「日之太ってさ、私のこと好きじゃないでしょ」
そんなことはないと言いたかった。
「ていうか、ほんとは日之太、誰のことも好きじゃないでしょ。人間に興味ないんじゃない?」
君の推察は間違っていると、しっかり言い返したかった。君のことはもちろん好きだし、人間にだって興味津々だと――興味津々は言い過ぎたかもしれない。
でも全く興味がないわけじゃない。ピンとこないだけなんだ。
とにかく、俺はそんな無味乾燥な人間じゃないと、彼女にそう言いたかった。
だけど言えなかった。呆然として言い返す気力が消え失せていたから。
「さよなら」
そう言って彼女が席を立つ。
レシートを置いてそのまま店を出ていった。
「……まいったな」
1人だけ取り残され、俺は思わず呟く。
女の子の方から別れを切り出されるのは今回が初めてだ。思っていたよりもショックじゃないのは、言われた通り彼女が好きじゃなかったのか、まだ現実が受け止めきれていないのか。
多分両方かも知れない。さっきそんなことはないと心の中で否定したばかりだというのに、俺は早くも自分自身を疑っている。
確かに俺は人間に興味がなかった。過去の俺が好きだったのはテニスだ。
周りから「才能あるよ」なんておだてられ、テニスにのめり込んだ。
でもそれも過去の話だ。18歳までの話。今の俺は21歳。都内にある緑黄館という大学に通っているどこにでもいる学生。
人間も、テニスも、今やなんとも思わない。好きでもなければ嫌いでもない。
きっと、そんな俺の態度を向こうに察知されたのだろう。
つまらないと思ったのかもしれない。そりゃ俺だって全部が全部楽しくてしょうがないとは言わないけれど――
「人と人との関係なんて、そういうものだよなぁ」
呟いて、ため息を吐く。
楽しいだけの関係なんてない。つまらないとかムカつくとか思うこともあるはず。
ひとまず、気分を落ち着けるために頼んでいたアイスコーヒーを飲む。
氷が溶けて温くなったアイスコーヒーはひどく味気なくて、まるで今の俺みたいだと思った。