私ばっかり、好きみたい
ー/ー
先輩のことは変わらず、ずっと好きなのに。どうして目を合わせてくれないの。しかも、デートは家ばっかり。誘うのは毎回私ばかり。
なのに、今日は急に出かけると言いだすし、それが、妙に嬉しくて私は舞い上がってしまうし。それでも、先輩はいつもと変わらない。二人で歩いているのが、まるで普通のことみたいな顔をする。
先を歩いて行ってしまう先輩を後ろから追いかけて、声を掛ける。
「先輩」
「いつまで、先輩って呼ぶんだよ」
「じゃあ、晴樹さん?」
先輩は、晴れ男でもないし、どちらかと言えば雪男なのに。私の晴香という名前と同じ、晴れが入っている。私は、晴れ女だと自負しているけど。
しんしんと降りしきる雪を見上げながら、手持ち無沙汰な右手を握りしめる。手を繋いで歩いてくれることはないし、私たちは恋人同士と言っていいんだろうか。
進学して先輩があまり大学に来なくなっても、私たちは二人きりで会ってる。かろうじて、恋人同士みたいな頻度で会ってる。だから、やっぱり私たちは恋人、と言えるかもしれない。
「何考えてんだよ」
私の思考を遮ったのは、冷え切った先輩の手。頬だけ真っ赤に染まってる自覚はある。先輩の手を頬から外して、包み込めば私の両手の温度がどんどん先輩に移っていく。
少しだけ動いた拍子にカメラに付けていたペンギンのキーホルダーがカシャカシャと音を立てた。ふわふわのぬいぐるみだから、カメラは傷つかないけどチェーンが当たって音を奏でる。じっと見つめるたびにあの日を思い出して、少し切なくなる。
一年以上経ったというのに、私たちの関係性は、こんなにも今までと変わらないのだ。
真駒内駅前のスノーキャンドルが優しい光を灯して、私たちの道を照らしている。私が黙ってスノーキャンドルを見つめていたことを、やりたかったに勝手に脳内変換したらしい。
「来年は一緒に作る?」
先輩は、スノーキャンドルを指さしながら呟く。来年も二人で過ごすことは、確定。先輩がそう思ってくれてることは、嬉しい。
「そうですね」
「子どもとかも、こういうの好きそうだよね」
「そうですね」
心ここにあらずになってしまい、ただ相槌を打つマシーンになってしまってる。冷えてしまった自分の手に、白い息を吹きかけながら、歩みを進める。先輩は立ち止まってスノーキャンドルを撮影していた。
「先輩?」
「名前で呼ばないのかよ」
「先輩なんて、私のこと呼ばないくせに」
唇を尖らして、責めるように言葉にすれば、きょとんとした顔を見せる。私のことを先輩が呼ぶことは、数えるほどしかない。
名前を呼んでもらえるだけで、幸せな気分になれるのに。先輩はいつも、「ねぇ」とか「あのさ」とか、私を呼んでくれない。小さな不満が胸の奥に降り積もる。
自分でも知らないうちに、ワガママになってきていたらしい。
先輩が見てくれるだけで嬉しかったし、まさか付き合えるとも最初は思っていなかったのに。いざ付き合いだしたら、と私は欲張りになっていく。
「晴香?」
「そうですよ、私晴香っていうんです、知ってました?」
「知ってるに決まってるしょ」
「ふーん?」
その割には呼んでくれないですねは、口に出せなかった。先輩と付き合う前は、素直に好きだの、こっちを見てだの、言えていたのに。どんどん私の言葉は、飲み込まれていく。
やっと付き合えたのに嫌われたくない。ワガママを言いすぎて、振られたくない。
相変わらず先輩への好きは、積もっているのに、一ミリも伝わってる気がしない。
「ほら、地下鉄来ちゃうから」
「地下鉄来ちゃうからって! 十数分に一本来るじゃないですか、ってか、写真撮ってて立ち止まったの先輩ですよ」
「そうだけど、冷えちゃうしさ。ほらいこ」
差し出された右手は、手を繋ごうという誘いだと思っていいのかな。多分違うな、そういうポーズなだけで握りしめたら、きっと顔を赤く染めて引っ込められるだろう。
あまりにも、難儀だ。恋人への扱いに慣れていないだろうとは思っていたけど、それにしても度が過ぎる。私たちは、一向に恋人としての絆は深められていないままですよ。手を繋ぐこともない、キスだってしてない! 恋愛的に好きだなって思ったら、ちゅーしてくださいと言った手前私から迫ることもできない。
先輩の手を見なかったふりして、駅に向かう。するりと私の右手を掴まれた。
「繋がないの?」
まさかの提案に、唇が震えた。つい、にやけてしまう。先輩がそうやって言ってくれるだけで、手を繋ぐだけで、私の心はとろとろ溶けちゃうんですよ。気づいてないだろうけど!
「繋ぎます」
ぎゅっと強く握りしめれば、優しく包み返される。二人の体温が混ざり合って、冬だというのにあたたかい。
地下鉄の駅構内に入れば、暖房が効いていて、コートを脱ぎさりたくなった。手を繋いだまま、空いている手でキタカをポケットから取り出す。
「どこに行くんですか」
「大通駅」
「大通駅ですか?」
「うん、そうだよ。キタカ、あるよね、行こう」
繋いだ手は変わらず離されないまま、先輩は迷いなく進んでいく。大通りに何かあるだろうか、と想像してミュンヘンクリスマス市が頭に浮かんだ。まさか、と否定も同時に。
だって、人混みが嫌いな先輩のことだ。あんなところに行って何が楽しいんだとか、言い出すだろう。私と違って、先輩は人が集まるところが嫌いだし。
ホームで発車を待つ地下鉄に乗り込めば、丁度帰宅の時間なのだろう。イスはまばらに埋まっており、二人で並んでは座れそうになかった。
「座る?」
座ったらこの手を離されてしまう。危機感から首を横に振る。大通りまで大体二十分くらい。それなら、立っていても全然耐えられる。
「そっか」
そのまま先輩は何も言わずに、ただ、すぅうっと息を吸ったり吐いたりを繰り返す。言いづらいことを言い出す時の先輩の癖。何か私に言わなくちゃいけないことがあるんだろうか。
考えてみても思い当たるのは、就職が決まった、とか?
もしかしたら、遠距離恋愛になるのかもしれない。だから、言い出しづらくて……?
というかそもそも、先輩は私と付き合ってると思ってるんだろうか?
あの円山動物園のデートの日以来、仲を深めるように何度もデートを繰り返した。ほぼお家で映画、ゲームとかだったけど。たまに、外に出かけるのは美術館や、写真を撮りに行くくらい。
デートを繰り返していたけど、そういえば、付き合おうとは言われてない。そんなことを一年も経って気づくなんて……私は愚かだ。
先輩の隣に居れることが当たり前になりすぎて、私が勝手に恋人だと思い込んでいたのかもしれない。
でも、ペンギン夫婦になろうは、実質付き合おうという告白では? いや、わかんない。だって、先輩のことだもん。全くそんなつもりはなく、友達以上恋人未満なつもりなのかも。
一人で考えていれば、良い答えは出そうにない。ネガティブな方にばっかり、気持ちが向いてしまう。
黙り込んだままの私と先輩を乗せて、地下鉄は、ぐんぐんと大通へと向かっていく。途中の駅で、人を乗せては下ろしてを繰り返しながら。
大通駅で地下鉄を降りれば、向かう場所は先輩の中で決まってるらしい。手を繋いだまま、改札を通り抜けて、地上へと続く階段を登っていく。
駅構内は暖かい空気が漂っていたのに、地上に出れば頬を冷え切った風が撫でる。それでも、目に映る光景はキラキラと眩い。雪もいつのまにか止んでいたらしい。雪がないだけ、幾分か寒さもマシになった気がする。
「やっぱ、さぶいな」
「そりゃあそうですよ、真冬ですもん」
降り積もった真っ白な雪と、クリスマスのイルミネーション。大通公園には、光の花が一面に咲いている。「キレイ」と声を出してしまえば、横で先輩がふふっと笑った気配がした。
まさか、あり得ないと思っていた選択肢が答えだった?
「これ見に来たんですか?」
「うん、キレイだろ?」
「キレイですけど……人いっぱい居ますよ」
「さすがに知ってるよ、それくらい。とりあえず何か食べる? イルミネーション見る?」
「ええっ……本当にいいんですか?」
「どこまでも疑うな君は」
君。やっぱり名前では呼んでくれないけど、君という響きすら今は嬉しいのは、イルミネーションの魔法だろうか。
「じゃあ、先に食べちゃいましょ、先輩、今日もまだ何も食べてないですよね」
「あーバレてた?」
「先輩のことなら、なんでもお見通しなんで」
すぐに何かに熱中して、食事を疎かにする。先輩には時間が足りないらしい。写真も就活も、趣味も大学の課題も。全てをやるために、先輩がおざなりにするのはいつだって食事だ。
健康のためにやめてください、って何回も言ったけど取り合ってくれなかった。だから、片手で食べられるものを買って行ったり、二人で居る時は、無理矢理にでも食べさせていた。
そんな中でも私には会ってくれていたのは、少しは期待してもいいのかな。
手を繋いで幸せです、と顔に張り付けた恋人たち何組ともすれ違う。私たちも、側から見たらそう見えるんだろうか。
「先輩の好きそうな、ホットワインもありますよ」
「そうだね、あと、君が好きそうなローストアーモンドとかもね」
「私がいつもナッツ食べてるからですか?」
「うん、違った?」
「というか、どんなお店出てるとか調べてたんですか」
見渡す限り、ローストアーモンドのお店はまだ目に入らない。ソーセージのお店やチキン、ホットチョコレートなどの看板は目に入るけど。
「まぁ、ほら、デートだからね」
照れたようにそっぽを向いて、呟くから、私の胸は飛び上がりそうになる。ちゅーしてくれないとか、付き合おうと言われてないとか、もうどうでも良くなっていた。今日は先輩から誘ってくれて、しかも、調べてまでくれていた特別な日だ。
「とりあえず何にしますか? 先輩が好きなものから行きましょう」
「ホットワインが売ってるところにしようか」
「そうしましょう!」
パッと目についたお店で、ホットワインとソーセージ、あとフィッシュ&チップスを買う。ほかほかと湯気をたてるワインには、レモンが浮かんでいた。
ぐるりと屋台に囲まれた真ん中に、テーブルが置かれていて立ち食いができるようになってるらしい。開いていた一つのテーブルに買ってきたものを置いて二人でつまむ。
フィッシュ&チップスは、白身魚がこれでもかというそど大きいし、衣がざくふわって美味しい。マヨネーズとケチャップというのも、ジャンキーで良い。
先輩は食べ物にはなかなか手を付けずに、ホットワインをゆっくりと飲んでいる。ポテトをつまみ上げて、先輩の口に運べばパクリと食べた。
餌付けしてるみたいで、可愛い。きゅんっとして、ソーセージも運べば、ぱりんっといい音をして噛み切る。ポテトも、フィッシュフライも、と次々に口に運べば、先輩がぷっと笑い出す。
「自分で食べれるよ」
「全然食べてないからです。先輩放っておいたら、数日ご飯抜いたりするし」
「最近は気をつけてるよ、一日何も食べないはしてない」
「それならいいんですけど」
先輩に食べさせたソーセージにそのままかじりつく。脂が口の中で弾ける。ホットワインをそのまま、飲み込めば、ほんのり甘くてフルーツの香りが漂ってくる。お酒はあんまり得意じゃないけど、ホットワインならいくらでも飲めそう。
飲み干していれば、先輩が「もう一杯買ってくるから待ってて」と私を置いて机を離れていく。大人しくポテトを口に運ぶ。周りは、ほんのり酔って楽しそうな人たちばかりだ。
私が好きそうだから、先輩は連れてきてくれたんだろうか。無理してないだろうか。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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「そうですね」
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「そうですね」
心ここにあらずになってしまい、ただ相槌を打つマシーンになってしまってる。冷えてしまった自分の手に、白い息を吹きかけながら、歩みを進める。先輩は立ち止まってスノーキャンドルを撮影していた。
「先輩?」
「名前で呼ばないのかよ」
「先輩なんて、私のこと呼ばないくせに」
唇を尖らして、責めるように言葉にすれば、きょとんとした顔を見せる。私のことを先輩が呼ぶことは、数えるほどしかない。
名前を呼んでもらえるだけで、幸せな気分になれるのに。先輩はいつも、「ねぇ」とか「あのさ」とか、私を呼んでくれない。小さな不満が胸の奥に降り積もる。
自分でも知らないうちに、ワガママになってきていたらしい。
先輩が見てくれるだけで嬉しかったし、まさか付き合えるとも最初は思っていなかったのに。いざ付き合いだしたら、と私は欲張りになっていく。
「晴香?」
「そうですよ、私晴香っていうんです、知ってました?」
「知ってるに決まってるしょ」
「ふーん?」
その割には呼んでくれないですねは、口に出せなかった。先輩と付き合う前は、素直に好きだの、こっちを見てだの、言えていたのに。どんどん私の言葉は、飲み込まれていく。
やっと付き合えたのに嫌われたくない。ワガママを言いすぎて、振られたくない。
相変わらず先輩への好きは、積もっているのに、一ミリも伝わってる気がしない。
「ほら、地下鉄来ちゃうから」
「地下鉄来ちゃうからって! 十数分に一本来るじゃないですか、ってか、写真撮ってて立ち止まったの先輩ですよ」
「そうだけど、冷えちゃうしさ。ほらいこ」
差し出された右手は、手を繋ごうという誘いだと思っていいのかな。多分違うな、そういうポーズなだけで握りしめたら、きっと顔を赤く染めて引っ込められるだろう。
あまりにも、難儀だ。恋人への扱いに慣れていないだろうとは思っていたけど、それにしても度が過ぎる。私たちは、一向に恋人としての絆は深められていないままですよ。手を繋ぐこともない、キスだってしてない! 恋愛的に好きだなって思ったら、ちゅーしてくださいと言った手前私から迫ることもできない。
先輩の手を見なかったふりして、駅に向かう。するりと私の右手を掴まれた。
「繋がないの?」
まさかの提案に、唇が震えた。つい、にやけてしまう。先輩がそうやって言ってくれるだけで、手を繋ぐだけで、私の心はとろとろ溶けちゃうんですよ。気づいてないだろうけど!
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ぎゅっと強く握りしめれば、優しく包み返される。二人の体温が混ざり合って、冬だというのにあたたかい。
地下鉄の駅構内に入れば、暖房が効いていて、コートを脱ぎさりたくなった。手を繋いだまま、空いている手でキタカをポケットから取り出す。
「どこに行くんですか」
「大通駅」
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ホームで発車を待つ地下鉄に乗り込めば、丁度帰宅の時間なのだろう。イスはまばらに埋まっており、二人で並んでは座れそうになかった。
「座る?」
座ったらこの手を離されてしまう。危機感から首を横に振る。大通りまで大体二十分くらい。それなら、立っていても全然耐えられる。
「そっか」
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でも、ペンギン夫婦になろうは、実質付き合おうという告白では? いや、わかんない。だって、先輩のことだもん。全くそんなつもりはなく、友達以上恋人未満なつもりなのかも。
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大通駅で地下鉄を降りれば、向かう場所は先輩の中で決まってるらしい。手を繋いだまま、改札を通り抜けて、地上へと続く階段を登っていく。
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「やっぱ、さぶいな」
「そりゃあそうですよ、真冬ですもん」
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まさか、あり得ないと思っていた選択肢が答えだった?
「これ見に来たんですか?」
「うん、キレイだろ?」
「キレイですけど……人いっぱい居ますよ」
「さすがに知ってるよ、それくらい。とりあえず何か食べる? イルミネーション見る?」
「ええっ……本当にいいんですか?」
「どこまでも疑うな君は」
君。やっぱり名前では呼んでくれないけど、君という響きすら今は嬉しいのは、イルミネーションの魔法だろうか。
「じゃあ、先に食べちゃいましょ、先輩、今日もまだ何も食べてないですよね」
「あーバレてた?」
「先輩のことなら、なんでもお見通しなんで」
すぐに何かに熱中して、食事を疎かにする。先輩には時間が足りないらしい。写真も就活も、趣味も大学の課題も。全てをやるために、先輩がおざなりにするのはいつだって食事だ。
健康のためにやめてください、って何回も言ったけど取り合ってくれなかった。だから、片手で食べられるものを買って行ったり、二人で居る時は、無理矢理にでも食べさせていた。
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「先輩の好きそうな、ホットワインもありますよ」
「そうだね、あと、君が好きそうなローストアーモンドとかもね」
「私がいつもナッツ食べてるからですか?」
「うん、違った?」
「というか、どんなお店出てるとか調べてたんですか」
見渡す限り、ローストアーモンドのお店はまだ目に入らない。ソーセージのお店やチキン、ホットチョコレートなどの看板は目に入るけど。
「まぁ、ほら、デートだからね」
照れたようにそっぽを向いて、呟くから、私の胸は飛び上がりそうになる。ちゅーしてくれないとか、付き合おうと言われてないとか、もうどうでも良くなっていた。今日は先輩から誘ってくれて、しかも、調べてまでくれていた特別な日だ。
「とりあえず何にしますか? 先輩が好きなものから行きましょう」
「ホットワインが売ってるところにしようか」
「そうしましょう!」
パッと目についたお店で、ホットワインとソーセージ、あとフィッシュ&チップスを買う。ほかほかと湯気をたてるワインには、レモンが浮かんでいた。
ぐるりと屋台に囲まれた真ん中に、テーブルが置かれていて立ち食いができるようになってるらしい。開いていた一つのテーブルに買ってきたものを置いて二人でつまむ。
フィッシュ&チップスは、白身魚がこれでもかというそど大きいし、衣がざくふわって美味しい。マヨネーズとケチャップというのも、ジャンキーで良い。
先輩は食べ物にはなかなか手を付けずに、ホットワインをゆっくりと飲んでいる。ポテトをつまみ上げて、先輩の口に運べばパクリと食べた。
餌付けしてるみたいで、可愛い。きゅんっとして、ソーセージも運べば、ぱりんっといい音をして噛み切る。ポテトも、フィッシュフライも、と次々に口に運べば、先輩がぷっと笑い出す。
「自分で食べれるよ」
「全然食べてないからです。先輩放っておいたら、数日ご飯抜いたりするし」
「最近は気をつけてるよ、一日何も食べないはしてない」
「それならいいんですけど」
先輩に食べさせたソーセージにそのままかじりつく。脂が口の中で弾ける。ホットワインをそのまま、飲み込めば、ほんのり甘くてフルーツの香りが漂ってくる。お酒はあんまり得意じゃないけど、ホットワインならいくらでも飲めそう。
飲み干していれば、先輩が「もう一杯買ってくるから待ってて」と私を置いて机を離れていく。大人しくポテトを口に運ぶ。周りは、ほんのり酔って楽しそうな人たちばかりだ。
私が好きそうだから、先輩は連れてきてくれたんだろうか。無理してないだろうか。