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第十一話 コックリさん

ー/ー



「コックリさん、コックリさん」
 
 夕焼けで染まる教室に三人の少年少女の声が響く。
 机を囲んで座った彼らの指先が十円玉の上で微かに震えている。
 
「井上先生はバカですか?」
 
 しょうじが笑いをこらえながら尋ねると十円玉がゆっくりと動き出した。「は」「い」と、まるで意思を持つかのように文字の上を滑っていく。
 
「きゃー!」
 
 まきが小さな悲鳴を上げる。

「本当に動いた!」
「当たり前だろ」
 
 ひでとが得意げに言った。
 しょうじは何も言わず、ただ不安げな表情で微笑んでいる。
 質問は続く。恋愛や秘密、時にはちょっとしたいじわるまで。三人の笑い声が教室に満ちていく。
 そうしていると五時を告げるチャイムが鳴った。
 
「もう帰ろうぜ」
 ひでとが言う。
 
「うん、そうだね」
 まきが頷く。
 
「じゃあ、お別れの挨拶を」
 しょうじがすこし緊張しながら言った。
 
 三人は声を合わせる。
「コックリさん、コックリさん、おかえりください」
 一度、二度。そして三度目――。
「コックリさん、コックリさん、おかえりください」

 十円玉が動く。しかし、それは「いいえ」の文字の上だった。
 
「え?」
 まきの声が震える。
 
 十円玉は「いいえ」の周りを意思を持って暴れるかのように回り始めた。
 
「おい、誰だよ」
 ひでとが声を荒げる。「こんなんで怖がらせようたって――」
 
 しかし、十円玉は止まらない。
 
「やめて!」
 まきが叫ぶ。
 
「しょうじ、お前だろ!」
 ひでとがしょうじを睨む。
 
 しょうじは顔を青ざめさせ、唇を震わせていた。「ち、違う……僕じゃない……」
 十円玉はさらに激しく回っている。
 その動きは異様だった――生き物のように滑り回り、机全体を震わせているようだった。
 
「もういい!」
 ひでとが叫び、指を離した。
 続けてまきも慌てて指を離す。
 十円玉が止まる。
「な、なんだよ!」
 しょうじが不安げな視線を二人に向ける。

「こんなくだらないことして!」
 ひでとがしょうじを指差し、呆れた顔でいう。
「本当に最低……」
 まきも同調してため息交じりにしょうじを一瞥した。二人は荷物を掴むと教室を飛び出していった。 残されたしょうじだが、彼はまだ十円玉に指を触れたまま動けずにいた。

「ご、ごめんなさい……二人は帰ってしまいました……」
 しょうじは震える声でコックリさんに言うと、十円玉が再び動き出した。
 
「ゆ」「る」「さ」「な」「い」

 しょうじは恐怖に打ち震えながらやっとのことで指を離した。そして、這うようにして教室から逃げ出した。
 
翌日
 
 教室に入ったしょうじを迎えたのはクラスメイトたちの冷ややかな視線だった。
 「嘘つき」「裏切り者」となじる声、罵声が飛び交う。

「違う!僕じゃない!」
 しょうじは必死に訴えるが、誰も聞く耳を持たない。
 それから数週間が経った。いじめは激しさを増していき、追い詰められた彼はついに転校していった。
 一方、ひでととまきは新たなターゲットを見つけていた。それはいくみというクラスで一際おとなしい女の子だった。

「コックリさんしようぜ」
 ひでとが誘うと、いくみは少し躊躇したものの、その場の空気に押されて同意してしまう。そして――また同じことが繰り返された。
 十円玉は勝手に動き出し、その責任はしょうじの時と同じようにいくみに押し付けられる。いじめが続く毎日で恐怖に震える彼女だったが、そんな最悪な日々の中で、彼女は決意した。その日、いくみは一人暗闇に包まれた教室で復讐のためにコックリさんを始めた。
 いくみがコックリさんを行った夜、ひでととまきの夢に長い髪で狐目の女が現れた。
「許さない」
 女が発したその言葉は二人の耳に焼き付いた。同時刻に目覚めた二人は布団から跳ね起き、荒い呼吸を抑えるので必死だった。
 そして翌日から、二人には次々と不幸な出来事が降りかかる。それはしょうじといくみに行っていたいじめそのもの――痛み蔑み憎しみも全て自分たちへ返ってくる呪い。 二人は次第にクラスから孤立し始めた。
 次々と降りかかる不幸に恐れおののき、放課後に二人はコックリさんを行おうと教室で落ち合う約束をしていたが、コックリさんを行わずに教室の端で寄り添うように震える二人。その目の前には狐目の女性が立っていた。
 
「許さない」

 夢と同じ、その声を聴くだけで二人の魂は凍いてその場から動けなくなり、生涯忘れられない恐怖だけを刻み込まれた。
 
一ヶ月後
 
 ひでとは寝たきりになっていた。その枕元では長髪の女性が延々と呟いている―― 「許さない許さない許さない許さない」
 教室ではいくみが友達と楽しそうにコックリさんをしている。その目には狐のような細さと鋭さが宿っていた。そして彼女は狐の様に口を大きく横に伸ばして笑みを浮かべながら呟く。

「次は誰にしようかな」
 教室には、子供たちの不気味な笑い声だけが響いていた。


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「コックリさん、コックリさん」
 夕焼けで染まる教室に三人の少年少女の声が響く。
 机を囲んで座った彼らの指先が十円玉の上で微かに震えている。
「井上先生はバカですか?」
 しょうじが笑いをこらえながら尋ねると十円玉がゆっくりと動き出した。「は」「い」と、まるで意思を持つかのように文字の上を滑っていく。
「きゃー!」
 まきが小さな悲鳴を上げる。
「本当に動いた!」
「当たり前だろ」
 ひでとが得意げに言った。
 しょうじは何も言わず、ただ不安げな表情で微笑んでいる。
 質問は続く。恋愛や秘密、時にはちょっとしたいじわるまで。三人の笑い声が教室に満ちていく。
 そうしていると五時を告げるチャイムが鳴った。
「もう帰ろうぜ」
 ひでとが言う。
「うん、そうだね」
 まきが頷く。
「じゃあ、お別れの挨拶を」
 しょうじがすこし緊張しながら言った。
 三人は声を合わせる。
「コックリさん、コックリさん、おかえりください」
 一度、二度。そして三度目――。
「コックリさん、コックリさん、おかえりください」
 十円玉が動く。しかし、それは「いいえ」の文字の上だった。
「え?」
 まきの声が震える。
 十円玉は「いいえ」の周りを意思を持って暴れるかのように回り始めた。
「おい、誰だよ」
 ひでとが声を荒げる。「こんなんで怖がらせようたって――」
 しかし、十円玉は止まらない。
「やめて!」
 まきが叫ぶ。
「しょうじ、お前だろ!」
 ひでとがしょうじを睨む。
 しょうじは顔を青ざめさせ、唇を震わせていた。「ち、違う……僕じゃない……」
 十円玉はさらに激しく回っている。
 その動きは異様だった――生き物のように滑り回り、机全体を震わせているようだった。
「もういい!」
 ひでとが叫び、指を離した。
 続けてまきも慌てて指を離す。
 十円玉が止まる。
「な、なんだよ!」
 しょうじが不安げな視線を二人に向ける。
「こんなくだらないことして!」
 ひでとがしょうじを指差し、呆れた顔でいう。
「本当に最低……」
 まきも同調してため息交じりにしょうじを一瞥した。二人は荷物を掴むと教室を飛び出していった。 残されたしょうじだが、彼はまだ十円玉に指を触れたまま動けずにいた。
「ご、ごめんなさい……二人は帰ってしまいました……」
 しょうじは震える声でコックリさんに言うと、十円玉が再び動き出した。
「ゆ」「る」「さ」「な」「い」
 しょうじは恐怖に打ち震えながらやっとのことで指を離した。そして、這うようにして教室から逃げ出した。
翌日
 教室に入ったしょうじを迎えたのはクラスメイトたちの冷ややかな視線だった。
 「嘘つき」「裏切り者」となじる声、罵声が飛び交う。
「違う!僕じゃない!」
 しょうじは必死に訴えるが、誰も聞く耳を持たない。
 それから数週間が経った。いじめは激しさを増していき、追い詰められた彼はついに転校していった。
 一方、ひでととまきは新たなターゲットを見つけていた。それはいくみというクラスで一際おとなしい女の子だった。
「コックリさんしようぜ」
 ひでとが誘うと、いくみは少し躊躇したものの、その場の空気に押されて同意してしまう。そして――また同じことが繰り返された。
 十円玉は勝手に動き出し、その責任はしょうじの時と同じようにいくみに押し付けられる。いじめが続く毎日で恐怖に震える彼女だったが、そんな最悪な日々の中で、彼女は決意した。その日、いくみは一人暗闇に包まれた教室で復讐のためにコックリさんを始めた。
 いくみがコックリさんを行った夜、ひでととまきの夢に長い髪で狐目の女が現れた。
「許さない」
 女が発したその言葉は二人の耳に焼き付いた。同時刻に目覚めた二人は布団から跳ね起き、荒い呼吸を抑えるので必死だった。
 そして翌日から、二人には次々と不幸な出来事が降りかかる。それはしょうじといくみに行っていたいじめそのもの――痛み蔑み憎しみも全て自分たちへ返ってくる呪い。 二人は次第にクラスから孤立し始めた。
 次々と降りかかる不幸に恐れおののき、放課後に二人はコックリさんを行おうと教室で落ち合う約束をしていたが、コックリさんを行わずに教室の端で寄り添うように震える二人。その目の前には狐目の女性が立っていた。
「許さない」
 夢と同じ、その声を聴くだけで二人の魂は凍いてその場から動けなくなり、生涯忘れられない恐怖だけを刻み込まれた。
一ヶ月後
 ひでとは寝たきりになっていた。その枕元では長髪の女性が延々と呟いている―― 「許さない許さない許さない許さない」
 教室ではいくみが友達と楽しそうにコックリさんをしている。その目には狐のような細さと鋭さが宿っていた。そして彼女は狐の様に口を大きく横に伸ばして笑みを浮かべながら呟く。
「次は誰にしようかな」
 教室には、子供たちの不気味な笑い声だけが響いていた。