第48話 神殿へ

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そうして、町での補給をあらかた済ませた後は適当に自由に過ごし、しばしの休息を取った。
チラッと聞いたのだが、レギエル姉妹は優秀な魔力の持ち主を徴兵する以外に際立った事は特にしていないらしい。
しかし、人々は皆、不安と恐怖を口にしていた。
なんでも、レギエル姉妹はこの国の歴史上初めて、そして唯一禁忌を犯した司祭として、国中にその名を知られているという。
そしてその性格も、司祭とは思えぬほどに陰湿かつ卑劣で、目的のためには手段を選ばないと言われているらしい。
いかにも悪役といったキャラだ。

ちなみにレギエル姉妹が破ったという禁忌はサンライトの統治者に背くことで、苺の母は彼女の前の代のサンライトの統治者であったらしい。
そして当時、苺の母は大司祭ではなく大賢者と呼ばれていたそうで、賢者は術士がそのまま昇格していくとなれる種族だそうだ。

術士は、修道士など「専攻種族」と呼ばれる種族になるには特殊な試験を突破しなければならないらしいが、仮にそれで落ちても、あまり問題はないらしい。
というのも、この試験は何歳になっても挑めるし、そもそも異人は人間とは年齢や時間の概念が違うので、若いうちに何度も試験を受けられる。
それに、そのまま昇格していっても、基本的にはなんら問題はないという。

そう考えてみると、術士というのはかなり自由な種族なのではないか。
魔法の勉強に励み、光、闇、理のどれかの属性を究めれば望んだ種族になることができ、いずれも究めない場合でも進路が保証されている。
つまり、もし挫折しても保険がある訳だ。
それに、異人には何度でもチャンスがあるし、一年で年を取らない分、若いうちにやり直す機会はたくさんある。
たった一度受験に失敗しただけで、その後の人生設計が狂ってしまう事も珍しくない人間と比べれば、かなり楽である。
もちろん、人間とはまた違った苦労があるのだろうが。




出発する日の朝になって、突然一人の男が尋ねてきた。
「僕はセルクといいます…魔法使いです。どうか、同行させてください。
水と電の魔法なら、使えるので…」

いきなりのことであったので、困惑した。しかし、
「いいんじゃないか?頭数は多いほうがいい。それに、今うちには電の魔法を使える奴はいないんだ、入れた方がいいと思うぜ」
という猶の意見を聞いて、一理あると思えた。

一応、こんな質問をした。
「あんたは、なんで俺達についてこようと思ったんだ?」

男…セルクは、こう答えた。
「レギエル姉妹を…あの邪悪な司祭たちを追い払って、この国に平和を取り戻したいからです!」

「そうか…」
俺は、意味深な感じでニヤッとして見せてから言った。
「よっしゃ!じゃ、気楽にいこうぜ!」




馬車の中で聞いてみた所、セルクは代々サンライトの大司祭に仕えている一族の出で、今は修行中の身らしい。
故に、苺が大司祭であると知って驚いていた。
そして、こうも言った。
「大司祭様がいてくださるなら、大丈夫です!皆さん!必ず、あの邪悪な姉妹を倒しましょう!僕も頑張りますので!」



神殿まであと数キロという所まで来た。
俺達はリビングにいたのだが、ナフィーが突然騒ぎ出した。
「…危ない!」

「え?」

「彼らが…彼らが、私達を狙ってる!」

「ど、どうした…?」
とその時、突然激しい揺れが襲ってきた。
「うおっ!?な…何だ!?」

と、部屋の扉が開き、樹が駆け込んできた。
「た…大変だ!神殿の…サンライトの魔導軍が、オレたちを攻撃してきた!」

「え!?ウソだろ!?」

「本当だ!さっきの揺れは、奴らが撃ってきた魔法だ。危うく、直撃するとこだった!」

「…!」
俺は、思わず走り出した。



ベランダに出ると、果てしなく広がる砂漠の至る所に赤や緑のローブを着た異人がいた。
「あれが、サンライトの軍…」
と、奥の一人の異人が何かを撃ってきた。
それは、大きな丸いものだった―


「…ヤバい、隠れろ!」
樹の声を聞くが早いか、中に戻って扉を閉めた。
そしてその直後、馬車全体が再び激しく揺れた。

「くっ…やってきたな…!」

「なんだよこれ…これも魔法か!?」

「ああ…遠距離のな。まともに食らうとダメージがキツいから、避けて戦うしかないな!」




リビングにみんなを集め、話し合った。
「見た限り、敵は結構多いみたいだ。みんな出て戦おう」

「でも、あれってサンライトの軍なんだよな?苺さんの知り合いとかいるんじゃないか?話せばなんとか…」
タッドはそう言ったが、苺は辛そうな顔をした。
「お気持ちはありがたいですが…今のサンライトの支配者がレギエル姉妹である以上、彼らはレギエル姉妹の兵です。残念ながら、交渉は難しいかと思います」

「そうか…じゃ、戦うしかないのか。でも、僕らには大勢の魔法持ち相手はキツいな」

「なら、こうしましょう。…[マージバリア]」
苺は杖を出し、魔法を唱えた。
「これで、魔法によるダメージはある程度軽減できます。
私も姜芽さんの言う通り、全員で戦うべきだと思います。無用な争いはなるべく避け、神殿に突入しましょう」

「でも、その間馬車はどうするんだ?」

「魔法で見えないようにしておきます。そうすれば、兵達に見つかる心配はないでしょう」

「なら、大丈夫そうだな。…しかし、歩きだと移動がな…」

「それも大丈夫です。[ウォーカー]」
苺が再び杖を掲げ、魔法を使った。
「これで皆さん、砂漠でも歩きやすくなったはずです。メニィさん達、私と一緒に先導しましょう。私達は元来魔法攻撃に耐性がありますし、対処法も知っています」

「もちろんです」

「大司祭様のご意思とあれば、喜んで」

「私もついていきます」

「ありがとうございます。それでは、一度馬車を止めて下さい」

「?…わかった」
輝が馬車を止めると、苺はまた何か魔法を唱えた。
「これで、馬車は彼らの視界から外れました。今のうちに外へ出ましょう」




そして、俺達は外へ出た。
「こうしてるうちに狙い撃ちされないよな?」
ミロウが嫌なことを言うが、キョウラは、
「大丈夫だと思います」
と、全く心配していないようだった。

「なら、いいけどな…なあ、苺さんよ、大丈夫なのか?」

苺は、無言で俯いていた。
「あり?苺さん?」

「…あぁ、ごめんなさい。大丈夫、透明化の魔法は、馬車と周囲3メートル以内の者を消すものだから」

苺の目は、紫色になっていた。
どうやら、「もう一人」の苺が出てきたようだ。
「そうか。ならよかったぜ」


全員が出揃い、少し歩くと苺は「ここで止まって」と言ってみんなを止めた。
「透明になれるのはここまでなのか」

「そう。それと、敵を全滅させるまではくれぐれも戻らないようにね。もし見られてたら、消えた場所から馬車の位置を特定されかねないから」

そして、苺はキョウラ達を集めた。
「それじゃ、みんな。まずは私達から行くわよ。
可能な限り奥まで踏み込んで、最初は遠距離持ちを倒しましょう。彼らへの被弾を防ぐためにも、必要だから」

「「はい!」」
次に苺は、俺達の方を見た。
「あなた達は…しばらくは隠れてて。そして、私達が遠距離持ちを倒したら出撃して。そうすれば、被害を抑えられるはず」

「わかった。その代わり、そっちは頼むぜ」

「もちろんよ。さあみんな、行きましょう!」
そして、苺はキョウラ、メニィ、セルクを連れて飛び出して行った。









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そうして、町での補給をあらかた済ませた後は適当に自由に過ごし、しばしの休息を取った。チラッと聞いたのだが、レギエル姉妹は優秀な魔力の持ち主を徴兵する以外に際立った事は特にしていないらしい。
しかし、人々は皆、不安と恐怖を口にしていた。
なんでも、レギエル姉妹はこの国の歴史上初めて、そして唯一禁忌を犯した司祭として、国中にその名を知られているという。
そしてその性格も、司祭とは思えぬほどに陰湿かつ卑劣で、目的のためには手段を選ばないと言われているらしい。
いかにも悪役といったキャラだ。
ちなみにレギエル姉妹が破ったという禁忌はサンライトの統治者に背くことで、苺の母は彼女の前の代のサンライトの統治者であったらしい。
そして当時、苺の母は大司祭ではなく大賢者と呼ばれていたそうで、賢者は術士がそのまま昇格していくとなれる種族だそうだ。
術士は、修道士など「専攻種族」と呼ばれる種族になるには特殊な試験を突破しなければならないらしいが、仮にそれで落ちても、あまり問題はないらしい。
というのも、この試験は何歳になっても挑めるし、そもそも異人は人間とは年齢や時間の概念が違うので、若いうちに何度も試験を受けられる。
それに、そのまま昇格していっても、基本的にはなんら問題はないという。
そう考えてみると、術士というのはかなり自由な種族なのではないか。
魔法の勉強に励み、光、闇、理のどれかの属性を究めれば望んだ種族になることができ、いずれも究めない場合でも進路が保証されている。
つまり、もし挫折しても保険がある訳だ。
それに、異人には何度でもチャンスがあるし、一年で年を取らない分、若いうちにやり直す機会はたくさんある。
たった一度受験に失敗しただけで、その後の人生設計が狂ってしまう事も珍しくない人間と比べれば、かなり楽である。
もちろん、人間とはまた違った苦労があるのだろうが。
出発する日の朝になって、突然一人の男が尋ねてきた。
「僕はセルクといいます…魔法使いです。どうか、同行させてください。
水と電の魔法なら、使えるので…」
いきなりのことであったので、困惑した。しかし、
「いいんじゃないか?頭数は多いほうがいい。それに、今うちには電の魔法を使える奴はいないんだ、入れた方がいいと思うぜ」
という猶の意見を聞いて、一理あると思えた。
一応、こんな質問をした。
「あんたは、なんで俺達についてこようと思ったんだ?」
男…セルクは、こう答えた。
「レギエル姉妹を…あの邪悪な司祭たちを追い払って、この国に平和を取り戻したいからです!」
「そうか…」
俺は、意味深な感じでニヤッとして見せてから言った。
「よっしゃ!じゃ、気楽にいこうぜ!」
馬車の中で聞いてみた所、セルクは代々サンライトの大司祭に仕えている一族の出で、今は修行中の身らしい。
故に、苺が大司祭であると知って驚いていた。
そして、こうも言った。
「大司祭様がいてくださるなら、大丈夫です!皆さん!必ず、あの邪悪な姉妹を倒しましょう!僕も頑張りますので!」
神殿まであと数キロという所まで来た。
俺達はリビングにいたのだが、ナフィーが突然騒ぎ出した。
「…危ない!」
「え?」
「彼らが…彼らが、私達を狙ってる!」
「ど、どうした…?」
とその時、突然激しい揺れが襲ってきた。
「うおっ!?な…何だ!?」
と、部屋の扉が開き、樹が駆け込んできた。
「た…大変だ!神殿の…サンライトの魔導軍が、オレたちを攻撃してきた!」
「え!?ウソだろ!?」
「本当だ!さっきの揺れは、奴らが撃ってきた魔法だ。危うく、直撃するとこだった!」
「…!」
俺は、思わず走り出した。
ベランダに出ると、果てしなく広がる砂漠の至る所に赤や緑のローブを着た異人がいた。
「あれが、サンライトの軍…」
と、奥の一人の異人が何かを撃ってきた。
それは、大きな丸いものだった―
「…ヤバい、隠れろ!」
樹の声を聞くが早いか、中に戻って扉を閉めた。
そしてその直後、馬車全体が再び激しく揺れた。
「くっ…やってきたな…!」
「なんだよこれ…これも魔法か!?」
「ああ…遠距離のな。まともに食らうとダメージがキツいから、避けて戦うしかないな!」
リビングにみんなを集め、話し合った。
「見た限り、敵は結構多いみたいだ。みんな出て戦おう」
「でも、あれってサンライトの軍なんだよな?苺さんの知り合いとかいるんじゃないか?話せばなんとか…」
タッドはそう言ったが、苺は辛そうな顔をした。
「お気持ちはありがたいですが…今のサンライトの支配者がレギエル姉妹である以上、彼らはレギエル姉妹の兵です。残念ながら、交渉は難しいかと思います」
「そうか…じゃ、戦うしかないのか。でも、僕らには大勢の魔法持ち相手はキツいな」
「なら、こうしましょう。…[マージバリア]」
苺は杖を出し、魔法を唱えた。
「これで、魔法によるダメージはある程度軽減できます。
私も姜芽さんの言う通り、全員で戦うべきだと思います。無用な争いはなるべく避け、神殿に突入しましょう」
「でも、その間馬車はどうするんだ?」
「魔法で見えないようにしておきます。そうすれば、兵達に見つかる心配はないでしょう」
「なら、大丈夫そうだな。…しかし、歩きだと移動がな…」
「それも大丈夫です。[ウォーカー]」
苺が再び杖を掲げ、魔法を使った。
「これで皆さん、砂漠でも歩きやすくなったはずです。メニィさん達、私と一緒に先導しましょう。私達は元来魔法攻撃に耐性がありますし、対処法も知っています」
「もちろんです」
「大司祭様のご意思とあれば、喜んで」
「私もついていきます」
「ありがとうございます。それでは、一度馬車を止めて下さい」
「?…わかった」
輝が馬車を止めると、苺はまた何か魔法を唱えた。
「これで、馬車は彼らの視界から外れました。今のうちに外へ出ましょう」
そして、俺達は外へ出た。
「こうしてるうちに狙い撃ちされないよな?」
ミロウが嫌なことを言うが、キョウラは、
「大丈夫だと思います」
と、全く心配していないようだった。
「なら、いいけどな…なあ、苺さんよ、大丈夫なのか?」
苺は、無言で俯いていた。
「あり?苺さん?」
「…あぁ、ごめんなさい。大丈夫、透明化の魔法は、馬車と周囲3メートル以内の者を消すものだから」
苺の目は、紫色になっていた。
どうやら、「もう一人」の苺が出てきたようだ。
「そうか。ならよかったぜ」
全員が出揃い、少し歩くと苺は「ここで止まって」と言ってみんなを止めた。
「透明になれるのはここまでなのか」
「そう。それと、敵を全滅させるまではくれぐれも戻らないようにね。もし見られてたら、消えた場所から馬車の位置を特定されかねないから」
そして、苺はキョウラ達を集めた。
「それじゃ、みんな。まずは私達から行くわよ。
可能な限り奥まで踏み込んで、最初は遠距離持ちを倒しましょう。彼らへの被弾を防ぐためにも、必要だから」
「「はい!」」
次に苺は、俺達の方を見た。
「あなた達は…しばらくは隠れてて。そして、私達が遠距離持ちを倒したら出撃して。そうすれば、被害を抑えられるはず」
「わかった。その代わり、そっちは頼むぜ」
「もちろんよ。さあみんな、行きましょう!」
そして、苺はキョウラ、メニィ、セルクを連れて飛び出して行った。