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第68話 ディベート1

ー/ー



「まずは俺から質問だ」

 どうやら始めに大槻と話すのは樫田のようだ。
 緊張が増す中でも樫田は笑顔だった。
 いつも頼りになるその顔が今は恐ろしく感じる。

「何で昨日、あのタイミングで告白したんだ?」

「それは……」

 大槻の表情が曇る。
 おいおい、初手にしてはいきなり核心過ぎないか?

 俺は口から出そうになった言葉を必死に飲み込む。
 大槻がなかなか返答できないでいると樫田が続けて言う。

「俺はな大槻。告白すること自体はきっと時間の問題だと思っていた。でも昨日……なにも歓迎会の時じゃなくてよかったんじゃないか?」

「……」

 これはまずい。
 樫田の言っていることはごもっともであり、当然の疑問。

 正論だ。
 この質問に対して納得させる答えなんてあるのか?

「それはだな……その……」

 何かを言おうとしているが、大槻の言葉はまとまっていない。

 悪い流れを感じる。
 人間一度言葉に詰まると、思ったことすら言えなくなってくる。

 どんなに覚悟が決まっていようと、言葉に出す勇気はまた別の話だ。
 完全に大槻はたじろんでいた。

「大槻」

 何を思ったのか、樫田は名前を呼ぶ。
 そして笑顔のままじっと大槻見る。


「言いたいことを言え。どんな言葉でも聞くから」


「……っ!」

 穏やかに、そして優しく投げかけた。
 大槻が言葉を受け取り、一度深く深呼吸をした。
 固さが取れていくのが目に見えた。

「……正直分からない。二手に別れたあの時、確かに夏村と二人になりたかったのはある。でも告白まで考えてはいなかった。ただ少しでも今より仲良くなりたかったのはあった。それは歓迎会の熱に当てられたって言えばそうだし、俺の願望って言えばそうだ」

「そうか。じゃあ突発的だったのか?」

「そう、だな。あの瞬間、どうしようもなく俺の中で感情が暴れたんだ」

「感情?」

「ああ、好きっていう感情」

「どうして感情が暴れたんだ?」

「証明したかったんだ」

「証明? 何を?」

「俺の世界が鮮明なことを」

「詳しく話してくれるか?」

「……俺さ。中学の終わりの方から人生が退屈だったんだ。部活引退してから受験の期間が億劫でさ。高校入ってからも目標とかなくて、けど前と同じ部活入るのとかなんか違うなって思って、体育会系じゃなくて文科系の部活入ろうって、でも音楽も絵を描くのとか苦手で、そんなときに部活動紹介で演劇部を知って、これなら楽しめそうって感じたんだ」

「……」

「実際入って楽しかったけど、俺の中に退屈が常にあったんだ。世界を灰色に感じるようなそんな感覚が……けど、去年の春大会のとき一緒に夏村と演技して楽しいって感じたんだ。俺の中で鮮明な感情が生まれたんだ」

「その時に好きになったのか?」

「たぶん、そう。そんで俺は焦っていたんだと思う」

「焦る?」

「俺の青春はこのまま告白せずに灰色を抱えて終わるんじゃないかって。春休みからずっと考えていた。お前らに話したとき、樫田はあの時告白するべきじゃないって忠告してくれたよな」

「ああ」

「言われた通りだったよ」

「そうか」

 そこで会話が止まる。
 樫田が聞き返さなかったからだろう。

 大槻の言葉に何を感じたのか、いつの間にか樫田から笑顔が消えていた。
 真剣にじっと二人は目を合わせる。
 そして、口を開いたのは樫田だった。

「大槻。なぜ告白したのかは分かった。その上でもう一つ質問させてくれ」

「ああ」

「退屈の灰色はこれからも残りそうか?」

 確かに、大槻の話だと好きという感情は照明できていない。
 なら灰色は残ることになる。

「……そうかもしれない。けど…………こう言ったら不快に思うかもしれないが、今は少しだけ清々しいんだ」

 大槻は自虐的に少し笑った。
 対して、樫田は言葉の意味を量るかのような視線をしながら言う。

「…………自分のしたことをどう思っている?」

「最低だと思う。さすがの俺でもそれぐらいは分かる」

「後悔してるか?」

「…………悪い。俺は告白したこと自体は後悔していない……そりゃ、タイミングとか内容とかは最低だとは思うけど」

「そうか…………大槻。恋愛については個人の領域で部活の問題ではないと俺は思っている」

「!」

「けどお前の言う通りタイミングとかが悪かった。最低だと自覚しているならそこは触れない。

 ただ俺は純粋に知りたかった。お前を突き動かしたその感情を」

「樫田……」

「もし告白したことを後悔しているって言うんだったら俺は納得しなかった。けどお前は自分と向き合って、そのことを胸張れるって…………いや違うか。大槻。俺はその感情に納得した。それはお前がちゃんとその想いを言葉にしたからだし、正直に言ってくれたからだ。ごめんな。お前が夏村に告白するって言った時、とことん話し合うべきだったんだ」

「なんでお前が謝んだよ……」

「はは、そうだな可笑しいな…………まぁ、これで俺とのディベートは終わりだ」

 樫田は力なく笑った。
 俺にはそれが寂しげに感じた。
 大槻にはどう見えたのか、樫田の名前を呼んだ。


「樫田!」


「ん?」

「俺さ、告白するって宣言してお前にフラれるからやめた方がいいって言われた時! 実はちょっと嬉しかったんだ! ちゃんと相談乗ってくれたって!」

「そうか、そりゃなによりだ」

 笑顔のまま樫田はそう答え、後ろにいるみんなの方に向かった。
 始めからこういう落としどころにするつもりだったのではないかと思ってしまうほど、あっさりとした引き際だった。

 質問こそ核心に迫った内容だったが、結果的には大槻を奮い立たせ言葉を引き出した。
 ただ大槻の想いをどこまで樫田が受け入れたかは分からない。

 俺は樫田の本心が分からなくなった。



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次のエピソードへ進む 第69話 ディベート2


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「まずは俺から質問だ」
 どうやら始めに大槻と話すのは樫田のようだ。
 緊張が増す中でも樫田は笑顔だった。
 いつも頼りになるその顔が今は恐ろしく感じる。
「何で昨日、あのタイミングで告白したんだ?」
「それは……」
 大槻の表情が曇る。
 おいおい、初手にしてはいきなり核心過ぎないか?
 俺は口から出そうになった言葉を必死に飲み込む。
 大槻がなかなか返答できないでいると樫田が続けて言う。
「俺はな大槻。告白すること自体はきっと時間の問題だと思っていた。でも昨日……なにも歓迎会の時じゃなくてよかったんじゃないか?」
「……」
 これはまずい。
 樫田の言っていることはごもっともであり、当然の疑問。
 正論だ。
 この質問に対して納得させる答えなんてあるのか?
「それはだな……その……」
 何かを言おうとしているが、大槻の言葉はまとまっていない。
 悪い流れを感じる。
 人間一度言葉に詰まると、思ったことすら言えなくなってくる。
 どんなに覚悟が決まっていようと、言葉に出す勇気はまた別の話だ。
 完全に大槻はたじろんでいた。
「大槻」
 何を思ったのか、樫田は名前を呼ぶ。
 そして笑顔のままじっと大槻見る。
「言いたいことを言え。どんな言葉でも聞くから」
「……っ!」
 穏やかに、そして優しく投げかけた。
 大槻が言葉を受け取り、一度深く深呼吸をした。
 固さが取れていくのが目に見えた。
「……正直分からない。二手に別れたあの時、確かに夏村と二人になりたかったのはある。でも告白まで考えてはいなかった。ただ少しでも今より仲良くなりたかったのはあった。それは歓迎会の熱に当てられたって言えばそうだし、俺の願望って言えばそうだ」
「そうか。じゃあ突発的だったのか?」
「そう、だな。あの瞬間、どうしようもなく俺の中で感情が暴れたんだ」
「感情?」
「ああ、好きっていう感情」
「どうして感情が暴れたんだ?」
「証明したかったんだ」
「証明? 何を?」
「俺の世界が鮮明なことを」
「詳しく話してくれるか?」
「……俺さ。中学の終わりの方から人生が退屈だったんだ。部活引退してから受験の期間が億劫でさ。高校入ってからも目標とかなくて、けど前と同じ部活入るのとかなんか違うなって思って、体育会系じゃなくて文科系の部活入ろうって、でも音楽も絵を描くのとか苦手で、そんなときに部活動紹介で演劇部を知って、これなら楽しめそうって感じたんだ」
「……」
「実際入って楽しかったけど、俺の中に退屈が常にあったんだ。世界を灰色に感じるようなそんな感覚が……けど、去年の春大会のとき一緒に夏村と演技して楽しいって感じたんだ。俺の中で鮮明な感情が生まれたんだ」
「その時に好きになったのか?」
「たぶん、そう。そんで俺は焦っていたんだと思う」
「焦る?」
「俺の青春はこのまま告白せずに灰色を抱えて終わるんじゃないかって。春休みからずっと考えていた。お前らに話したとき、樫田はあの時告白するべきじゃないって忠告してくれたよな」
「ああ」
「言われた通りだったよ」
「そうか」
 そこで会話が止まる。
 樫田が聞き返さなかったからだろう。
 大槻の言葉に何を感じたのか、いつの間にか樫田から笑顔が消えていた。
 真剣にじっと二人は目を合わせる。
 そして、口を開いたのは樫田だった。
「大槻。なぜ告白したのかは分かった。その上でもう一つ質問させてくれ」
「ああ」
「退屈の灰色はこれからも残りそうか?」
 確かに、大槻の話だと好きという感情は照明できていない。
 なら灰色は残ることになる。
「……そうかもしれない。けど…………こう言ったら不快に思うかもしれないが、今は少しだけ清々しいんだ」
 大槻は自虐的に少し笑った。
 対して、樫田は言葉の意味を量るかのような視線をしながら言う。
「…………自分のしたことをどう思っている?」
「最低だと思う。さすがの俺でもそれぐらいは分かる」
「後悔してるか?」
「…………悪い。俺は告白したこと自体は後悔していない……そりゃ、タイミングとか内容とかは最低だとは思うけど」
「そうか…………大槻。恋愛については個人の領域で部活の問題ではないと俺は思っている」
「!」
「けどお前の言う通りタイミングとかが悪かった。最低だと自覚しているならそこは触れない。
 ただ俺は純粋に知りたかった。お前を突き動かしたその感情を」
「樫田……」
「もし告白したことを後悔しているって言うんだったら俺は納得しなかった。けどお前は自分と向き合って、そのことを胸張れるって…………いや違うか。大槻。俺はその感情に納得した。それはお前がちゃんとその想いを言葉にしたからだし、正直に言ってくれたからだ。ごめんな。お前が夏村に告白するって言った時、とことん話し合うべきだったんだ」
「なんでお前が謝んだよ……」
「はは、そうだな可笑しいな…………まぁ、これで俺とのディベートは終わりだ」
 樫田は力なく笑った。
 俺にはそれが寂しげに感じた。
 大槻にはどう見えたのか、樫田の名前を呼んだ。
「樫田!」
「ん?」
「俺さ、告白するって宣言してお前にフラれるからやめた方がいいって言われた時! 実はちょっと嬉しかったんだ! ちゃんと相談乗ってくれたって!」
「そうか、そりゃなによりだ」
 笑顔のまま樫田はそう答え、後ろにいるみんなの方に向かった。
 始めからこういう落としどころにするつもりだったのではないかと思ってしまうほど、あっさりとした引き際だった。
 質問こそ核心に迫った内容だったが、結果的には大槻を奮い立たせ言葉を引き出した。
 ただ大槻の想いをどこまで樫田が受け入れたかは分からない。
 俺は樫田の本心が分からなくなった。