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もう過去のこと。桔平くんはいま、私のことを全力で愛してくれている。いつでも私を宥めてくれるし、ほかの女の子には連絡先すら教えないし、私だけを見て私だけに優しく笑いかけてくれる。
スケッチブックを処分していないのは、これまで描いたすべての絵が大切なものだから。ただそれだけのはず。もう考えるのは止めよう。
こうやって気にしないように言い聞かせているうち、あっという間に厚手のコートが活躍する季節になった。
クローゼットの奥に押し込んだ胸の痛みも消えてきた12月中旬には、桔平くんの卒業制作も無事完成。ただ、自分が納得する絵を描けたかどうかは、訊かなくても分かった。
夏休みにいい出会いもあったわけだし、本当は少し期待していたんだけどな。思った以上に、桔平くんの心は深い場所へ沈んでしまっているのかもしれない。それでも桔平くんは、絵を描き続けている。
そして、年末年始。小樽へ帰省して、今年のクリスマスも小樽運河で過ごした。
桔平くんからのプレゼントはムートンの手袋で、私からは桔平くんが好きそうなマルチカラーのマフラー。とっても喜んでくれて、ずっと巻いてくれていた。
家に帰ったら、智美さんのご馳走でクリスマスパーティのスタート。ちなみに、ケーキは私の手作りでした。
そして去年みたいに智美さんと一緒におせちを作って、みんなで初詣。成人の日の集いには行かないから、お正月に振袖を着て写真を撮ったんだけど、お父さんは涙目になっていた。
今年も家族4人で、とても幸せな年末年始を過ごせたことが、すごく嬉しい。
やっぱり、小樽にいると心が穏やかになるし。それは桔平くんも同じみたいで、ゆるやかに流れていく時間に身を任せているような感じだった。
そういえば、将来は北海道に移住したいって言っていたっけ。広い土地を買って、小ぢんまりとした家を建てて、私とのんびり暮らしたいって。繊細な桔平くんにとって、人が多くて雑多な東京は、心が疲れるのかもしれない。
いつか、桔平くんが穏やかにゆったり過ごせる環境に移れたらいいな。
「はぁ~めんどくせぇ~……やっぱり帰ろうぜ」
「文句言わないの。お母様の好きなルタオも買ってきたし、早く渡さなきゃ」
小樽から戻ってきた翌日、今度は横浜へと向かう。やっぱり実家に行くのは嫌みたいで、桔平くんはブツブツ言いながらハンドルを握っていた。
実は1番上のさくらお姉さんもご家族で帰国していたから、着いて早速ご挨拶をしたんだけれど……。
「はじめまして、姫野愛茉で……」
「キャーッ! なんて愛らしいレディなのっ! 小さいわっ! おめめクリクリだわっ! Gino! Guarda!」
「さくら。愛茉が怯えてるって」
お顔だけじゃなくて、言動がお母様とそっくり。そしてやっぱり、圧倒されるオーラを放っていた。
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スケッチブックを処分していないのは、これまで描いたすべての絵が大切なものだから。ただそれだけのはず。もう考えるのは止めよう。
こうやって気にしないように言い聞かせているうち、あっという間に厚手のコートが活躍する季節になった。
クローゼットの奥に押し込んだ胸の痛みも消えてきた12月中旬には、桔平くんの卒業制作も無事完成。ただ、自分が納得する絵を描けたかどうかは、訊かなくても分かった。
夏休みにいい出会いもあったわけだし、本当は少し期待していたんだけどな。思った以上に、桔平くんの心は深い場所へ沈んでしまっているのかもしれない。それでも桔平くんは、絵を描き続けている。
そして、年末年始。小樽へ帰省して、今年のクリスマスも小樽運河で過ごした。
桔平くんからのプレゼントはムートンの手袋で、私からは桔平くんが好きそうなマルチカラーのマフラー。とっても喜んでくれて、ずっと巻いてくれていた。
家に帰ったら、智美さんのご馳走でクリスマスパーティのスタート。ちなみに、ケーキは私の手作りでした。
そして去年みたいに智美さんと一緒におせちを作って、みんなで初詣。成人の日の集いには行かないから、お正月に振袖を着て写真を撮ったんだけど、お父さんは涙目になっていた。
今年も家族4人で、とても幸せな年末年始を過ごせたことが、すごく嬉しい。
やっぱり、小樽にいると心が穏やかになるし。それは桔平くんも同じみたいで、ゆるやかに流れていく時間に身を任せているような感じだった。
そういえば、将来は北海道に移住したいって言っていたっけ。広い土地を買って、小ぢんまりとした家を建てて、私とのんびり暮らしたいって。繊細な桔平くんにとって、人が多くて雑多な東京は、心が疲れるのかもしれない。
いつか、桔平くんが穏やかにゆったり過ごせる環境に移れたらいいな。
「はぁ~めんどくせぇ~……やっぱり帰ろうぜ」
「文句言わないの。お母様の好きなルタオも買ってきたし、早く渡さなきゃ」
小樽から戻ってきた翌日、今度は横浜へと向かう。やっぱり実家に行くのは嫌みたいで、桔平くんはブツブツ言いながらハンドルを握っていた。
実は1番上のさくらお姉さんもご家族で帰国していたから、着いて早速ご挨拶をしたんだけれど……。
「はじめまして、姫野愛茉で……」
「キャーッ! なんて愛らしいレディなのっ! 小さいわっ! おめめクリクリだわっ! Gino! Guarda!」
「さくら。愛茉が怯えてるって」
お顔だけじゃなくて、言動がお母様とそっくり。そしてやっぱり、圧倒されるオーラを放っていた。