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王子の初恋

ー/ー



 「お前さん、珍しい顔だなぁ。」
 「そうなのか?」
 「あったり前でしょう?異形よりの顔してるに決まってんじゃない。環境は顔つきにも影響するのよ。」
 「それはお前の意見だろう。」
 
 おじいさんに声をかけられて、ぼそぼそと見えない相手に話しかけながら男が歩き出す。
 おじいさんのことは完全無視で通すつもりらしい。
 相当疲れているようで下を向きながら独り言を話すさまは相当異質なものに見えるだろう。
 
 「さっきの人にご飯おごってもらえばよかったのに。」
 「あの人はおごらないだろう?」
 「そう?」
 「どうせ後で金返せとでも言ってくるさ。」
 「なんでそんなことが分かるのよ。」
 「勘だ。」
 
 きれいな女性が男に顔を近づけながら聞くが、男はなんの反応も示さずに答えた。
 少しは焦ったり顔を赤くしてもいいのにと女は思ったが、そんなこと起こり得るはずもないなと思った。

 男背景が住む地を収める王子だった。
あまりにも自由奔放で残虐な性格だったために実親である王様すらも困るほどであった。
そんなある時、王様のもとにこの女が表れて「私は魔女であり不死身だから、王子の困った性格を直して見せましょう」と提案したのだ。
王様はそれを承諾し、今に至る。
 
 「おや、坊主。ここで何してるんだい?」
 
 とてもきれいな女性だった。
 いや、声をかけたのはその横にいるとても横幅の広いおばさんだったのだが、王子にはその女性にしか目がいかなかった。
 
 「何?おなかでもすいてるのかい?親は?」
 「え、……あの。その……。」
 「大丈夫?ゆっくりでいいわ。」
 
 せかすように話すおばさんを見て、女性はにっこりと穏やかに言った。
 
 「かわいい……。」
 
 王子はそんな言葉をついつい口に出してしまって、しまったと思った。
 
 「……うれしい。ありがとう。」
 「あら、真っ赤にしちゃってかわいいわね。しょうがないから、行くとこないならうちにおいで。」
 「っはい!はい、行きます。」
 「まぁ、元気になっちゃって。やっぱりかわいい子がいると変わるのねぇ。」
 「やめてください。そんなことないわよ、ねぇ?」
 「あ、いや……その。」
 
 王子も女性もそういわれて顔を赤くしている。
 
 「まさかまさかのドンピシャとはねぇ。やめてよ?手を出したりするのは。」
 「出せるか!」
 「いいわねぇ。若いって。」
 
 魔女と二人っきりになった時、王子はようやく元に戻った顔を赤くしながら言った。
 その後も、魔女はにやけながら王子をからかい続けたが、王子は何も言わなかった。
 いや、言えなかったのだろう。
 どうしてもあの女性のことを考えると喉がつっかえるような気がして言葉にならない。
 
 「じゃあ、ほかの場所に飛ばされるのは避けないとね。」
 「……わかってる。」
 
 魔女は勝ち誇ったような気がした。
 いつも口の悪い王子がここまでおとなしくなるとは思わなかったからだ。
 恋の力って凄いなぁなどと感心していた。












 「あんた、帰る家はあるのかい?」
 
 小さな小屋についた瞬間、おばさんが王子に聞いた。
 きれいな女性の横に立っている王子は緊張のし過ぎで声が震える。
 いや、体も油のきれたロボットのようにカクカクとしている。
 
 「あ、その……な、ななないです。」
 「じゃあ、うちに泊まっていく?」
 「え?あの……。」
 「あんたが話しかけると答えないんだから先に家入ってな。で?部屋なら余ってるよ。」
 
 女性が話しかけると言葉にならない声をもごもごと出す。
 その姿がかわいいからか、女性はふふふと笑っている。
 その姿を見ると体の芯から熱くなり、王子はもっと何も考えられなくなってしまう。
 おばさんはその姿を見て女性に先に家の中へと入るように言う。
 
 「と、泊まらせてくださ……いや……住まわせてください!」
 「はいはい。ミサ、部屋案内してあげて。」
 「はーい。」
 
 きれいな女性の名前はミサというらしい。
 王子はかわいらしい名前だと思った。
 いや、別に顔がタイプだからそう思ってしまうわけではない。
 決してそんなことはない。
 美人くらいなら、お城に住んでいた時にたくさん見てきた。
 王子はそう思いながら顔を真っ赤にしてミサについて行った。
 
 「ここがあなたの部屋よ。荷物を置いて……いや、ごはんができたら呼びに来ることもできるけど。ここにいる?」
 「あ、……その。いや……。」
 「じゃあ、私は隣の部屋だから。何かあったら声をかけてね。」
 
 小屋の中は二階建てで一階はリビングのようなもの、二階は部屋が四つくらい並んでいてそれぞれにベッドが一つずつ置いてあった。

 小屋とはいえ、この時代では広めの家だ。
 それでもお城に住んでいた王子からしたらとても狭く感じてしまう。
 ミサは王子が手ぶらなのを見てすぐに言い換えた。
 そして、ニコニコしながら部屋から出ていく。
 王子としてはボーっとしすぎてミサの一言を気にすることはできなかった。
 
 「ミサ、さん。」
 「あんまり恋に力入れると後々困るよ。」
 「恋に力入れてなんか……。」
 「顔真っ赤にして何言い訳しようとしてるのよ。」
 
 魔女はあきれたように言った。
 王子の反応ははたから見ていたらかわいいかもしれないが、王子をいろいろな場所に送って性格を矯正する魔女からしたら心が痛んでしまったりする。
 王子からしたら失敗しなければよいと思っている。
 ただこの王子が失敗しないとは誰も思えない。
 
 「ご飯出来たわよ!ほら、一階に来なさい。」
 「はーい。行きましょう。おばちゃん全部食べちゃうから。」
 「あ、ははい。」
 
 おばさんが呼ぶと、ミサはわざわざ王子の部屋をノックして声をかけてくれた。
 
 (広い家じゃないんだからわざわざ呼びに来なくても……。)
 
 魔女はそう思いながら王子の後ろをふわっとついて行った。
 ミサに対して対抗心があるとかそういう気持ちは全くない。
 鼻の下を伸ばした王子はミサのことしか見えていないらしい。
 
 「名前はなんていうの?」
 「へ?」
 「名前よ。呼ぶのに困っちゃうでしょう?」
 「あ、あぁ……。」
 
 王子は困ってしまった。
 王子のいた場所では王家に名前を持つ者などいない。
 必要ないからというのもあるが、役職でしか呼ばれないことで責任感をしっかり持つという理由もある。
 
 「……ぼ……くの国では、その……。」
 「ん?」
 
 王子は助けを求めるように魔女のほうを見た。
 魔女はニヤニヤとした表情で王子を見ている。
 
 「転生者っていうのがばれたら速攻飛ばしてあげる。」
 
 王子にこっそりいう魔女は世界一楽しそうな感じだった。
 今までで一番魔女らしい顔だ。
 王子はそれだけは避けたい。
 どうにかして名前というものを考えなければならない。
 
 「あ……アントニオ……。」
 「あんとにお?珍しい名前なのね。異国の名前?」
 「う、うん。まぁそんな感じだ。」
 「長いからトニーって呼んでもいいかしら?」
 「も、もちろん!」
 
 魔女が後ろで噴出して大笑いしている中、王子は後ろめたさを感じながら食い気味にうなずいた。
 
 「ほら、しゃべってないでお皿を運んでおくれ。」
 「なんでお……やります。」
 
 叔母さんに声をかけられて王子は怒りかけたが、すぐに押し込めた。
 
(ここで怒れば、きっとほかの地へと飛ばされてしまう。ミサに会えなくなる。)
 
 王子は今まで以上に気を付けていた。
 魔女としてはそれがとてもつまらなかった。
 このまま、王子の性格が治るのはとても良いことなのだ。
 きっと誰もがここにいさせて性格の矯正をすれば王子の性格はよくなると思う。
 それは、魔女にとって少し困ることの一つだ。















 「魔女、お前さ。」
 「なに?」
 「どうすれば女は喜ぶんだ?」
 「知らないわ。」
 「お前も女だろ?」
 
 魔女は黙ってしまった。
 真夜中で町全体が寝静まった時間。
 王子は軽い相談として魔女に声をかけた。
 
 「……知らないわよ。何年一人だと思ってるの?」
 「一生独り身だもんな。」
 「今の私が腹立ったからほかの地へ飛ばしてもいい?」
 「悪かった。それはやめてくれ。」
 「じゃあ、さっさと寝なよ。おやすみ。」
 「おやすみなさいだろ。」
 
 王子はそう言いながら外の星を眺めた。
 王子のいる世界では夜も朝も明るくて星などなかなか出てこない。
 特にお城からほとんど出ないため、生まれてほぼ初めての星だ。
 
 (きれいだな……。)
 
 王子の中でその星たちは心を落ち着けるものがあった。
 イライラしていた気持ちも高ぶった気持ちもどちらも落ち着かせる魔法のように感じたのだ。
 
 「寝れませんか?」
 「え……、あ。えっと。」
 「寝るまでご一緒しましょうか?」
 「っはい。お願いします!」
 
 王子のもとに来たのはミサだった。
 魔女だったら怒鳴ってやろうと思っていた王子はびっくりするのと同時に勢いをなくしてしまう。
 













 そのころ魔女は一人で紅茶をたしなんでいた。
 王子と一緒にいるようになってからというもの、一人で静かにいるという時間がなかなか取れなくなってしまっていたからだ。
 もともとはこの時間が長くて嫌いだったのだが、あのうるさい王子と一緒にいるとどうしてもこの時間が欲しくなってしまう。
 
 「お嬢さん。おひとりですか?」
 「お嬢さんなんて呼ばれる年じゃないよ。もう生まれてから何年たったかも忘れたしね。」
 「さようですか。」
 
 魔女は声の主をにらみつけながら言う。
 それなのにもかかわらず、声の主は当たり前のように魔女の座っていた椅子の体面に座った。
 それは、お城で先生と呼ばれている人物だった。
 
 「何か飲むかい?」
 「えぇ、あなたと同じものをお願いします。」
 「あんたも物好きだねぇ。ここでは、先生だったわよね?」
 「あなたこそ。あの王子をどうする気ですか?」
 「……ただ、躾しなおしているだけだよ。」
 
 魔女はそう言って先生と呼ばれている人の前にお茶を置く。
 先生はそれを笑顔で受け取って一口飲んだ。
 どうやらお城からの使いではないようだ。
 まぁ、魔女からしたらどちらでも構わないのだが。
 
 「それだけには見えませんが……。同じ人間としてはあなたの気持ちはわかります。不老不死に急になってしまった者同士仲良くしませんか?」
 「遠慮いたします。」
 「私ならあなたを売ったりしませんよ。」
 「……お帰りください。私は売られてなどいません。」
 
 魔女は笑顔で先生を追い出した。
 どうやら魔法で追い出されたらしく、先生自身もよくわからないままに追い出されてしまった。
 
 「まだお茶を飲み終わっていなかったのですが……。」
 
 先生がもう一度入れてもらおうとぼやいている途中に浮いたお茶が先生の真上で停止して、そのままさかさまになった。
 地面にはお茶の水たまりができ、先生もびしょぬれになってしまう。
 
(このままでは帰れないな。)
 
 先生がそんなことを思いながら立ち去ろうとすると、不思議なことに一歩歩くたびに服や体が乾いていく。
 そして魔女の家がある森を抜けるころには一度濡れたとは思えないほどに乾いてしまった。
 
 「不思議なものだな。同じ人間ではあるはずなのだが……。」
 「先生、どちらへ?」
 「いや、今帰ったところだ。少々友達のもとに行ってきた。」
 「さようでしたか。お疲れ様です。」
 
 先生はここへ来てからまるで王様のような暮らしができている。
 いや、王様はもっといい対応をされるのかもしれない。
 しかし、同じくらいの対応はされていることだろう。
 これは心地の良い対応でもあるが、たまに嫌になってしまうこともある。
 それでもまさか自分が追い出された上にお茶を頭からかけられる日が来るとは思ってもみなかったが。











 
 「何よ。あの男は。」
 
 そのころ魔女は少々いら立ちを隠せなくなっていた。
 久しぶりにこんな感情を感じた。
 いつもは一人でいて、魔法で何でもできるためそこまで感情が高ぶることがなかったからだ。
 
 「お茶がもったいないよ。」
 「なぜあの男を家に入れたの?」
 「しっ。子供はもう寝なさい。」
 「でも、魔女、すごく怒ってる。」
 「何があるかわからないのに寝れないよ。」
 「いいから。見世物じゃないのよ。」
 
 大きな木がそう言ってわさわさ揺れる。
 魔女はここでずっと生活してきた。
 魔女の森は木たちがしゃべる。
 物だってしゃべる。
 しかし、それは木たち同士でだ。
 決して魔女自身に声をかけることはない。
 だから、魔女は一人なのだ。
 魔女が声をかけても答えてくれない木たちとずっと一緒にいるから。
 魔女はこの生活が嫌になってしまった。
 
 「早くここから出なきゃ……。」
 
 いつの間にか、そう思い続けることが魔女のたった一つの生きがいとなってしまった。












 「ほら、早く起きなさい!」
 「…………はい、……なんだ魔女か。」
 「なんだとは何だ。」
 「おばさんかと思ったんだよ。」
 「それは私に失礼だぞ。はぁ、もう起きろ。」
 「まだ外は暗いが?」
 「いいから。ここらの朝は早いんだ。」
 
 魔女はそう言って布団をたたみ始める。
 もちろん実態はなく、物に触ることはできないため魔法で。
 王子からしたら迷惑極まりない。
 時計を見ると早朝の4時を指していた。
 本気で早すぎる時間帯にも感じる。
 
 「トニー、朝よ……ってまぁ!もう起きてたのね。すごく早起きでえらいわ。」
 「え……そ、そうかな。」
 
 王子は照れながら言う。
 横で魔女が威張っているが、王子の目には入らなかった。

 「トニー、今日はおばちゃんが手伝いをしてッて。」
 「あ、う……うん。」
 「早くいかないと朝ご飯なくなっちゃうわ。」

 王子は地味に魔女に感謝をしながら部屋を出ていく。
 ミサに褒められたことで王子はとてもご機嫌だ。
 
 魔女はそれを見てどうしようかと思った。
 まさかここまで王子が何事もなくいられるとは思ってもみなかったからだ。
 いや、別にいいのだ。
 いろいろなところへ行くのが目標ではなく、性格を矯正するのが目標なのだから。
 王子が問題を起こさなくなったのはどちらかというと良いことだ。
 しかし、王子はミサに依存しかけている気もする。
 ミサがいるときに少しだけ大きくなる声。
 うれしそうな表情。
 王子は本気でミサのことが好きなのだろう。
 しかし、もちろんのごとくミサを異世界に連れていくことは不可能だ。
 二人がお互いを好きになったとしても、王子がここを離れればミサの記憶から王子はいなくなる。
 
 「とりあえず、報告しに行くか……。王の命令に従うしかないし。」

 魔女はそう言って城へと向かった。
 王が何と言うか。
 それによってはいろいろと対応が変わってくる。
 もし、王が今すぐ離れさせろと言えば……。
 まぁ、そういうことだ。

















 「トニー、これも割ってくれる?」
 「は、はい!もちろん。」

 そのころ王子は人生初の薪割りをしていた。
 おばさんに頼まれて仕方なくだ。
 もし、文句を言ってもう一度異世界転生させられたらたまったものじゃない。
 
(そういえば、魔女の奴どこ行ったんだよ。)
 「トニーこれも。」
 「了解。」

 トニーは手が痛くて仕方がなかったが、いくつもの薪を割った。
 ミサがやっているのに、男の自分が先に音を上げるのはどうかと思ったのだ。
 一方、ミサは王子をほめながらも割った後の薪をかき集めていた。
 
 「おぉ、ミサがまた男を使ってんぞ。」
 「ほんとだ。またやってる。」
 「自分が楽するためによくやるよなぁ。」

 塀に上って声をかけてきたのは数人の男女だった。
 同じくらいの年で、どうやらミサの知り合いらしい。
 
 「あの人たちは?」
 「し、知らないわ。薪、運んじゃうわね。」
 「あぁ、怪我しないようにな。」

 ミサはそう言ってスッとその場を離れて行った。
 かなり動揺しているようにも見えたが、王子には関係ないのでとりあえず薪を割る。
 変な行動をしてミサから離れたくはない。
 何を言われようと。

 「なぁ、知ってるか?あいつ、体売って金稼いでたんだぜ。」
 「そうそう。変にむしり取られるくらいならさっさと離れたほうがいいぞ。」
 
 王子は我慢という言葉を知らない。
 いや、我慢したことがないのだ。

 「……あなたたちこそ離れたほうがいいぞ。そこの塀、壊れるから。」

 王子がそう言った瞬間、男女が上っていた塀が崩れ落ちた。
 塀の崩れ方はあまりにも悲惨で、男女は即死だったらしい。

 「あーあ。だから言ったのに。」

 王子はニヤリと笑ってその光景を見た。
 しかし、ミサが大きな音がしたからと言って様子を見に来た時にはもうすでに困った顔をしていた。

 「トニー、大丈夫?って、キャー!ちょ、救急車……。」
 「もう駄目だよ。一応崩れそうだったから教えたんだけど。」
 「え?ちょっ……おばさん呼んでくるわ!待ってて。」
 「僕が行ってくるよ。だから落ち着いて。」

 王子は死体など見飽きるほど見てきた。
 目の前で何人の人が死んだだろう。
 王子はそれが分からないくらいには人を殺した。
 こんなふうに。

 「おばさん。そこの塀が崩れて何人かの子供が下敷きになってる。もう息はないかもだけど。」
 「あぁ、あの塀かい。だから上らないように言ったんだが。」
 「そうそう。あの塀。」

 王子の目を見た瞬間、おばさんは頭を抱えた。

 「ミサはどうしたんだい?」
 「あまりにも動揺してたから休んでもらってる。」
 「それがいいかもねぇ。ありがとさん。」

 おばさんはそういうとすぐに電話を始めた。
 通報しているのだろう。
 王子はそれを見届けてからミサの元へと戻った。
 すると、ミサの横に魔女が立っているのが見えた。

 「君がしたかったことはこれであっているかい?」
 「何のこと?ちゃんと、教えてあげたよ。」
 「トニー?どうしたの?」
 「ん?あ、何でもない。」

 不安そうなミサを見て王子はにっこり笑って言った。
 人間はいざとなった時には人が変わると誰かが言っていたが、それは間違ってはいないらしい。

 「お前ってやつは……。」

 魔女はにっこりと笑った。











 
 「俺は悪くなかった。何もしてない。」
 「面白いことをしてくれるじゃない。私だって魔女。魔法のにおいくらいわかる。」
 「俺じゃない。」
 「嘘もわかるんだよ。残念だったね。」

 王子は次の場所へ飛ばされた時、魔女に文句を言った。
 しかし、ケラケラと笑う魔女はそれらを聞き入れなかった。
 もともと、少しでもへまをすればミサから離れさせるつもりだったのだ。
 それが、王の命令だったから。


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 少しは焦ったり顔を赤くしてもいいのにと女は思ったが、そんなこと起こり得るはずもないなと思った。
 男背景が住む地を収める王子だった。
あまりにも自由奔放で残虐な性格だったために実親である王様すらも困るほどであった。
そんなある時、王様のもとにこの女が表れて「私は魔女であり不死身だから、王子の困った性格を直して見せましょう」と提案したのだ。
王様はそれを承諾し、今に至る。
 「おや、坊主。ここで何してるんだい?」
 とてもきれいな女性だった。
 いや、声をかけたのはその横にいるとても横幅の広いおばさんだったのだが、王子にはその女性にしか目がいかなかった。
 「何?おなかでもすいてるのかい?親は?」
 「え、……あの。その……。」
 「大丈夫?ゆっくりでいいわ。」
 せかすように話すおばさんを見て、女性はにっこりと穏やかに言った。
 「かわいい……。」
 王子はそんな言葉をついつい口に出してしまって、しまったと思った。
 「……うれしい。ありがとう。」
 「あら、真っ赤にしちゃってかわいいわね。しょうがないから、行くとこないならうちにおいで。」
 「っはい!はい、行きます。」
 「まぁ、元気になっちゃって。やっぱりかわいい子がいると変わるのねぇ。」
 「やめてください。そんなことないわよ、ねぇ?」
 「あ、いや……その。」
 王子も女性もそういわれて顔を赤くしている。
 「まさかまさかのドンピシャとはねぇ。やめてよ?手を出したりするのは。」
 「出せるか!」
 「いいわねぇ。若いって。」
 魔女と二人っきりになった時、王子はようやく元に戻った顔を赤くしながら言った。
 その後も、魔女はにやけながら王子をからかい続けたが、王子は何も言わなかった。
 いや、言えなかったのだろう。
 どうしてもあの女性のことを考えると喉がつっかえるような気がして言葉にならない。
 「じゃあ、ほかの場所に飛ばされるのは避けないとね。」
 「……わかってる。」
 魔女は勝ち誇ったような気がした。
 いつも口の悪い王子がここまでおとなしくなるとは思わなかったからだ。
 恋の力って凄いなぁなどと感心していた。
 「あんた、帰る家はあるのかい?」
 小さな小屋についた瞬間、おばさんが王子に聞いた。
 きれいな女性の横に立っている王子は緊張のし過ぎで声が震える。
 いや、体も油のきれたロボットのようにカクカクとしている。
 「あ、その……な、ななないです。」
 「じゃあ、うちに泊まっていく?」
 「え?あの……。」
 「あんたが話しかけると答えないんだから先に家入ってな。で?部屋なら余ってるよ。」
 女性が話しかけると言葉にならない声をもごもごと出す。
 その姿がかわいいからか、女性はふふふと笑っている。
 その姿を見ると体の芯から熱くなり、王子はもっと何も考えられなくなってしまう。
 おばさんはその姿を見て女性に先に家の中へと入るように言う。
 「と、泊まらせてくださ……いや……住まわせてください!」
 「はいはい。ミサ、部屋案内してあげて。」
 「はーい。」
 きれいな女性の名前はミサというらしい。
 王子はかわいらしい名前だと思った。
 いや、別に顔がタイプだからそう思ってしまうわけではない。
 決してそんなことはない。
 美人くらいなら、お城に住んでいた時にたくさん見てきた。
 王子はそう思いながら顔を真っ赤にしてミサについて行った。
 「ここがあなたの部屋よ。荷物を置いて……いや、ごはんができたら呼びに来ることもできるけど。ここにいる?」
 「あ、……その。いや……。」
 「じゃあ、私は隣の部屋だから。何かあったら声をかけてね。」
 小屋の中は二階建てで一階はリビングのようなもの、二階は部屋が四つくらい並んでいてそれぞれにベッドが一つずつ置いてあった。
 小屋とはいえ、この時代では広めの家だ。
 それでもお城に住んでいた王子からしたらとても狭く感じてしまう。
 ミサは王子が手ぶらなのを見てすぐに言い換えた。
 そして、ニコニコしながら部屋から出ていく。
 王子としてはボーっとしすぎてミサの一言を気にすることはできなかった。
 「ミサ、さん。」
 「あんまり恋に力入れると後々困るよ。」
 「恋に力入れてなんか……。」
 「顔真っ赤にして何言い訳しようとしてるのよ。」
 魔女はあきれたように言った。
 王子の反応ははたから見ていたらかわいいかもしれないが、王子をいろいろな場所に送って性格を矯正する魔女からしたら心が痛んでしまったりする。
 王子からしたら失敗しなければよいと思っている。
 ただこの王子が失敗しないとは誰も思えない。
 「ご飯出来たわよ!ほら、一階に来なさい。」
 「はーい。行きましょう。おばちゃん全部食べちゃうから。」
 「あ、ははい。」
 おばさんが呼ぶと、ミサはわざわざ王子の部屋をノックして声をかけてくれた。
 (広い家じゃないんだからわざわざ呼びに来なくても……。)
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 ミサに対して対抗心があるとかそういう気持ちは全くない。
 鼻の下を伸ばした王子はミサのことしか見えていないらしい。
 「名前はなんていうの?」
 「へ?」
 「名前よ。呼ぶのに困っちゃうでしょう?」
 「あ、あぁ……。」
 王子は困ってしまった。
 王子のいた場所では王家に名前を持つ者などいない。
 必要ないからというのもあるが、役職でしか呼ばれないことで責任感をしっかり持つという理由もある。
 「……ぼ……くの国では、その……。」
 「ん?」
 王子は助けを求めるように魔女のほうを見た。
 魔女はニヤニヤとした表情で王子を見ている。
 「転生者っていうのがばれたら速攻飛ばしてあげる。」
 王子にこっそりいう魔女は世界一楽しそうな感じだった。
 今までで一番魔女らしい顔だ。
 王子はそれだけは避けたい。
 どうにかして名前というものを考えなければならない。
 「あ……アントニオ……。」
 「あんとにお?珍しい名前なのね。異国の名前?」
 「う、うん。まぁそんな感じだ。」
 「長いからトニーって呼んでもいいかしら?」
 「も、もちろん!」
 魔女が後ろで噴出して大笑いしている中、王子は後ろめたさを感じながら食い気味にうなずいた。
 「ほら、しゃべってないでお皿を運んでおくれ。」
 「なんでお……やります。」
 叔母さんに声をかけられて王子は怒りかけたが、すぐに押し込めた。
(ここで怒れば、きっとほかの地へと飛ばされてしまう。ミサに会えなくなる。)
 王子は今まで以上に気を付けていた。
 魔女としてはそれがとてもつまらなかった。
 このまま、王子の性格が治るのはとても良いことなのだ。
 きっと誰もがここにいさせて性格の矯正をすれば王子の性格はよくなると思う。
 それは、魔女にとって少し困ることの一つだ。
 「魔女、お前さ。」
 「なに?」
 「どうすれば女は喜ぶんだ?」
 「知らないわ。」
 「お前も女だろ?」
 魔女は黙ってしまった。
 真夜中で町全体が寝静まった時間。
 王子は軽い相談として魔女に声をかけた。
 「……知らないわよ。何年一人だと思ってるの?」
 「一生独り身だもんな。」
 「今の私が腹立ったからほかの地へ飛ばしてもいい?」
 「悪かった。それはやめてくれ。」
 「じゃあ、さっさと寝なよ。おやすみ。」
 「おやすみなさいだろ。」
 王子はそう言いながら外の星を眺めた。
 王子のいる世界では夜も朝も明るくて星などなかなか出てこない。
 特にお城からほとんど出ないため、生まれてほぼ初めての星だ。
 (きれいだな……。)
 王子の中でその星たちは心を落ち着けるものがあった。
 イライラしていた気持ちも高ぶった気持ちもどちらも落ち着かせる魔法のように感じたのだ。
 「寝れませんか?」
 「え……、あ。えっと。」
 「寝るまでご一緒しましょうか?」
 「っはい。お願いします!」
 王子のもとに来たのはミサだった。
 魔女だったら怒鳴ってやろうと思っていた王子はびっくりするのと同時に勢いをなくしてしまう。
 そのころ魔女は一人で紅茶をたしなんでいた。
 王子と一緒にいるようになってからというもの、一人で静かにいるという時間がなかなか取れなくなってしまっていたからだ。
 もともとはこの時間が長くて嫌いだったのだが、あのうるさい王子と一緒にいるとどうしてもこの時間が欲しくなってしまう。
 「お嬢さん。おひとりですか?」
 「お嬢さんなんて呼ばれる年じゃないよ。もう生まれてから何年たったかも忘れたしね。」
 「さようですか。」
 魔女は声の主をにらみつけながら言う。
 それなのにもかかわらず、声の主は当たり前のように魔女の座っていた椅子の体面に座った。
 それは、お城で先生と呼ばれている人物だった。
 「何か飲むかい?」
 「えぇ、あなたと同じものをお願いします。」
 「あんたも物好きだねぇ。ここでは、先生だったわよね?」
 「あなたこそ。あの王子をどうする気ですか?」
 「……ただ、躾しなおしているだけだよ。」
 魔女はそう言って先生と呼ばれている人の前にお茶を置く。
 先生はそれを笑顔で受け取って一口飲んだ。
 どうやらお城からの使いではないようだ。
 まぁ、魔女からしたらどちらでも構わないのだが。
 「それだけには見えませんが……。同じ人間としてはあなたの気持ちはわかります。不老不死に急になってしまった者同士仲良くしませんか?」
 「遠慮いたします。」
 「私ならあなたを売ったりしませんよ。」
 「……お帰りください。私は売られてなどいません。」
 魔女は笑顔で先生を追い出した。
 どうやら魔法で追い出されたらしく、先生自身もよくわからないままに追い出されてしまった。
 「まだお茶を飲み終わっていなかったのですが……。」
 先生がもう一度入れてもらおうとぼやいている途中に浮いたお茶が先生の真上で停止して、そのままさかさまになった。
 地面にはお茶の水たまりができ、先生もびしょぬれになってしまう。
(このままでは帰れないな。)
 先生がそんなことを思いながら立ち去ろうとすると、不思議なことに一歩歩くたびに服や体が乾いていく。
 そして魔女の家がある森を抜けるころには一度濡れたとは思えないほどに乾いてしまった。
 「不思議なものだな。同じ人間ではあるはずなのだが……。」
 「先生、どちらへ?」
 「いや、今帰ったところだ。少々友達のもとに行ってきた。」
 「さようでしたか。お疲れ様です。」
 先生はここへ来てからまるで王様のような暮らしができている。
 いや、王様はもっといい対応をされるのかもしれない。
 しかし、同じくらいの対応はされていることだろう。
 これは心地の良い対応でもあるが、たまに嫌になってしまうこともある。
 それでもまさか自分が追い出された上にお茶を頭からかけられる日が来るとは思ってもみなかったが。
 「何よ。あの男は。」
 そのころ魔女は少々いら立ちを隠せなくなっていた。
 久しぶりにこんな感情を感じた。
 いつもは一人でいて、魔法で何でもできるためそこまで感情が高ぶることがなかったからだ。
 「お茶がもったいないよ。」
 「なぜあの男を家に入れたの?」
 「しっ。子供はもう寝なさい。」
 「でも、魔女、すごく怒ってる。」
 「何があるかわからないのに寝れないよ。」
 「いいから。見世物じゃないのよ。」
 大きな木がそう言ってわさわさ揺れる。
 魔女はここでずっと生活してきた。
 魔女の森は木たちがしゃべる。
 物だってしゃべる。
 しかし、それは木たち同士でだ。
 決して魔女自身に声をかけることはない。
 だから、魔女は一人なのだ。
 魔女が声をかけても答えてくれない木たちとずっと一緒にいるから。
 魔女はこの生活が嫌になってしまった。
 「早くここから出なきゃ……。」
 いつの間にか、そう思い続けることが魔女のたった一つの生きがいとなってしまった。
 「ほら、早く起きなさい!」
 「…………はい、……なんだ魔女か。」
 「なんだとは何だ。」
 「おばさんかと思ったんだよ。」
 「それは私に失礼だぞ。はぁ、もう起きろ。」
 「まだ外は暗いが?」
 「いいから。ここらの朝は早いんだ。」
 魔女はそう言って布団をたたみ始める。
 もちろん実態はなく、物に触ることはできないため魔法で。
 王子からしたら迷惑極まりない。
 時計を見ると早朝の4時を指していた。
 本気で早すぎる時間帯にも感じる。
 「トニー、朝よ……ってまぁ!もう起きてたのね。すごく早起きでえらいわ。」
 「え……そ、そうかな。」
 王子は照れながら言う。
 横で魔女が威張っているが、王子の目には入らなかった。
 「トニー、今日はおばちゃんが手伝いをしてッて。」
 「あ、う……うん。」
 「早くいかないと朝ご飯なくなっちゃうわ。」
 王子は地味に魔女に感謝をしながら部屋を出ていく。
 ミサに褒められたことで王子はとてもご機嫌だ。
 魔女はそれを見てどうしようかと思った。
 まさかここまで王子が何事もなくいられるとは思ってもみなかったからだ。
 いや、別にいいのだ。
 いろいろなところへ行くのが目標ではなく、性格を矯正するのが目標なのだから。
 王子が問題を起こさなくなったのはどちらかというと良いことだ。
 しかし、王子はミサに依存しかけている気もする。
 ミサがいるときに少しだけ大きくなる声。
 うれしそうな表情。
 王子は本気でミサのことが好きなのだろう。
 しかし、もちろんのごとくミサを異世界に連れていくことは不可能だ。
 二人がお互いを好きになったとしても、王子がここを離れればミサの記憶から王子はいなくなる。
 「とりあえず、報告しに行くか……。王の命令に従うしかないし。」
 魔女はそう言って城へと向かった。
 王が何と言うか。
 それによってはいろいろと対応が変わってくる。
 もし、王が今すぐ離れさせろと言えば……。
 まぁ、そういうことだ。
 「トニー、これも割ってくれる?」
 「は、はい!もちろん。」
 そのころ王子は人生初の薪割りをしていた。
 おばさんに頼まれて仕方なくだ。
 もし、文句を言ってもう一度異世界転生させられたらたまったものじゃない。
(そういえば、魔女の奴どこ行ったんだよ。)
 「トニーこれも。」
 「了解。」
 トニーは手が痛くて仕方がなかったが、いくつもの薪を割った。
 ミサがやっているのに、男の自分が先に音を上げるのはどうかと思ったのだ。
 一方、ミサは王子をほめながらも割った後の薪をかき集めていた。
 「おぉ、ミサがまた男を使ってんぞ。」
 「ほんとだ。またやってる。」
 「自分が楽するためによくやるよなぁ。」
 塀に上って声をかけてきたのは数人の男女だった。
 同じくらいの年で、どうやらミサの知り合いらしい。
 「あの人たちは?」
 「し、知らないわ。薪、運んじゃうわね。」
 「あぁ、怪我しないようにな。」
 ミサはそう言ってスッとその場を離れて行った。
 かなり動揺しているようにも見えたが、王子には関係ないのでとりあえず薪を割る。
 変な行動をしてミサから離れたくはない。
 何を言われようと。
 「なぁ、知ってるか?あいつ、体売って金稼いでたんだぜ。」
 「そうそう。変にむしり取られるくらいならさっさと離れたほうがいいぞ。」
 王子は我慢という言葉を知らない。
 いや、我慢したことがないのだ。
 「……あなたたちこそ離れたほうがいいぞ。そこの塀、壊れるから。」
 王子がそう言った瞬間、男女が上っていた塀が崩れ落ちた。
 塀の崩れ方はあまりにも悲惨で、男女は即死だったらしい。
 「あーあ。だから言ったのに。」
 王子はニヤリと笑ってその光景を見た。
 しかし、ミサが大きな音がしたからと言って様子を見に来た時にはもうすでに困った顔をしていた。
 「トニー、大丈夫?って、キャー!ちょ、救急車……。」
 「もう駄目だよ。一応崩れそうだったから教えたんだけど。」
 「え?ちょっ……おばさん呼んでくるわ!待ってて。」
 「僕が行ってくるよ。だから落ち着いて。」
 王子は死体など見飽きるほど見てきた。
 目の前で何人の人が死んだだろう。
 王子はそれが分からないくらいには人を殺した。
 こんなふうに。
 「おばさん。そこの塀が崩れて何人かの子供が下敷きになってる。もう息はないかもだけど。」
 「あぁ、あの塀かい。だから上らないように言ったんだが。」
 「そうそう。あの塀。」
 王子の目を見た瞬間、おばさんは頭を抱えた。
 「ミサはどうしたんだい?」
 「あまりにも動揺してたから休んでもらってる。」
 「それがいいかもねぇ。ありがとさん。」
 おばさんはそういうとすぐに電話を始めた。
 通報しているのだろう。
 王子はそれを見届けてからミサの元へと戻った。
 すると、ミサの横に魔女が立っているのが見えた。
 「君がしたかったことはこれであっているかい?」
 「何のこと?ちゃんと、教えてあげたよ。」
 「トニー?どうしたの?」
 「ん?あ、何でもない。」
 不安そうなミサを見て王子はにっこり笑って言った。
 人間はいざとなった時には人が変わると誰かが言っていたが、それは間違ってはいないらしい。
 「お前ってやつは……。」
 魔女はにっこりと笑った。
 「俺は悪くなかった。何もしてない。」
 「面白いことをしてくれるじゃない。私だって魔女。魔法のにおいくらいわかる。」
 「俺じゃない。」
 「嘘もわかるんだよ。残念だったね。」
 王子は次の場所へ飛ばされた時、魔女に文句を言った。
 しかし、ケラケラと笑う魔女はそれらを聞き入れなかった。
 もともと、少しでもへまをすればミサから離れさせるつもりだったのだ。
 それが、王の命令だったから。