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「なあ、(ゆい)。撮っててどうだった? 俺、カッコよかったよな!?」
「あー、うん。──まあ、もしあたしがクラスの男子からこんなイタい動画送られたら、友達と笑いもんにするけど。あきらちゃんと付き合える人なら大丈夫なんじゃない?」
 妹が頷くのに安心した俺はそのあと結が何か言ってるのも耳に入らず、調子に乗ってパフォ動画をいくつも美咲に送りつけた。

 なのに肝心の美咲の反応は今ひとつだったんだ。

「動画見た!? なかなかイイだろ? どうよ、俺」
「あのね彰、あたしはそういうのが欲しいんじゃないから……」
 だったら何が欲しいんだよ。これ以上何すればいいんだ? あと、なんで「アッキー」って呼んでくれないんだろ。

「ちょっと関本(せきもと)さん。美咲が俺を推してくんないんだけど、何が足りないんだと思う!? 『フラッガー』ならわかるだろ!? 教えてくれよ」
「え、え……、っと。あー、同じオタクでも私は美咲みたいなリア充じゃないから、ちょっとそういうのは──。でもあんまり人には言わないほうがいいんじゃない、かな」
 美咲の「フラッガー」友達にも訊いてみたけど、ドン引かれたのは気のせいか? なんでだよ!

「彰。ちょっと話があるんだ」
 放課後、二人で帰るために正門を出たところで美咲が口にした。やけに真面目な様子に、理由はわからんなりに緊張が走る。 

「な、なんだい?」
「もうそれやめて。──あたしは『彼氏』にアイドル性なんて求めてないのよ」
 動画の中の「リッキー」っぽく作り笑顔で答えた俺に、彼女は真顔で続けた。

「え、でも……」
「確かにあたしは『リッキー推し』だけど、『ガチ恋(本気の恋)』勢じゃないの。あたしだって『いっつもニコニコ元気ないいコ』じゃいられないのよ。辛いことも笑いたくないときもあるわ。……それを『リッキー』の笑顔が癒やしてくれたの。みんなが言う『尊い』ってこれなんだ! ってわかったっていうか。その間だけはヤなこと全部忘れて浸ってられたのよ」
 真剣な表情で、でも途中に笑みも交じる美咲の台詞に、彼女の心が見える気がした。

「『彼氏』といる間もずっと『明るく陽気な美咲ちゃん』なんて無理。でも友達やってて、彰とは自然でいられると思えたから告白され(告られ)て嬉しかった」

 美咲。そりゃ人間なんだから、機嫌悪くてブスッとしてたいときもあるよな。

 ……たしかに美咲は、俺といるときみんなの前とはちょっと違ってた。

 そうだ、いくら「逃がせない大事なゲリラ配信」だって、なら多分観ないで我慢する。関本さん(フラッガー仲間)以外となら。
 俺が一方的に好きなだけだから気を抜いてんのかと思ってたけど、ほんとに「自然体で楽」だと思ってくれてたんだ。

「つまりリッキーは違う世界にいる『推し』で、彰はこうして一緒にいられる『彼氏』。全然別物だってこと。『俺がいるのにアイドルなんて見るな!』はちょっと、……けっこー困るけど。彰はそれだけは言わないでしょ? そういうの含めてあたしは彰が好きで、付き合っててすごく楽しいし満足してんのよ」
 今になって、ここまで説明してもらってようやく美咲の言葉の意味が理解できた。

 ──結局、表向きはどうでも俺は「リッキー」に嫉妬してたんだ。どうにかして上に立ちたかった。もうそこから間違ってたんだよな。

 俺、一人で(から)回ってただけだったんじゃねーか!

 うわ、情けねえしすげー恥ずかしい。送った動画全部、今すぐ消してくれぇぇぇ!
 内心パニックの俺に構わず、美咲は隣を歩く俺の左手に右手を重ねて繋ぎ、笑いながら話し出した。

「だから『推し』とかもういいじゃん。あたしは彰とは、『推す』んじゃなくて『付き合いたい』んだから」
 必死で練習したパフォーマンスがキマったときより、彼女のこの言葉の方がよっぽど嬉しい。
 そういや「手を繋ぐ」のも初めてなんだ、と彼女の温かい手をぎゅっと握り返しながら、俺は幸せをかみしめた。

 俺は美咲にとって「推し」じゃなくて「」でいたい。いや、もうそうかもな。つまり俺は美咲の中でリッキーを超えたってことか!

 心のなかでガッツポーズを決めた俺に、美咲の冷静なツッコミが飛んで来た。

「で? 彰。あの『動画』、二人の記念に取っとく? 十年後には黒歴史になってるよ、きっと」
 いや、黒歴史なんてもう今でも十分すぎるくらいだろ!



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「なあ、|結《ゆい》。撮っててどうだった? 俺、カッコよかったよな!?」
「あー、うん。──まあ、もしあたしがクラスの男子からこんなイタい動画送られたら、友達と笑いもんにするけど。あきらちゃんと付き合える人なら大丈夫なんじゃない?」
 妹が頷くのに安心した俺はそのあと結が何か言ってるのも耳に入らず、調子に乗ってパフォ動画をいくつも美咲に送りつけた。
 なのに肝心の美咲の反応は今ひとつだったんだ。
「動画見た!? なかなかイイだろ? どうよ、俺」
「あのね彰、あたしはそういうのが欲しいんじゃないから……」
 だったら何が欲しいんだよ。これ以上何すればいいんだ? あと、なんで「アッキー」って呼んでくれないんだろ。
「ちょっと|関本《せきもと》さん。美咲が俺を推してくんないんだけど、何が足りないんだと思う!? 『フラッガー』ならわかるだろ!? 教えてくれよ」
「え、え……、っと。あー、同じオタクでも私は美咲みたいなリア充じゃないから、ちょっとそういうのは──。でもあんまり人には言わないほうがいいんじゃない、かな」
 美咲の「フラッガー」友達にも訊いてみたけど、ドン引かれたのは気のせいか? なんでだよ!
「彰。ちょっと話があるんだ」
 放課後、二人で帰るために正門を出たところで美咲が口にした。やけに真面目な様子に、理由はわからんなりに緊張が走る。 
「な、なんだい?」
「もうそれやめて。──あたしは『彼氏』にアイドル性なんて求めてないのよ」
 動画の中の「リッキー」っぽく作り笑顔で答えた俺に、彼女は真顔で続けた。
「え、でも……」
「確かにあたしは『リッキー推し』だけど、『|ガチ恋《本気の恋》』勢じゃないの。あたしだって『いっつもニコニコ元気ないいコ』じゃいられないのよ。辛いことも笑いたくないときもあるわ。……それを『リッキー』の笑顔が癒やしてくれたの。みんなが言う『尊い』ってこれなんだ! ってわかったっていうか。その間だけはヤなこと全部忘れて浸ってられたのよ」
 真剣な表情で、でも途中に笑みも交じる美咲の台詞に、彼女の心が見える気がした。
「『彼氏』といる間もずっと『明るく陽気な美咲ちゃん』なんて無理。でも友達やってて、彰とは自然でいられると思えたから|告白され《告られ》て嬉しかった」
 美咲。そりゃ人間なんだから、機嫌悪くてブスッとしてたいときもあるよな。
 ……たしかに美咲は、俺といるときみんなの前とはちょっと違ってた。
 そうだ、いくら「逃がせない大事なゲリラ配信」だって、《《いつもの美咲》》なら多分観ないで我慢する。|関本さん《フラッガー仲間》以外となら。
 俺が一方的に好きなだけだから気を抜いてんのかと思ってたけど、ほんとに「自然体で楽」だと思ってくれてたんだ。
「つまりリッキーは違う世界にいる『推し』で、彰はこうして一緒にいられる『彼氏』。全然別物だってこと。『俺がいるのにアイドルなんて見るな!』はちょっと、……けっこー困るけど。彰はそれだけは言わないでしょ? そういうの含めてあたしは彰が好きで、付き合っててすごく楽しいし満足してんのよ」
 今になって、ここまで説明してもらってようやく美咲の言葉の意味が理解できた。
 ──結局、表向きはどうでも俺は「リッキー」に嫉妬してたんだ。どうにかして上に立ちたかった。もうそこから間違ってたんだよな。
 俺、一人で|空《から》回ってただけだったんじゃねーか!
 うわ、情けねえしすげー恥ずかしい。送った動画全部、今すぐ消してくれぇぇぇ!
 内心パニックの俺に構わず、美咲は隣を歩く俺の左手に右手を重ねて繋ぎ、笑いながら話し出した。
「だから『推し』とかもういいじゃん。あたしは彰とは、『推す』んじゃなくて『付き合いたい』んだから」
 必死で練習したパフォーマンスがキマったときより、彼女のこの言葉の方がよっぽど嬉しい。
 そういや「手を繋ぐ」のも初めてなんだ、と彼女の温かい手をぎゅっと握り返しながら、俺は幸せをかみしめた。
 俺は美咲にとって「推し」じゃなくて「《《ガチ恋》》」でいたい。いや、もうそうかもな。つまり俺は美咲の中でリッキーを超えたってことか!
 心のなかでガッツポーズを決めた俺に、美咲の冷静なツッコミが飛んで来た。
「で? 彰。あの『動画』、二人の記念に取っとく? 十年後には黒歴史になってるよ、きっと」
 いや、黒歴史なんてもう今でも十分すぎるくらいだろ!