正しさと笑顔が燃料に
ー/ー
「羽田くん。これやっといて!」
「羽田ぁ。この仕事やってくんね?」
「洋二。代返よろぴこー」
物心ついた時から、こんな声が僕の周りには溢れていた。何かしら頼まれる。お願いされる。頼られる。その時僕は基本的にこう返すんだ。
「うん。いいよ」
これで全部引き受ける。そして自分の事よりも優先して、丁寧にしてちゃんと熟す。たまに嫌じゃないの? と言われたり、頼んでる人にやめなよと注意したりする人もいる。他の人は頼まれるのが嫌になるらしい。でも、僕は嫌じゃない。嬉しいんだ。だって、人の役に立っているしそれで助けられるのなら問題はないはず。終わった後に”ありがとう”って言ってもらえる。これが幸せなんだ。
そんな僕でも、悪い事だけは断る。万引きしろとかあいつをいじめろとか言った人もいた。嫌がらせじみた事を仄めかす人もいたかな。三十過ぎた大人なのに。それは絶対にしない。だって、仕事や勉強とかの手伝いで誰かを困らせることはほぼない。でも、万引きとかいじめとかはお店だったり、された人だったりを困らせて傷つけてしまう。だからそれだけは絶対に断っていた。
「なんだよ。つれねえな」
「使えね」
そんな言葉を言われて自分の心がちょっぴり傷つくこともあった。けど、それでいいんだと思ってる。いや、絶対に正しいはずなんだ。人として正しいんだ。正しく生きる事で、僕は僕自身を肯定できるし、みんながそうすれば世の中もっと良くなると思う。
「しんどくない? その生き方」
お母さんにそう言われた事もある。お母さんだけじゃなくて、お父さんとか、高校の先生、職場の上司にも同じ事を言われたことが何度もある。でも、僕は辞めるつもりはない。正しい事をしていれば、どこかで報われるはず。そうじゃなくても、誰かが喜ぶんだから、それでいいんだ。自分の幸せは後回しでいい。いや、誰かの幸せが僕の幸せなんだから。
そう言えば、今日は夜ご飯食べ損ねちゃったからお腹が空いている。すっごい、ぐるぐるぐるぐる鳴ってる。オーケストラみたいだ。コンビニで、一人ぼっちにしてた子に全部あげたからなんだよね。あの子相当喜んでたなあ。家に誰もいなくて寂しいって言ってたから、せめてお腹いっぱいになれたならそれでいいかな。あの笑顔で心がいっぱいだから。
また買えばいいんだろうけど、明日が給料日で、貯金を切り崩したくないからいいや。僕は食肉加工会社に勤めているけど、給料が安いからその貯金も少ない。花形と言われ、給料も破格レベルで高い加工部門に行けたらいいけど、あそこあまり人が出入りしてないからなあ……。まあ頑張ってたらいつかなれるでしょ。
けどまだいいかな。たまに学校給食用の肉とかの配達に行く事がある。その時に、会った子にありがとうってニコニコした顔で言われるんだよね。あれが僕は凄く好きな瞬間なんだ。あれを見れるから、まだ動かなくてもいいと思ってる。そう言えば、あの子もその笑顔と同じくらいキラキラしてたなあ。なら、これでいいじゃん。
ちょっと眠り辛いけど、暖かくして目を閉じれば大丈夫。眠れる。起きたら、散歩がてらゴミ拾いをしよう。最近ゴミがすごく落ちてたから、そう言うのもちゃんとしないとみんな困るからね。よし、じゃあおやすみ!
僕は静かに目を閉じた。腹のオーケストラも少ししたらフィナーレを迎えていた。
数日後。家に帰って、スマホでニュースを見ていた時だった。
"◯◯国産牛肉強制廃棄法案可決"
そんな衝撃的なニュースを見てしまった。内容は、牛の新しい病気が海外で流行っていて、感染した牛の肉を食べた人にも感染するらしい。感染したら絶対に死ぬから、政府が業者側に強制的に廃棄させる法律が決まった。これだけじゃ業者は絶対に動かないなから、廃棄させるにあたって買い取り価格を政府が払うと言うのが今回の法案。うちは牛肉を扱ってたから、明日はこの作業になると思う。
廃棄するのは牛の命を粗末にするから申し訳ないけど、みんなの安全が大事だよね。僕が配達した肉もだけど、食べた子たちがそれで死んだら自分は悲しい。しょうがないよね。悲しいけど、ちゃんと処理しよう。僕は心に誓った。
「よーし。じゃあ、肉はこれで全部だな」
上司の中田さんが作業員全員に大声で告げた。
肉の仕分けと運び込みが終わった。量が思ってた五倍はあったから、身体がとてもしんどい。あちこちが悲鳴をあげていて、特に背中を動かすと悶絶しそうだ。これだけあるんだから、今後牛肉の値段上がりそう。給食の分減っちゃうだろうなあ……。別のことも心配になってきてしまった。
「じゃあ後は俺が処理しとくから、お前らは持ち場に戻れ。つっても今19時だから、もう帰っていいぞ。後は任せとけ」
中田さんの声を聞くと、終わったー! とか ラッキー! とか嬉しそうな声でみんな帰って行った。僕だけは残っていた。大体うちは残業がデフォになっている。だから、ありえないと思ったからだ。あと、あの量を処理するってのはかなりしんどそうだから手伝いたいと言うのもあった。
「田中さん。僕、時間あるんでよかったら手伝いますよ」
僕が声をかけると中田さんはニコリと微笑んでいた。
「いいんだよ。羽田くんはいつも遅くまでやってるんだから今日くらい帰れ。後は俺と社長と回収業者さんでどうにかしとっから」
そう言って軽く肩をポンポンと叩いてきた。
――――怪しい。中田さんあんなに笑顔で僕たちに接した事がない。いつも仏頂面しているのに。それに社長が出てくるって言ってたけど、社長は現場には普段絶対足を運ばない。ほぼ社長室に閉じこもっているし、定時になったらいの一番に帰る人。何かあるはず。こっそり残っておこう。バレないように。僕はそう決めた。
こっそり残った僕は、気づかれないように今日作業をした倉庫の誰も使わない扉側に隠れていた。使われないけど、中でのやり取りはよく聞こえる。録音しながら倉庫の中を覗き込んでいたら、衝撃的な言葉が耳に入ってきた。
「って事で、アリバイ作り頼みますよ」
「ええ。うちはちゃんと報酬分もらっていますし、ちょっとしたキックバックも戴いていますからね」
「このくらい大きな事をするなら、それは当たり前でしょ? なんせやってもない処理をやったようにしてもらうのですから」
中田さんと相手の業者さんがニッコニコで話している。時代劇の悪役代官と賄賂を贈る商人みたいだ。そこに社長も悠々とやってきた。真っ赤な顔をしている。多分何杯か引っ掛けてきたのだろう。
「冥さんのとこはどんな仕事もやってくれる! いらないパン耳を大量に持ってきてくれるのも大助かりよ」
「いえ。この程度であればお安い御用です。しかし、パンの耳で牛ひき肉をカサ増しするとは。流石は”ミートプロフェッサー”。恐ろしい天才ですね」
「肉の研究はワシのライフワークよ! 馬鹿な消費者共を騙すくらい造作ないわ! なんなら美食家気取りのアホ舌連中すらあれで騙せる! 腐った肉を食っても気づかん! そのおかげでウチは大儲け! 名誉もたんまりよ! でも、冥さんがちゃんとしたパン耳をべらぼうに安く持ってきてくれるから成り立つんじゃ!」
「そう言って頂けると幸いです。まあ、こちらもちゃんと、貰うべきものを戴いていますからね。こちらこそ感謝していますよ」
………………………………………。
……なんてことだ……。知らなかった。廃棄するのを騙すくらいは想像していたけど、まさか普段のものすらも……。だから、加工部門の移動と退職だけ異常に少なかったし給料が高いんだ。口止め料にって事で。花形部門とか言ってたけど、それはそう言うことだったのか……。ちゃんとしたって言ってたけど、この流れなら、間違いなくそれも廃棄品。これバレたら間違いなく倒産する。でも言うべきか。告発してもいいのか。
迷いが生じる。
言ってしまったらこの会社の人は行く場所がない。不正してた会社の社員とか、他の会社の人取りたくないだろうし。僕も多分例外じゃない。黙ってたら、黙っていればこの三人のやり方次第ではバレなさそう。そうすれば安い給料でも安定して暮らしていける。どうすれば……どうすれば……。
悩んでいる僕にさらに衝撃的な言葉が飛んできた。
「この肉どうするんですか?」
冥さんの声だろう。社長は笑いながら答えている。
「給食だよ給食! あいつら、値段値段って五月蝿えんだもん。こう言う原価のねえ肉やっときゃいいのよ。所詮ガキの飯だから。しかも公立の貧乏人のクソガキ。たっけえ牛肉なんぞ要らん。今までも腐った肉入れたけどなーんにもクレームが来ん。だから大丈夫。仮に病気でガキ一匹死んでも『わからないけど混じってた』って言えば誤魔化せる。ちょろいから。それでちょっとじっとしてればまた仕事が来る。うちレベルで安く出来るとこなんざねえんだから! 安いものに釣られる馬鹿は安物で死ねばいいんだよ!」
三人の極悪人はゲラゲラ笑っていた。
黙っていたら、笑顔で喜んでくれたあの子達が死ぬかもしれない。いや、死ぬ死なないじゃなくて美味しい牛肉と思ってたものが違う肉で裏切られたらどんな気持ちになるか。そもそも腐ったもの食べさせられてたって知ったら。親御さんだって、そんなのが出されているって知ったら、どんなに悲しむか。それどころか学校給食制度自体が終わってしまう。
僕がやらないといけない。僕が知ってるんだから、僕が声を上げないと。証拠を明日から集めて色んな所に働きかけよう。自分の命とかそう言うのはどうでもいい。
みんなを助けないと!
僕はバレないように扉を閉めてこっそりとその場を離れ、急いで帰った。工場から出る際に、駐車場を見る。社長の車含めて三台停まっている。工場も明るい。僕の存在はバレてない。
戦おう。あの笑顔の為に。
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これで全部引き受ける。そして自分の事よりも優先して、丁寧にしてちゃんと熟す。たまに嫌じゃないの? と言われたり、頼んでる人にやめなよと注意したりする人もいる。他の人は頼まれるのが嫌になるらしい。でも、僕は嫌じゃない。嬉しいんだ。だって、人の役に立っているしそれで助けられるのなら問題はないはず。終わった後に”ありがとう”って言ってもらえる。これが幸せなんだ。
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「なんだよ。つれねえな」
「使えね」
そんな言葉を言われて自分の心がちょっぴり傷つくこともあった。けど、それでいいんだと思ってる。いや、絶対に正しいはずなんだ。人として正しいんだ。正しく生きる事で、僕は僕自身を肯定できるし、みんながそうすれば世の中もっと良くなると思う。
「しんどくない? その生き方」
お母さんにそう言われた事もある。お母さんだけじゃなくて、お父さんとか、高校の先生、職場の上司にも同じ事を言われたことが何度もある。でも、僕は辞めるつもりはない。正しい事をしていれば、どこかで報われるはず。そうじゃなくても、誰かが喜ぶんだから、それでいいんだ。自分の幸せは後回しでいい。いや、誰かの幸せが僕の幸せなんだから。
そう言えば、今日は夜ご飯食べ損ねちゃったからお腹が空いている。すっごい、ぐるぐるぐるぐる鳴ってる。オーケストラみたいだ。コンビニで、一人ぼっちにしてた子に全部あげたからなんだよね。あの子相当喜んでたなあ。家に誰もいなくて寂しいって言ってたから、せめてお腹いっぱいになれたならそれでいいかな。あの笑顔で心がいっぱいだから。
また買えばいいんだろうけど、明日が給料日で、貯金を切り崩したくないからいいや。僕は食肉加工会社に勤めているけど、給料が安いからその貯金も少ない。花形と言われ、給料も破格レベルで高い加工部門に行けたらいいけど、あそこあまり人が出入りしてないからなあ……。まあ頑張ってたらいつかなれるでしょ。
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ちょっと眠り辛いけど、暖かくして目を閉じれば大丈夫。眠れる。起きたら、散歩がてらゴミ拾いをしよう。最近ゴミがすごく落ちてたから、そう言うのもちゃんとしないとみんな困るからね。よし、じゃあおやすみ!
僕は静かに目を閉じた。腹のオーケストラも少ししたらフィナーレを迎えていた。
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"◯◯国産牛肉強制廃棄法案可決"
そんな衝撃的なニュースを見てしまった。内容は、牛の新しい病気が海外で流行っていて、感染した牛の肉を食べた人にも感染するらしい。感染したら絶対に死ぬから、政府が業者側に強制的に廃棄させる法律が決まった。これだけじゃ業者は絶対に動かないなから、廃棄させるにあたって買い取り価格を政府が払うと言うのが今回の法案。うちは牛肉を扱ってたから、明日はこの作業になると思う。
廃棄するのは牛の命を粗末にするから申し訳ないけど、みんなの安全が大事だよね。僕が配達した肉もだけど、食べた子たちがそれで死んだら自分は悲しい。しょうがないよね。悲しいけど、ちゃんと処理しよう。僕は心に誓った。
「よーし。じゃあ、肉はこれで全部だな」
上司の中田さんが作業員全員に大声で告げた。
肉の仕分けと運び込みが終わった。量が思ってた五倍はあったから、身体がとてもしんどい。あちこちが悲鳴をあげていて、特に背中を動かすと悶絶しそうだ。これだけあるんだから、今後牛肉の値段上がりそう。給食の分減っちゃうだろうなあ……。別のことも心配になってきてしまった。
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中田さんの声を聞くと、終わったー! とか ラッキー! とか嬉しそうな声でみんな帰って行った。僕だけは残っていた。大体うちは残業がデフォになっている。だから、ありえないと思ったからだ。あと、あの量を処理するってのはかなりしんどそうだから手伝いたいと言うのもあった。
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僕が声をかけると中田さんはニコリと微笑んでいた。
「いいんだよ。羽田くんはいつも遅くまでやってるんだから今日くらい帰れ。後は俺と社長と回収業者さんでどうにかしとっから」
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こっそり残った僕は、気づかれないように今日作業をした倉庫の誰も使わない扉側に隠れていた。使われないけど、中でのやり取りはよく聞こえる。録音しながら倉庫の中を覗き込んでいたら、衝撃的な言葉が耳に入ってきた。
「って事で、アリバイ作り頼みますよ」
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「このくらい大きな事をするなら、それは当たり前でしょ? なんせやってもない処理をやったようにしてもらうのですから」
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………………………………………。
……なんてことだ……。知らなかった。廃棄するのを騙すくらいは想像していたけど、まさか普段のものすらも……。だから、加工部門の移動と退職だけ異常に少なかったし給料が高いんだ。口止め料にって事で。花形部門とか言ってたけど、それはそう言うことだったのか……。ちゃんとしたって言ってたけど、この流れなら、間違いなくそれも廃棄品。これバレたら間違いなく倒産する。でも言うべきか。告発してもいいのか。
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悩んでいる僕にさらに衝撃的な言葉が飛んできた。
「この肉どうするんですか?」
冥さんの声だろう。社長は笑いながら答えている。
「給食だよ給食! あいつら、値段値段って五月蝿えんだもん。こう言う原価のねえ肉やっときゃいいのよ。所詮ガキの飯だから。しかも公立の貧乏人のクソガキ。たっけえ牛肉なんぞ要らん。今までも腐った肉入れたけどなーんにもクレームが来ん。だから大丈夫。仮に病気でガキ一匹死んでも『わからないけど混じってた』って言えば誤魔化せる。ちょろいから。それでちょっとじっとしてればまた仕事が来る。うちレベルで安く出来るとこなんざねえんだから! 安いものに釣られる馬鹿は安物で死ねばいいんだよ!」
三人の極悪人はゲラゲラ笑っていた。
黙っていたら、笑顔で喜んでくれたあの子達が死ぬかもしれない。いや、死ぬ死なないじゃなくて美味しい牛肉と思ってたものが違う肉で裏切られたらどんな気持ちになるか。そもそも腐ったもの食べさせられてたって知ったら。親御さんだって、そんなのが出されているって知ったら、どんなに悲しむか。それどころか学校給食制度自体が終わってしまう。
僕がやらないといけない。僕が知ってるんだから、僕が声を上げないと。証拠を明日から集めて色んな所に働きかけよう。自分の命とかそう言うのはどうでもいい。
みんなを助けないと!
僕はバレないように扉を閉めてこっそりとその場を離れ、急いで帰った。工場から出る際に、駐車場を見る。社長の車含めて三台停まっている。工場も明るい。僕の存在はバレてない。
戦おう。あの笑顔の為に。