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付き合って2年の記念日は忘れていたみたいだけど、私はなにも言わなかった。それどころじゃないのは、分かっていたから。
そして梅雨のジメジメした気候が続いていた6月下旬の土曜日、桔平くんを心配したヨネちゃんから、お茶に誘われた。
大学院で桔平くんと同じ研究室に所属しているヨネちゃんと一佐くんも、個展のことは知っている。
「浅尾きゅん、やつれてきたよねぇー……」
ヨネちゃんがコーヒーの湯気でメガネを曇らせる。これを見ると、なぜかホッとしちゃう。
「うん、ご飯があんまり喉を通らないみたいなの。だから最近は、野菜スープとかスムージーばっかり作ってる」
「愛茉ちゃんがいなかったら大変だぁー! 浅尾きゅんは幸せ者だねー」
こんな状態でも、桔平くんは学校での制作を淡々とこなしているみたい。
だけど明らかに疲れている様子だから、英哉くんと一佐くんも心配していた。そして本人に言っても無視されるから、私にばかりLINEしてくる。ふたりとやり取りするのは楽しくて、いつも前向きなエネルギーを貰っていた。
「浅尾きゅんはーまだ筆が進まない感じなのー?」
「うん。描き始めるどころか、なにを描くのかが、どうしても思い浮かばないんだって」
ヨネちゃんがチョコレートケーキを食べながら、うーんと低く唸る。
「スランプになるとねぇーどれもしっくりこなくてーだんだんと焦っちゃうんだよねぇ……それで悪循環になっちゃうのよぉ」
「ヨネちゃんは、スランプになったらどうするの?」
「んっとぉー……なんでスランプになったのかー原因と向き合うかなぁー。ほかのことをして紛らわすのも試してみたけどー結局解決しなかったんだよねー」
桔平くんのスランプの原因。それはきっと、プレッシャーとトラウマ。本人もそのことは分かっていると思うけれど、抜け出す道が見つからない。
「こればっかりは人それぞれだからねぇー。絵から離れて抜け出せる人もいるしぃ……でも浅尾きゅんは頭がいいしぃー自分を客観視できる人だからー」
「うん……そうだね」
「愛茉ちゃんが一緒に立ち向かってくれてるんだからー浅尾きゅんは大丈夫だよぉ。こんなに心強い味方はいないぞぉー! それよりもー愛茉ちゃんはしっかりご飯を食べて寝ないとねー」
あれ……もしかしてヨネちゃんは、桔平くんよりも私を心配してくれたのかな。
ご飯は食べているけれど、桔平くんが気になってあまり眠れていないから、顔色が悪かったのかもしれない。周りに心配かけるなんて、こんなんじゃダメだ。私が元気でいないと、桔平くんもホッとできないじゃない。
でも、ただ信じるのって難しいな。どうしてもあれこれ心配になってしまう。もっとドンと構えていたいのに。肝っ玉への道は険しい。
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「浅尾きゅん、やつれてきたよねぇー……」
ヨネちゃんがコーヒーの湯気でメガネを曇らせる。これを見ると、なぜかホッとしちゃう。
「うん、ご飯があんまり喉を通らないみたいなの。だから最近は、野菜スープとかスムージーばっかり作ってる」
「愛茉ちゃんがいなかったら大変だぁー! 浅尾きゅんは幸せ者だねー」
こんな状態でも、桔平くんは学校での制作を淡々とこなしているみたい。
だけど明らかに疲れている様子だから、英哉くんと一佐くんも心配していた。そして本人に言っても無視されるから、私にばかりLINEしてくる。ふたりとやり取りするのは楽しくて、いつも前向きなエネルギーを貰っていた。
「浅尾きゅんはーまだ筆が進まない感じなのー?」
「うん。描き始めるどころか、なにを描くのかが、どうしても思い浮かばないんだって」
ヨネちゃんがチョコレートケーキを食べながら、うーんと低く唸る。
「スランプになるとねぇーどれもしっくりこなくてーだんだんと焦っちゃうんだよねぇ……それで悪循環になっちゃうのよぉ」
「ヨネちゃんは、スランプになったらどうするの?」
「んっとぉー……なんでスランプになったのかー原因と向き合うかなぁー。ほかのことをして紛らわすのも試してみたけどー結局解決しなかったんだよねー」
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「うん……そうだね」
「愛茉ちゃんが一緒に立ち向かってくれてるんだからー浅尾きゅんは大丈夫だよぉ。こんなに心強い味方はいないぞぉー! それよりもー愛茉ちゃんはしっかりご飯を食べて寝ないとねー」
あれ……もしかしてヨネちゃんは、桔平くんよりも私を心配してくれたのかな。
ご飯は食べているけれど、桔平くんが気になってあまり眠れていないから、顔色が悪かったのかもしれない。周りに心配かけるなんて、こんなんじゃダメだ。私が元気でいないと、桔平くんもホッとできないじゃない。
でも、ただ信じるのって難しいな。どうしてもあれこれ心配になってしまう。もっとドンと構えていたいのに。肝っ玉への道は険しい。