商談20 剣道居酒屋四恩
ー/ー
俺達は四恩へ入店することにした。扉は引き戸で、外観に似合わず内装は和風建築を思わせる。扉を開けるや否や、島津は玄関前で立ち止まると一礼し始めた。
「失礼します!」
え? どうして居酒屋へ入店するのに一礼するんだ? しかし、この光景はどこか懐かしく思えた。
「入間、お前忘れたのか? 道場へ入るときは必ず一礼してただろう?」
......そうだ、この光景は剣道場へ入るときの光景だ! 剣道経験者なら共感すると思うが、道場へ入室する際の一礼は見慣れた光景だったと思う。これは、礼節を重んじる武道というスポーツならではのマナーだ。
けれどここは居酒屋。どうして入店への一礼が必要なのだろう? 俺は疑問を抱きながらも、入店前に一礼した。
入店すると、その理由もなんとなく理解できた。玄関で靴を脱ぎ、框を上がる。その瞬間、俺は足先から直感した。床はスプリングが利いていて、踏み込みにはもってこい。これ、正に剣道場の床そのものじゃないか!? 考えるよりも先に、左足が勝手に踏み込みをしていた。
「おいおい入間。いくら懐かしいからって、踏み込みで店の床をぶち抜くなよ?」
笑いながら島津は言う。今となっては笑い話だが、高校時代の遠征先で道場がオンボロだったことがあってな。どういうわけか、俺の踏み込みでその道場の床をぶち抜いてしまったんだ! おそらく、建物がかなり老朽化していたのだろう。そのせいで、急遽試合会場を剣道場から体育館へ変更。あの体育館は床が硬かったから、後で足が痛くなったことを覚えている。
二人で他愛のない会話をしていると、店の奥から店員が猛ダッシュで駆けてきた。おいおい、ここは剣道場じゃないんだぞ!?
「先輩! お待ちしておりました!!」
......え? 意味が分からない。店員は、まるで俺達が剣道場のOBであるかのような対応をしている。困惑を隠せない俺を尻目に、島津は慣れた様子で店員と会話している。
「高橋、道場は空いているか?」
島津は意味不明なことを言っている。果たして、この居酒屋のどこに剣道場があるのだろうか? 俺は理解が追い付かず、思考回路はショート寸前だ。
「はい、今から準備しますね!」
よく見ると、彼の服装は剣道着に袴。前掛けは、胴と垂れがひとつなぎになったようなものを身に着けている。胴部分は硬質プラスチックで作られているらしく、そのまま実戦に転用できそうだ。垂れ部分にはゼッケンが装着されており、ゼッケンには『生徒 高橋』と書かれている。
服装や接客などの演出から、店として剣道場の再現度は非常に高い。どちらかといえば、スポーツバーよりもコンセプト居酒屋に近いかもしれない。
島津の要望を聞いた高橋は、即座にどこかへ駆けて行った。まさか、本当に道場があるわけではないだろうな? 俺はそう高を括っていた。
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「失礼します!」
え? どうして居酒屋へ入店するのに一礼するんだ? しかし、この光景はどこか懐かしく思えた。
「入間、お前忘れたのか? 道場へ入るときは必ず一礼してただろう?」
......そうだ、この光景は剣道場へ入るときの光景だ! 剣道経験者なら共感すると思うが、道場へ入室する際の一礼は見慣れた光景だったと思う。これは、礼節を重んじる武道というスポーツならではのマナーだ。
けれどここは居酒屋。どうして入店への一礼が必要なのだろう? 俺は疑問を抱きながらも、入店前に一礼した。
入店すると、その理由もなんとなく理解できた。玄関で靴を脱ぎ、|框《かまち》を上がる。その瞬間、俺は足先から直感した。床はスプリングが利いていて、踏み込みにはもってこい。これ、正に剣道場の床そのものじゃないか!? 考えるよりも先に、左足が勝手に踏み込みをしていた。
「おいおい入間。いくら懐かしいからって、踏み込みで店の床をぶち抜くなよ?」
笑いながら島津は言う。今となっては笑い話だが、高校時代の遠征先で道場がオンボロだったことがあってな。どういうわけか、俺の踏み込みでその道場の床をぶち抜いてしまったんだ! おそらく、建物がかなり老朽化していたのだろう。そのせいで、急遽試合会場を剣道場から体育館へ変更。あの体育館は床が硬かったから、後で足が痛くなったことを覚えている。
二人で他愛のない会話をしていると、店の奥から店員が猛ダッシュで駆けてきた。おいおい、ここは剣道場じゃないんだぞ!?
「先輩! お待ちしておりました!!」
......え? 意味が分からない。店員は、まるで俺達が剣道場のOBであるかのような対応をしている。困惑を隠せない俺を尻目に、島津は慣れた様子で店員と会話している。
「高橋、道場は空いているか?」
島津は意味不明なことを言っている。果たして、この居酒屋のどこに剣道場があるのだろうか? 俺は理解が追い付かず、思考回路はショート寸前だ。
「はい、今から準備しますね!」
よく見ると、彼の服装は剣道着に袴。前掛けは、胴と垂れがひとつなぎになったようなものを身に着けている。胴部分は硬質プラスチックで作られているらしく、そのまま実戦に転用できそうだ。垂れ部分には|ゼッケン《垂れネーム》が装着されており、ゼッケンには『生徒 高橋』と書かれている。
服装や接客などの演出から、店として剣道場の再現度は非常に高い。どちらかといえば、スポーツバーよりもコンセプト居酒屋に近いかもしれない。
島津の要望を聞いた高橋は、即座にどこかへ駆けて行った。まさか、本当に道場があるわけではないだろうな? 俺はそう高を括っていた。