ドラゴンの悪戯
ー/ー
それは、年の瀬を迎えた寒い日の夜。
仕事納めを迎えたリューイは、都会の街並みをふらふらと歩いていた。
実は同僚から呑みに誘われたのだが、理由をつけて体よく断った。その同僚の誘いには、決まって良からぬ下心があるからだ。
もうすぐ新しい年を迎える。
人々はそんな高揚感に溢れ、賑やかにそぞろ歩きを愉しんでいる。
リューイはそんな人々をやり過ごしながら、人の流れに逆らうように駅に向かって歩いている。
(それにしても、都会の空は狭いよなあ。無駄にガチャガチャしてて、空気薄いし)
リューイは連立するビルの隙間から空を見上げ、雄弁な溜息をつく。
(正月には田舎にでも行って、リフレッシュするかあ)
そんなことを考えながら、小さく伸びをした。
実はリューイは、人間ではない。その正体は、別世界からこの日本に移住してきた蒼き龍である。
因みに「リューイ」という名も偽名で、本当の名は「イシュタル」という。
そんなわけで、我々もこの先は彼のことを「イシュタル」と呼ぶことにしよう。
やがてイシュタルは、大勢の人が歓声を上げている現場に行きつく。
(お、なんだ?)
見ると、無機質な筈の都会のビル群に、桜吹雪が美しくも激しく舞い踊る映像が投影されている。
プロジェクションマッピングだ。
「ほえー」
イシュタルは口を開けてその映像に見入っていた。
(へー、噂には聞いてたけど、結構キレイじゃん。人間もやるもんだなあ)
そして。
彼はちょっとした悪戯を思いついた。
この映像の中に龍が紛れ込んだら、人間達はどんな反応を見せるだろう?と。
イシュタルは喧騒から離れ、人通りのない路地のビルの隙間へと向かう。
誰もいないことを確認してから地面を蹴って空へと飛び立ち、ビルの屋上へと躍り出た。
「よっしゃいくぜ」
イシュタルは歓声を上げる人々を眼下に望みながら、自らの力を解放した。
「うわあ!」
観衆が感嘆の声を上げた。
細長い身体を揺蕩わせながら、蒼い龍が姿を見せたのだ。
ライトアップの派手な光に照らされて、龍の鱗が美しく光り輝いている。
「何これ、すっげえリアルじゃん」
居合わせた人々は、龍が舞い踊る様に釘付けになっている。
そんな観客の反応を見たイシュタルは俄然楽しくなってきた。
「やっほー!みんな、楽しんでる?」
イシュタルはご機嫌な声で観客に呼びかけると、ぐるりと身体を反転させた。
「今日は大サービス!写真撮ってもオッケーだよ!」
「!」
観客達は、ポーズをとる龍に向けて一斉にスマートフォンを向けた。フラッシュの光があちこちで瞬き始める。
「おっと、フラッシュは控えめにね!」
イシュタルはウィンクすると、細長い身体をくねらせて移動し始めた。
やがて、映像が雪の結晶が舞い降りる様に変わると、龍の姿は更に幻想的なものになった。
「ママ、あれ、かっこいい!」
「本当ね。手を振ったらこっち来てくれるかしら」
幼い子供が手を振る様を見つけたイシュタルは、ゆっくりとそちらに近づいた。
「わあ、こっちきた!」
歓喜の声を上げる子供。
「お、坊や、いい笑顔!」
イシュタルは優しく目を細めると、その小さな頭を長い髭でちょい、と撫でてやる。
「ママ、今、お髭触ったよ!」
「え?でも、あれ、映像じゃないの?」
嬉しそうな子供の声と、困惑する母親の声が交錯した。
「へへっ、俺のテンション爆上がり!」
イシュタルは高揚する心のまま、天に向けて咆哮した。
「うわっ」
大音量の咆哮に、人々は思わず耳を塞いだ。冬の夜空を切り裂くようなその波動で、空気が震えた。
「何これ、今の技術ってここまで出来るの?」
人々の興奮は最高潮に達している。
観衆達は、全ては『演出』と信じていた。龍は架空の生き物と認識されているからだ。
最高の『演出』に観客が歓喜する中、主催者側は軽くパニックに陥っていた。
「おい、こんなの、聞いてねえぞ」
「そうっすよね、資料にも何も載ってないですし」
「これ作ったの、誰よ?」
「君、大至急調べて!」
スタッフ達は慌しく事実確認に追われている。
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もうすぐ新しい年を迎える。
人々はそんな高揚感に溢れ、賑やかにそぞろ歩きを愉しんでいる。
リューイはそんな人々をやり過ごしながら、人の流れに逆らうように駅に向かって歩いている。
(それにしても、都会の空は狭いよなあ。無駄にガチャガチャしてて、空気薄いし)
リューイは連立するビルの隙間から空を見上げ、雄弁な溜息をつく。
(正月には田舎にでも行って、リフレッシュするかあ)
そんなことを考えながら、小さく伸びをした。
実はリューイは、人間ではない。その正体は、別世界からこの日本に移住してきた蒼き龍である。
因みに「リューイ」という名も偽名で、本当の名は「イシュタル」という。
そんなわけで、我々もこの先は彼のことを「イシュタル」と呼ぶことにしよう。
やがてイシュタルは、大勢の人が歓声を上げている現場に行きつく。
(お、なんだ?)
見ると、無機質な筈の都会のビル群に、桜吹雪が美しくも激しく舞い踊る映像が投影されている。
プロジェクションマッピングだ。
「ほえー」
イシュタルは口を開けてその映像に見入っていた。
(へー、噂には聞いてたけど、結構キレイじゃん。人間もやるもんだなあ)
そして。
彼はちょっとした悪戯を思いついた。
この映像の中に龍が紛れ込んだら、人間達はどんな反応を見せるだろう?と。
イシュタルは喧騒から離れ、人通りのない路地のビルの隙間へと向かう。
誰もいないことを確認してから地面を蹴って空へと飛び立ち、ビルの屋上へと躍り出た。
「よっしゃいくぜ」
イシュタルは歓声を上げる人々を眼下に望みながら、自らの力を解放した。
「うわあ!」
観衆が感嘆の声を上げた。
細長い身体を揺蕩わせながら、蒼い龍が姿を見せたのだ。
ライトアップの派手な光に照らされて、龍の鱗が美しく光り輝いている。
「何これ、すっげえリアルじゃん」
居合わせた人々は、龍が舞い踊る様に釘付けになっている。
そんな観客の反応を見たイシュタルは俄然楽しくなってきた。
「やっほー!みんな、楽しんでる?」
イシュタルはご機嫌な声で観客に呼びかけると、ぐるりと身体を反転させた。
「今日は大サービス!写真撮ってもオッケーだよ!」
「!」
観客達は、ポーズをとる龍に向けて一斉にスマートフォンを向けた。フラッシュの光があちこちで瞬き始める。
「おっと、フラッシュは控えめにね!」
イシュタルはウィンクすると、細長い身体をくねらせて移動し始めた。
やがて、映像が雪の結晶が舞い降りる様に変わると、龍の姿は更に幻想的なものになった。
「ママ、あれ、かっこいい!」
「本当ね。手を振ったらこっち来てくれるかしら」
幼い子供が手を振る様を見つけたイシュタルは、ゆっくりとそちらに近づいた。
「わあ、こっちきた!」
歓喜の声を上げる子供。
「お、坊や、いい笑顔!」
イシュタルは優しく目を細めると、その小さな頭を長い髭でちょい、と撫でてやる。
「ママ、今、お髭触ったよ!」
「え?でも、あれ、映像じゃないの?」
嬉しそうな子供の声と、困惑する母親の声が交錯した。
「へへっ、俺のテンション爆上がり!」
イシュタルは高揚する心のまま、天に向けて咆哮した。
「うわっ」
大音量の咆哮に、人々は思わず耳を塞いだ。冬の夜空を切り裂くようなその波動で、空気が震えた。
「何これ、今の技術ってここまで出来るの?」
人々の興奮は最高潮に達している。
観衆達は、全ては『演出』と信じていた。龍は架空の生き物と認識されているからだ。
最高の『演出』に観客が歓喜する中、主催者側は軽くパニックに陥っていた。
「おい、こんなの、聞いてねえぞ」
「そうっすよね、資料にも何も載ってないですし」
「これ作ったの、誰よ?」
「君、大至急調べて!」
スタッフ達は慌しく事実確認に追われている。