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ー/ー



「1度引き受けたものを撤回したら、信用も信頼も失う。ビジネスの常識よ。私だけじゃなくて、大勢の人が動いているプロジェクトなの」
「……分かっています」
「桔平が苦しむことは、最初から想定していたでしょ? 貴女が支えるんじゃなかったの?」
「は、はい……」
「じゃあ、頼んだわよ」

 それだけ言って、スミレさんは電話を切ってしまった。もしかしたらアドバイスをくれるかも……なんて淡い期待をしていたけれど、甘かったな。

 スマホをサイドテーブルに置くと、桔平くんが布団から顔を出した。
 
「具合悪い?」
「いや、大丈夫……」

 ゆっくり起き上がって項垂れるその姿を見て、かなり痩せたなぁと切なくなった。
 
「……ごめんな、いろいろサポートしてくれたのに……なんで描いてんのか分かんなくなったんだよ。飯も食えねぇし眠れねぇし……愛茉にも迷惑かけてまで、なんでこんなことしてんだって……」

 迷惑なんて。そんなわけないじゃない。でも、かける言葉が出てこなくて。ただ桔平くんの両手をギュッと握った。

 頑張ろうなんて、口が裂けても言えないよ。だって頑張ってきたんだもん。それでも出口が分からなくて、彷徨い続けた挙句、心が折れてしまった。
 スミレさんに言われたことは理解している。だけどいまは、桔平くんを追い詰めたくない。とにかく心を休めてほしいと思った。
 
「よし、休もう!」

 私の言葉に、桔平くんが感情のない顔を向けてくる。
 
「学校もあるし忙しすぎたから、息切れしちゃったんだよ。とりあえず、いまはなにも考えずに休む! ねっ?」

 精一杯の笑顔をつくった。桔平くんは力なく頷いて、またベッドへ倒れ込む。
 
「アトリエの片付けしてくるね。体、きついでしょ? 横になって休んでいて」
「ごめん……」

 謝られると、胸がチクリと痛む。それを振り払うように、大きく頷いて立ち上がった。

 家にあるハンディ掃除機や箒を持って、またアトリエへ戻る。
 割れている絵皿は1枚じゃない。まるで叩きつけたような割れ方。血の跡と絵皿の破片、そして線が震えた描きかけの絵を見ていたら、視界が滲んだ。

 苦しみを分かち合うなんて、綺麗事だった。桔平くんの苦悩は、桔平くんのものでしかない。私が一緒に背負うなんて無理なんだ。どれだけ胸を痛めても涙を流しても、それは私の自己満足。こんなことは誰にだってできる。

 私は、なんのために桔平くんのそばにいるのかな。私に迷惑をかけているなんて、そんなこと思わせるためではないのに。
 休もうと言ったものの、それでなにかが変わる確証はない。ただ、桔平くんが本当に壊れてしまいそうで怖かっただけ。

 もともと手探りで進んできたけれど、行き止まりにぶつかってしまった。八方塞がりなのかな。前に進むどころか、右にも左にも道が見えない。もう、どうしたらいいのか分からなかった。


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「1度引き受けたものを撤回したら、信用も信頼も失う。ビジネスの常識よ。私だけじゃなくて、大勢の人が動いているプロジェクトなの」
「……分かっています」
「桔平が苦しむことは、最初から想定していたでしょ? 貴女が支えるんじゃなかったの?」
「は、はい……」
「じゃあ、頼んだわよ」
 それだけ言って、スミレさんは電話を切ってしまった。もしかしたらアドバイスをくれるかも……なんて淡い期待をしていたけれど、甘かったな。
 スマホをサイドテーブルに置くと、桔平くんが布団から顔を出した。
「具合悪い?」
「いや、大丈夫……」
 ゆっくり起き上がって項垂れるその姿を見て、かなり痩せたなぁと切なくなった。
「……ごめんな、いろいろサポートしてくれたのに……なんで描いてんのか分かんなくなったんだよ。飯も食えねぇし眠れねぇし……愛茉にも迷惑かけてまで、なんでこんなことしてんだって……」
 迷惑なんて。そんなわけないじゃない。でも、かける言葉が出てこなくて。ただ桔平くんの両手をギュッと握った。
 頑張ろうなんて、口が裂けても言えないよ。だって頑張ってきたんだもん。それでも出口が分からなくて、彷徨い続けた挙句、心が折れてしまった。
 スミレさんに言われたことは理解している。だけどいまは、桔平くんを追い詰めたくない。とにかく心を休めてほしいと思った。
「よし、休もう!」
 私の言葉に、桔平くんが感情のない顔を向けてくる。
「学校もあるし忙しすぎたから、息切れしちゃったんだよ。とりあえず、いまはなにも考えずに休む! ねっ?」
 精一杯の笑顔をつくった。桔平くんは力なく頷いて、またベッドへ倒れ込む。
「アトリエの片付けしてくるね。体、きついでしょ? 横になって休んでいて」
「ごめん……」
 謝られると、胸がチクリと痛む。それを振り払うように、大きく頷いて立ち上がった。
 家にあるハンディ掃除機や箒を持って、またアトリエへ戻る。
 割れている絵皿は1枚じゃない。まるで叩きつけたような割れ方。血の跡と絵皿の破片、そして線が震えた描きかけの絵を見ていたら、視界が滲んだ。
 苦しみを分かち合うなんて、綺麗事だった。桔平くんの苦悩は、桔平くんのものでしかない。私が一緒に背負うなんて無理なんだ。どれだけ胸を痛めても涙を流しても、それは私の自己満足。こんなことは誰にだってできる。
 私は、なんのために桔平くんのそばにいるのかな。私に迷惑をかけているなんて、そんなこと思わせるためではないのに。
 休もうと言ったものの、それでなにかが変わる確証はない。ただ、桔平くんが本当に壊れてしまいそうで怖かっただけ。
 もともと手探りで進んできたけれど、行き止まりにぶつかってしまった。八方塞がりなのかな。前に進むどころか、右にも左にも道が見えない。もう、どうしたらいいのか分からなかった。