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 次の日から、オレはまたアトリエへ行きはじめた。
 もう充電期間は終わり。十分すぎるほど、エネルギーを貰った。あとはそれを絵にぶつけるだけ。

 驚くほど視界がクリアだった。真っ白な紙を目の前にするだけで、描きたい絵が浮かびあがる。こんな感覚は初めてだ。

 いつもこうなら苦労しなくていいのにな。別の絵を描くときには、また苦しむのだろう。でもきっと、これまでとは苦悩の質が違っているはずだ。

 自分の目指したいものは、もうハッキリと見えた。そこへ辿り着くまでの道中で悩み苦しんだとしても、隣にはいつも愛茉がいてくれる。背中を叩いて叱咤してくれる連中もいる。臆病なオレは、周りに支えられないとなにもできないのだと実感した。

 自分の弱さを本当に受け入れるのは難しいことだ。どうしても目を逸らしたくなるし、隠せるものなら、なんとかして隠し通したい。それは動物的な本能なのかもしれないが、そうやって誤魔化しているうちに強くなれたらいいのにと、いつも思っていた。

 本当の自分を隠しながら、理想の自分になろうと必死に藻掻いていた愛茉と同じ。そのままでいいと愛茉には言っておいて、オレ自身は理想に固執していた。

 弱いままでいいとは思わない。ただ、非の打ち所がない人間になんてなれないから、弱さを受け入れて自分を許しながら歩いていくしかない。

 不完全な美。完璧になろうと藻掻いているからこそ、描ける美。いまのオレにしか表現できないものがあるはずだと思った。

 無我夢中で筆を走らせる。父さんに褒められたくて、何枚も何枚も描いていた、あのころのように。
 筆を持つと、父さんの気配を感じる。オレが懸命に描いている横で、目を細めながら見守ってくれている姿。

 何度も目頭が熱くなる。内側から溢れ出てくるものを抑えられない。抑えるつもりもなかった。

 そうして何時間も没頭したあとに、ふと愛茉の顔が浮かぶ。それから家に帰り、愛茉と食事をして一緒に眠る。すると、また翌日も調子よく描くことができた。

 愛茉は、絵の進捗を一切尋ねてこない。オレもあえて言わなかった。表情を見れば、大体は察しがつくだろう。学校の連中には鉄仮面と言われているが、愛茉の前では分かりやすく顔に出ているはずだ。

「桔平くん、体調どう?」
「大丈夫だよ」
「眠れてる?」
「すげぇ快眠」
「食欲ある?」
「すげぇ旺盛」

 愛茉が確認してくるのは、それだけ。
 オレが所属する日本画第一研究室の研究発表展もあり、相当忙しくなっていたから、体を気遣ってくれているのだろう。オレが個展の絵を順調に描いていればこんなことにはならなかったが、愛茉が作る食事と温かいベッドがあれば、気力と体力はいくらでも回復できる。


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 次の日から、オレはまたアトリエへ行きはじめた。
 もう充電期間は終わり。十分すぎるほど、エネルギーを貰った。あとはそれを絵にぶつけるだけ。
 驚くほど視界がクリアだった。真っ白な紙を目の前にするだけで、描きたい絵が浮かびあがる。こんな感覚は初めてだ。
 いつもこうなら苦労しなくていいのにな。別の絵を描くときには、また苦しむのだろう。でもきっと、これまでとは苦悩の質が違っているはずだ。
 自分の目指したいものは、もうハッキリと見えた。そこへ辿り着くまでの道中で悩み苦しんだとしても、隣にはいつも愛茉がいてくれる。背中を叩いて叱咤してくれる連中もいる。臆病なオレは、周りに支えられないとなにもできないのだと実感した。
 自分の弱さを本当に受け入れるのは難しいことだ。どうしても目を逸らしたくなるし、隠せるものなら、なんとかして隠し通したい。それは動物的な本能なのかもしれないが、そうやって誤魔化しているうちに強くなれたらいいのにと、いつも思っていた。
 本当の自分を隠しながら、理想の自分になろうと必死に藻掻いていた愛茉と同じ。そのままでいいと愛茉には言っておいて、オレ自身は理想に固執していた。
 弱いままでいいとは思わない。ただ、非の打ち所がない人間になんてなれないから、弱さを受け入れて自分を許しながら歩いていくしかない。
 不完全な美。完璧になろうと藻掻いているからこそ、描ける美。いまのオレにしか表現できないものがあるはずだと思った。
 無我夢中で筆を走らせる。父さんに褒められたくて、何枚も何枚も描いていた、あのころのように。
 筆を持つと、父さんの気配を感じる。オレが懸命に描いている横で、目を細めながら見守ってくれている姿。
 何度も目頭が熱くなる。内側から溢れ出てくるものを抑えられない。抑えるつもりもなかった。
 そうして何時間も没頭したあとに、ふと愛茉の顔が浮かぶ。それから家に帰り、愛茉と食事をして一緒に眠る。すると、また翌日も調子よく描くことができた。
 愛茉は、絵の進捗を一切尋ねてこない。オレもあえて言わなかった。表情を見れば、大体は察しがつくだろう。学校の連中には鉄仮面と言われているが、愛茉の前では分かりやすく顔に出ているはずだ。
「桔平くん、体調どう?」
「大丈夫だよ」
「眠れてる?」
「すげぇ快眠」
「食欲ある?」
「すげぇ旺盛」
 愛茉が確認してくるのは、それだけ。
 オレが所属する日本画第一研究室の研究発表展もあり、相当忙しくなっていたから、体を気遣ってくれているのだろう。オレが個展の絵を順調に描いていればこんなことにはならなかったが、愛茉が作る食事と温かいベッドがあれば、気力と体力はいくらでも回復できる。