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第36話 偽りの商店街会議2~迅の2度目の告白~

ー/ー



 鮮魚のはなまるの2階の会議室で宇川さんと30分くらい一緒だった。30分くらい経って宇川さんが話し始めて少し経って迅くんも来た。何かを話したいとも迅くんは言っている。

 どうしてだろう? 急にわたしは謝りたくなった。

「ごめん。迅くんと付き合うべきじゃなかった」

 そうだ、別れを告げるために謝るんだ。別に悪いことをしたわけではない。

「な……夏芽がそういうのであれば……。でも、どうして……」

 わたしはカチンときた。迅くんとてそこまで鈍感でバカではないだろう。そのまま迅くんには何も言わず、その場にお辞儀してわたしは去ろうとした。

「夏芽ちゃんも想像できるでしょう?」

 宇川さんがキャラになく丁寧でマジメな口調だ。

「何をですかね?」
「……、恋人に無言で去られる辛さを」
「えぇ、でも、彼はそれをされるに匹敵することをしたんです」

 責められている感じはしない。でも、迅くんの味方をしようとしているように感じる。

 宇川さんの奥さんが失踪した理由を知っているのは、宇川さんの奥さんがウソをついていなければ今でもわたしだけだ。

 それはただの()()だ。宇川さんの浮気じゃなくて、奥さんの浮気だ。しかも、新しくできた彼氏のもとに行くためにこの街から去ったのだ。

 なぜ、知っているかと言えば、たまたま深夜、家から駅の方にお父さんに黙って散歩していた時に宇川さんの奥さんを見かけた。『わたしは大将に愛想をつかした。これは浮気じゃない。奏多(カナタ)さんが正しい。幸せになるの。でも、誰にも言わないでね、約束』と言って指切りをした。子ども扱いされてイラッとしたので鮮明に覚えている。

「広瀬が何をしたんだ?」

 迅くんはパーテーションカーテンを開けた時のままでいる。下手したら足も1歩も動かしていないかもしれない。

「浮気」

 ボソッとではない、大きめの声で迅くんをにらみながら言った。ここでケジメをつけなければ、明日以降の受験勉強に支障が出そうだ。

「広瀬は……」
「いえ、宇川さん、ボクからきちんと言わせてください」
「なんですか?」

 迅くんは話し始めた。きっと、彩莉センパイに気が変わったことを回りくどく言うんだろう。

「勘違いしないでほしいんだけど、オレはいまも、『夏芽』、キミが好きだ、大事だ。確かに、いろはの作戦に乗せられていろはに気があるように見えるかもしれない」
「どういうことです?」
「学校が始まっていろはが転校してきて、昔みたいに仲良くして、オレはいろはの相談に乗ったし、いろはは『お礼』と言っていろいろしてきた。その中のひとつで『迅の相談にも乗るよ』って言ってくれてそこで夏芽の話をしたんだ。その……受験が近いからあまり遊べなくて寂しいとかそういう系の相談で……。その……、ホントは夏芽に相談すべきだった。と言っても……」
「広瀬、長い」

 宇川さんが口をはさんだ。確かに、迅くんからは誠意は伝わる。でも、これで許してしまっては……。いや、あいつに誠意なんてない。心地いい言葉で……。

 きっと、今までのわたしなら情に流されて、ハグして『大丈夫、わたしも好きだよ』みたいな言葉を言っただろう。でも、今、それを言ってはいけない。宇川さんがこの場を取り仕切っている。ハラリと涙をわたしは流した。

「夏芽ちゃん、今の広瀬に言いたいことは?」
「……、どうして、わたしを裏切るようなことができるんですか? わたしにとっての初恋は迅くんで、迅くんにとっての初恋が大事なのが同じように大事なのに……」

 迅くんは近づいてきた。抱きしめはせずに、手を差し出した。

「和解しようとか、これからも仲良くしようとは言えない。オレにとって夏芽は()()()()()()で、ハッキリ言えば、初恋よりも今の恋愛の方が大事なんだ。だから、夏芽、オレのそばにこれからもいてくれないか……」
「少し考えさせてください。ここで返事すると情に流されそうな気がするので」


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 鮮魚のはなまるの2階の会議室で宇川さんと30分くらい一緒だった。30分くらい経って宇川さんが話し始めて少し経って迅くんも来た。何かを話したいとも迅くんは言っている。
 どうしてだろう? 急にわたしは謝りたくなった。
「ごめん。迅くんと付き合うべきじゃなかった」
 そうだ、別れを告げるために謝るんだ。別に悪いことをしたわけではない。
「な……夏芽がそういうのであれば……。でも、どうして……」
 わたしはカチンときた。迅くんとてそこまで鈍感でバカではないだろう。そのまま迅くんには何も言わず、その場にお辞儀してわたしは去ろうとした。
「夏芽ちゃんも想像できるでしょう?」
 宇川さんがキャラになく丁寧でマジメな口調だ。
「何をですかね?」
「……、恋人に無言で去られる辛さを」
「えぇ、でも、彼はそれをされるに匹敵することをしたんです」
 責められている感じはしない。でも、迅くんの味方をしようとしているように感じる。
 宇川さんの奥さんが失踪した理由を知っているのは、宇川さんの奥さんがウソをついていなければ今でもわたしだけだ。
 それはただの|浮《・》|気《・》だ。宇川さんの浮気じゃなくて、奥さんの浮気だ。しかも、新しくできた彼氏のもとに行くためにこの街から去ったのだ。
 なぜ、知っているかと言えば、たまたま深夜、家から駅の方にお父さんに黙って散歩していた時に宇川さんの奥さんを見かけた。『わたしは大将に愛想をつかした。これは浮気じゃない。|奏多《カナタ》さんが正しい。幸せになるの。でも、誰にも言わないでね、約束』と言って指切りをした。子ども扱いされてイラッとしたので鮮明に覚えている。
「広瀬が何をしたんだ?」
 迅くんはパーテーションカーテンを開けた時のままでいる。下手したら足も1歩も動かしていないかもしれない。
「浮気」
 ボソッとではない、大きめの声で迅くんをにらみながら言った。ここでケジメをつけなければ、明日以降の受験勉強に支障が出そうだ。
「広瀬は……」
「いえ、宇川さん、ボクからきちんと言わせてください」
「なんですか?」
 迅くんは話し始めた。きっと、彩莉センパイに気が変わったことを回りくどく言うんだろう。
「勘違いしないでほしいんだけど、オレはいまも、『夏芽』、キミが好きだ、大事だ。確かに、いろはの作戦に乗せられていろはに気があるように見えるかもしれない」
「どういうことです?」
「学校が始まっていろはが転校してきて、昔みたいに仲良くして、オレはいろはの相談に乗ったし、いろはは『お礼』と言っていろいろしてきた。その中のひとつで『迅の相談にも乗るよ』って言ってくれてそこで夏芽の話をしたんだ。その……受験が近いからあまり遊べなくて寂しいとかそういう系の相談で……。その……、ホントは夏芽に相談すべきだった。と言っても……」
「広瀬、長い」
 宇川さんが口をはさんだ。確かに、迅くんからは誠意は伝わる。でも、これで許してしまっては……。いや、あいつに誠意なんてない。心地いい言葉で……。
 きっと、今までのわたしなら情に流されて、ハグして『大丈夫、わたしも好きだよ』みたいな言葉を言っただろう。でも、今、それを言ってはいけない。宇川さんがこの場を取り仕切っている。ハラリと涙をわたしは流した。
「夏芽ちゃん、今の広瀬に言いたいことは?」
「……、どうして、わたしを裏切るようなことができるんですか? わたしにとっての初恋は迅くんで、迅くんにとっての初恋が大事なのが同じように大事なのに……」
 迅くんは近づいてきた。抱きしめはせずに、手を差し出した。
「和解しようとか、これからも仲良くしようとは言えない。オレにとって夏芽は|初《・》|め《・》|て《・》|の《・》|彼《・》|女《・》で、ハッキリ言えば、初恋よりも今の恋愛の方が大事なんだ。だから、夏芽、オレのそばにこれからもいてくれないか……」
「少し考えさせてください。ここで返事すると情に流されそうな気がするので」