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「あたしにとっての絵の基礎は、描きたいと思う気持ちです! あたしが描きたい絵は、明確なテーマのもとで自分の頭に浮かんだ抽象的なイメージです! そして、それにデッサン力は必要ありません!」

 相変わらず大きな声で、一気に言い切る。表情には一切迷いがない。

「でも、デッサンもちゃんとやります。だっていまの高校を卒業して、藝大に行きたいって目標ができたから。そのためには、デッサンでもちゃんと評価がもらえるようにならなきゃいけないし。あたしが描く絵にデッサン力は必要ない。だけど、あたしの目標のためには必要です」

 最初から、頭の回転が速い子だとは思っていた。高1でここまで考えて自分の言葉で伝えられるのは、素直に凄いと感じる。これは間違いなく、彩ちゃん自身が必死に考えて出した答えだ。なんの枠にも囚われていない、無垢なままの答え。

 オレが無言で頷くと、彩ちゃんは不安そうな目を向けてきた。

「あ、あたしの答え、間違っていますか?」
「最初から正誤判定をするつもりはねぇよ。彩ちゃんがそう思うなら、その答えを正解にするために、なにをすべきか考えたらいい。選んだことに意味や価値を見出せるかどうかは、自分次第だからな」

 とやかく言う権利は、オレにはない。正解かどうか決められるのは自分自身だけ。オレにできるのは、少しだけ背中を押してやることぐらいだ。

「失敗したっていいんだよ。違っていたと思えば、そのときにまた考え直せばいい。『こうじゃなきゃいけない』なんてものは、なにひとつねぇんだから。ましてや芸術の世界の正解は、人の数だけある。大事なのは、周りが押しつける正解に惑わされないこと。自分の目で見て頭で考えて、何度も失敗を繰り返しながら、唯一無二の正解へ辿り着こうとすること」

 これは誰に向けた言葉なのか。まるでもうひとりの自分がオレに話しているような、不思議な感覚に陥った。

 オレにとっての「唯一無二の正解」とは、なんなのだろう。そう簡単に辿り着けるものではないことだけは分かっている。しかし、だからこそ人生をかけて追求していく価値があるのだと思う。

 これから自分の足で立とうとしているこの若き画家にも、自分にしか辿り着けない場所が必ずあるはずだ。

「彩ちゃんなら大丈夫。上野で待っているよ」

 自分の口から、こんな言葉が出るとは思ってもみなかった。愛茉の影響かもしれないな。

「うぅあぁ……あ、ありがとうございます……」

 赤いメガネの向こうの瞳が、みるみる潤んでいく。そして彩ちゃんは、顔をくしゃくしゃにしながら鼻をすすった。その顔は、やはりまだあどけない。


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「あたしにとっての絵の基礎は、描きたいと思う気持ちです! あたしが描きたい絵は、明確なテーマのもとで自分の頭に浮かんだ抽象的なイメージです! そして、それにデッサン力は必要ありません!」
 相変わらず大きな声で、一気に言い切る。表情には一切迷いがない。
「でも、デッサンもちゃんとやります。だっていまの高校を卒業して、藝大に行きたいって目標ができたから。そのためには、デッサンでもちゃんと評価がもらえるようにならなきゃいけないし。あたしが描く絵にデッサン力は必要ない。だけど、あたしの目標のためには必要です」
 最初から、頭の回転が速い子だとは思っていた。高1でここまで考えて自分の言葉で伝えられるのは、素直に凄いと感じる。これは間違いなく、彩ちゃん自身が必死に考えて出した答えだ。なんの枠にも囚われていない、無垢なままの答え。
 オレが無言で頷くと、彩ちゃんは不安そうな目を向けてきた。
「あ、あたしの答え、間違っていますか?」
「最初から正誤判定をするつもりはねぇよ。彩ちゃんがそう思うなら、その答えを正解にするために、なにをすべきか考えたらいい。選んだことに意味や価値を見出せるかどうかは、自分次第だからな」
 とやかく言う権利は、オレにはない。正解かどうか決められるのは自分自身だけ。オレにできるのは、少しだけ背中を押してやることぐらいだ。
「失敗したっていいんだよ。違っていたと思えば、そのときにまた考え直せばいい。『こうじゃなきゃいけない』なんてものは、なにひとつねぇんだから。ましてや芸術の世界の正解は、人の数だけある。大事なのは、周りが押しつける正解に惑わされないこと。自分の目で見て頭で考えて、何度も失敗を繰り返しながら、唯一無二の正解へ辿り着こうとすること」
 これは誰に向けた言葉なのか。まるでもうひとりの自分がオレに話しているような、不思議な感覚に陥った。
 オレにとっての「唯一無二の正解」とは、なんなのだろう。そう簡単に辿り着けるものではないことだけは分かっている。しかし、だからこそ人生をかけて追求していく価値があるのだと思う。
 これから自分の足で立とうとしているこの若き画家にも、自分にしか辿り着けない場所が必ずあるはずだ。
「彩ちゃんなら大丈夫。上野で待っているよ」
 自分の口から、こんな言葉が出るとは思ってもみなかった。愛茉の影響かもしれないな。
「うぅあぁ……あ、ありがとうございます……」
 赤いメガネの向こうの瞳が、みるみる潤んでいく。そして彩ちゃんは、顔をくしゃくしゃにしながら鼻をすすった。その顔は、やはりまだあどけない。