第31話 夏美のお泊り会1~夏芽の進路相談~
ー/ー 迅くんがすごく寂しそうにわたしの家を出た。このまま家に帰っていくのだろう。ごめん。でも、今の迅くんは見たくない。嫌いかと言われたら好きな気持ちに変わりはない。ただ、わたし以外の女の子と仲良くしてほしくない。
例え、それがお姉ちゃんであっても。
これは伝えないといけない。例え、この想いが重くても。
wireを起動して、迅くんにわたしの思いを伝えようと思った。
でも、言葉が上手く出てこない。
「お姉ちゃん……」
「ん?」
わたしは別にさっきのお姉ちゃんがした迅くんへの誘惑を責めるつもりはない。むしろ、こういう時はどうすべきか聞きたかった。
でも、お姉ちゃんに彼氏がいたとかそういう浮ついた話を聞いたことがない。
「わたしはどうしたらいいんだろう……」
「んー、とりあえず、受験が終わるまで少し距離を置くでいいと思うよ」
「それは……迅くんとそのまま別れさせるために?」
「んにゃ、それよりも夏芽が自分で決めた進路を応援するため。この前、夏芽の進路希望表見たけどさ、現実問題、今の夏芽にはどんなに頑張っても無理だよ。進学校は。宝賀の特進なんて入学が決まったら、4月1日から授業始まるんだよ。お兄ちゃんと遊ぶ時間なんてそうそうないよ。でも、頑張ると決めた妹を応援する、それが姉ってものでしょ」
「お姉ちゃんもわたしの進路を笑うんだ。迅くんと別れろって言うんだ。いいよ、わたしは……」
わたしはどうして宝賀の特進であったり、公立の学校に行こうとするかがわからなくなった。このまま、宝賀の普通コースに進学して、迅くんと遊んだりする普通の青春を歩んでもいいのでは?
「悩んでるなら、それはホントにしたいことじゃないよ。どこかでお兄ちゃんの為に……って考えてるよ。夏芽の人生は夏芽の為にあるんだ。よく言うセリフだけど、1度きりの人生楽しんだもん勝ちだよ。夏芽の魂に従うのがあーしは1番だと思うな。ま、要するに素直になりな!!」
「……素直。うん、強欲かもしれないけど、わたしは……わたしが好き、でも、それ以上に迅くんが好き。釣り合う釣り合わないは関係ない。受験、正直、迅くんに釣り合おうとして、偏差値わたしよりも上の学校じゃなくて、わたしくらいの公立にする。きっと、迅くんならそれでも『よく頑張った』って褒めてくれるから。宝賀だとしても、わたしが頑張ったってことに変わりはない」
「ん?」
「お姉ちゃん、どうかした?」
「んー、お兄ちゃん、そこまで賢くないよ。どちらかと言うと、わたしよりも少しおバカくらい」
「え?」
迅くんに受験が終わるまではわたしと関わらないようにしてもらうよう伝えよう。
でも、それは今日ではない。そこまでは冷静に判断できた。
しばらく経って、もう時間も夜十時だ。そろそろ勉強しよう。
「んー、でも眠いなぁ」
仮眠でもとって、ちょっと頭をすっきりさせよう。そう思った。でも、お風呂に入ってないし、まだ寝る用意ができていない。
今日は色々あったし……。お父さんにはまだ迅くんと距離を置くことを話していない。ただのわたしの中での決意だけだ。
……お父さんに話す必要があるのか……?
お風呂に入ろう。それでそのまま寝よう。今日は長湯をしたい。
「距離置きたくないなぁ……」
ホントは受験勉強のことを考えたかった。長湯している間に、考えていたのは、どう迅くんと距離を置く話をするかということだ。どうしても、この結論しか出なかった。ふと、咲良さんが大晦日に言った『相手の価値観が似ているとかも大事』という言葉を思い出した。
「迅くんとわたしの価値観かぁ」
いつも、わたしも迅くんも『好き』とは言い合っている。迅くんはいつも『好き』と言った後、すごく照れくさそうにしてる。でも、連絡はわたしからが多い。そもそも、告白もファーストキスもわたしからだ。高価なプレゼントとかしたことはないし、されたこともない。そもそもプレゼントで『物』をもらったことがあるだろうか。『愛』はいつももらっているけれど……。わたしは、ホントに愛されているのだろうか……。
ちゃんと迅くんの中にわたしはいるのだろうか? すごく不安になってきた。
これ以上考えると、マイナスの感情に飲み込まれて、『迅くんと別れよう』と言い出しそうな気がしてきた。
そこにwireの通知が鳴った。10時だし、梨絵や他の友だちということはそうそうないだろう。
夏美センパイが久しぶりにわたし宛にチャットを送ってきていた。迅くんには日辻センパイとの関係を定期的に連絡しているみたいだ。そして、わたし宛には『通話できる?』だけだった。わたしは返事をせずに、そのまま無料通話ボタンを押した。
「お久しぶりです」
『夏芽ちゃん、久しぶり~。受験近いのにゴメンね』
「いえ、大丈夫です。どうしました?」
『んーいや、夏芽ちゃんの志望校の話聞きたいなぁと思って』
「そうですねぇ、ちょっとまだはっきりとは決めてないんですけど」
『え、大丈夫? お姉さんが相談乗るよ!! 今から夏芽ちゃんの家に行く!!』
「ちょ夏美センパイ!!」
わたしの話を聞くことなく、夏美センパイは電話を切った。というか、夏美センパイってわたしの家の住所を知っていたっけ? 間違えて鮮魚のはなまるに行きそうな気がする。念のために、『家はこっちです』と住所だけ送った。
よくよく考えたら、宝賀高校の1年生で迅くんと同じクラスということは、お姉ちゃんとも同じクラスだ。リビングで今も棒アイスを食べているお姉ちゃんに話しかけた。
「お姉ちゃんって……」
「んー? ちょっと待って、ソーダ味に変えてくる」
冷蔵庫に向かってお姉ちゃんは歩いていく。というか、この人は冬なのに夏のような寝巻を着ている。さらにアイスも食べている。
……季節、間違えていない?
ドンッというような音を立ててリビングのテレビの前に座った。わたしの方を向くこともなく、刑事ドラマのラブシーンを見ている。このドラマはシーズン20以上も続いてる。お父さんもこのドラマのファンだ。リアルタイムでは見ずに、DVD化されてから一気見するタイプの少し変わったファンだ。お正月過ぎた後にシーズン1のDVDを迅くんがお父さんから借りていったのを知っている。迅くんはここ2、3年前からのファンらしい。wireで感想を聞いたら、すごい長文で返ってきた。いくら迅くんからのチャットと言っても驚くほど長く、読むのもしんどかった。
要約すると、『主演の火林 恵が若い!! けど、今とはまた違う演技力がある!! DVD10巻あるけど、もう寝る間を惜しんで見てしまう!』だった。そのドラマのシーズン25くらいをお姉ちゃんはリアルタイムで見ている。エンドロールが流れてきた。
「んー、今日も犯人の予想外れたなー。で、あれかな? 夏芽はお兄ちゃんと距離を置くことの相談かな?」
「んーそれはわたしがなんとかしなきゃいけない問題だから、関係ないよ。というか、夏美センパイのこと」
「たなっちゃん?」
「あぁ、そういう呼び方してるなら大丈夫だね」
「ん?」
そこにピーンポーンと夏美センパイが家のオートロックを開けるようインターホンを鳴らした。『どうぞ』とわたしが対応した。それを見て、『あぁ』とお姉ちゃんは何かを企んでいるような声を出した。
「お邪魔しま~す」
「おう、多奈川、ツラ貸せや」
「ん? 有紀、どうしたの?」
「ええから、ツラ貸さんかい」
「ごめん、今日は夏芽ちゃんのために来たの」
「なーんだ、そんなことか」
『というか、有紀は寒くないの? この真冬にノースリにショーパンって……、しかもアイス食べてる』と夏美センパイがわたしのここ数年の疑問を投げかけていた。お姉ちゃんはへらへら笑いながら、『大丈夫、大丈夫。どうせ停学中だし』と答えていた。わたしは心の中で『お姉ちゃん、ごめん』とだけ言っておいた。なんで、心の中でお姉ちゃんに謝ったんだろう。わたしの部屋に招いてすぐに夏美センパイはイヌのように、クンクン匂いを嗅いだ。
「どうしました?」
「ん-、クリスマス会実行委員お疲れさまだったね」
「今更ですね。でも、それは夏美センパイも同じでしょう?」
「ん、まぁ、そうだね。クリスマス会と言えば?」
「……? え、なんだろう」
「迅くん、大活躍だったよねぇ」
「……、そうですね」
「ん? 今の間と今、ここにほのかに迅くんの残り香がするのと何か関係あるの?」
「アハハ、え? 迅くんのにおいがする?」
「するよ、あぁ、そっか、夏芽ちゃんはクリスマス会の途中から迅くんの家に入り浸っていたからその匂いがして当たり前なのかもなぁ。で、実際。愛は深まった?」
「んー、わたし、迅くんは大好きです。でも、みんなに優しくしているところを見たくないんです」
「そっか、でも、さ、考えてみて。もし、出会った当時の迅くんが夏芽ちゃんに優しくしないで、ストーブにあたりそうな夏芽ちゃんも気にせず、そのまま話し続けてたら……?」
「そうですね、あういう優しさに触れたからもっと、好きになったと思います」
「でしょ? だから、迅くんのあの優しさは『広瀬 迅が広瀬 迅たらしめる』優しさなんだよ」
「ですねー、でも、ホント、夏美センパイって迅くんのこと詳しいですよね」
「んーまぁ、生まれてすぐから5歳までの間も友だちだったからね」
生まれてすぐから5歳の間? そんな幼少期からの付き合いなのか、迅くんと夏美センパイって。……、その間、ずっと、ううん、関係ない、迅くんの今の彼女はわたしだもの。
「ん? どうしたの? 夏芽ちゃん。もしかして、夏芽ちゃんも産まれた時から知り合っていたかった?」
「……、ちょっとだけそう思っています」
「でもなぁ、迅くんは私との幼少期の思い出忘れてるんだよねぇ」
「え、それひどくないですか?」
「あはは、でも、4歳、5歳のことは覚えてて欲しかったなぁ」
「そうですよねぇ、確か、生まれてすぐから3歳のことは人間よほどのことがないと覚えてないっていいますからねぇ」
「だね、でも、迅くん、最近は心配だなぁ。おっと、別にわざわざ泊まりで夏芽ちゃんのとこに来たのも、迅くんとの話を聞きに来たんじゃなかったんだ。夏芽ちゃんの進路相談に来たんだった」
「あの、迅くんの彼女として、普通に、『最近の迅くんが心配』のほうが気になるんですけど」
「そうだよねぇ、その話は寝る前にしよっか。実はさ、宝賀出たら教育大学に行くつもりなんだ。先生になるつもりなんだ。夏芽ちゃん、ありがとう、練習台にさせて」
「え、確か、クリスマス会の時、日辻さんに告白されたとき、『勉強も苦手』って言ってませんでした?」
「あーうん、言っていたんだけど、あの時は自分に自信がなくてね。でも、日辻くんが初詣の時に教えてくれたんだ。『多奈川さんって5組だと学力上位だよ』って」
「というか、わたしに拒否権なし? 強制的に、妹キャラのセンパイから進路面談?」
「夏芽ちゃんひどーい、後輩なのに、妹キャラっていうのね」
「いやぁ、それは夏美センパイの行動、2か月近くは近くで見たわけですから、わかりますよ」
「え? 夏芽ちゃん的にどういうところが妹キャラ? お姉さんの私に話して!!」
『ごめんなさい、そういう好奇心旺盛で、年上を強調しようとするところ』とだけ言って、私は進路の相談に真剣に乗ってもらった。進路の相談に関しては、宝賀の中等部の担任の先生よりも親身に乗ってくれた。夏美センパイの意見を踏まえた上でわたしは『わたしの学力相応』の公立の西馬高校にした。ウワサだけど、西馬は来年度にはどこかに移設されるらしい。この時代に統合じゃなくて移転は珍しいと思う。夏美センパイは最後に付け足した。
「ホントは、そろそろ願書の練習とか、その学校によって面接対策とかあるからねぇ。もう少し早く決めるべきだったね」
「……、そうですね」
時計を見れば、深夜の1時だ。3学期に入ってからは、受験勉強をゆるりと深夜遅くまでしていることがあった。
明日は学校だ。お姉ちゃんと迅くんは後6日停学だ。それとあの彩莉センパイも。
「どうする? ガールズトークしてから寝る?」
「ですね、せっかく、久々に夏美センパイと話せたからしたいです」
「あっ、でも、有紀にバレたら怒られないかな?」
「お姉ちゃんは多分、停学をいいことに深夜までドラマ見てると思います」
「アハハ、有紀らしいね」
例え、それがお姉ちゃんであっても。
これは伝えないといけない。例え、この想いが重くても。
wireを起動して、迅くんにわたしの思いを伝えようと思った。
でも、言葉が上手く出てこない。
「お姉ちゃん……」
「ん?」
わたしは別にさっきのお姉ちゃんがした迅くんへの誘惑を責めるつもりはない。むしろ、こういう時はどうすべきか聞きたかった。
でも、お姉ちゃんに彼氏がいたとかそういう浮ついた話を聞いたことがない。
「わたしはどうしたらいいんだろう……」
「んー、とりあえず、受験が終わるまで少し距離を置くでいいと思うよ」
「それは……迅くんとそのまま別れさせるために?」
「んにゃ、それよりも夏芽が自分で決めた進路を応援するため。この前、夏芽の進路希望表見たけどさ、現実問題、今の夏芽にはどんなに頑張っても無理だよ。進学校は。宝賀の特進なんて入学が決まったら、4月1日から授業始まるんだよ。お兄ちゃんと遊ぶ時間なんてそうそうないよ。でも、頑張ると決めた妹を応援する、それが姉ってものでしょ」
「お姉ちゃんもわたしの進路を笑うんだ。迅くんと別れろって言うんだ。いいよ、わたしは……」
わたしはどうして宝賀の特進であったり、公立の学校に行こうとするかがわからなくなった。このまま、宝賀の普通コースに進学して、迅くんと遊んだりする普通の青春を歩んでもいいのでは?
「悩んでるなら、それはホントにしたいことじゃないよ。どこかでお兄ちゃんの為に……って考えてるよ。夏芽の人生は夏芽の為にあるんだ。よく言うセリフだけど、1度きりの人生楽しんだもん勝ちだよ。夏芽の魂に従うのがあーしは1番だと思うな。ま、要するに素直になりな!!」
「……素直。うん、強欲かもしれないけど、わたしは……わたしが好き、でも、それ以上に迅くんが好き。釣り合う釣り合わないは関係ない。受験、正直、迅くんに釣り合おうとして、偏差値わたしよりも上の学校じゃなくて、わたしくらいの公立にする。きっと、迅くんならそれでも『よく頑張った』って褒めてくれるから。宝賀だとしても、わたしが頑張ったってことに変わりはない」
「ん?」
「お姉ちゃん、どうかした?」
「んー、お兄ちゃん、そこまで賢くないよ。どちらかと言うと、わたしよりも少しおバカくらい」
「え?」
迅くんに受験が終わるまではわたしと関わらないようにしてもらうよう伝えよう。
でも、それは今日ではない。そこまでは冷静に判断できた。
しばらく経って、もう時間も夜十時だ。そろそろ勉強しよう。
「んー、でも眠いなぁ」
仮眠でもとって、ちょっと頭をすっきりさせよう。そう思った。でも、お風呂に入ってないし、まだ寝る用意ができていない。
今日は色々あったし……。お父さんにはまだ迅くんと距離を置くことを話していない。ただのわたしの中での決意だけだ。
……お父さんに話す必要があるのか……?
お風呂に入ろう。それでそのまま寝よう。今日は長湯をしたい。
「距離置きたくないなぁ……」
ホントは受験勉強のことを考えたかった。長湯している間に、考えていたのは、どう迅くんと距離を置く話をするかということだ。どうしても、この結論しか出なかった。ふと、咲良さんが大晦日に言った『相手の価値観が似ているとかも大事』という言葉を思い出した。
「迅くんとわたしの価値観かぁ」
いつも、わたしも迅くんも『好き』とは言い合っている。迅くんはいつも『好き』と言った後、すごく照れくさそうにしてる。でも、連絡はわたしからが多い。そもそも、告白もファーストキスもわたしからだ。高価なプレゼントとかしたことはないし、されたこともない。そもそもプレゼントで『物』をもらったことがあるだろうか。『愛』はいつももらっているけれど……。わたしは、ホントに愛されているのだろうか……。
ちゃんと迅くんの中にわたしはいるのだろうか? すごく不安になってきた。
これ以上考えると、マイナスの感情に飲み込まれて、『迅くんと別れよう』と言い出しそうな気がしてきた。
そこにwireの通知が鳴った。10時だし、梨絵や他の友だちということはそうそうないだろう。
夏美センパイが久しぶりにわたし宛にチャットを送ってきていた。迅くんには日辻センパイとの関係を定期的に連絡しているみたいだ。そして、わたし宛には『通話できる?』だけだった。わたしは返事をせずに、そのまま無料通話ボタンを押した。
「お久しぶりです」
『夏芽ちゃん、久しぶり~。受験近いのにゴメンね』
「いえ、大丈夫です。どうしました?」
『んーいや、夏芽ちゃんの志望校の話聞きたいなぁと思って』
「そうですねぇ、ちょっとまだはっきりとは決めてないんですけど」
『え、大丈夫? お姉さんが相談乗るよ!! 今から夏芽ちゃんの家に行く!!』
「ちょ夏美センパイ!!」
わたしの話を聞くことなく、夏美センパイは電話を切った。というか、夏美センパイってわたしの家の住所を知っていたっけ? 間違えて鮮魚のはなまるに行きそうな気がする。念のために、『家はこっちです』と住所だけ送った。
よくよく考えたら、宝賀高校の1年生で迅くんと同じクラスということは、お姉ちゃんとも同じクラスだ。リビングで今も棒アイスを食べているお姉ちゃんに話しかけた。
「お姉ちゃんって……」
「んー? ちょっと待って、ソーダ味に変えてくる」
冷蔵庫に向かってお姉ちゃんは歩いていく。というか、この人は冬なのに夏のような寝巻を着ている。さらにアイスも食べている。
……季節、間違えていない?
ドンッというような音を立ててリビングのテレビの前に座った。わたしの方を向くこともなく、刑事ドラマのラブシーンを見ている。このドラマはシーズン20以上も続いてる。お父さんもこのドラマのファンだ。リアルタイムでは見ずに、DVD化されてから一気見するタイプの少し変わったファンだ。お正月過ぎた後にシーズン1のDVDを迅くんがお父さんから借りていったのを知っている。迅くんはここ2、3年前からのファンらしい。wireで感想を聞いたら、すごい長文で返ってきた。いくら迅くんからのチャットと言っても驚くほど長く、読むのもしんどかった。
要約すると、『主演の火林 恵が若い!! けど、今とはまた違う演技力がある!! DVD10巻あるけど、もう寝る間を惜しんで見てしまう!』だった。そのドラマのシーズン25くらいをお姉ちゃんはリアルタイムで見ている。エンドロールが流れてきた。
「んー、今日も犯人の予想外れたなー。で、あれかな? 夏芽はお兄ちゃんと距離を置くことの相談かな?」
「んーそれはわたしがなんとかしなきゃいけない問題だから、関係ないよ。というか、夏美センパイのこと」
「たなっちゃん?」
「あぁ、そういう呼び方してるなら大丈夫だね」
「ん?」
そこにピーンポーンと夏美センパイが家のオートロックを開けるようインターホンを鳴らした。『どうぞ』とわたしが対応した。それを見て、『あぁ』とお姉ちゃんは何かを企んでいるような声を出した。
「お邪魔しま~す」
「おう、多奈川、ツラ貸せや」
「ん? 有紀、どうしたの?」
「ええから、ツラ貸さんかい」
「ごめん、今日は夏芽ちゃんのために来たの」
「なーんだ、そんなことか」
『というか、有紀は寒くないの? この真冬にノースリにショーパンって……、しかもアイス食べてる』と夏美センパイがわたしのここ数年の疑問を投げかけていた。お姉ちゃんはへらへら笑いながら、『大丈夫、大丈夫。どうせ停学中だし』と答えていた。わたしは心の中で『お姉ちゃん、ごめん』とだけ言っておいた。なんで、心の中でお姉ちゃんに謝ったんだろう。わたしの部屋に招いてすぐに夏美センパイはイヌのように、クンクン匂いを嗅いだ。
「どうしました?」
「ん-、クリスマス会実行委員お疲れさまだったね」
「今更ですね。でも、それは夏美センパイも同じでしょう?」
「ん、まぁ、そうだね。クリスマス会と言えば?」
「……? え、なんだろう」
「迅くん、大活躍だったよねぇ」
「……、そうですね」
「ん? 今の間と今、ここにほのかに迅くんの残り香がするのと何か関係あるの?」
「アハハ、え? 迅くんのにおいがする?」
「するよ、あぁ、そっか、夏芽ちゃんはクリスマス会の途中から迅くんの家に入り浸っていたからその匂いがして当たり前なのかもなぁ。で、実際。愛は深まった?」
「んー、わたし、迅くんは大好きです。でも、みんなに優しくしているところを見たくないんです」
「そっか、でも、さ、考えてみて。もし、出会った当時の迅くんが夏芽ちゃんに優しくしないで、ストーブにあたりそうな夏芽ちゃんも気にせず、そのまま話し続けてたら……?」
「そうですね、あういう優しさに触れたからもっと、好きになったと思います」
「でしょ? だから、迅くんのあの優しさは『広瀬 迅が広瀬 迅たらしめる』優しさなんだよ」
「ですねー、でも、ホント、夏美センパイって迅くんのこと詳しいですよね」
「んーまぁ、生まれてすぐから5歳までの間も友だちだったからね」
生まれてすぐから5歳の間? そんな幼少期からの付き合いなのか、迅くんと夏美センパイって。……、その間、ずっと、ううん、関係ない、迅くんの今の彼女はわたしだもの。
「ん? どうしたの? 夏芽ちゃん。もしかして、夏芽ちゃんも産まれた時から知り合っていたかった?」
「……、ちょっとだけそう思っています」
「でもなぁ、迅くんは私との幼少期の思い出忘れてるんだよねぇ」
「え、それひどくないですか?」
「あはは、でも、4歳、5歳のことは覚えてて欲しかったなぁ」
「そうですよねぇ、確か、生まれてすぐから3歳のことは人間よほどのことがないと覚えてないっていいますからねぇ」
「だね、でも、迅くん、最近は心配だなぁ。おっと、別にわざわざ泊まりで夏芽ちゃんのとこに来たのも、迅くんとの話を聞きに来たんじゃなかったんだ。夏芽ちゃんの進路相談に来たんだった」
「あの、迅くんの彼女として、普通に、『最近の迅くんが心配』のほうが気になるんですけど」
「そうだよねぇ、その話は寝る前にしよっか。実はさ、宝賀出たら教育大学に行くつもりなんだ。先生になるつもりなんだ。夏芽ちゃん、ありがとう、練習台にさせて」
「え、確か、クリスマス会の時、日辻さんに告白されたとき、『勉強も苦手』って言ってませんでした?」
「あーうん、言っていたんだけど、あの時は自分に自信がなくてね。でも、日辻くんが初詣の時に教えてくれたんだ。『多奈川さんって5組だと学力上位だよ』って」
「というか、わたしに拒否権なし? 強制的に、妹キャラのセンパイから進路面談?」
「夏芽ちゃんひどーい、後輩なのに、妹キャラっていうのね」
「いやぁ、それは夏美センパイの行動、2か月近くは近くで見たわけですから、わかりますよ」
「え? 夏芽ちゃん的にどういうところが妹キャラ? お姉さんの私に話して!!」
『ごめんなさい、そういう好奇心旺盛で、年上を強調しようとするところ』とだけ言って、私は進路の相談に真剣に乗ってもらった。進路の相談に関しては、宝賀の中等部の担任の先生よりも親身に乗ってくれた。夏美センパイの意見を踏まえた上でわたしは『わたしの学力相応』の公立の西馬高校にした。ウワサだけど、西馬は来年度にはどこかに移設されるらしい。この時代に統合じゃなくて移転は珍しいと思う。夏美センパイは最後に付け足した。
「ホントは、そろそろ願書の練習とか、その学校によって面接対策とかあるからねぇ。もう少し早く決めるべきだったね」
「……、そうですね」
時計を見れば、深夜の1時だ。3学期に入ってからは、受験勉強をゆるりと深夜遅くまでしていることがあった。
明日は学校だ。お姉ちゃんと迅くんは後6日停学だ。それとあの彩莉センパイも。
「どうする? ガールズトークしてから寝る?」
「ですね、せっかく、久々に夏美センパイと話せたからしたいです」
「あっ、でも、有紀にバレたら怒られないかな?」
「お姉ちゃんは多分、停学をいいことに深夜までドラマ見てると思います」
「アハハ、有紀らしいね」
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