全員が変身してすぐ、透は山田と激突。剣崎・橘ペアは透の邪魔にならないよう分断するよう立つ。
透は、あらゆる場合においてもタイマンを好む。その方が基本的にやりやすいと考えるからこそ。
山田の怪人体は、顔部分だけが捩じれているだけ、と実にシンプル。飾りっ気のない見た目に、一切変わることのないスーツ姿。
しかし、そのスーツで覆われた肉体は一般人のそれとは明らかに違う。筋肉の密度がかなりのものであり、敵を殺すのはお手の物、と言ったところだろうか。特異な武器や特徴がない代わりに、ストレートに暴力を叩き込める。それこそが山田の特徴であった。
『しかし……こうしていざ相対するとなると……どうも貴女の弱さも理解できます。神奈川支部から情報のあった方と戦いたいのですが』
「何だよソレ、凄ェ失礼だな。事前情報だけで全て判断するなってんだよ」
顕現させた如意棒と、山田の膂力に満ち溢れた腕が幾度も交差する。
その瞬間、山田はその情報に齟齬が生まれていることを認識する。
(――おかしい、どうも違和感が生じますね)
山田に関しては、事前情報班の持ってきた情報という知的財産を疑う、と言うことはこれまで無かった。しかし。相対している英雄の卵の行動に、その者が持つ力に、明確な差が生まれていたのだ。
グラトニー戦の時には、突きや速攻重視の、さながら特攻兵の如き戦い。イノシシを彷彿とさせる猪突猛進さ、無法さに、「この人物が相手ならわかりやすい」と請け負ったのだ。
しかし、あの拠点に侵入し七人の子供を奪還したあの時と比べての今。その時よりも力の振るい方に幅が生まれていたのだ。
しかも、今の彼女は明らかに山田が様子見をしていたタイミングで後方に飛び、あからさまな挑発すら繰り出してきているのだ。
「どーしたよ、少しくらい攻めてきたらどうよ。この甘ちゃん相手に日和ってんのかよ」
その瞳を窺うに、只の虚勢、という訳では無さそうであった。
『――いやはや、どうも。この短時間で何が貴女をそこまで伸ばしたのか、と考えまして。精神と時の部屋でも使いましたか』
「バァカ、この世界はドラゴンボールじゃあねえんだぜ」
ふと想起する、礼安の慈母のような柔らかな笑み。それと同時に味わった、缶ジュースと礼安の手の温かみ。多くの苦労を知り成長したのであろう、自分と同じ年齢の手のひら。
(透ちゃんが英雄として戦う理由は……もう見つかってるんじゃあないかな)
(本当の願いに、本当の理由に……天音ちゃんの中にいる英雄は応えてくれると思うよ)
「――そうかよ。なら……それに応えろよ『孫悟空』。俺のやりてェ事は……『見つかった』ぞ」
不敵に笑み、自身の周りに密度の高い風のバリアを張る透。構えを解き、瞳を閉じる。すると、本当にその願いに応え、透の側に向こう側が見えるほど透明ながら実体化する『孫悟空』。
まるで、中国の道着に似た衣服を下のみ着用し、額には、かの有名な三蔵法師が言うことを聞かせるために着用させたとされる、金の緊箍児|《きんこじ》が光る。上裸でありながら上半身の肉体美はかなりのものであり、猿と筋骨隆々な人間の、ちょうど中間地点。天竺までの道中、作中屈指の猛者として名をはせた、『孫悟空』そのものである。
『――少しは、己の在り様を理解したか。弱いまま足掻くのは止めにしたか?』
「あァ、もう地を舐めんのは勘弁だ。だからよ……俺がアイツ越えるためにも……聞き届けてくれやしねえか。俺の『願い』ってのをよォ」
願うのは、ただ一つ。復讐などちゃちなものでは無く、礼安ほどではない尊大な願い。
「『自分で自分を守れない、弱いヤツを従えて誰も傷つかない世を創る』。今の俺には……一番似合っていて、いい『願い』じゃあねえか?」
『――――ああ、そうだな』
今まで、誰かを守るだとか、そう言った彼女の優しい言葉は、己の家族以外に聞かなかった孫悟空。そんな彼女が、他人を守ろうとしていた、それだけでも認める証としては十分であった。
『ようやく……本当に力を預けられるな』
そう言うと、透の肉体と溶け合うように消えていく。それと共に、各部装甲の出力が数倍に向上、火力面も同様。そして何より、自身の手に握られた如意棒がより馴染むように、より手に吸い付くように一心同体化。
さらに、装甲|《アーマー》自体の見た目も進化。くすんだ緑色メインだったカラーリングも、ビビッドカラーと言えるほどに鮮やかになり、随所に黄色のサブカラーもくっきりと添えられている、見ていて飽きないデザインとなった。
それと同時に、多くの戦闘知識や、今まで歩んだ天竺までの思い出が雪崩れ込む。一つ一つに触れ、温かみを感じ取る透。それぞれが、透の戦いの糧となる。凄まじい速度で戦闘技術の学習|《ラーニング》を行った透の瞳は、燦然と輝いていたのであった。
風のバリアを解くと、その解除された瞬間生まれた隙間に如意棒を伸長させ、山田の心臓部を精巧に狙う。
その攻撃を予想していたのか、ガードしようとする。しかし。それだけでは終わらない。
寸前で直角に曲げ、肺部分をその高速伸長の勢いで刺突。
予想外の動きをする如意棒に困惑する山田であったが、何とか足を動かし距離を取ろうとする。
「んなの許すかってんだよ!!」
今まで直線にしか動くことが出来なかった如意棒を、無限に乱反射、一部分を増殖させ、無限に伸長させ逃げ場を失わせる。
逃げども逃げども、乱反射し追跡|《ホーミング》する如意棒。
『クソッ……!』
「もう様子見なんてさせるかよ。判断が鈍っているうちに……獲物は叩くべきだろ!!」
山田が気付くと、無数の如意棒による二人を包み込む簡易的なドームが出来上がっており、その外側には脱出を絶対に許さない乱気流の壁を作り上げていたのだ。
『なぜ……ここまでの力が――!?』
「知ってんだろ、俺ら英雄のイカレ具合をよ」
浅く踏み込み、風のエネルギーを扱い急速で山田の懐に入り込む透。そこからインファイトを何度も仕掛ける。
山田は何とかして一矢報いようとしたものの、それは透の周りに張られている『薄風|《うすかぜ》の鎧』に阻まれる。手を出そうものなら、その攻撃された部位を素早く修復、そして斬撃の性質を乗せた風が害するものの腕部を情け容赦なく切り刻む。さながら斬撃版の反応装甲である。
しかし遠くに逃げることもできない。乱気流の壁が張られている中、『薄風の鎧』以上に斬撃の性質を乗せた高密度のエネルギー流が何をもたらすか。ミンチ肉の出来上がりである。
ガードか捌きか避けるか。その三択しか存在しないのだ。
「俺らは……己がプラスの『願い』や『欲望』のために……そして『誰か』のために戦い続ける。そんでもって成長し続ける。限界なんて――俺たち自身が決めねえかぎりねえのさ」
透の拳は通り、山田の拳は理不尽に防がれ、さらなる攻撃が襲う。
今まで侮っていた相手に牙を向かれる、まさに『窮鼠猫を噛む』状況というものは、こういう状況を指すのだ。
(不味い……不味い不味い不味いィィッ!!)
心が敗北を感じてしまった瞬間、山田の足は乱気流の壁の方へ無意識的に向かっていたのだ。
「どのみちチェックメイトだってのに……分かったよ、これで決めてやる!!」
そんな隙など一切許さないように、脚部に風の力を集中、そして一息にその場を跳躍。ドライバー左側を押し込み、目をぎらつかせるのだった。
「今なら……すげえことが出来そうだ!!」
『このまま……終わらせてたまるか!!』
山田もまたチーティングドライバー上部を押し込み、両者必殺技を出す待機状態に入った。
『必殺承認! 永遠に終わらない身外身たちの宴|《シンガイシン・フィーバーナイト・フォーエバー》!!』
『Killing Engine Ignition』
山田は渾身の一撃を乱気流の中叩き込もうとするも、それは透の分身。無限に存在する透の分身のうち、一択を消したのみ。
「「「「「悪ィな……あと本物が最悪分かるまで……九百九十九択なんだわ」」」」」
『ち、畜生めがァァァッ!!』
九百九十九人の透が次々に飛び蹴りを放ち、本体である透が最後のとどめの飛び蹴りを放つ、まさに今の透の集大成。高速道路のコンクリすら易々と切り刻む、破壊力の権化。
叩きつけられた山田は、全身数十か所が粉砕骨折するほどの数十トンの衝撃をもろに食らったのだ。
「――少しは、俺と『孫悟空』が構成した夜会|《パーティー》、楽しんでもらったかよクソ野郎」
デバイスドライバーには、怪人への勝利を意味する『GAME CLEAR!』の文字が表示されていた。
こうして、天音透対山田盾一の戦いは、金欲しかない、言い換えれば胸に抱く矜持が貧弱な山田を超え、英雄としての『本当の願い』に礼安の助力ありながら気付くことが出来た、透の快勝にて幕を閉じることと相成った。