はじめてのお菓子と古い曲
ー/ー
ショッピングを終え、今はまた目的地へと向かっています。パーキングエリアで買ったものを一つ開けて、少し食べています。
車の中で食事はやったことがありませんでしたので、マナーとしてどうかと思いました。ですが、旦那様が
『それもフツーの人の旅行ならあるあるだよ』
と仰っていましたので、お言葉に甘えて食べています。手に取ったのは、明太子が練り込まれた薄い煎餅です。
お味は素直に美味しいです。これよりも高くて、美味しい煎餅は幾つも食べてきました。ですけど、これはそれらにはない、いい意味でチープな味がします。若干の甘みに酸味と言うべきか旨味というべきか、そう言う味が混じっています。安っぽいのですが、これがいいのです。安いからこそ、軽さが生まれて、また食べたくなるのでしょう。人気商品であると、売られている場所で書かれていましたので、間違い無いでしょう。
あくまで立ち寄った程度ですが、いいものを見つけました。この煎餅が美味しかったのですから、他のお菓子も楽しみになってきます。まんじゅうや間に薄いピンクのクリームがあるもの。ラスクやきなこがたくさんかかっているらしいお餅。
まだ食べていないお菓子に私は胸をおどらせていました。
「椿ちゃんって、案外食べるんだね」
旦那様がちらりとこちらを見ていました。はっと思い煎餅の箱を見てみると、箱の中が空と化していました。
やってしまいました……。美味しくて癖になってしまったのでつい手が伸びすぎて殆ど食べてしまいました。16袋入りで10袋は間違いなく食べてしまっています。旦那様の言う普通でもこんなに食べないでしょう。これでは本当にはしたないではありませんか……。
旦那様はきっと呆れ果ててしまっているに決まっています……。恐る恐る運転中の旦那様の顔を見て見ると、私が思っていたお顔とは真逆でした。
「……怒っていたり、呆れたりしないのですか?」
私の問いかけに左手を横に振っていました。
「ないない! 美味しかったから食べたんでしょ? ミラー越しに見たら美味しそうにしてたから、僕は嬉しかったよ! 買ってよかったなあって思った。椿ちゃん普段はお高いものいっぱい食べてそうだから、口に合わないかもしれないって思ってたから余計にね」
旦那様がお優しい方でよかったです。他の家の方だったら、指摘されていたでしょう。初めて二人きりになった時から思っていましたが、懐が深い方です。
「でも、食べている椿ちゃんをもっと見たかったなあー。リスとかが餌を頬張る様子にすっごく似ててかわいかったからさぁ」
お顔はあえて見ませんでした。少し背筋が凍る感覚がしましたので。懐は深いのですが、私に対する愛情も深いようですので。これは我慢すればいいでしょう。いい人で正直に仰っていられるだけでしょうから。不快ではありません。……少し怖いですが。
少し気まずくなって窓の外を眺めました。山の中を抜けたようで、少しずつ住宅街が見えて来ています。遠くにですが、ビル群が見えて来ましたので最初に行かれる目的地は近いのだと思います。
車内で流れるBGMは洋楽に変わっていました。これも、今の流行りとは思えないです。前に流していた曲に近い感覚を覚えます。まだ二十五歳のはずですよね? 七つほど離れていますが、そうだとしても感覚が違いすぎる気もします。聞いて見るべきでしょうか。しかし、気分を害されるかもしれません。若い人に古いと言う言葉を言ってしまうのは良くない気がします。私が聞いている音楽の事をそう言われても嫌な想いをしますから。ですが、なんと言えば傷つけないのでしょうか……。
ここで私の交友関係の狭さが仇になってきました。色々な人と友人として仲良くしていれば、こう言った際のお話の仕方がわかったはずでしょうから……。せめて櫻さんともっと何気ないお話をしておくべきでした。後悔先に立たずとはこう言うを指すのでしょう。
そんな事を考えている時でした。
「椿ちゃん……、もしかして曲が煩かった?」
悩んでいる表情が不快に感じていると取られてしまったようです。そんな事はないのですが、どうしましょう。とにかく否定をしておきましょう。
「いえ。ただ、その……古い……」
言ってしまいました。どうしましょう……
「あ、いえ。決して好きではないとか不快と言う意味ではなく、いい曲ですけど、友人から聞いていた最近の曲とは違いましたので……」
取り繕って首を細かく横に振ってみましたが、また言っては行けない言葉を出してしまった気がします。どうしましょう。大人の社交の場での取り繕いはわかりますが、こう言った場では全く役に立ちません。これでは辻井家の恥晒しです。自分の至らなさが情けなくなってきました。
怖いのですが、旦那様の表情を見て見ると何故か微笑んでいました。
「だよね! 昔からなんだ。最近の流行りにイマイチついていけなくてね。若い癖に古い曲の方がハマりやすいんだ」
「申し訳ありません。思い入れのある曲でしょうに」
「そんな事はないよ。昔の曲だから古いと思うもは当たり前。椿ちゃん十代だし。音楽だから合う合わないはあるよ。僕だって、その辺りを聞いておけばよかったかもしれないね」
明るく気にされていないようでした。お優しい方で本当に良かったです。気をつけましょう。
「でも、これは僕の我儘だったと思うんだ。昔は恋をするって事がなかったから全く想像していなかった。だけど、椿ちゃんが好きだから、椿ちゃんを助手席に載せて自分の好きな曲を聴くって言うのが楽しみだったんだ。心地よく聞こえるかなあって。やっぱり、いつもより心が踊ってるよ」
旦那様は本当に楽しそうにしていました。
知ってはいましたけど旦那様は私の事が好きなんだと改めて思いました。表情が本当に緩んでいます。それをさらっと言われてしまうと私も恥ずかしいです。気温はまだ高くないはずなのに身体が暑くなってしまいます。顔がタイプではないですけど、人柄は好きですので。
「……曲は古いと感じましたが、好きですよ」
二つの意味を一つの言葉に込めてみました。
フロントガラスにはビル街がくっきりと映ってきました。それと共に、海の色が近づいてきました。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
ショッピングを終え、今はまた目的地へと向かっています。パーキングエリアで買ったものを一つ開けて、少し食べています。
車の中で食事はやったことがありませんでしたので、マナーとしてどうかと思いました。ですが、旦那様が
『それもフツーの人の旅行ならあるあるだよ』
と仰っていましたので、お言葉に甘えて食べています。手に取ったのは、明太子が練り込まれた薄い煎餅です。
お味は素直に美味しいです。これよりも高くて、美味しい煎餅は幾つも食べてきました。ですけど、これはそれらにはない、いい意味でチープな味がします。若干の甘みに酸味と言うべきか旨味というべきか、そう言う味が混じっています。安っぽいのですが、これがいいのです。安いからこそ、軽さが生まれて、また食べたくなるのでしょう。人気商品であると、売られている場所で書かれていましたので、間違い無いでしょう。
あくまで立ち寄った程度ですが、いいものを見つけました。この煎餅が美味しかったのですから、他のお菓子も楽しみになってきます。まんじゅうや間に薄いピンクのクリームがあるもの。ラスクやきなこがたくさんかかっているらしいお餅。
まだ食べていないお菓子に私は胸をおどらせていました。
「椿ちゃんって、案外食べるんだね」
旦那様がちらりとこちらを見ていました。はっと思い煎餅の箱を見てみると、箱の中が空と化していました。
やってしまいました……。美味しくて癖になってしまったのでつい手が伸びすぎて殆ど食べてしまいました。16袋入りで10袋は間違いなく食べてしまっています。旦那様の言う普通でもこんなに食べないでしょう。これでは本当にはしたないではありませんか……。
旦那様はきっと呆れ果ててしまっているに決まっています……。恐る恐る運転中の旦那様の顔を見て見ると、私が思っていたお顔とは真逆でした。
「……怒っていたり、呆れたりしないのですか?」
私の問いかけに左手を横に振っていました。
「ないない! 美味しかったから食べたんでしょ? ミラー越しに見たら美味しそうにしてたから、僕は嬉しかったよ! 買ってよかったなあって思った。椿ちゃん普段はお高いものいっぱい食べてそうだから、口に合わないかもしれないって思ってたから余計にね」
旦那様がお優しい方でよかったです。他の家の方だったら、指摘されていたでしょう。初めて二人きりになった時から思っていましたが、懐が深い方です。
「でも、食べている椿ちゃんをもっと見たかったなあー。リスとかが餌を頬張る様子にすっごく似ててかわいかったからさぁ」
お顔はあえて見ませんでした。少し背筋が凍る感覚がしましたので。懐は深いのですが、私に対する愛情も深いようですので。これは我慢すればいいでしょう。いい人で正直に仰っていられるだけでしょうから。不快ではありません。……少し怖いですが。
少し気まずくなって窓の外を眺めました。山の中を抜けたようで、少しずつ住宅街が見えて来ています。遠くにですが、ビル群が見えて来ましたので最初に行かれる目的地は近いのだと思います。
車内で流れるBGMは洋楽に変わっていました。これも、今の流行りとは思えないです。前に流していた曲に近い感覚を覚えます。まだ二十五歳のはずですよね? 七つほど離れていますが、そうだとしても感覚が違いすぎる気もします。聞いて見るべきでしょうか。しかし、気分を害されるかもしれません。若い人に古いと言う言葉を言ってしまうのは良くない気がします。私が聞いている音楽の事をそう言われても嫌な想いをしますから。ですが、なんと言えば傷つけないのでしょうか……。
ここで私の交友関係の狭さが仇になってきました。色々な人と友人として仲良くしていれば、こう言った際のお話の仕方がわかったはずでしょうから……。せめて櫻さんともっと何気ないお話をしておくべきでした。後悔先に立たずとはこう言うを指すのでしょう。
そんな事を考えている時でした。
「椿ちゃん……、もしかして曲が煩かった?」
悩んでいる表情が不快に感じていると取られてしまったようです。そんな事はないのですが、どうしましょう。とにかく否定をしておきましょう。
「いえ。ただ、その……古い……」
言ってしまいました。どうしましょう……
「あ、いえ。決して好きではないとか不快と言う意味ではなく、いい曲ですけど、友人から聞いていた最近の曲とは違いましたので……」
取り繕って首を細かく横に振ってみましたが、また言っては行けない言葉を出してしまった気がします。どうしましょう。大人の社交の場での取り繕いはわかりますが、こう言った場では全く役に立ちません。これでは辻井家の恥晒しです。自分の至らなさが情けなくなってきました。
怖いのですが、旦那様の表情を見て見ると何故か微笑んでいました。
「だよね! 昔からなんだ。最近の流行りにイマイチついていけなくてね。若い癖に古い曲の方がハマりやすいんだ」
「申し訳ありません。思い入れのある曲でしょうに」
「そんな事はないよ。昔の曲だから古いと思うもは当たり前。椿ちゃん十代だし。音楽だから合う合わないはあるよ。僕だって、その辺りを聞いておけばよかったかもしれないね」
明るく気にされていないようでした。お優しい方で本当に良かったです。気をつけましょう。
「でも、これは僕の我儘だったと思うんだ。昔は恋をするって事がなかったから全く想像していなかった。だけど、椿ちゃんが好きだから、椿ちゃんを助手席に載せて自分の好きな曲を聴くって言うのが楽しみだったんだ。心地よく聞こえるかなあって。やっぱり、いつもより心が踊ってるよ」
旦那様は本当に楽しそうにしていました。
知ってはいましたけど旦那様は私の事が好きなんだと改めて思いました。表情が本当に緩んでいます。それをさらっと言われてしまうと私も恥ずかしいです。気温はまだ高くないはずなのに身体が暑くなってしまいます。顔がタイプではないですけど、人柄は好きですので。
「……曲は古いと感じましたが、好きですよ」
二つの意味を一つの言葉に込めてみました。
フロントガラスにはビル街がくっきりと映ってきました。それと共に、海の色が近づいてきました。