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ー/ー



──────


────



「凄く硬くなってるわね……可哀想に」


 パンパンになった私の脚を揉み(ほぐ)しながら、悲し気な表情をさせる静香さん。


『今日は疲れたでしょ? 私がマッサージしてあげる』


 先程そう告げた静香さんに半ば強引にソファへと座らされた私は、今、静香さんからマッサージを受けている。
 元々静香さんには少し過保護なところがある気はしていたけれど、流石にここまでしてもらうのには気が引ける。


「あの……静香さん、本当に大丈夫ですから」

「ダメよ。浮腫(むくみ)みは放っておくとどんどん硬くなるんだから」


 制する為に伸ばした私の手をそっと退けると、静香さんはそのまま私をソファの上でうつ伏せにした。


「浮腫みはその日の内に取っておかないとね」


 そう言って私の脚を揉み解す静香さん。


(ここまでしてもらって本当にいいのかな……)


 そうは言っても、先程から静香さんがしてくれるマッサージはとても気持ちが良く、バイトの疲れもあったせいか何だか急激に睡魔が襲ってきた。
 ソファの上でうつ伏せになりながら、その心地良さにウトウトとし始める。



 ────!?



 突然のヌルッとした生暖かい感触に驚き、私は手放しかけていた意識を一気に覚醒させた。


(っ、……え? 今、舐められた?)


 驚きに固まったままでいると、その後何事もなく五分程でマッサージは終わった。
 ゆっくりと私から離れてゆく静香さん。その気配を感じて、私はうつ伏せから起き上がるとソファへと座り直した。


「どうかな? 少しは軽くなったかしら?」


 私の顔を覗き込んで優しく微笑む静香さん。


「あ……、はい」

「なら良かった」


 フフッと優しく微笑む静香さんを見て、さっきのは一体何だったのかと一瞬そんな疑問が頭を過ぎる。


「真紀ちゃん、どうかした?」


 不思議そうな顔をして私を見つめている静香さん。その姿を見ていると、やはり先程感じた感触は私の勘違いだったのではないかと、なんだかそう思えてくる。


(あの時半分寝かけてたし……きっと寝ぼけてたんだよね)
 

 そう思って自分に言い聞かせる。


「……いえ、ありがとうございました。とても気持ち良かったです」

「湯船に浸かると疲れも取れるわよ。ゆっくり入ってらっしゃい」


 私を見てニッコリと微笑んだ静香さんは、「私は先に休ませてもらうわね。おやすみ、真紀ちゃん」と告げるとそのままリビングを後にした。



◆◆◆



 静香さんと暮らし始めて早いこと三週間。私は何事もなく平穏な毎日を過ごしている。といっても、大学のレポートやらバイトやらで毎日がとても忙しい。
 そんな私の癒しといえば、たまの休みと毎日の夕食だった。

 静香さんは毎日欠かさずに夕食を作ってくれて、それを必ず私と一緒に食べてくれる。静香さん自身、一人で食べるのが寂しいという理由から。勿論それもあったけれど、私も一人では食べたくなかったので、どんなに遅くなっても静香さんが待っていてくれる事がとても嬉しかった。
 静香さんの優しさがとても嬉しかった私は、そんな静香さんを待たせてはいけないと、友達と遊びに出掛けても必ず夕食前には帰宅するようにしていた。


(静香さんみたいな人が彼氏だったら良かったのに……)


 そんな風に思ってしまう程に、私の中で静香さんの存在は大きくなっていた。


(静香さんて、恋人とかいないのかな?)


 三週間共に過ごしている内に、ふと疑問に思った事。私の見た限りでは仕事へ行く以外毎日自宅にいる静香さん。
 とはいえ、朝は私の方が早く家を出て帰りは私の方が遅いので、実際には家にいる静香さんしか私は知らなかった。

 こんなに綺麗で優しい静香さん。恋人の一人や二人いてもおかしくはない。


「静香さんて……彼氏さんとかいないんですか?」


 食べ終えた食器を食洗機に入れながら、近くにいる静香さんにそう訊ねてみる。


「そうねぇ……男の人は好きじゃないかな」

「え?」


 予想外の返事に驚いた私は、思わずピタリとその手を止めた。


(それってつまり……女の人が好きってこと?)


 チラリと様子を(うかが)うようにして静香さんの方へと視線を送ると、私を見つめていた静香さんと視線が絡まる。


「だって、女の子の方がプニプニしていて美味しそうでしょ?」


 そう告げた静香さんの表情はとても妖艶で、ドキリと鼓動を跳ねさせた私は手元を滑らせた。



  ────パリーン!



 私の手元から滑り落ちた食器は、床にあたって砕けると大きな音を出した。


「っ……す、すみません!」


 勢いよくその場に腰を下ろすと、砕けた食器を拾おうと欠片に手を伸ばす。


「っ……!」


 ピリッとした鋭い痛みを指先に感じた瞬間、指先に薄っすらと(にじ)み始めた真っ赤な鮮血。それは見る見るうちに濃さを増してゆくと、ついにその重さに耐えきれなくなって私の指先からポタリと落ちた。


「──真紀ちゃん!」


 焦った声音を上げた静香さんは、私の隣に腰を下ろすと傷付いた私の指を自分の口の中へと入れた。



   ────!?



 驚いた私は反射的にその手を引っ込めようとする。そんな私の手をグッと引き戻すと、再び口に含んでピチャピチャと舐め始めた静香さん。
 私はそんな静香さんの姿から視線を逸らすことができなかった。


「真紀ちゃん……っ、真紀ちゃん」


 そう何度も呟きながらピチャピチャと私の指を舐め続ける静香さん。その姿はやけに(なまめ)かしく──そして何故か、とても恐ろしくも感じた。




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「凄く硬くなってるわね……可哀想に」
 パンパンになった私の脚を揉み|解《ほぐ》しながら、悲し気な表情をさせる静香さん。
『今日は疲れたでしょ? 私がマッサージしてあげる』
 先程そう告げた静香さんに半ば強引にソファへと座らされた私は、今、静香さんからマッサージを受けている。
 元々静香さんには少し過保護なところがある気はしていたけれど、流石にここまでしてもらうのには気が引ける。
「あの……静香さん、本当に大丈夫ですから」
「ダメよ。|浮腫《むくみ》みは放っておくとどんどん硬くなるんだから」
 制する為に伸ばした私の手をそっと退けると、静香さんはそのまま私をソファの上でうつ伏せにした。
「浮腫みはその日の内に取っておかないとね」
 そう言って私の脚を揉み解す静香さん。
(ここまでしてもらって本当にいいのかな……)
 そうは言っても、先程から静香さんがしてくれるマッサージはとても気持ちが良く、バイトの疲れもあったせいか何だか急激に睡魔が襲ってきた。
 ソファの上でうつ伏せになりながら、その心地良さにウトウトとし始める。
 ────!?
 突然のヌルッとした生暖かい感触に驚き、私は手放しかけていた意識を一気に覚醒させた。
(っ、……え? 今、舐められた?)
 驚きに固まったままでいると、その後何事もなく五分程でマッサージは終わった。
 ゆっくりと私から離れてゆく静香さん。その気配を感じて、私はうつ伏せから起き上がるとソファへと座り直した。
「どうかな? 少しは軽くなったかしら?」
 私の顔を覗き込んで優しく微笑む静香さん。
「あ……、はい」
「なら良かった」
 フフッと優しく微笑む静香さんを見て、さっきのは一体何だったのかと一瞬そんな疑問が頭を過ぎる。
「真紀ちゃん、どうかした?」
 不思議そうな顔をして私を見つめている静香さん。その姿を見ていると、やはり先程感じた感触は私の勘違いだったのではないかと、なんだかそう思えてくる。
(あの時半分寝かけてたし……きっと寝ぼけてたんだよね)
 そう思って自分に言い聞かせる。
「……いえ、ありがとうございました。とても気持ち良かったです」
「湯船に浸かると疲れも取れるわよ。ゆっくり入ってらっしゃい」
 私を見てニッコリと微笑んだ静香さんは、「私は先に休ませてもらうわね。おやすみ、真紀ちゃん」と告げるとそのままリビングを後にした。
◆◆◆
 静香さんと暮らし始めて早いこと三週間。私は何事もなく平穏な毎日を過ごしている。といっても、大学のレポートやらバイトやらで毎日がとても忙しい。
 そんな私の癒しといえば、たまの休みと毎日の夕食だった。
 静香さんは毎日欠かさずに夕食を作ってくれて、それを必ず私と一緒に食べてくれる。静香さん自身、一人で食べるのが寂しいという理由から。勿論それもあったけれど、私も一人では食べたくなかったので、どんなに遅くなっても静香さんが待っていてくれる事がとても嬉しかった。
 静香さんの優しさがとても嬉しかった私は、そんな静香さんを待たせてはいけないと、友達と遊びに出掛けても必ず夕食前には帰宅するようにしていた。
(静香さんみたいな人が彼氏だったら良かったのに……)
 そんな風に思ってしまう程に、私の中で静香さんの存在は大きくなっていた。
(静香さんて、恋人とかいないのかな?)
 三週間共に過ごしている内に、ふと疑問に思った事。私の見た限りでは仕事へ行く以外毎日自宅にいる静香さん。
 とはいえ、朝は私の方が早く家を出て帰りは私の方が遅いので、実際には家にいる静香さんしか私は知らなかった。
 こんなに綺麗で優しい静香さん。恋人の一人や二人いてもおかしくはない。
「静香さんて……彼氏さんとかいないんですか?」
 食べ終えた食器を食洗機に入れながら、近くにいる静香さんにそう訊ねてみる。
「そうねぇ……男の人は好きじゃないかな」
「え?」
 予想外の返事に驚いた私は、思わずピタリとその手を止めた。
(それってつまり……女の人が好きってこと?)
 チラリと様子を|窺《うかが》うようにして静香さんの方へと視線を送ると、私を見つめていた静香さんと視線が絡まる。
「だって、女の子の方がプニプニしていて美味しそうでしょ?」
 そう告げた静香さんの表情はとても妖艶で、ドキリと鼓動を跳ねさせた私は手元を滑らせた。
  ────パリーン!
 私の手元から滑り落ちた食器は、床にあたって砕けると大きな音を出した。
「っ……す、すみません!」
 勢いよくその場に腰を下ろすと、砕けた食器を拾おうと欠片に手を伸ばす。
「っ……!」
 ピリッとした鋭い痛みを指先に感じた瞬間、指先に薄っすらと|滲《にじ》み始めた真っ赤な鮮血。それは見る見るうちに濃さを増してゆくと、ついにその重さに耐えきれなくなって私の指先からポタリと落ちた。
「──真紀ちゃん!」
 焦った声音を上げた静香さんは、私の隣に腰を下ろすと傷付いた私の指を自分の口の中へと入れた。
   ────!?
 驚いた私は反射的にその手を引っ込めようとする。そんな私の手をグッと引き戻すと、再び口に含んでピチャピチャと舐め始めた静香さん。
 私はそんな静香さんの姿から視線を逸らすことができなかった。
「真紀ちゃん……っ、真紀ちゃん」
 そう何度も呟きながらピチャピチャと私の指を舐め続ける静香さん。その姿はやけに|艶《なまめ》かしく──そして何故か、とても恐ろしくも感じた。