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リースと共に 1

ー/ー



 そこは真っ暗な空間だった。寝静まった後に目が覚めてしまったのかと一瞬思う。

 しかし、違和感に気づく。私は自分の足で見えない床の上に立っていた。

「いでええええええ」

 目の前に急に現れた男がそんな言葉を言いながら振り返る。それは昨日切り捨てたうちわを使う男だ。

「なっ、あっ」

 私は全身の血が一気に抜けたような脱力感を覚えた。

 男は血を流しながらコチラを見ている。思い出す、あの時の、初めて人を斬り殺した時の事を。










「あああああああ、はっ」

 夢と現実の狭間でモモは大声を出して起きてしまった。ルーは爆睡していたが、アシノはその声を聞いて起き上がる。

「何かあったか!?」

「あ、あの、いえ、変な夢を見ただけで何でもないです……」

 冷や汗をびっしょりとかきながらモモは言う。月明かりでその姿はよく見えなかったがアシノはモモの夢に心当たりがあった。

「昨日の戦いでも夢に出たか?」

「えっ? あ、はい……」

 当てられたことにモモは一瞬びっくりしたが、弱々しく返事をする。

「珍しいことじゃない。初めて命のやり取りをすると、ほぼ必ずと言っていい程、数日の内に夢に出る。亡霊の仕業だなんて言う奴もいるがな」

「そうですか……」

 モモはボーッとした心のままで答えた。

 するとアシノが歩いてコチラへやってくる。その様子も心ここにあらずといった感じで見ていた。

「お前は良い戦いをした、恐い気持ちは私も分かる。私もそうだった」

「アシノ殿……」

 そしてモモの頭を優しく撫でる。



 そんな事がある前に少し時間が戻り、リースを尋問し終えた後、アシノはやって来た治安維持部隊に交渉をしていた。

「私達は彼女の案内でキエーウの本拠地を叩こうと思っています」

 だが、部隊長は渋い顔をする。当然だ、正規の手続きでは逮捕して裁判にかけなくてはいけない。

「私も、個人的にはキエーウを倒すならばそれが最善の手ではないかと思いますが……」

「全て終わった後にリースには罪を償ってもらいます。と言っても彼女はキエーウに所属してまだ人を殺めていないそうです。事情も考慮されればそこまで重い罪にはならないでしょう」

 うーんと部隊長は悩む。本当にどうしたものかと。

「それに、何かあった場合の責任は私が取ります。勇者の特権を使わせて貰います」

 勇者の特権とは、勇者の資格を持つものは国や人を守るため、ある程度だが、緊急事態に限り法を無視して動くことが出来るのだ。

 しかし、何かあった場合は後ほど責任を負わなくてはならない。

「分かりました。特権を使われてしまってはこれ以上私がどうこう言う領域では無くなりますので」

「ご理解頂き助かります。必ずキエーウのしっぽを掴んで見せます」

 アシノはリースを連れて仲間の元へと戻る。

「お疲れ様、勇者アシノ」

 ルーはニヤニヤして言った、アシノはその小さい背丈の頭を手で押し込む。

「うっさいわ」

「でも、アシノさんの態度。いつも毅然としてて、さすが勇者って感じがしてカッコいいです!」

 不意にユモトが言うとアシノは思わず顔を赤くした。

「別に、昔のことだ」

「キャー勇者カッコいいー勇者様ー!!!」

 ルーはそれに乗っかって冷やかしを入れる。

「うっさいわ!!」

「ふべち!!」

 心身ともに疲れ果てたが、体裁上リースを連れてエルフの村へは戻れない。ムツヤ達は野営の準備をすることにした。

 村の近くなので、またもあの便利な家を建てる魔導書は使えない。

「そうだ、皆さん。疲れが取れるお薬はどうですか?」

 怪しげな事を言いながらムツヤはカバンから薬を取り出した。

 しかし、アシノは首を振る。

「ソイツは駄目だ。強力な薬は必ず副作用がある。そうホイホイ使わない方が良い」

「そうでずか、わがりまじた」

 ちょっとシュンとしてムツヤは薬をしまう。

「そんな事より寝袋と、腹減ったから何か料理を出してくれ」

「はい!」

 カバンから次々と薪や寝袋や料理が出てくる。ムツヤの仲間達は見慣れたものだが、リースは不思議そうにそれを見ていた。

「はぇー、すっごい」

 焚き火をしてみんなで囲み、いざという時に作り置きしてカバンに詰めていたユモトの手料理を食べる。

「! うん、おいしい!」

 リースは思わずそう口にした。ユモトはフフッと笑って「ありがとう」と言う。

「まるでお母ちゃんが作ったみたいな味だべ」

「そっか、良かった」

 モモも優しい笑顔でそれを見ている。ルーはがっついて料理を食べていた。

「いほいほほんはふへひひひえーふほたおへるっへわへへ
(いよいよ本格的にキエーウを倒せるってわけね)」

「お前は食ってから喋れ!!」

「ふっ、はははは」

 リースは笑ってしまった、こんな風に誰かと食事をするのはいつぶりだろう。

「久しぶりに美味しいご飯でず」

 そうリースが言うと皆優しい気持ちになれた。

「ええ、しっかり食べなさい。おかわりも良いわよ! 遠慮しないで今までの分食べなさい!」 



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 そこは真っ暗な空間だった。寝静まった後に目が覚めてしまったのかと一瞬思う。
 しかし、違和感に気づく。私は自分の足で見えない床の上に立っていた。
「いでええええええ」
 目の前に急に現れた男がそんな言葉を言いながら振り返る。それは昨日切り捨てたうちわを使う男だ。
「なっ、あっ」
 私は全身の血が一気に抜けたような脱力感を覚えた。
 男は血を流しながらコチラを見ている。思い出す、あの時の、初めて人を斬り殺した時の事を。
「あああああああ、はっ」
 夢と現実の狭間でモモは大声を出して起きてしまった。ルーは爆睡していたが、アシノはその声を聞いて起き上がる。
「何かあったか!?」
「あ、あの、いえ、変な夢を見ただけで何でもないです……」
 冷や汗をびっしょりとかきながらモモは言う。月明かりでその姿はよく見えなかったがアシノはモモの夢に心当たりがあった。
「昨日の戦いでも夢に出たか?」
「えっ? あ、はい……」
 当てられたことにモモは一瞬びっくりしたが、弱々しく返事をする。
「珍しいことじゃない。初めて命のやり取りをすると、ほぼ必ずと言っていい程、数日の内に夢に出る。亡霊の仕業だなんて言う奴もいるがな」
「そうですか……」
 モモはボーッとした心のままで答えた。
 するとアシノが歩いてコチラへやってくる。その様子も心ここにあらずといった感じで見ていた。
「お前は良い戦いをした、恐い気持ちは私も分かる。私もそうだった」
「アシノ殿……」
 そしてモモの頭を優しく撫でる。
 そんな事がある前に少し時間が戻り、リースを尋問し終えた後、アシノはやって来た治安維持部隊に交渉をしていた。
「私達は彼女の案内でキエーウの本拠地を叩こうと思っています」
 だが、部隊長は渋い顔をする。当然だ、正規の手続きでは逮捕して裁判にかけなくてはいけない。
「私も、個人的にはキエーウを倒すならばそれが最善の手ではないかと思いますが……」
「全て終わった後にリースには罪を償ってもらいます。と言っても彼女はキエーウに所属してまだ人を殺めていないそうです。事情も考慮されればそこまで重い罪にはならないでしょう」
 うーんと部隊長は悩む。本当にどうしたものかと。
「それに、何かあった場合の責任は私が取ります。勇者の特権を使わせて貰います」
 勇者の特権とは、勇者の資格を持つものは国や人を守るため、ある程度だが、緊急事態に限り法を無視して動くことが出来るのだ。
 しかし、何かあった場合は後ほど責任を負わなくてはならない。
「分かりました。特権を使われてしまってはこれ以上私がどうこう言う領域では無くなりますので」
「ご理解頂き助かります。必ずキエーウのしっぽを掴んで見せます」
 アシノはリースを連れて仲間の元へと戻る。
「お疲れ様、勇者アシノ」
 ルーはニヤニヤして言った、アシノはその小さい背丈の頭を手で押し込む。
「うっさいわ」
「でも、アシノさんの態度。いつも毅然としてて、さすが勇者って感じがしてカッコいいです!」
 不意にユモトが言うとアシノは思わず顔を赤くした。
「別に、昔のことだ」
「キャー勇者カッコいいー勇者様ー!!!」
 ルーはそれに乗っかって冷やかしを入れる。
「うっさいわ!!」
「ふべち!!」
 心身ともに疲れ果てたが、体裁上リースを連れてエルフの村へは戻れない。ムツヤ達は野営の準備をすることにした。
 村の近くなので、またもあの便利な家を建てる魔導書は使えない。
「そうだ、皆さん。疲れが取れるお薬はどうですか?」
 怪しげな事を言いながらムツヤはカバンから薬を取り出した。
 しかし、アシノは首を振る。
「ソイツは駄目だ。強力な薬は必ず副作用がある。そうホイホイ使わない方が良い」
「そうでずか、わがりまじた」
 ちょっとシュンとしてムツヤは薬をしまう。
「そんな事より寝袋と、腹減ったから何か料理を出してくれ」
「はい!」
 カバンから次々と薪や寝袋や料理が出てくる。ムツヤの仲間達は見慣れたものだが、リースは不思議そうにそれを見ていた。
「はぇー、すっごい」
 焚き火をしてみんなで囲み、いざという時に作り置きしてカバンに詰めていたユモトの手料理を食べる。
「! うん、おいしい!」
 リースは思わずそう口にした。ユモトはフフッと笑って「ありがとう」と言う。
「まるでお母ちゃんが作ったみたいな味だべ」
「そっか、良かった」
 モモも優しい笑顔でそれを見ている。ルーはがっついて料理を食べていた。
「いほいほほんはふへひひひえーふほたおへるっへわへへ
(いよいよ本格的にキエーウを倒せるってわけね)」
「お前は食ってから喋れ!!」
「ふっ、はははは」
 リースは笑ってしまった、こんな風に誰かと食事をするのはいつぶりだろう。
「久しぶりに美味しいご飯でず」
 そうリースが言うと皆優しい気持ちになれた。
「ええ、しっかり食べなさい。おかわりも良いわよ! 遠慮しないで今までの分食べなさい!」