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第23話 初詣1~複雑な心境~

ー/ー



 昨日の夜、梶原家では年を越してから、すぐにみんな寝た。夏芽は、迅くんと『初詣いく』と言ってくれたが、いくら夏芽の家族と全員顔見知りと言っても、彼女の家にあがっているのだ、緊張していた。そのためすごく眠かった。忠さんの嫁、つまり、夏芽とお姉さんのお母さんがこの場にいないことに気づいたが、そのことを聞いて雰囲気を悪くしたくなかった。けど、気になる。それを話さないように必死だったこともある。
 
 その後、みんな、各自の部屋で寝ようとした。面白かったのが、忠さんが『息子はおでの部屋で寝る』、夏芽が『ぜっーたい!! わたしの部屋!!』、お姉さんが『じゃ、あーしの部屋で寝る?』と各々発言したことだ。結果として、『じゃんけんで!!』となった。心底、夏芽に勝ってほしかった。しかし、オレと一緒に寝ることになったのはお姉さんだ。

 ――あの……オレの意見というか意思は……?

「いえーい、じゃ。なんとかくんはあーしの部屋で寝る」
「迅くん、信じてるからね」

 『当たり前だ』と言いたかったが、実際のオレの言葉は『おう』とだけだった。それ以上に複雑なのは、クラスメイトの女子かつ彼女のお姉さんと一緒の部屋で寝ることだ。

「おじゃまします」

 お姉さんの部屋にあがった。ちなみに、夏芽の部屋は横の部屋で、基本的に大声を出せばすぐ分かるらしい。そして、さらにオレの心を複雑にしたのが、布団が1セットだったことだ。

 え? お姉さんと同じ布団で寝るの?

「寝るだけだし、気にしないで!! さ、さ、服脱いで!!」
「ん?」
「布団はもう1セットあったけど、夏芽が先に自室に持っていったから、ね」
「じゃ……」
「ダメでーす、もう寝る時間でーす」

 『なんでだよー!! 』と思わずオレは大きな声でツッコミを入れた。いや、東京にいた頃から、時たまツッコミを入れていたけど、ここまで大きな声でツッコミを入れたのは人生ではじめてだ。壁伝いに夏芽の声がした。

「お姉ちゃん、迅くんに手を出さないでよ!!」

「はーい」
「夏芽っていつもこうなの……?」
「ん? んーん、全然、もっとこう、ネクラだけどやることはやる的な子」
「夏芽がネクラ……?」

 その会話も聞こえていたようで、もう1度、すごく怒っている夏芽の声と同時に壁を蹴っている音が聞こえた。

 ……、夏芽って家では暴力的なのか……?
 
 そのまま夜は明けた。

「おはようございます」

 お姉さんが寝ている横というか、お姉さんと同じ布団の上だったオレは珍しく朝の5時に目が覚めた。初日の出が見たいとかではなく、単純にお姉さんが寝相が悪いのと、寝言が激しかったのだ。寝言は、だいたいが『なんとかくんに夏芽はあげない』だったけど。

 ……ろくに寝た気がしない。リビングに行きあいさつをしたが、誰もいなかった。

「あれ? 迅くん? おはよー」

 夏芽はテレビをつけた。そこでは新年らしく、お笑い番組が流れ……ていなかった。どうやら、時間的に早いのもあるが、どの局にしても、高速道路での大規模な交通事故のニュースだった。

「怖いよねぇ、新年早々」
「だねぇ」

 夏芽と2人でまったり、夏芽の家族が起きてくるのを待った。テレビでは、被害者リストをアナウンサーが読み上げていた。ふと、そこで1人の被害者の名前が耳に入った。

新田(ニッタ) いろは

 『幸い、新田いろはさんは軽傷で済みましたが、一緒にいた両親、弟の拓斗(タクト)くんを亡くしました』とアナウンサーが淡々と読み上げていた。

 最初はただ単に聞いた事のある名前だったな、程度だった。でも、拓斗くんと姉弟ということは絶対にオレの中で()()()()()()()()の新田いろはだ。まだ、『新田さんは祖父の葬儀の帰り道で……』とアナウンサーがなぜかいろはの情報を話していた。

「迅くーん?」
「ん、あ、あぁ、どうした?」
「この後の初詣だけど、秋山神社と新田神社どっちがいい?」
「いろは……秋祭り……」

 思わず、ボソッと懐かしい名前と行事をつぶやいた。どうして懐かしいかというと、新田 いろははオレの初恋の相手だ。そう、中学一年生の頃に、小学校の頃からずっと好きだったいろはを秋祭りに誘ったが、『彼氏がいるから』という理由で断られたあの『()() ()()()』だ。まさか、こんな形で名前だけを目にするとは思っていなかった。あの時、いろはにフラれた時の言葉は今でも、覚えている。

『彼氏がいるからごめんね……』

 断った後に、いろはは泣きそうな声で続けた。

『なんでさっき告白してくれなかったの!!』

 あの時、いろはは中学校の悪名高い先輩から呼び出された。オレは仲良かったし、好きだったから、『もしかしたら、ケンカを売ってくるかもしれないから、オレもついていく!!』と言ったが、すぐに笑顔で『大丈夫、私強いから』と言って、先輩のもとへ行った。確かに、いろははオレよりも強かった。その後、何があったかは知らないけど、そのまま、いろはは先輩と付き合うことになった。幼かったオレは告白ではなく、ただ文句言われたのだと思い、()()()()というか、オレが告白したくて、いろはを独占したくなっていたから。

『いろはが好き。だから……、今度、一緒に秋祭り行こう!!』

 そのあとのことは、さっきの通りだ。この流れでオレの初恋は散った。

「迅くん?」
「ん、あぁ。新田神社に行こっか」
「うん!!」


 夏芽はすごく幸せそうに返事をしてくれた。この時のオレの心にいたのは()()()()ではなく過去の()()()()()だということを知らずに。夏芽は『迅くんと新田神社に初詣行ってくる』とメモをテーブルの上に置いてコートを着て初詣に行った。


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次のエピソードへ進む 第24話 初詣2~彼氏失格~


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 昨日の夜、梶原家では年を越してから、すぐにみんな寝た。夏芽は、迅くんと『初詣いく』と言ってくれたが、いくら夏芽の家族と全員顔見知りと言っても、彼女の家にあがっているのだ、緊張していた。そのためすごく眠かった。忠さんの嫁、つまり、夏芽とお姉さんのお母さんがこの場にいないことに気づいたが、そのことを聞いて雰囲気を悪くしたくなかった。けど、気になる。それを話さないように必死だったこともある。
 その後、みんな、各自の部屋で寝ようとした。面白かったのが、忠さんが『息子はおでの部屋で寝る』、夏芽が『ぜっーたい!! わたしの部屋!!』、お姉さんが『じゃ、あーしの部屋で寝る?』と各々発言したことだ。結果として、『じゃんけんで!!』となった。心底、夏芽に勝ってほしかった。しかし、オレと一緒に寝ることになったのはお姉さんだ。
 ――あの……オレの意見というか意思は……?
「いえーい、じゃ。なんとかくんはあーしの部屋で寝る」
「迅くん、信じてるからね」
 『当たり前だ』と言いたかったが、実際のオレの言葉は『おう』とだけだった。それ以上に複雑なのは、クラスメイトの女子かつ彼女のお姉さんと一緒の部屋で寝ることだ。
「おじゃまします」
 お姉さんの部屋にあがった。ちなみに、夏芽の部屋は横の部屋で、基本的に大声を出せばすぐ分かるらしい。そして、さらにオレの心を複雑にしたのが、布団が1セットだったことだ。
 え? お姉さんと同じ布団で寝るの?
「寝るだけだし、気にしないで!! さ、さ、服脱いで!!」
「ん?」
「布団はもう1セットあったけど、夏芽が先に自室に持っていったから、ね」
「じゃ……」
「ダメでーす、もう寝る時間でーす」
 『なんでだよー!! 』と思わずオレは大きな声でツッコミを入れた。いや、東京にいた頃から、時たまツッコミを入れていたけど、ここまで大きな声でツッコミを入れたのは人生ではじめてだ。壁伝いに夏芽の声がした。
「お姉ちゃん、迅くんに手を出さないでよ!!」
「はーい」
「夏芽っていつもこうなの……?」
「ん? んーん、全然、もっとこう、ネクラだけどやることはやる的な子」
「夏芽がネクラ……?」
 その会話も聞こえていたようで、もう1度、すごく怒っている夏芽の声と同時に壁を蹴っている音が聞こえた。
 ……、夏芽って家では暴力的なのか……?
 そのまま夜は明けた。
「おはようございます」
 お姉さんが寝ている横というか、お姉さんと同じ布団の上だったオレは珍しく朝の5時に目が覚めた。初日の出が見たいとかではなく、単純にお姉さんが寝相が悪いのと、寝言が激しかったのだ。寝言は、だいたいが『なんとかくんに夏芽はあげない』だったけど。
 ……ろくに寝た気がしない。リビングに行きあいさつをしたが、誰もいなかった。
「あれ? 迅くん? おはよー」
 夏芽はテレビをつけた。そこでは新年らしく、お笑い番組が流れ……ていなかった。どうやら、時間的に早いのもあるが、どの局にしても、高速道路での大規模な交通事故のニュースだった。
「怖いよねぇ、新年早々」
「だねぇ」
 夏芽と2人でまったり、夏芽の家族が起きてくるのを待った。テレビでは、被害者リストをアナウンサーが読み上げていた。ふと、そこで1人の被害者の名前が耳に入った。
|新田 《ニッタ》 いろは
 『幸い、新田いろはさんは軽傷で済みましたが、一緒にいた両親、弟の|拓斗《タクト》くんを亡くしました』とアナウンサーが淡々と読み上げていた。
 最初はただ単に聞いた事のある名前だったな、程度だった。でも、拓斗くんと姉弟ということは絶対にオレの中で|未《・》|だ《・》|に《・》|友《・》|だ《・》|ち《・》|以《・》|上《・》の新田いろはだ。まだ、『新田さんは祖父の葬儀の帰り道で……』とアナウンサーがなぜかいろはの情報を話していた。
「迅くーん?」
「ん、あ、あぁ、どうした?」
「この後の初詣だけど、秋山神社と新田神社どっちがいい?」
「いろは……秋祭り……」
 思わず、ボソッと懐かしい名前と行事をつぶやいた。どうして懐かしいかというと、新田 いろははオレの初恋の相手だ。そう、中学一年生の頃に、小学校の頃からずっと好きだったいろはを秋祭りに誘ったが、『彼氏がいるから』という理由で断られたあの『|新《・》|田《・》 |い《・》|ろ《・》|は《・》』だ。まさか、こんな形で名前だけを目にするとは思っていなかった。あの時、いろはにフラれた時の言葉は今でも、覚えている。
『彼氏がいるからごめんね……』
 断った後に、いろはは泣きそうな声で続けた。
『なんでさっき告白してくれなかったの!!』
 あの時、いろはは中学校の悪名高い先輩から呼び出された。オレは仲良かったし、好きだったから、『もしかしたら、ケンカを売ってくるかもしれないから、オレもついていく!!』と言ったが、すぐに笑顔で『大丈夫、私強いから』と言って、先輩のもとへ行った。確かに、いろははオレよりも強かった。その後、何があったかは知らないけど、そのまま、いろはは先輩と付き合うことになった。幼かったオレは告白ではなく、ただ文句言われたのだと思い、|励《・》|ま《・》|そ《・》|う《・》というか、オレが告白したくて、いろはを独占したくなっていたから。
『いろはが好き。だから……、今度、一緒に秋祭り行こう!!』
 そのあとのことは、さっきの通りだ。この流れでオレの初恋は散った。
「迅くん?」
「ん、あぁ。新田神社に行こっか」
「うん!!」
 夏芽はすごく幸せそうに返事をしてくれた。この時のオレの心にいたのは|梶《・》|原《・》|夏《・》|芽《・》ではなく過去の|新《・》|田《・》|い《・》|ろ《・》|は《・》だということを知らずに。夏芽は『迅くんと新田神社に初詣行ってくる』とメモをテーブルの上に置いてコートを着て初詣に行った。