15
ー/ー
「……す、好き、です。君のことが。ひとめ惚れなんて初めてで……忘れられなくて……ご、ごめん……」
メガネの奥の黒目がちな瞳は、芯が強そうでとても澄んでいる。きっと、すごく優しくて誠実で素敵な人なんだろうな。
「……長岡さんの気持ちは嬉しいです。でも私は、あなたが思うような綺麗な女じゃありません」
桔平くんと出会ったばかりのころを思い出してしまった。そんな綺麗な瞳で、私なんかを見ないで。桔平くんに対しても、同じことを思っていた気がする。
「ただ表面を必死に取り繕っているだけで、中身はグチャグチャ。本当の自分は、桔平くんにしか見せられない。桔平くんは私の全部を見ても、大好きだって言ってくれる。だからいつも甘えてばかりで。私は……長岡さんが描く女性のように、強くて綺麗な人にはなれないんです」
とても真剣な瞳で私を見つめていた長岡さんが、ふと視線を逸らした。その先にあるのは、桔平くんの風景画。
「……そんなこと、ないと思う」
絵を見つめたまま、長岡さんはポツリと言った。
「俺も画家の端くれだから、物事の本質を見る目は養っているよ。そりゃ……まだ未熟ではあるけど。それでも、愛茉……さんを見たとき、上辺だけじゃない美しさや強さを感じたから……でもそう感じるのはきっと……浅尾がいるからなんだろうな」
桔平くんの絵を見つめる長岡さんの表情には、後ろ暗い雰囲気が一切ない。純粋な羨望。ただ、それだけがあるように感じた。
「俺、高校も同じだったんだけど。6年間で、本当に初めて見た。浅尾のあんな優しい表情。すごく大切にしているのが分かるっていうか……」
桔平くんと長岡さんは、高校も同じなんだ。案外、付き合い長かったのね。
長岡さんはまたスマホをギュッと握りしめて、正面から私の顔を見た。
「だ、だから、ふたりの邪魔をする気も、迷惑をかける気もないよ。だけど……その……お、俺の心は、俺だけのものだから。君のことが好きだって気持ちがあるうちは、勝手に想わせてほしい……だ、ダメかな」
桔平くん以外の人に、ここまでまっすぐに告白されたのは初めて。
私は、こんなに純粋な人に想われるような女じゃないのに。言っていることと思っていることが違ってばかりで、自分の表面をいかに綺麗に見せるかが大事で。狡いことばかり考えている人間なんだよ。
「……ダメでは、ないです」
それでも、こう言うしかないじゃない。人の心は変えられないんだもん。
「でも私は、桔平くん以外の人は絶対好きにならないので。私がいないと、桔平くんは不健康まっしぐらで、早死にしちゃいそうだし。私も桔平くんのそばじゃないと、自分らしく生きていけないから」
「わ、分かってる……ごめん」
「謝らないでください。悪いことなんて、なにもしていないんだから。あ、でも、私をモデルにした絵は描かないでくださいね。それは桔平くんが怒っちゃう」
「さ、さすがにその勇気はないかな。でも……ありがとう……」
そう言って笑った顔は、やっぱり純粋そのもので。重たい前髪から見え隠れする瞳が、少しだけ潤んでいるようにも見えた。
あまりにも透き通ったその想いに、私は絶対応えられない。桔平くん以外に心を動かされることなんて有り得ないから。
だけどいつか、この純粋な心を掬い上げてくれる人が現れてほしい。そう願わずにはいられなかった。
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メガネの奥の黒目がちな瞳は、芯が強そうでとても澄んでいる。きっと、すごく優しくて誠実で素敵な人なんだろうな。
「……長岡さんの気持ちは嬉しいです。でも私は、あなたが思うような綺麗な女じゃありません」
桔平くんと出会ったばかりのころを思い出してしまった。そんな綺麗な瞳で、私なんかを見ないで。桔平くんに対しても、同じことを思っていた気がする。
「ただ表面を必死に取り繕っているだけで、中身はグチャグチャ。本当の自分は、桔平くんにしか見せられない。桔平くんは私の全部を見ても、大好きだって言ってくれる。だからいつも甘えてばかりで。私は……長岡さんが描く女性のように、強くて綺麗な人にはなれないんです」
とても真剣な瞳で私を見つめていた長岡さんが、ふと視線を逸らした。その先にあるのは、桔平くんの風景画。
「……そんなこと、ないと思う」
絵を見つめたまま、長岡さんはポツリと言った。
「俺も画家の端くれだから、物事の本質を見る目は養っているよ。そりゃ……まだ未熟ではあるけど。それでも、愛茉……さんを見たとき、上辺だけじゃない美しさや強さを感じたから……でもそう感じるのはきっと……浅尾がいるからなんだろうな」
桔平くんの絵を見つめる長岡さんの表情には、後ろ暗い雰囲気が一切ない。純粋な羨望。ただ、それだけがあるように感じた。
「俺、高校も同じだったんだけど。6年間で、本当に初めて見た。浅尾のあんな優しい表情。すごく大切にしているのが分かるっていうか……」
桔平くんと長岡さんは、高校も同じなんだ。案外、付き合い長かったのね。
長岡さんはまたスマホをギュッと握りしめて、正面から私の顔を見た。
「だ、だから、ふたりの邪魔をする気も、迷惑をかける気もないよ。だけど……その……お、俺の心は、俺だけのものだから。君のことが好きだって気持ちがあるうちは、勝手に想わせてほしい……だ、ダメかな」
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私は、こんなに純粋な人に想われるような女じゃないのに。言っていることと思っていることが違ってばかりで、自分の表面をいかに綺麗に見せるかが大事で。狡いことばかり考えている人間なんだよ。
「……ダメでは、ないです」
それでも、こう言うしかないじゃない。人の心は変えられないんだもん。
「でも私は、桔平くん以外の人は絶対好きにならないので。私がいないと、桔平くんは不健康まっしぐらで、早死にしちゃいそうだし。私も桔平くんのそばじゃないと、自分らしく生きていけないから」
「わ、分かってる……ごめん」
「謝らないでください。悪いことなんて、なにもしていないんだから。あ、でも、私をモデルにした絵は描かないでくださいね。それは桔平くんが怒っちゃう」
「さ、さすがにその勇気はないかな。でも……ありがとう……」
そう言って笑った顔は、やっぱり純粋そのもので。重たい前髪から見え隠れする瞳が、少しだけ潤んでいるようにも見えた。
あまりにも透き通ったその想いに、私は絶対応えられない。桔平くん以外に心を動かされることなんて有り得ないから。
だけどいつか、この純粋な心を掬い上げてくれる人が現れてほしい。そう願わずにはいられなかった。