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アレクセイの過去。

ー/ー



 アレクセイ・ミハイルヴィチ・クラシコフは、暖炉の前でロッキングチェアに座りながら窓の外に映る白と黒のコントラストを見ていた。
 外は猛吹雪になっていて、横殴りの雪と風がアレクセイの住む小屋を襲い、窓をガタガタと揺らす。
 そんな光景を見ながら、ずずっと温かなコーンのスープを一口啜り、木製のテーブルの上へカップを置く。そして、一つだけ小さくため息を吐いた。
 アレクセイは連日の吹雪に気が滅入っていた。この猛吹雪は今日で二日目に突入している。外に出て仕事をしたいのだが、この吹雪ではそうもいかない。家でじっとしているのは彼の性に合っておらず、ただ時間を過ぎるのを待つことが彼にとっては憂鬱でしかなかった。
 それに、家にじっといると彼の頭は嫌な妄想に取りつかれてしまう。このまま吹雪が止まなければ、俺は誰にも見つからず一人で死ぬのだろうか。そのまま朽ちてしまったとしても誰も気付かない。自分は世界から弾かれた存在なのだ。など、色々な妄想が彼の頭の中に浮かんでは消えていく。そして、段々と自分が何を考えているのかわからなくなっていくのだ。体を動かすことで、アレクセイは頭の中を空っぽにすることができて、その時間だけが彼の幸せだった。
 ぱちり、と薪が弾ける音にアレクセイはハッと我に返った。アレクセイはどれくらい時間が経ったかを無意識の内に確認しようとして、小屋に時計がないことを思い出す。アレクセイは、都会から抜け出し山奥に住み始めてからもう五年も経つが、都会に住んでいた時の癖を時折見せることがあった。
 彼は、この小屋に住み始めてから、時間という概念を捨てるために時計を持たないことにしていた。太陽が昇るのと共に目覚め、太陽が沈むのと共に家へと帰ってくる。そんな生活をずっとしている彼は、自身が自然と一心同体になった気がして嬉しくなれたのだ。
 彼は、都会に住んでいる時から、ずっと自然と共にありたいと考えていた。そして、ある日をきっかけに、逃げるように山に住み始めたのである。

 ぱちり、ぱちり、と暖炉から定期的に聞こえてくる音に、アレクセイは眠気を覚えてゆっくりと瞼を閉じ、そのまま眠りに落ちた。
 アレクセイは夢を見る。それは、昔の夢だ。彼は、氷の上で要請が踊るように滑っている。彼の見せる軽やかな足取りはファンを魅了させる。指の先まで芯の入ったかのような踊りにファンの目は釘付けになる。彼は、スケート界でも大人気の選手だった。
 彼がスケートを辞めたのは、それが段々自分の望んでいる物ではなくなってきたからだった。元々は氷と触れ合うのが目的だったのに、コーチが望んできたのは、他人よりも強くなることだった。元々、他人と競争をするのが嫌いだったアレクセイは、段々自分が何をやっているのかわからなくなり、心を病んだ。自分の心と体が乖離してしまったかのような感覚を覚えてしまったのだ。
 そして、彼は氷の上を滑ることができなくなった。滑ろうとしても、体が拒絶する。やがて氷の上で立つことすらままならなくなり、逃げるようにスケート界を去った。そのまま、彼は死のうと思い山奥に行き、自然の壮大さに触れて、自然と共に生きることに決めた。
 まだ三十にも満たない年齢のアレクセイだが、彼の目には光がなく、まるでもう人生を終えてしまったかのような悲哀を体の端々から醸し出している。
 彼には目指すべき目標が無く、これから延々と生きているか死んでいるかわからない時間を過ごすだけだ。そこに生きる意味はあるのかと彼は考えてしまった。そして、考えれば考えるほどに、自分という魂が段々と暗闇の中に落ちていくうに思えて、いつしか考えるのを止めた。
 こうして、アレクセイはいつ死んでもいいと思える人生を過ごすこととなったのだった。


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 アレクセイ・ミハイルヴィチ・クラシコフは、暖炉の前でロッキングチェアに座りながら窓の外に映る白と黒のコントラストを見ていた。
 外は猛吹雪になっていて、横殴りの雪と風がアレクセイの住む小屋を襲い、窓をガタガタと揺らす。
 そんな光景を見ながら、ずずっと温かなコーンのスープを一口啜り、木製のテーブルの上へカップを置く。そして、一つだけ小さくため息を吐いた。
 アレクセイは連日の吹雪に気が滅入っていた。この猛吹雪は今日で二日目に突入している。外に出て仕事をしたいのだが、この吹雪ではそうもいかない。家でじっとしているのは彼の性に合っておらず、ただ時間を過ぎるのを待つことが彼にとっては憂鬱でしかなかった。
 それに、家にじっといると彼の頭は嫌な妄想に取りつかれてしまう。このまま吹雪が止まなければ、俺は誰にも見つからず一人で死ぬのだろうか。そのまま朽ちてしまったとしても誰も気付かない。自分は世界から弾かれた存在なのだ。など、色々な妄想が彼の頭の中に浮かんでは消えていく。そして、段々と自分が何を考えているのかわからなくなっていくのだ。体を動かすことで、アレクセイは頭の中を空っぽにすることができて、その時間だけが彼の幸せだった。
 ぱちり、と薪が弾ける音にアレクセイはハッと我に返った。アレクセイはどれくらい時間が経ったかを無意識の内に確認しようとして、小屋に時計がないことを思い出す。アレクセイは、都会から抜け出し山奥に住み始めてからもう五年も経つが、都会に住んでいた時の癖を時折見せることがあった。
 彼は、この小屋に住み始めてから、時間という概念を捨てるために時計を持たないことにしていた。太陽が昇るのと共に目覚め、太陽が沈むのと共に家へと帰ってくる。そんな生活をずっとしている彼は、自身が自然と一心同体になった気がして嬉しくなれたのだ。
 彼は、都会に住んでいる時から、ずっと自然と共にありたいと考えていた。そして、ある日をきっかけに、逃げるように山に住み始めたのである。
 ぱちり、ぱちり、と暖炉から定期的に聞こえてくる音に、アレクセイは眠気を覚えてゆっくりと瞼を閉じ、そのまま眠りに落ちた。
 アレクセイは夢を見る。それは、昔の夢だ。彼は、氷の上で要請が踊るように滑っている。彼の見せる軽やかな足取りはファンを魅了させる。指の先まで芯の入ったかのような踊りにファンの目は釘付けになる。彼は、スケート界でも大人気の選手だった。
 彼がスケートを辞めたのは、それが段々自分の望んでいる物ではなくなってきたからだった。元々は氷と触れ合うのが目的だったのに、コーチが望んできたのは、他人よりも強くなることだった。元々、他人と競争をするのが嫌いだったアレクセイは、段々自分が何をやっているのかわからなくなり、心を病んだ。自分の心と体が乖離してしまったかのような感覚を覚えてしまったのだ。
 そして、彼は氷の上を滑ることができなくなった。滑ろうとしても、体が拒絶する。やがて氷の上で立つことすらままならなくなり、逃げるようにスケート界を去った。そのまま、彼は死のうと思い山奥に行き、自然の壮大さに触れて、自然と共に生きることに決めた。
 まだ三十にも満たない年齢のアレクセイだが、彼の目には光がなく、まるでもう人生を終えてしまったかのような悲哀を体の端々から醸し出している。
 彼には目指すべき目標が無く、これから延々と生きているか死んでいるかわからない時間を過ごすだけだ。そこに生きる意味はあるのかと彼は考えてしまった。そして、考えれば考えるほどに、自分という魂が段々と暗闇の中に落ちていくうに思えて、いつしか考えるのを止めた。
 こうして、アレクセイはいつ死んでもいいと思える人生を過ごすこととなったのだった。