過去の清算
ー/ー「じゃあ、翔ちゃんは”いつもの”で、いいんだよね?」
とウインクをする、マスター。
いつものとは、ナポリタン大盛りと、食後にコーヒーということだ。
「私は、どうしようかなぁ……」
綾さんはメニュー表を開いて、迷っている。
それに対して、隣りで座っている航太は腕を組んで、まぶたを閉じていた。
不機嫌そうだな……。一体、どうしたんだ?
「航太、お前はどうするんだ?」
俺がそう問いかけると、片方のまぶただけを開く。
「おっさんこそ、”いつもの”って何を頼んだの?」
「え? ああ、俺はナポリタンの大盛りさ」
「そ、そう……あの、じゃあオレも同じやつをお願いします」
なんだ? 俺と同じものを頼みたかったけど、分からなくて怒っていたのか。
マスターが航太の注文を聞いて、目を丸くする。
「坊や、大丈夫かい? うちの大盛りは大学生向けにしてあるよ?」
「だ、大丈夫だよ! オレだって男だし、中学生だぜ!」
「はははっ! そうかそうか、じゃあたくさん入れてあげようね」
「え……」
航太の虚勢が裏目に出たな。
まあ、頑張ってもらうしかないだろう。
しかし、母親の綾さんは、未だにメニュー表を見て迷っている。
「う~ん。ドリアも良いけど、グラタンも捨てがたいわぁ~ 黒崎さん、どれがおすすめですか?」
「ああ……カレードリアでいいんじゃないですか?」
正直、綾さんのメニューを考えるのは面倒だった。
「じゃあ、私はそれを一つお願いします。あとは……デザートね」
「……」
このあと、デザートが決まるまで20分ぐらいかかった。
※
「おいしぃ~!」
「あ、本当だ」
どうやら、美咲親子もこの店が気に入ったようだ。
腹が減っていた俺は、既に食べ終わって、タバコを楽しんでいる。
吸いながら、目の前にいる綾さんと航太を眺めていると、変な錯覚を覚えてしまう。
傍から見れば……俺たち三人は親子に見えるかもしれないなと。
そんなことをひとりで考えていると、ジーパンのポケットに入れていたスマホのベルが鳴り始める。
ひょっとして編集部の高砂さんかな? と思って、画面を確かめると……。
かけてきた相手は、元カノの未来だった。
焦った俺は、思わず指からタバコを落としてしまう。
それに気がついた航太が、フォークの動きを止める。
「どうしたの? おっさん」
「あ、いや……ちょっと、仕事先の相手がな」
「ふ~ん、それより落としたタバコ。ちゃんと拾いなよ、火事になるぜ?」
「悪い」
地面に落としたタバコを拾って、灰皿にこすりつける。
綾さんに「仕事の電話」だと嘘を言って、店の外へ出る。
店の駐車場に出たところで、一旦深呼吸をしておく。
「もしもし?」
『あ、翔ちゃん……この前はごめんね』
久しぶりに聞いた未来の声は、弱々しく聞こえた。
「おお……俺こそ、悪かったな。色々と」
『ううん。翔ちゃんは何も悪くないよ……ところで、また会えないかな?』
「え!?」
『ダメなら、やめるけど……』
正直、今はあまり会いたくない。
ついこの前、未来といるところを航太に見られて、あんなことになってしまった。
でも……彼に見られないところなら良いかな。
例えば、ここからかなり遠い場所。
繁華街の博多駅とか、天神ぐらい。
「わかった。いいよ、いつ会う?」
『ありがと……。翔ちゃん、悪いんだけど。近所のコンビニまで来てくれる?』
「は?」
『実は、もう”藤の丸”に来てるんだよね』
未来の言う近所のコンビニとは、俺がいつも酒やつまみを買う時に利用するお店だ。
しかし、彼女が待ち合わせ場所にしているコンビニは、今いる喫茶店”ライム”の目の前にある。
お互いに気がついてないだけで、目と鼻の先で通話していた。
※
コンビニの駐車場に立って、スマホを持っている彼女を見つけた俺は、電話でこちらへ来るように促す。
喫茶店の窓から店内を確認したが、今綾さんと航太は食後のデザートを楽しんでいる。
ちょうど店からは壁で死角になっているから、ここで話す方が良いと思った。
「ごめん……また急に来て、翔ちゃん」
「まあ、いいさ。ところで今日の用はなんだ?」
今日の彼女は前回と違い、ひと回り小さく感じる。
化粧もしてないし、着ている服も色々とコーディネートを間違えているような……。
なんだか、学生時代の未来を見ているようだ。
「あ、あのね……この前の人。綾さんだっけ? 本当なの?」
目に涙を浮かべて、必死にこちらを見つめる。
「おい、綾さんは違うって言ったろ? あの人はただのお隣りさんだ」
「じゃあ……なんでさっき、あの人と一緒に仲良く話していたの?」
「な、何を言って……」
まだ話している途中で、未来が大声を叫んで遮る。
「私、見てたもん! マスターと、あの人と翔ちゃんが楽しそうに話しているところを!」
そう言って、窓から店内を指差す。その方向には、嬉しそうに笑う綾さんと航太が座っていた。
「未来、お前……見ていたのか?」
参ったな……、どうしよう。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「じゃあ、翔ちゃんは”いつもの”で、いいんだよね?」
とウインクをする、マスター。
いつものとは、ナポリタン大盛りと、食後にコーヒーということだ。
いつものとは、ナポリタン大盛りと、食後にコーヒーということだ。
「私は、どうしようかなぁ……」
綾さんはメニュー表を開いて、迷っている。
それに対して、隣りで座っている航太は腕を組んで、まぶたを閉じていた。
不機嫌そうだな……。一体、どうしたんだ?
それに対して、隣りで座っている航太は腕を組んで、まぶたを閉じていた。
不機嫌そうだな……。一体、どうしたんだ?
「航太、お前はどうするんだ?」
俺がそう問いかけると、片方のまぶただけを開く。
「おっさんこそ、”いつもの”って何を頼んだの?」
「え? ああ、俺はナポリタンの大盛りさ」
「そ、そう……あの、じゃあオレも同じやつをお願いします」
「え? ああ、俺はナポリタンの大盛りさ」
「そ、そう……あの、じゃあオレも同じやつをお願いします」
なんだ? 俺と同じものを頼みたかったけど、分からなくて怒っていたのか。
マスターが航太の注文を聞いて、目を丸くする。
「坊や、大丈夫かい? うちの大盛りは大学生向けにしてあるよ?」
「だ、大丈夫だよ! オレだって男だし、中学生だぜ!」
「はははっ! そうかそうか、じゃあたくさん入れてあげようね」
「え……」
「だ、大丈夫だよ! オレだって男だし、中学生だぜ!」
「はははっ! そうかそうか、じゃあたくさん入れてあげようね」
「え……」
航太の虚勢が裏目に出たな。
まあ、頑張ってもらうしかないだろう。
しかし、母親の綾さんは、未だにメニュー表を見て迷っている。
まあ、頑張ってもらうしかないだろう。
しかし、母親の綾さんは、未だにメニュー表を見て迷っている。
「う~ん。ドリアも良いけど、グラタンも捨てがたいわぁ~ 黒崎さん、どれがおすすめですか?」
「ああ……カレードリアでいいんじゃないですか?」
「ああ……カレードリアでいいんじゃないですか?」
正直、綾さんのメニューを考えるのは面倒だった。
「じゃあ、私はそれを一つお願いします。あとは……デザートね」
「……」
「……」
このあと、デザートが決まるまで20分ぐらいかかった。
※
「おいしぃ~!」
「あ、本当だ」
「あ、本当だ」
どうやら、美咲親子もこの店が気に入ったようだ。
腹が減っていた俺は、既に食べ終わって、タバコを楽しんでいる。
吸いながら、目の前にいる綾さんと航太を眺めていると、変な錯覚を覚えてしまう。
腹が減っていた俺は、既に食べ終わって、タバコを楽しんでいる。
吸いながら、目の前にいる綾さんと航太を眺めていると、変な錯覚を覚えてしまう。
傍から見れば……俺たち三人は親子に見えるかもしれないなと。
そんなことをひとりで考えていると、ジーパンのポケットに入れていたスマホのベルが鳴り始める。
ひょっとして編集部の高砂さんかな? と思って、画面を確かめると……。
かけてきた相手は、元カノの|未来《みくる》だった。
ひょっとして編集部の高砂さんかな? と思って、画面を確かめると……。
かけてきた相手は、元カノの|未来《みくる》だった。
焦った俺は、思わず指からタバコを落としてしまう。
それに気がついた航太が、フォークの動きを止める。
それに気がついた航太が、フォークの動きを止める。
「どうしたの? おっさん」
「あ、いや……ちょっと、仕事先の相手がな」
「ふ~ん、それより落としたタバコ。ちゃんと拾いなよ、火事になるぜ?」
「悪い」
「あ、いや……ちょっと、仕事先の相手がな」
「ふ~ん、それより落としたタバコ。ちゃんと拾いなよ、火事になるぜ?」
「悪い」
地面に落としたタバコを拾って、灰皿にこすりつける。
綾さんに「仕事の電話」だと嘘を言って、店の外へ出る。
店の駐車場に出たところで、一旦深呼吸をしておく。
綾さんに「仕事の電話」だと嘘を言って、店の外へ出る。
店の駐車場に出たところで、一旦深呼吸をしておく。
「もしもし?」
『あ、翔ちゃん……この前はごめんね』
『あ、翔ちゃん……この前はごめんね』
久しぶりに聞いた未来の声は、弱々しく聞こえた。
「おお……俺こそ、悪かったな。色々と」
『ううん。翔ちゃんは何も悪くないよ……ところで、また会えないかな?』
「え!?」
『ダメなら、やめるけど……』
『ううん。翔ちゃんは何も悪くないよ……ところで、また会えないかな?』
「え!?」
『ダメなら、やめるけど……』
正直、今はあまり会いたくない。
ついこの前、未来といるところを航太に見られて、あんなことになってしまった。
でも……彼に見られないところなら良いかな。
ついこの前、未来といるところを航太に見られて、あんなことになってしまった。
でも……彼に見られないところなら良いかな。
例えば、ここからかなり遠い場所。
繁華街の|博多《はかた》駅とか、|天神《てんじん》ぐらい。
繁華街の|博多《はかた》駅とか、|天神《てんじん》ぐらい。
「わかった。いいよ、いつ会う?」
『ありがと……。翔ちゃん、悪いんだけど。近所のコンビニまで来てくれる?』
「は?」
『実は、もう”|藤の丸《ふじのまる》”に来てるんだよね』
『ありがと……。翔ちゃん、悪いんだけど。近所のコンビニまで来てくれる?』
「は?」
『実は、もう”|藤の丸《ふじのまる》”に来てるんだよね』
未来の言う近所のコンビニとは、俺がいつも酒やつまみを買う時に利用するお店だ。
しかし、彼女が待ち合わせ場所にしているコンビニは、今いる喫茶店”ライム”の目の前にある。
お互いに気がついてないだけで、目と鼻の先で通話していた。
しかし、彼女が待ち合わせ場所にしているコンビニは、今いる喫茶店”ライム”の目の前にある。
お互いに気がついてないだけで、目と鼻の先で通話していた。
※
コンビニの駐車場に立って、スマホを持っている彼女を見つけた俺は、電話でこちらへ来るように促す。
喫茶店の窓から店内を確認したが、今綾さんと航太は食後のデザートを楽しんでいる。
ちょうど店からは壁で死角になっているから、ここで話す方が良いと思った。
喫茶店の窓から店内を確認したが、今綾さんと航太は食後のデザートを楽しんでいる。
ちょうど店からは壁で死角になっているから、ここで話す方が良いと思った。
「ごめん……また急に来て、翔ちゃん」
「まあ、いいさ。ところで今日の用はなんだ?」
「まあ、いいさ。ところで今日の用はなんだ?」
今日の彼女は前回と違い、ひと回り小さく感じる。
化粧もしてないし、着ている服も色々とコーディネートを間違えているような……。
なんだか、学生時代の未来を見ているようだ。
化粧もしてないし、着ている服も色々とコーディネートを間違えているような……。
なんだか、学生時代の未来を見ているようだ。
「あ、あのね……この前の人。綾さんだっけ? 本当なの?」
目に涙を浮かべて、必死にこちらを見つめる。
「おい、綾さんは違うって言ったろ? あの人はただのお隣りさんだ」
「じゃあ……なんでさっき、あの人と一緒に仲良く話していたの?」
「な、何を言って……」
「じゃあ……なんでさっき、あの人と一緒に仲良く話していたの?」
「な、何を言って……」
まだ話している途中で、未来が大声を叫んで遮る。
「私、見てたもん! マスターと、あの人と翔ちゃんが楽しそうに話しているところを!」
そう言って、窓から店内を指差す。その方向には、嬉しそうに笑う綾さんと航太が座っていた。
「未来、お前……見ていたのか?」
参ったな……、どうしよう。