【1】
ー/ー
《澪ちゃん、今日外出た? 晴れてたのにすごい寒かったよ! まあ十二月だもんなぁ。当たり前か。》
《俺はショップにPC見に行ってたんだよね。狙ってた高性能デスク。以前話したじゃない? でも結婚するからどうしよう、って結局買わずに帰って来たよ。》
日曜の夜に届いた、鷹司からのメッセージ。
スマートフォンの通知に浮き立つ気分でトークルームを開いた途端、澪は固まった。
結婚。……結婚!?
どうして突然?
二週間前に会ったときはまったく変わった様子もなく、いつも通り明るく優しかった彼。
彼女がいたことさえ知らなかった。もう二年以上、定期的に会っているというのに。
何故、教えてくれなかったのだろう。
澪は鷹司の恋人ではない。特別な存在だなどと自惚れてはいなかった。
とはいえ、ただの知人よりは近いと思っていた。
けれど知人だとしても、「結婚」するなら知らせるのではないか? 澪は知人にも満たないような、その程度の存在だったというのか。
それとも、知らせたかどうかも忘れてしまうくらいの薄い関係だと?
──鷹司さん、結婚するんだ。そう、なんだ。
彼はまだ二十六なのに、少し早い気がする。
全体に結婚するのが遅くなってはいても、早い人は早いのも知っていた。それでも……。
結婚するなら、一人で何でも好きにできないというのは澪にもわかる。
高額なパソコンも、自分だけで勝手に「欲しいから買っちゃお!」というわけにはいかなくなるということだろうか?
それを澪に愚痴りたかったのか。『彼女』には言えないことだから。
◇ ◇ ◇
鷹司とは、澪が高校二年生の冬から大学受験のために家庭教師をしてもらっていた関係だ。
模試で不本意な結果が続いて、澪は情緒不安定になっていた。家に一人でいると涙が溢れてくるような、今思えば相当に危険な状態だった。
それを心配した母が、従姉の七海に頼んで探してくれたのだ。
「家に来てもらうから知らない人はやっぱり不安でね。女の人のほうが良かったけど、七海ちゃんの紹介ならまあ安心だわ」
彼は従姉の大学と院の同級生らしかった。
母は七海本人にしてほしかったようだ。そんなことを言っても、彼女の家から二時間は掛かるのだから継続して頼むのは無理がある。
紹介された鷹司は、とても親切で教え方も丁寧だった。目に見えてぐんと成績も上がり、おかげで本命にも合格することができたのだ。
七海も彼と同じ大学のため優秀であるし、家庭教師や塾講師もしていて教えるのは慣れていたはず。
母の姉の子で澪とは仲も良いので、彼女だとしても不満などはなかった。
しかしそんなことはまったく関係なく、鷹司と会わせてくれただけで七海は女神と称したい存在だとすら思っている。
通塾はしていたが、家庭教師に教わった経験はない。
親戚でもない男性と自分の部屋で二人きりという状況に、澪は正直少し緊張した。
鷹司に問題があるわけではない。
彼自身は七海に聞いた通り、非常に温和で落ち着いていた。
「澪ちゃん、鷹司は顔はともかく性格は間違いなく良いから! 怖がらなくていいからね~。気楽に行こう」
別に見た目に期待していたわけではないし、当時はそんな余裕など一切なかった。
しかし彼は、「七海ちゃんて超理想高い?」と首を傾げたくらい、顔立ちも整っている方だと思う。
黒いメタルフレームの眼鏡がよく似合う、如何にも頭が良さそうな人。それが第一印象だった気がする。
確かにものすごい「イケメン」ではないかもしれないが、十分過ぎるくらい素敵な人だと。
……そう感じるだけのゆとりがまだ自分にもあったのだ、と意外だったほどに。
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《|澪《みお》ちゃん、今日外出た? 晴れてたのにすごい寒かったよ! まあ十二月だもんなぁ。当たり前か。》
《俺はショップにPC見に行ってたんだよね。狙ってた|高性能《ハイスペック》デスク。以前話したじゃない? でも結婚するからどうしよう、って結局買わずに帰って来たよ。》
日曜の夜に届いた、|鷹司《たかつかさ》からのメッセージ。
スマートフォンの通知に浮き立つ気分でトークルームを開いた途端、澪は固まった。
結婚。……結婚!?
どうして突然?
二週間前に会ったときはまったく変わった様子もなく、いつも通り明るく優しかった彼。
彼女がいたことさえ知らなかった。もう二年以上、定期的に会っているというのに。
何故、教えてくれなかったのだろう。
澪は鷹司の恋人ではない。特別な存在だなどと自惚れてはいなかった。
とはいえ、ただの知人よりは近いと思っていた。
けれど知人だとしても、「結婚」するなら知らせるのではないか? 澪は知人にも満たないような、その程度の存在だったというのか。
それとも、知らせたかどうかも忘れてしまうくらいの薄い関係だと?
──鷹司さん、結婚するんだ。そう、なんだ。
彼はまだ二十六なのに、少し早い気がする。
全体に結婚するのが遅くなってはいても、早い人は早いのも知っていた。それでも……。
結婚するなら、一人で何でも好きにできないというのは澪にもわかる。
高額なパソコンも、自分だけで勝手に「欲しいから買っちゃお!」というわけにはいかなくなるということだろうか?
それを澪に愚痴りたかったのか。『彼女』には言えないことだから。
◇ ◇ ◇
鷹司とは、澪が高校二年生の冬から大学受験のために家庭教師をしてもらっていた関係だ。
模試で不本意な結果が続いて、澪は情緒不安定になっていた。家に一人でいると涙が溢れてくるような、今思えば相当に危険な状態だった。
それを心配した母が、従姉の|七海《なみ》に頼んで探してくれたのだ。
「家に来てもらうから知らない人はやっぱり不安でね。女の人のほうが良かったけど、七海ちゃんの紹介ならまあ安心だわ」
彼は従姉の大学と院の同級生らしかった。
母は七海本人にしてほしかったようだ。そんなことを言っても、彼女の家から二時間は掛かるのだから継続して頼むのは無理がある。
紹介された鷹司は、とても親切で教え方も丁寧だった。目に見えてぐんと成績も上がり、おかげで本命にも合格することができたのだ。
七海も彼と同じ大学のため優秀であるし、家庭教師や塾講師もしていて教えるのは慣れていたはず。
母の姉の子で澪とは仲も良いので、彼女だとしても不満などはなかった。
しかしそんなことはまったく関係なく、鷹司と会わせてくれただけで七海は女神と称したい存在だとすら思っている。
通塾はしていたが、家庭教師に教わった経験はない。
親戚でもない男性と自分の部屋で二人きりという状況に、澪は正直少し緊張した。
鷹司に問題があるわけではない。
彼自身は七海に聞いた通り、非常に温和で落ち着いていた。
「澪ちゃん、鷹司は顔はともかく性格は間違いなく良いから! 怖がらなくていいからね~。気楽に行こう」
別に見た目に期待していたわけではないし、当時はそんな余裕など一切なかった。
しかし彼は、「七海ちゃんて超理想高い?」と首を傾げたくらい、顔立ちも整っている方だと思う。
黒いメタルフレームの眼鏡がよく似合う、如何にも頭が良さそうな人。それが第一印象だった気がする。
確かにものすごい「イケメン」ではないかもしれないが、十分過ぎるくらい素敵な人だと。
……そう感じるだけのゆとりがまだ自分にもあったのだ、と意外だったほどに。