信一郎らが戦いを繰り広げていく中、礼安、透、剣崎と橘の四人からなる第二部隊は、壇之浦銀行裏手から地下へ降りていった。
第一舞台であるエヴァたちが正面から銀行を制圧する部隊なら、礼安たちは『教会』埼玉支部の完全制圧に動く部隊。地下は一階しかないものの、何が起きるか理解しがたいため、なるべく人員を割きたい意向をくみこういう部隊構成と相成った。
その理由の最たるものが、地下だけはガジェット類を用いてスキャンが不可能であったのだ。他はバレてもいいがここだけは死守したい、その考えがあったのか、一切の事前情報がなかった。
地下へ続くエレベーター内で、それぞれが戦いの準備を進めていた中、前線を張る二人が視線すら合わせることなく、互いの覚悟を確認しあう。
「油断すんなよ、礼安」
「大丈夫、私たちならどうにかできるよ」
自身に満ち溢れていた二人をよそに、透の方をチラチラ見ては何とももどかしそうな態度をとる、剣崎と橘の二人。その二人の視線がよほどくすぐったかったのか、透はこらえきれず優しく語り掛ける。
「――ンだよ二人とも、言いたいことあるんなら早く言え」
二人は何か語ろうとしていたものの、だいぶバツが悪そうにしていたため、透は「悪ィ」とだけ呟くと、エレベーター出入口の方へ向き直った。
揺られること、ほんの二分。その二分すら、緊張感で何十倍にも膨れ上がっているように感じていた。冷汗が、静かに頬を伝うほどである。
やがて、出入り口がゆっくりと開くと、研究所じみた場所へ辿り着く。
「ここが……埼玉支部の地下か。ここまで真新しい雰囲気かよ。成金行き着くとこうなんのかよ」
「何だか……嫌なほど静かで、命の香りすら感じないよ」
一見謎ともいえる、礼安のぽつりと呟いた感想。しかし、その礼安の感想はすぐさま的中することとなる。
エレベーターから出てすぐに、呼吸音すら聞こえない怪人が立ったまま項垂れていたのだ。間違いなく、近づいた瞬間に攻撃を仕掛けてくる、それほどの殺気を放出していたのだ。
実にデザインはシンプル。しかし、他の怪人と比べると少々体躯は小さいほうであった。
身長はざっと百七十センチ、中肉中背でありながらも体中からは歪な魔力が漏れ出していた。頭部には雷を思わせる形状の角に、背には蝙蝠のような悪魔の翼が生えており、尾?骨の辺りにはゆらゆらと揺れる、先端がとがった尾が一本。総じて、怪人というよりも悪魔と表現するのが正しいだろう。
すると、透が剣崎と橘を背に、礼安を先に行くようジェスチャーをする。
「――でも、あの怪人……近くにいるだけで、殺気で噎せ返りそうだよ」
「――いや、よく分かんねえんだけどよ。グラトニーには殺してやりたいほどの恨みがあんだけどよ。こいつが……俺らを『呼んでる』んだよ。戦いてぇのかは分からねえけどな」
試しに、武器を構えつつその怪人の横を急いで通るものの、礼安には見向きもしなかった。最初から怪人にとって、相手は透以外にあり得ないといえる様子であった。
礼安は透らに静かにサムズアップだけすると、グラトニーが待ち構えているであろうその先へ急ぐのだった。
「……さて、お前に何の縁があるんだか。喋ってもらおうか」
その透の問いかけに一切答えることなく、フリッカースタイルの構えを取る怪人。その構えに違和感を覚えながらも、剣崎と橘の二人に目線を合わせ共に叩くことを示す。
しかし、二人は透の前に出て、それぞれが念じ始める。するとすぐに、二人は人とは異なる姿へ変貌。その姿は、ビリヤードで用いるキューとボール十六種。
「――は?」
事情を知らない透は、呆気に取られてしまう。しかし、透の新たな『武器』となった二人は彼女に語り掛ける。
「――ウチら、どうやら力のあり方というか……因子の方面としては武器に近いらしくて」
「アタシらを武器としてこき使ってよ! トーちゃん!」
通常のビリヤードのキューよりも、はるかに太く強靭なキューと、魔力を少し込め打つだけで尋常でない速度で飛ぶ白球。本来の西遊記の物語では一切の縁のないものであったため、最初は気圧されたものの、キューを如意棒に見立て構える透。
「――へえ。確かに……今は現代。昔からの物語に、少しくらい現代のスパイス加えた方が、戦いの幅が広がるってことかよ。面白ェこと考えやがったよ学園長」
ドライバーを装着し、すぐさま変身する透。そして挑発的に手を何度か招く。それが開戦の合図となった。
「英雄学園東京本校一年一組所属、天音透!! 殺されていったスラムの人々のため、そして俺の大切な家族を取り戻すため!! いざ、尋常に勝負だこの野郎!!」
白球を、怪人をかすめるよう別角度に飛ばし、トリッキーにブレイクショット。その影響ではじかれたボールが怪人にクリーンヒットする。
迫る怪人は背に受けたボールに仰け反りつつ、暴力的に迫ろうとするも、それを急速伸長したキューで顔面を捉える。
「このキューは、言わば『異聞』如意棒。ただのキューなんかじゃあない、誇り高い武器科所属のキュー兼如意棒だ!」
怪人はいったん後方に退くも、それも透には予測済みであった。
「そらそうだよなあ……近距離で駄目なら遠距離だ」
すぐさま白球を召還、一番のボールに向け飛ばし連鎖反応を起こし複数の球で襲い掛からせる。
寸前に何とか避けるも、透は白球に細工をしていた。
「さらに、これは通常ルールのビリヤードなんかじゃあない。イカサマ上等、ルール無用よ!!」
風の魔力を纏わせた白球が、バックスピンをかけながら怪人の脚部を正確に捉え、骨を砕く。
うめき声を上げる怪人に、追い打ちの如く複数はじけるよう白球を打ち出す透。
しかし、攻撃を繰り出す透には、ほんの少しの疑念が生まれ始めていたのだ。
(妙だ、俺らが強くなったにしては――――『敵が弱すぎる』)
その予想を裏付けるかのように、数々のボールは避けられることなく、全て骨を砕く一撃としてクリーンヒット。
「――おかしい、全てがおかしい」
ついに攻撃することをやめ、剣崎と橘に戻るようそれぞれの武器に語り掛ける。
「お前……誰だ。さっきから碌に攻撃も仕掛けず、精神汚染の影響か殺気だけはいっちょ前によォ」
すると、その怪人は透に向け弱弱しく走り出したのだ。その眼前の存在に対して気味悪さが勝った透は、思い切り怪人の頬を殴り飛ばす。
しかし、その拳に屈することなく、また彼女らの方へ走り出していたのだ。
「何だよ……攻撃の意思すら見せず!!」
何度も、何度も容赦のない殴りや蹴りで応戦し、少しでも自分たちから遠ざけようと考える透。それでもなお、その怪人は彼女たちへ近づくことをやめない。
「俺らは敵だ!! 少しでも張り合う姿勢くらい見せたらどうだよ!?」
力強い透の攻撃に、恐怖しひるみつつも、それでも近づこうとする怪人を、何とかしようと透は渾身の一撃を叩きこもうとしていた。だが、それに対し剣崎と橘の二人は気付いてしまったのだ。その理由に。
すぐさま、二人は透の殴りぬこうとする腕を引き留める。それに対し、透は怒りを露わにする。
「何でだ、何で止める!!」
「「トーちゃん、凄く嫌な予感がするんだよ!!」」
その二人の迫真の叫びに、胸中に膨らんでいた疑念が変質。次第に透の表情は青ざめていったのだ。絶対にその可能性だけはあってはならない、そう祈りに近い思考を持ちながら、変身を解除しつつ怪人の肉体を受け止める。
「――――エ……ャン」
「――え??」
「ト……オル……ネエ……チャン」
怪人が口にしたのは、確かに『透姉ちゃん』という単語。この呼び方をするのは、間違いなく限られた存在である。行方を追っていた、弟や妹たちのうちの一人、最も年齢が高い弟である『青』であった。
「青……青なのか!? 何で、何でこんなことに……!?」
「ネエ……チャ……ン……ヲ…………スクイ……タカッ……タ」