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ー/ー



「桔平くん観察です」
「……夏休みの宿題?」
「うん」
「ちゃんと観察日記つけておけよ。複雑な生き物だからな」
「いえっさー!」

 そんな感じで桔平くんを観察しつつ帰宅すると、その直後に天気が急変。長岡さんの予報通り、雷雨になる。当然私はいつものように、桔平くんに抱きついてガタガタ震えていた。結局は自分がしてもらいたことばかり、甘えてばかり。

 これじゃダメだと思って、雷が止んだあとは、ご飯を作りながら桔平くんの観察を再開した。

 読書用のひとりがけソファで、難しそうな洋書を読んでいる。スラスラ読めるの、本当にすごいなぁ。ていうか相変わらずページをめくるスピードが早すぎるし。あ、立ち上がった。

 わたしは慌ててコップにお水を注いで、桔平くんに駆け寄る。

「いま、お水を飲もうかなって思った?」
「うん」
「はいっ! どうぞ!」
「あぁ、ありがとう」

 桔平くんは少し面食らった表情でコップを受け取って、ゴクゴクと飲んでくれた。水を飲む姿もかっこいいなぁ。はぁ、大好き……いや、そうじゃなくて。見惚れていたらダメなの。ちゃんと観察しなくちゃ。

 そのあとも桔平くんの動きをよく見て先回りしようとしたけれど、なかなか上手くいかない。ドレッシングを取りたいのかと思ったら、マヨネーズだったし。テレビのリモコンを取ろうとしているのかと思ったら、エアコンのリモコンだったし。

 そんな感じで、若干空回り気味なまま時間が過ぎていった。

「どうしたわけ、今日は」

 桔平くんが優しく笑いながら、私の額の汗を手で拭ってくれる。

 実はベッドでも頑張ろう……なんて柄にもないことを思ってしまったわけですが、未熟な私が桔平くんを満足させられるわけもなく。結局いつも通りというか、なんというか。つまり、そういうことだったのでした。

「七海ちゃんとヨネに、変なこと吹き込まれたんじゃねぇだろうな」
「そんなことないけど……なんていうか……桔平くんがしてほしいことってなにかなぁって思って」
「……とりあえずいまは、愛茉と風呂入りてぇな」
「溜めてきますっ」

 起き上がろうと思ったけれど、体に力が入らない。

「いいよ。オレが溜めてくるから」
「お願いします……あ、ヨネちゃんから貰ったバスミルク入れてね。クナイプのやつ」
「はいよ」
「泡のだから、ほんの少しお湯溜めたあとに入れてね」
「はいよ」
 
 お風呂が溜まるまでの間、桔平くんがタオルとか私のパジャマとか用意してくれた。これじゃ、いつもと変わらない。ずっと甘えっぱなしじゃない。


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「桔平くん観察です」
「……夏休みの宿題?」
「うん」
「ちゃんと観察日記つけておけよ。複雑な生き物だからな」
「いえっさー!」
 そんな感じで桔平くんを観察しつつ帰宅すると、その直後に天気が急変。長岡さんの予報通り、雷雨になる。当然私はいつものように、桔平くんに抱きついてガタガタ震えていた。結局は自分がしてもらいたことばかり、甘えてばかり。
 これじゃダメだと思って、雷が止んだあとは、ご飯を作りながら桔平くんの観察を再開した。
 読書用のひとりがけソファで、難しそうな洋書を読んでいる。スラスラ読めるの、本当にすごいなぁ。ていうか相変わらずページをめくるスピードが早すぎるし。あ、立ち上がった。
 わたしは慌ててコップにお水を注いで、桔平くんに駆け寄る。
「いま、お水を飲もうかなって思った?」
「うん」
「はいっ! どうぞ!」
「あぁ、ありがとう」
 桔平くんは少し面食らった表情でコップを受け取って、ゴクゴクと飲んでくれた。水を飲む姿もかっこいいなぁ。はぁ、大好き……いや、そうじゃなくて。見惚れていたらダメなの。ちゃんと観察しなくちゃ。
 そのあとも桔平くんの動きをよく見て先回りしようとしたけれど、なかなか上手くいかない。ドレッシングを取りたいのかと思ったら、マヨネーズだったし。テレビのリモコンを取ろうとしているのかと思ったら、エアコンのリモコンだったし。
 そんな感じで、若干空回り気味なまま時間が過ぎていった。
「どうしたわけ、今日は」
 桔平くんが優しく笑いながら、私の額の汗を手で拭ってくれる。
 実はベッドでも頑張ろう……なんて柄にもないことを思ってしまったわけですが、未熟な私が桔平くんを満足させられるわけもなく。結局いつも通りというか、なんというか。つまり、そういうことだったのでした。
「七海ちゃんとヨネに、変なこと吹き込まれたんじゃねぇだろうな」
「そんなことないけど……なんていうか……桔平くんがしてほしいことってなにかなぁって思って」
「……とりあえずいまは、愛茉と風呂入りてぇな」
「溜めてきますっ」
 起き上がろうと思ったけれど、体に力が入らない。
「いいよ。オレが溜めてくるから」
「お願いします……あ、ヨネちゃんから貰ったバスミルク入れてね。クナイプのやつ」
「はいよ」
「泡のだから、ほんの少しお湯溜めたあとに入れてね」
「はいよ」
 お風呂が溜まるまでの間、桔平くんがタオルとか私のパジャマとか用意してくれた。これじゃ、いつもと変わらない。ずっと甘えっぱなしじゃない。