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6.burattinaio

ー/ー



6

 革靴の靴底が鳴らしていた床の反響が静止する。社員食堂の蛍光灯の下で、ダリオのシルエットがくっきりと浮かび上がっていた。
 
「薄々感づいていたんだろう、早い段階で」
 
 真智はダリオの目を見て、にやりと笑いながら答える。
 
「そうね、あなたが裏に居る事もなんとなくっ――」
 
 そういうと同時に、ダリオの懐めがけて真智が突っ込んだ。しかし、ダリオの動きは真智のそれを上回っていた。15年前と変わらない、いや、より洗練された動きだった。
 
 ふんっとダリオの鼻息交じりの声が漏れる。いつの間にか真智のこめかみに銃口が突き付けられていた。
 
「わかったわ降参よ」
 
ダリオはふっと笑顔を浮かべて銃を降ろす。その表情には、かつての影が残っていた。
 
「座るか」
 
 ダリオは真智を社員食堂の窓際の席へと案内した。東京の街並みが一望できる特等席。この景色を毎日見ている男。つまり――
 
「あなたがこの会社の社長だったのね」
「ご名答」
 
 ダリオは窓の外を見つめながら、ゆっくりとコーヒーを啜った。
 
「15年前、あの事件の後、私は決意したんだ。銀を、そして火劉を、内部から崩壊させることを」
 
 真智は無言で自分の右手を見つめる。精巧な義手が、蛍光灯の下で冷たく光っていた。
 
「あの夜のことは覚えているか?」
「ええ、忘れられるわけないでしょう」
 
 15年前、若かった二人は銀の有望な戦力として、ある任務を任されていた。火劉との取引現場の監視。しかし、その任務は罠だった。
 
「私たちは、銀によって消される予定だったんだ」
 ダリオの言葉に、真智の瞳が僅かに揺れる。
 
「火劉との接触を装って、二人を抹消する。それが銀の計画だった。そして、その裏で火劉は着々と力を蓄えていた」
 ダリオは自分の頬の傷跡に触れる。その夜の銃撃戦で負った傷。真智の右手が失われたのも、その時だった。
「でも、なぜ? 私たちは銀の……」
「我々は知りすぎていた。『COLORS』の真の力を」
 
 窓の外で、夕陽が沈みかけていた。
 
「COLORSは単なるカードゲームじゃない。現実を歪める力を持つ、禁忌の道具だ。そして、その力の源は――」
 
 ダリオの言葉が途切れた瞬間、真智の脳裏に閃光が走る。あの夜見た光景、右手を失う直前、目にした異様な現象。カードが放った光は、現実そのものを溶かしていくようだった。
 
「15年かけて、私は這い上がってきた。表の顔は実業家、IT企業の社長。裏では火劉の内部に潜り込み、そして銀の動きを監視してきた」
 
 真智はダリオの言葉を静かに聞きながら、彼の変貌を目の当たりにしていた。かつての同僚は、今や巨大な策略の指揮者となっていた。
 
「今回の件も、その一環というわけね」
「ああ。銀に不正の情報をリークし、君を誘い出す。その隙に、私の部下たちが銀の内部に潜入。『例の情報』を持ち出すことに成功した」
「例の情報?」
 
ダリオはポケットからCOLORSのカードを一枚取り出す。それは真智が見たことのない、漆黒の光を放つカードだった。
「COLORSの起源に関する記録だ。なぜこのカードが現実を歪める力を持つのか。そして、なぜ銀と火劉が血で血を洗う争いを続けているのか」
 
 ダリオはカードを真智に差し出した。その瞬間、彼女の義手が微かに反応する。まるで、カードに呼応するように。
 
「気付いているだろう? 君の右手、あれは単なる事故じゃない。銀は君の右手を、実験台として使おうとしていた」
 
 真智は息を呑む。これまで違和感を覚えていた事の全てが、一つの答えに収束していく。なぜ義手が時々COLORSに反応するのか。なぜ「時」というAIが自分の右手について言及したのか。
 
「火劉が開発していた技術を、銀が強奪した。人体にCOLORSの力を組み込む禁忌の研究。そして、その実験台として選ばれたのが、私たち二人だった」
 ダリオの声には、15年分の憎悪が滲んでいた。
 
「でも、あなたは生き延びた。そして、ここまで」
「ああ。表の世界で成功を収めながら、裏で情報を集め、人脈を作り、組織を作った。全ては、あの夜の復讐のために」
 
 窓の外は既に夜。東京の夜景が、二人の影を淡く照らしている。
 
「そして、ついに動く時が来た。銀を、そして火劉を、内部から崩壊させる。君の右手は、その鍵となる」
 
 真智は自分の義手を見つめる。この15年間、常に違和感を感じていた義手。それは単なる代替品ではなく、もっと深い意味を持つものだったのだ。
 
 「でも、なぜ今になって私に話すの?」
 
 真智の問いに、ダリオは静かに目を閉じた。
 
「近々、私は死ぬことになる」
 
 その言葉に、真智の心臓が一拍止まる。
 
「何を...」
「銀の内部に潜入した私の部下たちは、既に全員が消されている。次は私の番だ。だから君に全てを託したい」
 ダリオはもう一枚のカードを取り出した。それは先ほどの漆黒のカードとは違い、深い紅色を帯びている。
「これが、全ての記録だ。COLORSの真実、銀と火劉の関係、そして...君の右手の秘密」
 真智がカードに手を伸ばした時、ダリオは続けた。
 
「ただし、このカードを受け取るなら、君は選択を迫られることになる」
「選択?」
「ああ。復讐を継ぐか、それとも...」
 
 その時、廊下から足音が聞こえてきた。
「時間だ」
 
 ダリオは立ち上がり、真智にカードを渡すと、闇の中へと消えていった。
 
 ***現在***
 真智は深いため息をつきながら、ベッドの中で天井を見つめている。あの日から3ヶ月。ダリオの死、招待状の到着、そして今。
 彼女は左手で義手に触れた。この腕の中に眠る秘密が、これからの運命を決めることになる。
 窓の外では、東京の夜景が煌めいていた。その光は、まるでCOLORSのカードのように、不気味な輝きを放っていた。



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「薄々感づいていたんだろう、早い段階で」
 真智はダリオの目を見て、にやりと笑いながら答える。
「そうね、あなたが裏に居る事もなんとなくっ――」
 そういうと同時に、ダリオの懐めがけて真智が突っ込んだ。しかし、ダリオの動きは真智のそれを上回っていた。15年前と変わらない、いや、より洗練された動きだった。
 ふんっとダリオの鼻息交じりの声が漏れる。いつの間にか真智のこめかみに銃口が突き付けられていた。
「わかったわ降参よ」
ダリオはふっと笑顔を浮かべて銃を降ろす。その表情には、かつての影が残っていた。
「座るか」
 ダリオは真智を社員食堂の窓際の席へと案内した。東京の街並みが一望できる特等席。この景色を毎日見ている男。つまり――
「あなたがこの会社の社長だったのね」
「ご名答」
 ダリオは窓の外を見つめながら、ゆっくりとコーヒーを啜った。
「15年前、あの事件の後、私は決意したんだ。銀を、そして火劉を、内部から崩壊させることを」
 真智は無言で自分の右手を見つめる。精巧な義手が、蛍光灯の下で冷たく光っていた。
「あの夜のことは覚えているか?」
「ええ、忘れられるわけないでしょう」
 15年前、若かった二人は銀の有望な戦力として、ある任務を任されていた。火劉との取引現場の監視。しかし、その任務は罠だった。
「私たちは、銀によって消される予定だったんだ」
 ダリオの言葉に、真智の瞳が僅かに揺れる。
「火劉との接触を装って、二人を抹消する。それが銀の計画だった。そして、その裏で火劉は着々と力を蓄えていた」
 ダリオは自分の頬の傷跡に触れる。その夜の銃撃戦で負った傷。真智の右手が失われたのも、その時だった。
「でも、なぜ? 私たちは銀の……」
「我々は知りすぎていた。『COLORS』の真の力を」
 窓の外で、夕陽が沈みかけていた。
「COLORSは単なるカードゲームじゃない。現実を歪める力を持つ、禁忌の道具だ。そして、その力の源は――」
 ダリオの言葉が途切れた瞬間、真智の脳裏に閃光が走る。あの夜見た光景、右手を失う直前、目にした異様な現象。カードが放った光は、現実そのものを溶かしていくようだった。
「15年かけて、私は這い上がってきた。表の顔は実業家、IT企業の社長。裏では火劉の内部に潜り込み、そして銀の動きを監視してきた」
 真智はダリオの言葉を静かに聞きながら、彼の変貌を目の当たりにしていた。かつての同僚は、今や巨大な策略の指揮者となっていた。
「今回の件も、その一環というわけね」
「ああ。銀に不正の情報をリークし、君を誘い出す。その隙に、私の部下たちが銀の内部に潜入。『例の情報』を持ち出すことに成功した」
「例の情報?」
ダリオはポケットからCOLORSのカードを一枚取り出す。それは真智が見たことのない、漆黒の光を放つカードだった。
「COLORSの起源に関する記録だ。なぜこのカードが現実を歪める力を持つのか。そして、なぜ銀と火劉が血で血を洗う争いを続けているのか」
 ダリオはカードを真智に差し出した。その瞬間、彼女の義手が微かに反応する。まるで、カードに呼応するように。
「気付いているだろう? 君の右手、あれは単なる事故じゃない。銀は君の右手を、実験台として使おうとしていた」
 真智は息を呑む。これまで違和感を覚えていた事の全てが、一つの答えに収束していく。なぜ義手が時々COLORSに反応するのか。なぜ「時」というAIが自分の右手について言及したのか。
「火劉が開発していた技術を、銀が強奪した。人体にCOLORSの力を組み込む禁忌の研究。そして、その実験台として選ばれたのが、私たち二人だった」
 ダリオの声には、15年分の憎悪が滲んでいた。
「でも、あなたは生き延びた。そして、ここまで」
「ああ。表の世界で成功を収めながら、裏で情報を集め、人脈を作り、組織を作った。全ては、あの夜の復讐のために」
 窓の外は既に夜。東京の夜景が、二人の影を淡く照らしている。
「そして、ついに動く時が来た。銀を、そして火劉を、内部から崩壊させる。君の右手は、その鍵となる」
 真智は自分の義手を見つめる。この15年間、常に違和感を感じていた義手。それは単なる代替品ではなく、もっと深い意味を持つものだったのだ。
 「でも、なぜ今になって私に話すの?」
 真智の問いに、ダリオは静かに目を閉じた。
「近々、私は死ぬことになる」
 その言葉に、真智の心臓が一拍止まる。
「何を...」
「銀の内部に潜入した私の部下たちは、既に全員が消されている。次は私の番だ。だから君に全てを託したい」
 ダリオはもう一枚のカードを取り出した。それは先ほどの漆黒のカードとは違い、深い紅色を帯びている。
「これが、全ての記録だ。COLORSの真実、銀と火劉の関係、そして...君の右手の秘密」
 真智がカードに手を伸ばした時、ダリオは続けた。
「ただし、このカードを受け取るなら、君は選択を迫られることになる」
「選択?」
「ああ。復讐を継ぐか、それとも...」
 その時、廊下から足音が聞こえてきた。
「時間だ」
 ダリオは立ち上がり、真智にカードを渡すと、闇の中へと消えていった。
 ***現在***
 真智は深いため息をつきながら、ベッドの中で天井を見つめている。あの日から3ヶ月。ダリオの死、招待状の到着、そして今。
 彼女は左手で義手に触れた。この腕の中に眠る秘密が、これからの運命を決めることになる。
 窓の外では、東京の夜景が煌めいていた。その光は、まるでCOLORSのカードのように、不気味な輝きを放っていた。