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それが本当に、桔平くんが追い求めている「自分の絵」になるのかは分からない。
家では気の向くまま筆を走らせている。それこそが桔平くん自身の絵だと思うけれど、スケッチブックの中から出ることなく眠ったまま。作品へ昇華しようとすると、筆が止まってしまうんだって。
だけど、制作はしないといけない。増え続けていく「浅尾瑛士の息子の絵」と矛盾を抱えて、桔平くんは苦しんでいる。
そういえばヨネちゃんが言っていた。アートは自分の内面をさらけ出すものだから、人目に晒すのが怖いときもあるって。
そんなヨネちゃんが妖怪の絵を描いているのは、小さいころから妖怪のアニメが大好きだったから。妖怪は決して、恐ろしくて気持ちが悪いだけのものではない。自然や人間と共にあるもので、怖かったり優しかったり可愛かったり、いろいろな顔がある。それを描きたいんだって。
小林さんは鳥が大好きで、長岡さんは女性の強さに憧れている。
みんなそれぞれの「好き」や「憧れ」を表現しているけれど、桔平くんはその対象が「浅尾瑛士」という偉大な日本画家。憧れているだけでは、自分の絵は描けないんだろうな。
窓から入ってくる乾いた風に、桔平くんの長い髪が揺れる。肩甲骨の下あたりまで伸びているから、出会ってからいままでで、一番長いかも。
遠くを見つめる横顔は相変わらず綺麗だけど、たまに翳が射すときもある。
「ねぇ、桔平くん。私に遠慮せず、ひとりでフラッと出かけてもいいんだからね」
「そういう気分になったら行くよ。遠慮なんてしてねぇから、心配すんな」
ほら、また。ほんの少し、笑顔に翳りが見え隠れする。そういうときは、きっと絵のことを考えているんだよね。だから私は、なにも口出しできない。
それでも私がそばにいる意味を見出してくれているなら、どんなことがあっても桔平くんから離れないようにしようと思った。
その翌日。小樽はあいにくの雨。だけど桔平くんは、ひとりでどこかへ出かけて行った。
少し散歩をしてくるというだけで、行き先は言わない。私も聞かなかった。多分、決めていないんだと思うから。
一眼レフとスケッチブックを持ってお昼前に家を出て、夕方帰ってくる。その次の日も、そんな感じだった。
「桔平君は、写真の才能もあるなぁ」
この2日間で桔平くんが撮った写真を見ながら、お父さんが感嘆の声を上げた。
「切り取り方が上手いんだろうね。どこを切り取って、どの位置から写せば風景が際立つのか、よく分かっているという感じだ。さすが画家だね」
お父さんは昔から、写真を撮るのが大好き。というよりカメラマニアなのかな。いいカメラをいくつも持っているし。
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だけど、制作はしないといけない。増え続けていく「浅尾瑛士の息子の絵」と矛盾を抱えて、桔平くんは苦しんでいる。
そういえばヨネちゃんが言っていた。アートは自分の内面をさらけ出すものだから、人目に晒すのが怖いときもあるって。
そんなヨネちゃんが妖怪の絵を描いているのは、小さいころから妖怪のアニメが大好きだったから。妖怪は決して、恐ろしくて気持ちが悪いだけのものではない。自然や人間と共にあるもので、怖かったり優しかったり可愛かったり、いろいろな顔がある。それを描きたいんだって。
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窓から入ってくる乾いた風に、桔平くんの長い髪が揺れる。肩甲骨の下あたりまで伸びているから、出会ってからいままでで、一番長いかも。
遠くを見つめる横顔は相変わらず綺麗だけど、たまに翳《かげ》が射すときもある。
「ねぇ、桔平くん。私に遠慮せず、ひとりでフラッと出かけてもいいんだからね」
「そういう気分になったら行くよ。遠慮なんてしてねぇから、心配すんな」
ほら、また。ほんの少し、笑顔に翳りが見え隠れする。そういうときは、きっと絵のことを考えているんだよね。だから私は、なにも口出しできない。
それでも私がそばにいる意味を見出してくれているなら、どんなことがあっても桔平くんから離れないようにしようと思った。
その翌日。小樽はあいにくの雨。だけど桔平くんは、ひとりでどこかへ出かけて行った。
少し散歩をしてくるというだけで、行き先は言わない。私も聞かなかった。多分、決めていないんだと思うから。
一眼レフとスケッチブックを持ってお昼前に家を出て、夕方帰ってくる。その次の日も、そんな感じだった。
「桔平君は、写真の才能もあるなぁ」
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「切り取り方が上手いんだろうね。どこを切り取って、どの位置から写せば風景が際立つのか、よく分かっているという感じだ。さすが画家だね」
お父さんは昔から、写真を撮るのが大好き。というよりカメラマニアなのかな。いいカメラをいくつも持っているし。