第66話 闇の住人
ー/ー「…!」
ナイアが息を呑み、煌汰が歓声を上げた。
「よっしゃああ!やったな!」
「見事だ、姜芽」
3人の注目を集めながら、俺は地上に降り立った。
「これで…いいのか?」
「ああ」
柳助とそう話した直後、異形の死体は蒸発するように消えた。
「…大丈夫みたいだな。じゃ、帰ろう。あれ、そう言えば木材は…」
「あ、それは大丈夫。5本で足りたみたいだから」
「そうか」
そう言えば、もう輝改築始めてたっけか。
木をナイアに持ってもらっててよかった。
町へ戻ってきてすぐ、輝達の様子を見に行った。
作業はまだ終わっていないが、材料自体は足りているらしい。
また、改築が終わるまではまだもうしばらくかかるとのことで、当分はここの宿に滞在する事になるそうだ。
店主へその旨を話したら、あっさり納得してくれた。
でも、具体的にあとどれくらい泊まる事になるのだろうか。
費用が心配だが…大丈夫だろうか。
その後は町長の所へ行った。
森に異形がいた事の報告は俺がやられた時に済ませてあったそうだが、異形を倒した旨の報告をしたかったらしい。
町長は、俺の姿を見てまず真っ先に謝罪してきた。
まさかあの森にそんな危険な異形が住みついていたとは思わなかった、旅人を危険に晒してしまって申し訳ない、と言って頭を下げてきたのだ。
だから、気にすることはない、異形は倒したしあの森はもう安全だ、と言った。
異形が倒されたと聞き、町長はとても驚いた様子で、「あなた方は強いんですな…」と言った。
そして、なんと今後この町にいる間の宿代をタダにするよう交渉すると言ってくれた。
ナイアは乗り気でないようだったが、ここはありがたく気持ちを頂いておこう。
その夜、宿で夕食が来るのを待っていた時の事である。
みんな適当に時間を潰していたら、突然ナイアがわめき出した。
「来る…何かが来る…!」
「?どうした、急に?」
「たった今託宣を受けたの…何か危険が私達に迫ってる!今日の夜…今日の夜中!」
「…おいおい、どうしたナイア?何か、って何だよ?」
「わからない…けど、とにかく危険が迫ってる!みんな、気を付けて!」
猶などはあまり気にかけていない様子だったが、俺はわりと真面目に気にした。
ナイアの『託宣』はバカに出来ない。
これまでも、未来に起こることや先に進むためのヒントをくれていたのだから。
その深夜。
俺は先ほどのナイアの言葉が気になりつつも、もう眠りにつこうとしていた。
そんな矢先、ふと妙な物音が聞こえた。
(ん…?なんだ?)
俺の右隣り、紗妃が寝ているベッドの奥の方から、足音のような音がしたのである。
最初は紗妃が起き出したのかと思ったが、布団がめくれたり動いている様子はない。
そして何より、紗妃は普通に寝ていた。
となると、この音は…?
そうしている間にも、音は暗闇の中から聞こえてくる。
しかも、何やらだんだんと紗妃のベッドに近づいている。
一体、何だろう?
…まさか、樹か。
暗闇に紛れて、紗妃に邪なコトをしようとしてるのか。
あいつの性格を考えれば、あり得ない事ではない。
真相を確かめるためにも、火球を浮かべて明かりを灯す。
すると、そこには奇妙な生物がいた。
黒っぽい肌で、耳はとがっていて、目は黄色い、人に似た顔をしていた。
なんだか、悪魔のようにも見える。
火球に照らされたそいつは俺の方に目線を移してきて、俺が跳ね起きると、そいつは闇の中へ姿を消した。
「あっ…!逃がすか!」
思わず声を上げると、紗妃が目を覚ました。
「ん…姜芽?何?どうしたの?」
「あ、起こしちまったか…いや、今君のベッドの近くに変なものがいてな…」
「変なもの…?」
「ああ。何と言うか…獣と人をくっつけたみたいな顔のやつだ。まるで悪魔みたいな感じの…」
すると、紗妃は目をぱっちり開けた。
「それ、どこに行った!?」
「え!?あ、えっと…照らしたらこっちを見てきて、俺が起きたら逃げちまった」
「ええ…まあ、仕方ないわ。とにかく、早めに見つけて始末しないと!」
「始末…ってことは、やっぱり異形なのか?」
「異形ならまだいいけど…アンデッドの可能性もある」
「アンデッド…?」
何故か妙に馴染みを感じる言葉だった。
「そう…不死者とも言うわね。この世界に昔から存在する、人々のもう一つの敵。死んだものが邪悪な力で蘇った、異形とは別の怪物。それがアンデッドよ」
「つまり、生きた屍ってことか」
「まあそうね。奴らはいくつかの大まかな種類に分けれるんだけど…たぶん、あんたが見たのはメルエール…理性のない低級の吸血鬼だと思う」
「低級の…なら、弱いのか?」
「経験がある奴からすればね。アンデッドとやり合った事ない奴からすれば、それなりに手強い相手よ」
「なら、みんな起こして探すか」
「その必要はない。人数が多いと警戒されるし、逆に足手まといになる。ここは、私達だけで行こう」
「…わかった。でも、あいつはどこに行ったんだろう?」
「それなら、薄々わかってる」
紗妃は俺の後ろを指差した。
それは俺のベッド…ではなく、なぜか開いた状態になっていた窓だった。
そうして俺達は窓から宿を抜け出し、外へと繰り出した。
当たり前だが、真っ暗で何も見えない。
「暗いな…明かりつけるか」
さっきより大きな火球を浮かべ、周りを照らし出す。
最初紗妃は眩しがったが、仕方あるまい。
しばらく歩くと、紗妃が言った。
「あれ、そう言えば姜芽は火を操る異能を持ってるんだっけ?」
「ああ。なんでだ?」
「いや、この火の玉から魔力を全然感じないから」
「そういうことか。てか、そういや紗妃の異能ってなんだ?」
「私?私はね…」
その時、前方から何かが飛びかかってきた。
それは、牙をむいて紗妃に襲い掛かった。
すると、にわかに信じられない事が起きた。
紗妃は襲撃者の顎を掴んで持ち上げ、その首を噛みちぎったのだ。
襲ってきたものは血を流し、悲鳴も上げずに力尽きた。
「ふう…」
「え、な…?」
俺が混乱していると、紗妃が説明してくれた。
「…あ、ごめんね。困惑したよね。
私、[非力]って異能を持ってて、自分に向けられた攻撃を相手にそのまま返せるの」
「反射する、ってことか?」
「そんな感じ。まあ必ずじゃないし、魔法とかは返せないけどね」
そう言いながら、紗妃はしゃがんで相手の死体を観察した。
俺もそれを見て思った…こいつは間違いなく、さっき紗妃のベッドの横にいるのを見たやつだ。
「こいつだ…俺が見たのは、こいつだ!」
「そう…やっぱり、メルエールね。でもどうして?この町にアンデッドが出てるなんて話、聞いたことないけど…」
「出る町と出ない町ってあるのか」
「ええ。それにメルエールは群れで活動するから、1体だけってのは変だわ」
紗妃は顎に手を当てて考え込んだ。
だが、俺が言いたい事は一つである。
「まず、戻って寝よう」
ベッドに潜ったはいいが、目が冴えてしまったのかなかなか寝付けない。
それは、紗妃も同じであるようだった。
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