めの誘いを受けました。私はその時確かに承諾の返事をしましたが、それはリョーガイを(たばか)るために嘘をついたのです。

 私はその後すぐにユーグリド陛下の元に赴き、事の仔細を打ち明けました。そして陛下は私の密告を信じてくださり、リョーガイの逮捕に踏み切ったのでございます」

 玉座が再びどよめきに満たされる。皆一様に互いの顔色を(うかが)い、そしてリョーガイを非難の目で見ていたのである。海城王の重鎮であったソキンの発言は重い。臣下たちも十分に信用できる証言であった。

「で、出鱈目だッ! ソキンが私を貶めるために嘘をついている! ソキンの発言は全部出鱈目だッ!」

 そんな不利な状況の中でなおもリョーガイが吠え続ける。

「そうか。お主はソキンの言葉ですら嘘と申すのか。なればこれを何と説明する?」

 ユーグリッドはそこで懐から一枚の紙を取り出した。

「!!」

 それを見た瞬間、リョーガイの顔色は絶望に変わった。

「テンテイイ。この書状には何と書かれておる? 読み上げてみよ」

「は、はい」

 テンテイイが王から紙を受け取り読み上げる。

「『我ら、アルポート王国の再興がために悪逆の王ユーグリッドの城を攻め落とさん。その証として、ここに我らの手形を押印する』

 と書かれております……」

 テンテイイがためらいがちな声でユーグリッドに告げる。
リョーガイの体は石像のように固まっていた。

「この書状にはお主とソキンの手形が判をされている。その隣にはお主とソキンの名前も記されておる。

 これを何と説明する? お主はこれを偽装とでも言うつもりか? お主はこの手形が別の者の手だとでも言うつもりか? 

 ならば鑑定士を呼んでやろう。この国には手相鑑定士という職がある。手の大きさや形、指紋に至るまで(つぶさ)に調べ、手形が本人の者かどうか証明する技士だ。
お主が望むなら幾らでも呼んでやろう。好きなだけ時間をかけて徹底的に調べてやろう。

 だがもしこの書状の手形が貴様のものだと判明したならば、この俺自身がすぐさま貴様の両手首を切り落としてやるッ! そのことを覚悟した上で鑑定士を呼ぶがいい!!」

 ユーグリッドの覇気を纏った宣告が、リョーガイの全身を貫いた。
その王の気迫にリョーガイは圧倒され、もはや何も言い返すことができない。

「さあリョーガイよ。最後の審問の時だ。手相鑑定士の鑑定を受けるか? 何か釈明の余地はあるか? 何も弁明がなければ貴様は死ぬ。この国の法律の最高刑である火あぶりに処す。さあリョーガイ・ウォームリックよ、己の無実を証明してみせよ!」

 ユーグリッドはリョーガイに(とど)めをさすように申し開きを勧告した。

 だがリョーガイは心臓が止まったかのようにピクリとも動かない。飛び出そうなほどに目を開き、大口を開いて放心している。リョーガイの野心は完全に陥落していた。

「どうやら何も弁解するつもりはないようだな。ならば判決を下す! アルポート王国の法律に則り、リョーガイ・ウォームリックを火あぶりの刑に処す! 刑の執行までアルポート王城の牢屋に投獄しておけっ!」

 ユーグリッドの審判に、憲兵たちが自失したリョーガイを無理矢理に立たせる。
玉座の間は時が止まったかのように沈黙が訪れる。
臣下たちは皆、哀れな末路を辿るリョーガイに冷たい視線を注いでいた。

「私が……火あぶり……?」

 リョーガイが弱々しくポツリと呟く。
そして、

「ううっ、くぅっ、うううっ……」

 誰も同情をしない嗚咽を漏らした。



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 リョーガイがソキンと密談した翌日の朝、リョーガイの屋敷はアルポート王国の憲兵たちによって包囲された。西地区の住民たちはその物々しさにあれよあれよ何事かと集まってきている。
「リョーガイ・ウォームリック! リョーガイ・ウォームリックはいるか!」
 軍隊を引き連れた憲兵隊長が叫ぶ。
「リョーガイ・ウォームリック! 出て来ぬかリョーガイ・ウォームリック! 出てこねば我々憲兵隊が屋敷に踏み入るぞ!」
 そこまで叫ぶと、屋敷の主であるリョーガイが寝間着姿で現れた。
「これは一体何の真似だ! 何の権限があって貴様らは私の屋敷にやって来たのだ!」
「ユーグリッド陛下直々の勅命により、お前を逮捕せよとの命令が下っている! 罪状は国家反逆罪だ! すぐにアルポート王城の玉座の間まで出廷してもらおう!」
「何だとっ! これは濡れ衣だ! 私は無実だ! 離せ下郎どもッ! これは陛下が何か勘違いしておるのだ!」
「ええいっ、黙れッ! 神妙にしろ! 大人しくせねば、この場で叩き斬るぞッ!」
 憲兵隊長に脅され、リョーガイはそこで暴れるのを止める。手を後ろに回され手枷をかけられる。6月の中頃、リョーガイは逮捕された。
 しばらくして後、リョーガイは玉座の間で拘束されて跪いていた。その姿は寝間着のままで日頃の貿易大臣としての威厳は微塵もない。玉座の間にはアルポート王国の全諸侯が集められていた。
「……リョーガイ・ウォームリックよ」
 玉座に座るユーグリッドが厳かに口を開く。
「お主が何故こうしてここに連れてこられたのかわかっておるな?」
「いいえ陛下っ! 私にはちっともわかりません! 私は何の罪も犯しておりませぬ! このような蛮行は、例え王であるあなたといえど天が許しませんぞ! かような辱めは私の人生の中で始めてでございます! 臣下たちの顰蹙《ひんしゅく》を買う前に、早く私を釈放してくださいっ!」
 リョーガイは体を激しく揺らしながら喚き散らす。立ち上がろうとする容疑者は隣にいる二人の憲兵によって取り押さえられる。
「そうか、飽くまでお主はシラを切るつもりか。ならばよかろう。徹底的にお主の悪事を暴くとしよう」
 ユーグリッドはスウっと息を吸う。
「これより、リョーガイ・ウォームリックの弾劾裁判を始める! 罪状は国家反逆罪! この者はアルポート王城を攻め入り、国王であるこの俺を殺害しようと謀略を図っていた!」
 ユーグリッドは臣下たちにリョーガイの審問開始を宣言した。臣下たちは一様にざわめき互いの顔を見合わせる。玉座の間は一斉に騒々しい気配が漂った。
「さてリョーガイよ。お主の罪状について一つずつ話すとしよう。まずお主は近縁であるレボクという男をアルポート王国の衛兵として推薦したそうだな? その事実に相違はないか?」
 リョーガイは沈黙を貫く。王を睨み、今の恥辱に怒りを露わにしている。
「喋る気はないか。ならばテンテイイ、兵士名簿の記録にはどう書かれているか申してみよ」
「は、はい」
 テンテイイは予め持ってきていた兵士名簿の頁《ぺーじ》をめくり確認する。
「……確かにレボクはリョーガイ殿の推薦によりアルポート王城の衛兵に入隊したと書かれております。リョーガイ殿の近縁であることも間違いありません」
「そうか。リョーガイよ、この記録をなんと説明する? 確かにお主がレボクを推薦したと書かれてあるぞ」
「……そんな記録が何だと言うのです? 私はレボクという男なぞ知りもしません」
 リョーガイは吐き捨てるように言った。
「そうか、まだシラを切るか。なれば兵務庁の長を連れてこい」
 ユーグリッドの命令とともに、憲兵によって手枷をつけられた兵務庁の長が連れてこられる。その者は暗い顔をして俯いていた。
「そこの者、お主は確かゴーガスといったな。お主の職業は何だ?」
「も、元は兵務庁の長をしておりました。で、ですが今は何も職についておりません……」
「そうか。なればお主はリョーガイから賄賂を受け取り、レボクをアルポート王城の衛兵にしたか?」
「は、はい……私は、その、賄賂を受け取りました。リョーガイ殿から、
『このレボクは兵士として優秀だからぜひアルポート王城の衛兵にしてほしい。金はいくらでもやる』
 と言われ、金を差し出されました。
私はそれで、その、受け取ってしまいました……」
 元兵務庁の長は意気消沈した様子で懺悔する。もはや完全にユーグリッドの詰問に屈していた。
「リョーガイ。この者はやはりお主がレボクを推薦したと言っておるぞ。賄賂まで受け取ったともな。お主はこれでもシラを切るつもりか?」
「……ああ、そうでございますよ! 私がレボクを衛兵に推薦したのでございます!」
 リョーガイがぶっきらぼうに白状する。
「レボクはかつて私が保有する西地区の港で警備を務めておりました。それで少しばかり可愛がってやっていたのです。
 けれどそれが一体何だと言うのです? 私が犯した罪などせいぜい賄賂を渡したぐらいのものだ。これほどの辱めを受ける謂れはないでしょう」
 リョーガイは突っ慳貪《けんどん》に開き直る。
だがユーグリッドはそのふてぶてしい態度に向かってはっきりと言い渡した。
「ならばずばり言ってやろう。そのレボクが、お主がアルポート王城に攻め入ろうと企んでいると告白したのだ」
 リョーガイの目がかっと見開かれる。僅かに体を震わせ冷や汗を流す。だがリョーガイは飽くまで強情な態度を取った。
「……そんなことはレボクの戯言にございます。どうせ酒にでも酔ってついおかしなことを口走ったのでしょう。そんなたった一人の下郎の言うことを陛下は本気で信じているのですか?」
「ああ、信じておるぞ。お主がとんでもなく腹黒い反逆者であるということをな」
 ユーグリッドは真っ直ぐに見据え、リョーガイを謀反人であると断定する。
だがリョーガイもその糾弾の瞳を見返し、王の言いがかりに反駁する。
「それこそ陛下の勘違いでございますっ! 陛下はそこまでして私を罪人に仕立てあげたいのですか! こんな魔女裁判の真似事なぞ、世の人々は誰も認めませんぞ! もし陛下の言うことが正しいと言うのなら、レボクをここに連れてきてください! そいつがいかに大嘘つきの妄言野郎か、このリョーガイめが証明してみせましょうぞ!」
 リョーガイが王に向かって吠え散らかす。
だがユーグリッドはその挑戦的な言葉に頭《かぶり》を振った。
「いや、レボクはいない。奴は今行方不明だ」
 リョーガイはキョトンとした顔になる。だがその顔はすぐにへらへらとした苦笑いに変わり、王を嗜めるような呆れ声を出す。
「陛下、冗談もいい加減にしてくださいよ。それこそ魔女裁判ではありませんか。私が城攻めを企んだという証拠もなく、証人すらいない。そこまでして私を反逆者だと決めつけたいのですか? こんな不当でいい加減な裁判などしていては、アルポート王国の国民全員から笑われますぞ?」
「いや、証拠も証人も既に揃っておる。お主が確実にアルポート王城を攻め落とそうとしていたという証拠がな」
 そこでユーグリッドは大声で呼びかける。
「ソキン! 前に出よ!!」
「はっ、ユーグリッド陛下!」
 ソキンが勢いよく玉座手前の階段を上る。
リョーガイは目を皿のように見開いた。
最上段まで階段を上り切ると、ソキンはハキハキと証言を始める。
「諸侯、私は昨夜リョーガイよりアルポート王城の城攻めの誘いを受けました。私はその時確かに承諾の返事をしましたが、それはリョーガイを謀《たばか》るために嘘をついたのです。
 私はその後すぐにユーグリド陛下の元に赴き、事の仔細を打ち明けました。そして陛下は私の密告を信じてくださり、リョーガイの逮捕に踏み切ったのでございます」
 玉座が再びどよめきに満たされる。皆一様に互いの顔色を窺《うかが》い、そしてリョーガイを非難の目で見ていたのである。海城王の重鎮であったソキンの発言は重い。臣下たちも十分に信用できる証言であった。
「で、出鱈目だッ! ソキンが私を貶めるために嘘をついている! ソキンの発言は全部出鱈目だッ!」
 そんな不利な状況の中でなおもリョーガイが吠え続ける。
「そうか。お主はソキンの言葉ですら嘘と申すのか。なればこれを何と説明する?」
 ユーグリッドはそこで懐から一枚の紙を取り出した。
「!!」
 それを見た瞬間、リョーガイの顔色は絶望に変わった。
「テンテイイ。この書状には何と書かれておる? 読み上げてみよ」
「は、はい」
 テンテイイが王から紙を受け取り読み上げる。
「『我ら、アルポート王国の再興がために悪逆の王ユーグリッドの城を攻め落とさん。その証として、ここに我らの手形を押印する』
 と書かれております……」
 テンテイイがためらいがちな声でユーグリッドに告げる。
リョーガイの体は石像のように固まっていた。
「この書状にはお主とソキンの手形が判をされている。その隣にはお主とソキンの名前も記されておる。
 これを何と説明する? お主はこれを偽装とでも言うつもりか? お主はこの手形が別の者の手だとでも言うつもりか? 
 ならば鑑定士を呼んでやろう。この国には手相鑑定士という職がある。手の大きさや形、指紋に至るまで具《つぶさ》に調べ、手形が本人の者かどうか証明する技士だ。
お主が望むなら幾らでも呼んでやろう。好きなだけ時間をかけて徹底的に調べてやろう。
 だがもしこの書状の手形が貴様のものだと判明したならば、この俺自身がすぐさま貴様の両手首を切り落としてやるッ! そのことを覚悟した上で鑑定士を呼ぶがいい!!」
 ユーグリッドの覇気を纏った宣告が、リョーガイの全身を貫いた。
その王の気迫にリョーガイは圧倒され、もはや何も言い返すことができない。
「さあリョーガイよ。最後の審問の時だ。手相鑑定士の鑑定を受けるか? 何か釈明の余地はあるか? 何も弁明がなければ貴様は死ぬ。この国の法律の最高刑である火あぶりに処す。さあリョーガイ・ウォームリックよ、己の無実を証明してみせよ!」
 ユーグリッドはリョーガイに止《とど》めをさすように申し開きを勧告した。
 だがリョーガイは心臓が止まったかのようにピクリとも動かない。飛び出そうなほどに目を開き、大口を開いて放心している。リョーガイの野心は完全に陥落していた。
「どうやら何も弁解するつもりはないようだな。ならば判決を下す! アルポート王国の法律に則り、リョーガイ・ウォームリックを火あぶりの刑に処す! 刑の執行までアルポート王城の牢屋に投獄しておけっ!」
 ユーグリッドの審判に、憲兵たちが自失したリョーガイを無理矢理に立たせる。
玉座の間は時が止まったかのように沈黙が訪れる。
臣下たちは皆、哀れな末路を辿るリョーガイに冷たい視線を注いでいた。
「私が……火あぶり……?」
 リョーガイが弱々しくポツリと呟く。
そして、
「ううっ、くぅっ、うううっ……」
 誰も同情をしない嗚咽を漏らした。