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第七十三話

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 事の危うさに気付いたのは、約一時間後のこと。デバイスで調べ物をしていた丙良が時計を見やると、信玄が家を出てから一時間経過していたのだ。
 この家全体に土の魔力を込め、部外者が侵入するとそれに反応する結界を即座に展開。上着とロック・バスターを手に、丙良は家を飛び出した。
(――僕のせいだ)
 自責の念を胸中に抱きながら、信玄の魔力の残滓を必死に追った。しかし、丙良は魔力探知に関しては少々不得手であった。信玄の方が秀でており、以前タッグを組んだ際は、丙良は主に実動部隊であった。
「僕が、失う恐怖を抱いてしまったから、信玄を突き放してしまったから――!!」
 風呂に入ったはずなのに、既に冷汗をかいていた。万が一、億が一。それが常に当たり前となる英雄と武器たちが故、嫌な未来予想が脳内を過っていく。
 しかし、丙良はその『当たり前』に慣れたくなかった。誰も欠けず、死傷者ゼロであり続けたかった。しかし今はもう、十数名の同級生を都市部で亡くした。そこに信玄も加わってしまったら。丙良の心は壊れてしまうだろう。
 走りながらも、目を閉じ振動感知の力に頼る。イレギュラーな振動を、ただひたすらに辿ろうとしたが、感知範囲には一切存在しなかった。
(一応大田区全体を感知してみたが……どこにもいないのなら外になるが……)
 大田区境目に存在する門。そこに常駐している二年次武器科の女子に話しかける。
「――失礼。過去一時間以内に、ここを通った人物はいるかい?」
「丙良くん……!? 待って、履歴を調べるね……」
 その後、帰ってきた返答によって頭を抱えることとなる。
「――うん、一人だけ、外に出ているみたい。夜にどこに行くかは分からなかったけど……ルールで『夜襲が禁止』されているから大丈夫かな、って」
 しかし、ここで丙良は気付いてしまった。学園長の設定したルールに施された、作られた穴に。
「……待って、学園長が罰則を与えるのは『同士討ち』の一つだけだったよね?」
 『絶対に』という文言で禁じられているのは、同士討ちただ一つ。夜襲は確かに禁止されているものの、明確な罰則が書かれていたわけではない。いわゆる、口だけの禁則事項。罰則の一切ない、まるでお笑いにおける『フリ』のような文言であった。
 禁則事項を破れば、問答無用で罰則が下る。その固定観念を利用した抜け穴だった。
「それに、だよ。試合開始は翌日、と明言されてはいるけど……ルールが『今』適応されているかは分からないよね?」
 今日と二週間後の一日が予備日として用意されているが、『基本的に何をしてもいい』と明言されている。その間に、ルールが適応されているかは、『なぜか』明言化されていないのだ。
「あのルール……ぱっと見時間制限や『罰』の存在で英雄・武器側が有利だと思わせておきながら、予備日の存在で心理的余裕が生まれているのは、向こうの方が上だったんだ……何なら、ルールに一切縛られていない……今こそが……一番こちら側が不利になる、最悪の時間帯なんだ!!」
 門番の生徒に対し、外側から扉を開けることを絶対に禁じた丙良。
「そして、最後に聞きたい。こちらに入ってきた存在は……いるかな?」
 その問いが、まさに『最悪』の可能性を暗示していた。今現在、『教会』側の能力者がどのようなものなのか、一切リサーチできていない。そんな中で仮に認識を阻害する能力者がいたとしたら、強固な門などあってないようなものである。
「――――ぁ」
 門番の生徒が、青ざめた表情で口を覆い、画面の一点を凝視する。丙良の思う『最悪』が、ついに現実のものとなってしまった。
『外壁開放履歴――――三件』
「――認識や感覚を阻害する類の能力持ちが、いる……!!」
 そのタイミングで、丙良のデバイスにメールが一件届く。他でもなく、学園長からのもの。この緊急事態に何を伝えようとしているのか、半信半疑でメールを開くと、そこに書かれていたのは実に簡素な文章。そして、間違いなくこの現状に拍車をかけるであろう、風雲急を告げるものであった。
『丙良くんへ。英雄陣営に、裏切り者がいる。注意してくれたまえ 不破より』

 即座に振動感知を大田区全域に広げ、即座に侵入者を索敵する。全神経を振動感知に費やしているため、その感覚はより鋭敏なものに。その結果、英雄のものとは思えない振動を感じ取った。ここからかなり遠く、田園調布近くの北千束に二人存在。
「……私のせいだ……」
 武器科二年次の女子生徒……加賀美陽|《カガミ ヒナタ》は、騙された自分に落ち込んでいた。安全を守るはずの存在が、今まさに大勢の命を脅かす危機を齎してしまったのだ。
 しかし、それはあくまでそれは怠慢による場合。認識阻害まで使われたら、並大抵の英雄や武器は、自分より強い魔力による力の影響をもろに受けてしまう。
「……そう悲観することはないよ、加賀美さん。正直……その可能性を考慮しきれなかったこちら側全体の落ち度だ」
 さらに、丙良がフルパワーの振動感知を用い、それでようやく位置がつかめたレベルの手練れなため、相手は丙良以上の存在か、同等か。それクラスの敵であることが確定している。最強格クラスとあったら、仕方のない部分は存在する。
 加賀美をなだめていると、そこら中で襲撃が発生し始める。大田区全体が、『教会』による襲撃を受け始めたのだ。時期に、ここも攻撃を受けるかもしれない、そんな危険性が孕む中で、加賀美を見捨てる選択は初めから無かった。
「……加賀美さん。今すぐここから逃げよう。今回は英雄・武器側の失策だった……それを認めて、次攻めるタイミングを僕たちと一緒に見図ろう」
 それは、最強格の面子に加える証。最初は遠慮していたものの、そこら中で火の手が上がり始めたため、猶予は少ない。
「その代わり……裏切りはご法度だよ。この戦いに勝利するために、僕たちと共に行かないか」
「――分かった。私なんかが、力になれるなら」
 加賀美の瞳は実にまっすぐで、丙良の手をしっかり握りしめた。数多くを率いることは隠密には不得手なため、連れて行けるのは加賀美のみであったが、それ故にその間に結ばれた絆はかなりの強さ。
「分かった、じゃあ善は急げ、だね!! しっかりと僕に掴まっていてね!!」
 丙良は地面にロック・バスターを突き立て、辺りの地面を激しく流動。勢いをチャージし、丙良と加賀美の立つその場を独立、トロッコ型に形成させる。
「ここからは土製トロッコで高速移動するからね!! 唐突で悪いけど、絶叫マシン好き!?」
「あっちょっと待って丙良くん私絶叫マシン大の苦手なんだけどぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 鉄も木も使われていない、魔力のみで生成した急造トロッコレール。丁寧な仕事など施されているはずもなく、実際のトロッコの二倍以上の速度で走っていく。その間も、体が投げ出されそうなほどにまでトロッコ自体が荒ぶるも、本来の到着時間より圧倒的に早く目的地・田園調布が見えることとなった。
「――さて、到着だ。ここからやることがいっぱいだから覚悟……って陽さぁぁぁん!?」
 絶叫マシンが苦手だ、という人間にジェットコースター以上の荒ぶり方をする、簡易安全バーとして丙良が腰のあたりを支え続けたものの。そんなお手製絶叫マシンに乗せたとしたら……齎される未来は実に分かりやすいものである。



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 事の危うさに気付いたのは、約一時間後のこと。デバイスで調べ物をしていた丙良が時計を見やると、信玄が家を出てから一時間経過していたのだ。
 この家全体に土の魔力を込め、部外者が侵入するとそれに反応する結界を即座に展開。上着とロック・バスターを手に、丙良は家を飛び出した。
(――僕のせいだ)
 自責の念を胸中に抱きながら、信玄の魔力の残滓を必死に追った。しかし、丙良は魔力探知に関しては少々不得手であった。信玄の方が秀でており、以前タッグを組んだ際は、丙良は主に実動部隊であった。
「僕が、失う恐怖を抱いてしまったから、信玄を突き放してしまったから――!!」
 風呂に入ったはずなのに、既に冷汗をかいていた。万が一、億が一。それが常に当たり前となる英雄と武器たちが故、嫌な未来予想が脳内を過っていく。
 しかし、丙良はその『当たり前』に慣れたくなかった。誰も欠けず、死傷者ゼロであり続けたかった。しかし今はもう、十数名の同級生を都市部で亡くした。そこに信玄も加わってしまったら。丙良の心は壊れてしまうだろう。
 走りながらも、目を閉じ振動感知の力に頼る。イレギュラーな振動を、ただひたすらに辿ろうとしたが、感知範囲には一切存在しなかった。
(一応大田区全体を感知してみたが……どこにもいないのなら外になるが……)
 大田区境目に存在する門。そこに常駐している二年次武器科の女子に話しかける。
「――失礼。過去一時間以内に、ここを通った人物はいるかい?」
「丙良くん……!? 待って、履歴を調べるね……」
 その後、帰ってきた返答によって頭を抱えることとなる。
「――うん、一人だけ、外に出ているみたい。夜にどこに行くかは分からなかったけど……ルールで『夜襲が禁止』されているから大丈夫かな、って」
 しかし、ここで丙良は気付いてしまった。学園長の設定したルールに施された、作られた穴に。
「……待って、学園長が罰則を与えるのは『同士討ち』の一つだけだったよね?」
 『絶対に』という文言で禁じられているのは、同士討ちただ一つ。夜襲は確かに禁止されているものの、明確な罰則が書かれていたわけではない。いわゆる、口だけの禁則事項。罰則の一切ない、まるでお笑いにおける『フリ』のような文言であった。
 禁則事項を破れば、問答無用で罰則が下る。その固定観念を利用した抜け穴だった。
「それに、だよ。試合開始は翌日、と明言されてはいるけど……ルールが『今』適応されているかは分からないよね?」
 今日と二週間後の一日が予備日として用意されているが、『基本的に何をしてもいい』と明言されている。その間に、ルールが適応されているかは、『なぜか』明言化されていないのだ。
「あのルール……ぱっと見時間制限や『罰』の存在で英雄・武器側が有利だと思わせておきながら、予備日の存在で心理的余裕が生まれているのは、向こうの方が上だったんだ……何なら、ルールに一切縛られていない……今こそが……一番こちら側が不利になる、最悪の時間帯なんだ!!」
 門番の生徒に対し、外側から扉を開けることを絶対に禁じた丙良。
「そして、最後に聞きたい。こちらに入ってきた存在は……いるかな?」
 その問いが、まさに『最悪』の可能性を暗示していた。今現在、『教会』側の能力者がどのようなものなのか、一切リサーチできていない。そんな中で仮に認識を阻害する能力者がいたとしたら、強固な門などあってないようなものである。
「――――ぁ」
 門番の生徒が、青ざめた表情で口を覆い、画面の一点を凝視する。丙良の思う『最悪』が、ついに現実のものとなってしまった。
『外壁開放履歴――――三件』
「――認識や感覚を阻害する類の能力持ちが、いる……!!」
 そのタイミングで、丙良のデバイスにメールが一件届く。他でもなく、学園長からのもの。この緊急事態に何を伝えようとしているのか、半信半疑でメールを開くと、そこに書かれていたのは実に簡素な文章。そして、間違いなくこの現状に拍車をかけるであろう、風雲急を告げるものであった。
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 即座に振動感知を大田区全域に広げ、即座に侵入者を索敵する。全神経を振動感知に費やしているため、その感覚はより鋭敏なものに。その結果、英雄のものとは思えない振動を感じ取った。ここからかなり遠く、田園調布近くの北千束に二人存在。
「……私のせいだ……」
 武器科二年次の女子生徒……加賀美陽|《カガミ ヒナタ》は、騙された自分に落ち込んでいた。安全を守るはずの存在が、今まさに大勢の命を脅かす危機を齎してしまったのだ。
 しかし、それはあくまでそれは怠慢による場合。認識阻害まで使われたら、並大抵の英雄や武器は、自分より強い魔力による力の影響をもろに受けてしまう。
「……そう悲観することはないよ、加賀美さん。正直……その可能性を考慮しきれなかったこちら側全体の落ち度だ」
 さらに、丙良がフルパワーの振動感知を用い、それでようやく位置がつかめたレベルの手練れなため、相手は丙良以上の存在か、同等か。それクラスの敵であることが確定している。最強格クラスとあったら、仕方のない部分は存在する。
 加賀美をなだめていると、そこら中で襲撃が発生し始める。大田区全体が、『教会』による襲撃を受け始めたのだ。時期に、ここも攻撃を受けるかもしれない、そんな危険性が孕む中で、加賀美を見捨てる選択は初めから無かった。
「……加賀美さん。今すぐここから逃げよう。今回は英雄・武器側の失策だった……それを認めて、次攻めるタイミングを僕たちと一緒に見図ろう」
 それは、最強格の面子に加える証。最初は遠慮していたものの、そこら中で火の手が上がり始めたため、猶予は少ない。
「その代わり……裏切りはご法度だよ。この戦いに勝利するために、僕たちと共に行かないか」
「――分かった。私なんかが、力になれるなら」
 加賀美の瞳は実にまっすぐで、丙良の手をしっかり握りしめた。数多くを率いることは隠密には不得手なため、連れて行けるのは加賀美のみであったが、それ故にその間に結ばれた絆はかなりの強さ。
「分かった、じゃあ善は急げ、だね!! しっかりと僕に掴まっていてね!!」
 丙良は地面にロック・バスターを突き立て、辺りの地面を激しく流動。勢いをチャージし、丙良と加賀美の立つその場を独立、トロッコ型に形成させる。
「ここからは土製トロッコで高速移動するからね!! 唐突で悪いけど、絶叫マシン好き!?」
「あっちょっと待って丙良くん私絶叫マシン大の苦手なんだけどぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 鉄も木も使われていない、魔力のみで生成した急造トロッコレール。丁寧な仕事など施されているはずもなく、実際のトロッコの二倍以上の速度で走っていく。その間も、体が投げ出されそうなほどにまでトロッコ自体が荒ぶるも、本来の到着時間より圧倒的に早く目的地・田園調布が見えることとなった。
「――さて、到着だ。ここからやることがいっぱいだから覚悟……って陽さぁぁぁん!?」
 絶叫マシンが苦手だ、という人間にジェットコースター以上の荒ぶり方をする、簡易安全バーとして丙良が腰のあたりを支え続けたものの。そんなお手製絶叫マシンに乗せたとしたら……齎される未来は実に分かりやすいものである。