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悪夢 ―2―

ー/ー



「旭は、なんで冒険者なんてやってるんだ?」

「……別にやりたくてやってるわけじゃねぇよ」


 ふいにウミストラが旭に声をかけた。聞き飽きた質問に旭は若干肩を落としたが、用意されたような答えをスラスラと説明する。


「あのギルドには、寝床と食料を提供してもらってんの。でも、されてばっかりってのも性にあわないから、今回のはそれの恩返し」

「……へぇ〜」

「興味ねぇだろ」

「いいや、そんなことないよ。むしろ、君を見直したくらいだ」


 ウミストラは信頼したような軽い微笑みを浮かべながら続けた。


「君はもっと凶暴で危険なヤツだと思ってた。案外良い奴なのかもな」

「いや、あながち間違いじゃないよウミストラ。あまりこいつを侮らない方がいい。暇さえあれば魔法の練習に付き合わされることになるぞ」


 ウミストラの素直な気持ちが現れた言葉に、国綱は激しく、けれど冷静に答えた。国綱もまた事実と自分のありのままの感情を言葉にしたのだろうが、旭の気に障ったらしく、国綱はくるぶしにキツいローキックを食らわされた。
 旭たちは歩きながら団欒と、年齢相応の会話を広げていく。日々のことや学園のこと。自分のことや、くだらないことまで、もう全部話尽くしたと思うほど、旭たちは時間も忘れて話をしていた。

 そんな楽しい時間は、突然終わりを告げた。
 陰る森の中。先頭を歩く旭が、薄闇の先に何かを見つけ、ピタリと足を止めた。耳を澄ませると、がさがさと、誰かが草をかき分けるような音が聞こえてくる。
 暗闇の先に誰がいるのか、旭が目を細めた瞬間、()()は現れた。


「っ……!」


 そこには、 旭の身長をゆうに超える巨体の赤褐色の肌をした化け物が立っていた。ギロリと瞼のない不気味な飛び出た眼球で旭たちを見つめている。
 酷い粘性のねばっとした気持ちの悪い空気が旭たちの肌を撫でる。目の前にいるおぞましい化け物がただの魔獣でないことはすぐに理解できてしまった。そしてもう1つ、認めたくもない、最悪の真実を旭はぽつりと呟いた。


「……こいつだ」


 小さな声でレオノールは『最悪』と吐き捨てる。赤褐色の化け物はうわ言を吐きながら、じりじりと旭たちににじり寄ってくる。化け物が手足を動かす度、生暖かい空気が揺れるのを感じられた。旭たちも化け物が近づくのに合わせてゆっくりと後ずさっていく。

 しかし、悪夢はまだ終わらない。


「駄目だ……」


 1番後ろを歩いていたダモクレスが険しい面持ちで言った。振り向くこともせず、旭たちが足を止めたのを確認すると、ダモクレスは続けて言う。


「……()()()()()()


 化け物はただ旭たちを狙っていたのではなかった。追い込み漁のように、『狩場』へと旭たちは誘い込まれていた。
 3体の化け物が、三角形を描くように旭たちを囲む。もう逃げ道は残されていなかった。ならば、とる行動は1つしかありはしない。
 火花のような弾ける音と共に、旭は焔を滾らせる。焔は轟々と燃え盛り、今にも化け物たちを飲み込もうとする勢いだ。
 旭が臨戦態勢に入ったのを皮切りに、その場の雰囲気が変わった。絶望しかけていた空気は一変する。その雰囲気に乗り、1番手をかっさらっていったのは、ダモクレスだった。


「1匹は儂1人で引き受ける。残りは頼むぞ!」


 こきんと首を鳴らし、ダモクレスは駆け出す。赤褐色の化け物目掛けて、一直線に走る。距離にして約50メートルほど。たったそれだけの短い距離。旭たちは、その姿を()()()()()()()()()()()()()
 銃声のような音とともに僅かに視界を掠めたのはダモクレスの残像と、粉砕し丸見えになった硬い岩盤。気がつくとそこに、化け物の姿はなかった。ダモクレスが走り出した直線上の木々はなぎ倒され、まるで道のようになっている。


「旭も大概だけど、あれも酷いね……」

「何が起きたんだよまったく」

「おい、目の前に集中しろ」


 1体はダモクレスが相手をしている。だが依然としてそこには、ただならぬ雰囲気を漂わせる化け物が2体の化け物。生気の宿っていない眼で旭たちを見下ろしている。


「正直、2人がかりでも勝てる気はしないな。旭。君、1人でいけるか?」

「……はぁ? お前、誰にモノ言ってんだ」

「え?」


 ウミストラの提案が煽りのように聞こえたらしい旭はいっそう焔を滾らせる。直前のダモクレスのこともあってか、『お前はできるか』と言われているように感じたのだ。
 旭は背後に立つ1体の化け物のただ1人対峙する。かかってこいと言わんばかりに、化け物は人のものとも、魔獣のものとも思えない気色の悪い声を出した。


「こんな雑魚1匹、俺1人で十分だ!」


 悪夢の怪物が、旭たちに襲いかかる。


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「旭は、なんで冒険者なんてやってるんだ?」
「……別にやりたくてやってるわけじゃねぇよ」
 ふいにウミストラが旭に声をかけた。聞き飽きた質問に旭は若干肩を落としたが、用意されたような答えをスラスラと説明する。
「あのギルドには、寝床と食料を提供してもらってんの。でも、されてばっかりってのも性にあわないから、今回のはそれの恩返し」
「……へぇ〜」
「興味ねぇだろ」
「いいや、そんなことないよ。むしろ、君を見直したくらいだ」
 ウミストラは信頼したような軽い微笑みを浮かべながら続けた。
「君はもっと凶暴で危険なヤツだと思ってた。案外良い奴なのかもな」
「いや、あながち間違いじゃないよウミストラ。あまりこいつを侮らない方がいい。暇さえあれば魔法の練習に付き合わされることになるぞ」
 ウミストラの素直な気持ちが現れた言葉に、国綱は激しく、けれど冷静に答えた。国綱もまた事実と自分のありのままの感情を言葉にしたのだろうが、旭の気に障ったらしく、国綱はくるぶしにキツいローキックを食らわされた。
 旭たちは歩きながら団欒と、年齢相応の会話を広げていく。日々のことや学園のこと。自分のことや、くだらないことまで、もう全部話尽くしたと思うほど、旭たちは時間も忘れて話をしていた。
 そんな楽しい時間は、突然終わりを告げた。
 陰る森の中。先頭を歩く旭が、薄闇の先に何かを見つけ、ピタリと足を止めた。耳を澄ませると、がさがさと、誰かが草をかき分けるような音が聞こえてくる。
 暗闇の先に誰がいるのか、旭が目を細めた瞬間、|そ《・》|れ《・》は現れた。
「っ……!」
 そこには、 旭の身長をゆうに超える巨体の赤褐色の肌をした化け物が立っていた。ギロリと瞼のない不気味な飛び出た眼球で旭たちを見つめている。
 酷い粘性のねばっとした気持ちの悪い空気が旭たちの肌を撫でる。目の前にいるおぞましい化け物がただの魔獣でないことはすぐに理解できてしまった。そしてもう1つ、認めたくもない、最悪の真実を旭はぽつりと呟いた。
「……こいつだ」
 小さな声でレオノールは『最悪』と吐き捨てる。赤褐色の化け物はうわ言を吐きながら、じりじりと旭たちににじり寄ってくる。化け物が手足を動かす度、生暖かい空気が揺れるのを感じられた。旭たちも化け物が近づくのに合わせてゆっくりと後ずさっていく。
 しかし、悪夢はまだ終わらない。
「駄目だ……」
 1番後ろを歩いていたダモクレスが険しい面持ちで言った。振り向くこともせず、旭たちが足を止めたのを確認すると、ダモクレスは続けて言う。
「……|囲《・》|ま《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|る《・》」
 化け物はただ旭たちを狙っていたのではなかった。追い込み漁のように、『狩場』へと旭たちは誘い込まれていた。
 3体の化け物が、三角形を描くように旭たちを囲む。もう逃げ道は残されていなかった。ならば、とる行動は1つしかありはしない。
 火花のような弾ける音と共に、旭は焔を滾らせる。焔は轟々と燃え盛り、今にも化け物たちを飲み込もうとする勢いだ。
 旭が臨戦態勢に入ったのを皮切りに、その場の雰囲気が変わった。絶望しかけていた空気は一変する。その雰囲気に乗り、1番手をかっさらっていったのは、ダモクレスだった。
「1匹は儂1人で引き受ける。残りは頼むぞ!」
 こきんと首を鳴らし、ダモクレスは駆け出す。赤褐色の化け物目掛けて、一直線に走る。距離にして約50メートルほど。たったそれだけの短い距離。旭たちは、その姿を|目《・》|で《・》|追《・》|う《・》|こ《・》|と《・》|が《・》|で《・》|き《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》。
 銃声のような音とともに僅かに視界を掠めたのはダモクレスの残像と、粉砕し丸見えになった硬い岩盤。気がつくとそこに、化け物の姿はなかった。ダモクレスが走り出した直線上の木々はなぎ倒され、まるで道のようになっている。
「旭も大概だけど、あれも酷いね……」
「何が起きたんだよまったく」
「おい、目の前に集中しろ」
 1体はダモクレスが相手をしている。だが依然としてそこには、ただならぬ雰囲気を漂わせる化け物が2体の化け物。生気の宿っていない眼で旭たちを見下ろしている。
「正直、2人がかりでも勝てる気はしないな。旭。君、1人でいけるか?」
「……はぁ? お前、誰にモノ言ってんだ」
「え?」
 ウミストラの提案が煽りのように聞こえたらしい旭はいっそう焔を滾らせる。直前のダモクレスのこともあってか、『お前はできるか』と言われているように感じたのだ。
 旭は背後に立つ1体の化け物のただ1人対峙する。かかってこいと言わんばかりに、化け物は人のものとも、魔獣のものとも思えない気色の悪い声を出した。
「こんな雑魚1匹、俺1人で十分だ!」
 悪夢の怪物が、旭たちに襲いかかる。