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「でも、桔平くんの個展じゃないんだよ」
「それでも『浅尾瑛士の息子の日本画家』は、世間に広まるわけじゃんか。あのビジュアルだし、相当ファンがつくよ。ミーハーなのも含めてさ。こりゃ大変だ」
「そうだね……」

 大々的に表へ出れば、きっといろいろな声が聞こえてくる。父親の名前を利用することを快く思わない人も、たくさんいるだろうし。桔平くんは、そういうことも分かったうえで引き受けた。それがどれだけ勇気のいることかは、私にだって分かる。

 スミレさんも、桔平くんが色物扱いされて正当に評価されないことは望んでいないはず。それでも強引に引っ張り出そうとしているのは、桔平くんを信じているから。だから私も桔平くんを、スミレさんを信じる。

「まぁ、私もミーハーなファンのひとりだけどさ。絵のこと分かんないけど、浅尾っちの絵は好きだし」
「それなら私だってそうだよ。アートは詳しくないもん」
「そんなもんじゃん? 専門的なことを知らなくても、好きとか嫌いとかは感覚的に感じるんだからさ。大半のファンが、そうだと思うんだけどな」

 言われてみれば、そうなのかも。アートって別に、専門的知識がある人だけのものじゃないもんね。

「新聞とかテレビの取材もあるわけでしょ?」
「うん。一応、桔平くんの顔出し取材。嫌がっていたけど」
「だろうねぇ。大変だなぁ……愛茉も忙しくなるだろうけど、困ったことがあったら言ってくるんだよ?」
「うん、ありがとう」

 個展が始まったら、一体どうなるんだろう。環境が大きく変わりそうで、正直怖い気持ちもある。
 桔平くんの「激流」という表現は、言い得て妙だと思う。世の中の大きな流れに飲み込まれるか、それとも、流れが緩くなるまで踏ん張って、対岸へ辿り着くか。どちらにしても、いまのうちに力をつけておかなくちゃ。

 まず私は、桔平くんのアトリエ探しに奔走した。2年生までにたくさん授業を履修していたおかげで、今年度は学校に行かなくていい日が週2日ある。それを利用して、忙しい桔平くんの代わりにネットで探しまくって内見へ行った。

 制作に集中しないといけないから、騒音問題があるところは問題外。湿気がこもりやすい部屋もダメ。直射日光が入りすぎると微妙な色調が分からないから、これもダメ。いままで家では夜にしか絵を描いていなかったから、陽当たりを気にしたことはなかったんだよね。

 なにげに条件多くない? と半ベソかきながらも、桔平くんのために一生懸命走り回った。


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「でも、桔平くんの個展じゃないんだよ」
「それでも『浅尾瑛士の息子の日本画家』は、世間に広まるわけじゃんか。あのビジュアルだし、相当ファンがつくよ。ミーハーなのも含めてさ。こりゃ大変だ」
「そうだね……」
 大々的に表へ出れば、きっといろいろな声が聞こえてくる。父親の名前を利用することを快く思わない人も、たくさんいるだろうし。桔平くんは、そういうことも分かったうえで引き受けた。それがどれだけ勇気のいることかは、私にだって分かる。
 スミレさんも、桔平くんが色物扱いされて正当に評価されないことは望んでいないはず。それでも強引に引っ張り出そうとしているのは、桔平くんを信じているから。だから私も桔平くんを、スミレさんを信じる。
「まぁ、私もミーハーなファンのひとりだけどさ。絵のこと分かんないけど、浅尾っちの絵は好きだし」
「それなら私だってそうだよ。アートは詳しくないもん」
「そんなもんじゃん? 専門的なことを知らなくても、好きとか嫌いとかは感覚的に感じるんだからさ。大半のファンが、そうだと思うんだけどな」
 言われてみれば、そうなのかも。アートって別に、専門的知識がある人だけのものじゃないもんね。
「新聞とかテレビの取材もあるわけでしょ?」
「うん。一応、桔平くんの顔出し取材。嫌がっていたけど」
「だろうねぇ。大変だなぁ……愛茉も忙しくなるだろうけど、困ったことがあったら言ってくるんだよ?」
「うん、ありがとう」
 個展が始まったら、一体どうなるんだろう。環境が大きく変わりそうで、正直怖い気持ちもある。
 桔平くんの「激流」という表現は、言い得て妙だと思う。世の中の大きな流れに飲み込まれるか、それとも、流れが緩くなるまで踏ん張って、対岸へ辿り着くか。どちらにしても、いまのうちに力をつけておかなくちゃ。
 まず私は、桔平くんのアトリエ探しに奔走した。2年生までにたくさん授業を履修していたおかげで、今年度は学校に行かなくていい日が週2日ある。それを利用して、忙しい桔平くんの代わりにネットで探しまくって内見へ行った。
 制作に集中しないといけないから、騒音問題があるところは問題外。湿気がこもりやすい部屋もダメ。直射日光が入りすぎると微妙な色調が分からないから、これもダメ。いままで家では夜にしか絵を描いていなかったから、陽当たりを気にしたことはなかったんだよね。
 なにげに条件多くない? と半ベソかきながらも、桔平くんのために一生懸命走り回った。