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1話 土地神様と出かけよう その一

ー/ー






 サラの唐突な誘いによって予定が大幅に変わってしまった次の日。僕は少し緊張しながら榎園家の方向へ向かっていた。
 時刻は午前9時過ぎ、空は快晴で気温も春の陽気で暑くもなく寒くもない。
 絶好のデート日和である。

「デートねぇ……」

 口に出すと余計緊張してきた。
 いや、だって相手がよ? クラスどころか学校でも有名かつ人気者の美少女なんですよ?
 仲が良いとはいえ、そんな子にデートと誘われてみなさい。
 緊張どころの騒ぎじゃございませんでしてよ?

 ……いかんいかん。緊張のせいかキャラがブレてきている気がする。一旦冷静になろう。
 普段からボディタッチも多く、勘違いさせそうな行動が目立つ彼女のことだ。単純に友達と遊ぶつもりで誘ったと考えるのが自然だろう。
 そう考えると肩の力も抜けてきて、冷静になってきた。あとは自然と吊り上がりそうになるニヤケ面をどうにかするだけだ。

「あらせっちゃん、おはよう。顔のマッサージかしら?」

 僕が自分の顔をこねていると、いつの間にかサラの家の前に着いていたらしい。聞き慣れた妙齢の女性の声がした。
 僕がよくお世話になっているサラの祖母、アザミさん(サイクリングスタイル)である。

「おはようございますアザミさん。まあそんなところですかね。あ、サラと約束してるんですけど……」
「ああ、サラちゃんならさっき神社の方へ行ってたよぉ」
「分かりました。ありがとうございます。……アザミさんもおでかけですか?」
「ああ、私の愛車がアスファルトを切りつけたがっていてねぇ……それじゃ」

 そう言ってアザミさんはペダルを踏みしめると、爆速でロケットスタートを決めて一瞬のうちに姿が見えなくなった。
 流石は近所で妖怪ターボババアの正体と噂される人だ。速すぎる。

 アザミさん妖怪説はさておき、サラの元に行かないと。
 すっかり慣れた足取りで神社へ続く山道へとまた歩き出した。

 いやぁそれにしてもさっきは危なかった。気づかれるのがあと少し早かったら浮かれた気色の悪い面構えを見られるところだったな。
 それにしてもサラはなんで神社の方に行ってるんだろう?
 たしかに昨日は『迎えに来て!』とか言うものだから待ち合わせ場所なんかは決めていなかったけど……。

「……! …………って!」

「――ッ! ……テバ! ゼッタイ!」

 疑問に思いながら階段を登り、境内に辿り着いたところ……何やら社の方が騒がしい。
 サラとキリさんの声だ。

「ていうか、こんな立派なのは……そのぉ……」
「エー……似合ってるノニー……。じゃ次はコレだネ!」
「だから私には似合わんってぇ!」

(何やってんだアイツ……)

 またサラが変なことしてるんじゃないだろうな。
 石畳を進みながら辺りを見回す。が、声はせども姿が見えない。恐らく社裏にある蔵の方にいるのだろう。

「おはようございまーす。そっち行ってもいいですかー?」

 何をしてるかは知らないが、女性二人の空間だ。いきなり現れるのはご法度……ということで一応声をかけた。
「いいよ〜」というサラの気の抜ける返事があったので社の陰から顔を出した。
 するとそこには、ラフで動きやすそうな格好の見慣れた赤毛の女(サラ)と、そして――


 ――現代の衣服を身に纏った白髪の美少女がいらっしゃった。


 我が町の土地神様のそんな姿を見て固まっていると、二人が同時にこちらへ顔を向けて勢いよく口を開いた。

「どうカナ、セッチャン!」
「そ、その、セキさん!」


「―――似合ってるよネ!?」
「―――似合わんよね!?」


 ……あまりの勢いに一歩後退ってしまった。
 困惑しながら視界を泳がせると、ベンチの上に何着かの女性服が綺麗に畳まれていた。
 なるほど。さっきの言い合いはコレのせいか。
 ……なんで神様を着せ替え人形にしてんのこの子?

「ダーカーラァ、スッゴクカワイイのにナーンデ分かんないカナー……。Mirrorは見たコトございますノ!?」
「い、いやいや! こここんなな物、分不相応っていうか……サラさんみたいな子の方がよう似合うって!」

「「ねえセキさん(セッチャン)!!」」

 ねえと言われましても。

 咳払いを一つして、あらためてキリさんの格好を見てみる。
 茶色のカーディガンに白い服、そしてチェック柄のゆったりとしたスカート。足元はブーツを履いている。
 全体的にサイズとしては少し大きめで合ってはいない……が、上手くオーバーサイズファッションとしてハマっている。元はサラの私物なのだろうか。

 頭から足まで見つめていると、キリさんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
 その仕草が余計に可愛らしさを助長させている。

 ふむ。この状況、僕が言うべきことは一つだ。


「無難でいいと思います」
「素直に褒めろヨ」


 腕で丸を作りながら褒めたはずなのにサラに突っ込まれた。何故だ。
 一方でキリさんは「ぶ、無難。無難かぁ……」と言ってちょっと嬉しそうに笑っていた。喜んで頂けて何よりです。

「で? なんでこんなことをしてるのかねキミは」
「今日キリチャンが着ていく服、どれがいいかナーって思テ」

 ほう、今日着ていく服か。

「キリさん、今日どこか行くんですか?」
「え、いや……出かけるって初耳なんじゃけど」

 ……なるほどなるほど。
 キリさんは何も知らず、サラは物知り顔でドヤ顔をしている。
 話の全容が見えてきたな。

「…………えーっとつまり、デートというのは」


「ウン、今日はこの三人でデートでしテヨ!」


 僕の素朴な質問は、とても快活な笑顔で返された。

 ………………うん、OKOK。
 概ね予想通りの回答だ。
 僕の心は冷静。とてもCOOLな気持ちだ。
 だが一つ、月並みではあるが言いたいことがある。

 一呼吸置いてから、上を向いた。



(僕の純情を返して―――!)



 青空が滲んで見えたのは、きっと気のせいじゃない。





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 サラの唐突な誘いによって予定が大幅に変わってしまった次の日。僕は少し緊張しながら榎園家の方向へ向かっていた。
 時刻は午前9時過ぎ、空は快晴で気温も春の陽気で暑くもなく寒くもない。
 絶好のデート日和である。
「デートねぇ……」
 口に出すと余計緊張してきた。
 いや、だって相手が《《アレ》》よ? クラスどころか学校でも有名かつ人気者の美少女なんですよ?
 仲が良いとはいえ、そんな子にデートと誘われてみなさい。
 緊張どころの騒ぎじゃございませんでしてよ?
 ……いかんいかん。緊張のせいかキャラがブレてきている気がする。一旦冷静になろう。
 普段からボディタッチも多く、勘違いさせそうな行動が目立つ彼女のことだ。単純に友達と遊ぶつもりで誘ったと考えるのが自然だろう。
 そう考えると肩の力も抜けてきて、冷静になってきた。あとは自然と吊り上がりそうになるニヤケ面をどうにかするだけだ。
「あらせっちゃん、おはよう。顔のマッサージかしら?」
 僕が自分の顔をこねていると、いつの間にかサラの家の前に着いていたらしい。聞き慣れた妙齢の女性の声がした。
 僕がよくお世話になっているサラの祖母、アザミさん(サイクリングスタイル)である。
「おはようございますアザミさん。まあそんなところですかね。あ、サラと約束してるんですけど……」
「ああ、サラちゃんならさっき神社の方へ行ってたよぉ」
「分かりました。ありがとうございます。……アザミさんもおでかけですか?」
「ああ、私の愛車がアスファルトを切りつけたがっていてねぇ……それじゃ」
 そう言ってアザミさんはペダルを踏みしめると、爆速でロケットスタートを決めて一瞬のうちに姿が見えなくなった。
 流石は近所で妖怪ターボババアの正体と噂される人だ。速すぎる。
 アザミさん妖怪説はさておき、サラの元に行かないと。
 すっかり慣れた足取りで神社へ続く山道へとまた歩き出した。
 いやぁそれにしてもさっきは危なかった。気づかれるのがあと少し早かったら浮かれた気色の悪い面構えを見られるところだったな。
 それにしてもサラはなんで神社の方に行ってるんだろう?
 たしかに昨日は『迎えに来て!』とか言うものだから待ち合わせ場所なんかは決めていなかったけど……。
「……! …………って!」
「――ッ! ……テバ! ゼッタイ!」
 疑問に思いながら階段を登り、境内に辿り着いたところ……何やら社の方が騒がしい。
 サラとキリさんの声だ。
「ていうか、こんな立派なのは……そのぉ……」
「エー……似合ってるノニー……。じゃ次はコレだネ!」
「だから私には似合わんってぇ!」
(何やってんだアイツ……)
 またサラが変なことしてるんじゃないだろうな。
 石畳を進みながら辺りを見回す。が、声はせども姿が見えない。恐らく社裏にある蔵の方にいるのだろう。
「おはようございまーす。そっち行ってもいいですかー?」
 何をしてるかは知らないが、女性二人の空間だ。いきなり現れるのはご法度……ということで一応声をかけた。
「いいよ〜」というサラの気の抜ける返事があったので社の陰から顔を出した。
 するとそこには、ラフで動きやすそうな格好の見慣れた|赤毛の女《サラ》と、そして――
 ――現代の衣服を身に纏った白髪の美少女がいらっしゃった。
 我が町の土地神様のそんな姿を見て固まっていると、二人が同時にこちらへ顔を向けて勢いよく口を開いた。
「どうカナ、セッチャン!」
「そ、その、セキさん!」
「―――似合ってるよネ!?」
「―――似合わんよね!?」
 ……あまりの勢いに一歩後退ってしまった。
 困惑しながら視界を泳がせると、ベンチの上に何着かの女性服が綺麗に畳まれていた。
 なるほど。さっきの言い合いはコレのせいか。
 ……なんで神様を着せ替え人形にしてんのこの子?
「ダーカーラァ、スッゴクカワイイのにナーンデ分かんないカナー……。Mirrorは見たコトございますノ!?」
「い、いやいや! こここんな《《はいから》》な物、分不相応っていうか……サラさんみたいな子の方がよう似合うって!」
「「ねえセキさん(セッチャン)!!」」
 ねえと言われましても。
 咳払いを一つして、あらためてキリさんの格好を見てみる。
 茶色のカーディガンに白い服、そしてチェック柄のゆったりとしたスカート。足元はブーツを履いている。
 全体的にサイズとしては少し大きめで合ってはいない……が、上手くオーバーサイズファッションとしてハマっている。元はサラの私物なのだろうか。
 頭から足まで見つめていると、キリさんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
 その仕草が余計に可愛らしさを助長させている。
 ふむ。この状況、僕が言うべきことは一つだ。
「無難でいいと思います」
「素直に褒めろヨ」
 腕で丸を作りながら褒めたはずなのにサラに突っ込まれた。何故だ。
 一方でキリさんは「ぶ、無難。無難かぁ……」と言ってちょっと嬉しそうに笑っていた。喜んで頂けて何よりです。
「で? なんでこんなことをしてるのかねキミは」
「今日キリチャンが着ていく服、どれがいいかナーって思テ」
 ほう、今日着ていく服か。
「キリさん、今日どこか行くんですか?」
「え、いや……出かけるって初耳なんじゃけど」
 ……なるほどなるほど。
 キリさんは何も知らず、サラは物知り顔でドヤ顔をしている。
 話の全容が見えてきたな。
「…………えーっとつまり、デートというのは」
「ウン、今日はこの三人でデートでしテヨ!」
 僕の素朴な質問は、とても快活な笑顔で返された。
 ………………うん、OKOK。
 概ね予想通りの回答だ。
 僕の心は冷静。とてもCOOLな気持ちだ。
 だが一つ、月並みではあるが言いたいことがある。
 一呼吸置いてから、上を向いた。
(僕の純情を返して―――!)
 青空が滲んで見えたのは、きっと気のせいじゃない。