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第42話 招かれざる客

ー/ー



メニィの家は町の東の端っこにあった。
彼女が馬車を庭に停める事を許可してくれたので、俺達はそこでゆっくり待つことにした。
一応、魔法薬の知識がある人がいると助かる…との事だったので、樹と苺とキョウラが応援に向かった。
苺は魔法薬の知識も残っていたらしい。
こうなると、逆に何の記憶が消えたのか気になってくる。



さて、それから実に4時間。
今は、既に昼を回っている。
俺は輝と猶が作った昼食をメニィ達に届けに行くことになった。
モノは、なんだかよくわからない鶏肉料理。
一度に4人分も運ぶのは無理だろ…と思ったのだが、猶が異能で小さな竜巻みたいなものを作り、これに料理を乗せろ。魔力で動かしてけば大丈夫だ、と言ってくれた。
言われるがままに試してみたら、普通に料理を乗せたまま水平に動かせた。
しかも、ただ指先に魔力を込めながら念じるだけで動かせるのであるから、魔力って、やっぱりすごい。


靴を脱ぎ、メニィの家に上がる。
女性の一人暮らしというだけあってか、廊下もきちんと掃除されているし、無駄なものはない。
1人でここまでやれるのはすごいな…と、ちょっと関心しながらも奥へ進む。
メニィ達がいる部屋の扉は青いと聞いていたので、迷う事はなかった。

部屋の扉を開けると、すぐに何かの匂いが漂ってきた。
それは今までに嗅いだことのない、何とも言えない匂いだった。
嫌な匂いではないが、運んできた鶏肉料理の匂いと混ざってなかなかカオスな匂いである。

部屋の奥には半開きの本などが置かれたテーブルがあり、その横には大きな壺があった。
メニィはその前に立ち、本を片手に棒でかき混ぜている。
どうやら、部屋に俺が入ってきた事には気づいてないらしい。
そんな彼女に、俺は声をかけた。
「メニィ、みんな分の昼持ってきたぜ」

「あっ、ありがとうございます。そこの座椅子の上に置いておいてください」

「ほいよ」
俺は、そばにあった座椅子の上に料理を置いた。
「残りのメンバーの分も置いとくな…あれ?樹たちはどこだ?」

「彼らには買い出しに行ってもらってます。薬の材料が微妙に足りなかったので…」

「そうか…てか、この町で材料なんて売ってるのか?」

「はい。この国では、どこの家にも魔法薬の調合が出来る設備がありますからね。どの町にも、魔法薬の材料を売ってるお店はあるんですよ」
さすが、魔法使いの国である。

「へえ…ちなみにだが、今作ってる薬にはどんな素材を使ってるんだ?」
ふと、気になった事を聞いてみた。

「そうですね…今使ってるのは、砂ネズミの脾臓、乾燥させたアツ草、毒蛇の牙、メガラグモの目玉…大体こんな感じです」

「ほ、ほう…」
さすがは魔法使いの作る薬品である。
というか、毒蛇の牙って…そんなもん、入れていいのか。
あとクモの目って…マ◯クラのポーションかよ。
ネズミの脾臓も入れるあたり、なんだか薬は薬でも毒薬になりそうである。
丁度、あのゲームの魔女が投げてくるアレみたいな感じの。




家から出たら、丁度樹達が帰ってきた所だった。
「おっ、おつかれ。昼飯置いといたからな」

「わかった。サンキューな」
樹達はみな、手に袋を持っていた。
あの中に材料が入ってるのか。…気にはなるが、覗かないでおこう。


昼食を食べ終わってから一時間が経った。
タッドやミロウは口々に「退屈だ」「ヒマだ」と喚いているが、正直全面的に同意する。
魔法薬の調合ってのは、こんなに時間かかるもんなのか。
これなら、マ◯クラのポーション作りの方が遥かに早く終わる。
まあ、そんなのと比べてもしょうがないが。



柳助の怒号にも似た声で意識を取り戻した。
いつの間にか、部屋のテーブルに突っ伏して寝てしまっていたようだ。

部屋を飛び出し、そのままの勢いで馬車を飛び出すと、みんなは何やら呆然と立ちすくんでいた。
「みんな!どうした…」
そう言いながら前に出て、"それ"を見た俺は言葉を失った。
眼の前に広がる、荒涼とした砂漠。
そこに、何やら異様な雰囲気を醸し出す女が立っていたのである。

女は橙色の帯が入った白いローブを着ていた。
そして、白い帽子にも同様に橙色の帯が入っている。
茶色の瞳と髪をした美しい女であったが、俺にもその全身から放たれる威圧感は感じられた。

「…」
女は、俺の姿を見るとすぐに口を開いた。
「単刀直入に言います。あなた達と同行している者の中に、司祭苺がいるでしょう。彼女の身柄を渡しなさい」
俺が身構えるより先に、イルクが叫んだ。
「まず、あんたは何者だ!」

「私?私は…吏廻琉(りえる)。サンライト大神殿の司祭よ」

「神殿の…?なら、苺さんの仲間か?」
単純なイルクに、ラギルが言った。
「いや、どう見ても彼女の味方ではない。…彼女に何の用があるのだ」

「あなた達が知る必要はないわ…と言いたい所だけど、いいわ、少しだけ教えてあげる。彼女には…消えてもらうのよ」

「そうか…」
それを聞くやいなや、ラギルは足を引く。
「ならば、貴様を通す訳にはいかんな」



その刹那、ラギル、イルク、ミロウの3人は電光石火の速さで女に斬りかかった…3人で、華麗な正三角形を描いて。
「連携技か…!」
煌汰が目を見開いた。
なるほど、この世界には連携ってのもあるのか。
俺がもし煌汰達と連携を取れるようになったら…
想像すると、ちょっとワクワクする。


しかし、そんな俺の目の前で、残酷な現実は広がっていた。
女は、3人の攻撃を薄い結界一つで防いだのである。
「…!」

「…物理なんて、大したことないのにね」
女は杖を手に出し、円を描くように振るう。
すると、ラギル達は一斉に吹き飛ばされた。

「ラギル!」
彼らの心配をする煌汰に、女は杖を向けた。
「聞かせてもらうわよ。苺は、どこにいるの?」

「…!」

「言うなら、お前たちは見逃してあげる。でも言わないなら…全員始末する」

「…!!」
煌汰は杖を掴み、歯を食いしばって体を震わせながら女を睨みつける。
その勇気は、大したものだ。

「へえ…あなた、勇気はあるのね。流石は騎士、って所かしら」
女は、何やら俺達一人一人を見つめてきた。
そして全員を見終わると、
「いいわ、今回の所は下がってあげる。でも、次は許さないからね。自分たちが生きるか死ぬか…それは、お前たちが決めなさい」
と言い残し、光の中に姿を消した。




「出来ました!…あれ?」
ちょうどそこで、メニィが飛び出してきた。
彼女ははしゃいでいて、そして俺達を見て凍りついた。
タイミングがいいのか、悪いのか。


メニィ達と馬車に戻り、今あった事を話した。
「…その司祭は、本当に私の名前を呼んでいたのですか?」

「ああ。司祭苺、ってはっきり言ってた」
そこに、メニィが入ってくる。
「苺さん…何か、思い出せませんか?」
ちょうどさっき出来上がった薬を飲ませた所なので、効果のほどを確かめたかったのだろう。

「…残念ですが」

「そうですか…でも、この薬は時間が経ってから効果が現れることもあります。まだ、諦めるのは早いですよ」

「ありがとうございます」
ここで、樹が聞いてきた。
「なあ、その司祭って何て名乗ってたんだ?」

「あ、名前か?あいつは、確か…吏廻琉、って名乗ってたな」

「吏廻琉…か。聞いたことないな」

「だよな…」
すると、突如キョウラが反応してきた。
「吏廻琉…!?本当に、そう言っていたのですか!?」

「な、何だよ急に…?」

「そ…その方は…!」
キョウラは一度深呼吸し、あがる息を整えてから言った。

「…その方は、私の母です」



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一応、魔法薬の知識がある人がいると助かる…との事だったので、樹と苺とキョウラが応援に向かった。
苺は魔法薬の知識も残っていたらしい。
こうなると、逆に何の記憶が消えたのか気になってくる。
さて、それから実に4時間。
今は、既に昼を回っている。
俺は輝と猶が作った昼食をメニィ達に届けに行くことになった。
モノは、なんだかよくわからない鶏肉料理。
一度に4人分も運ぶのは無理だろ…と思ったのだが、猶が異能で小さな竜巻みたいなものを作り、これに料理を乗せろ。魔力で動かしてけば大丈夫だ、と言ってくれた。
言われるがままに試してみたら、普通に料理を乗せたまま水平に動かせた。
しかも、ただ指先に魔力を込めながら念じるだけで動かせるのであるから、魔力って、やっぱりすごい。
靴を脱ぎ、メニィの家に上がる。
女性の一人暮らしというだけあってか、廊下もきちんと掃除されているし、無駄なものはない。
1人でここまでやれるのはすごいな…と、ちょっと関心しながらも奥へ進む。
メニィ達がいる部屋の扉は青いと聞いていたので、迷う事はなかった。
部屋の扉を開けると、すぐに何かの匂いが漂ってきた。
それは今までに嗅いだことのない、何とも言えない匂いだった。
嫌な匂いではないが、運んできた鶏肉料理の匂いと混ざってなかなかカオスな匂いである。
部屋の奥には半開きの本などが置かれたテーブルがあり、その横には大きな壺があった。
メニィはその前に立ち、本を片手に棒でかき混ぜている。
どうやら、部屋に俺が入ってきた事には気づいてないらしい。
そんな彼女に、俺は声をかけた。
「メニィ、みんな分の昼持ってきたぜ」
「あっ、ありがとうございます。そこの座椅子の上に置いておいてください」
「ほいよ」
俺は、そばにあった座椅子の上に料理を置いた。
「残りのメンバーの分も置いとくな…あれ?樹たちはどこだ?」
「彼らには買い出しに行ってもらってます。薬の材料が微妙に足りなかったので…」
「そうか…てか、この町で材料なんて売ってるのか?」
「はい。この国では、どこの家にも魔法薬の調合が出来る設備がありますからね。どの町にも、魔法薬の材料を売ってるお店はあるんですよ」
さすが、魔法使いの国である。
「へえ…ちなみにだが、今作ってる薬にはどんな素材を使ってるんだ?」
ふと、気になった事を聞いてみた。
「そうですね…今使ってるのは、砂ネズミの脾臓、乾燥させたアツ草、毒蛇の牙、メガラグモの目玉…大体こんな感じです」
「ほ、ほう…」
さすがは魔法使いの作る薬品である。
というか、毒蛇の牙って…そんなもん、入れていいのか。
あとクモの目って…マ◯クラのポーションかよ。
ネズミの脾臓も入れるあたり、なんだか薬は薬でも毒薬になりそうである。
丁度、あのゲームの魔女が投げてくるアレみたいな感じの。
家から出たら、丁度樹達が帰ってきた所だった。
「おっ、おつかれ。昼飯置いといたからな」
「わかった。サンキューな」
樹達はみな、手に袋を持っていた。
あの中に材料が入ってるのか。…気にはなるが、覗かないでおこう。
昼食を食べ終わってから一時間が経った。
タッドやミロウは口々に「退屈だ」「ヒマだ」と喚いているが、正直全面的に同意する。
魔法薬の調合ってのは、こんなに時間かかるもんなのか。
これなら、マ◯クラのポーション作りの方が遥かに早く終わる。
まあ、そんなのと比べてもしょうがないが。
柳助の怒号にも似た声で意識を取り戻した。
いつの間にか、部屋のテーブルに突っ伏して寝てしまっていたようだ。
部屋を飛び出し、そのままの勢いで馬車を飛び出すと、みんなは何やら呆然と立ちすくんでいた。
「みんな!どうした…」
そう言いながら前に出て、"それ"を見た俺は言葉を失った。
眼の前に広がる、荒涼とした砂漠。
そこに、何やら異様な雰囲気を醸し出す女が立っていたのである。
女は橙色の帯が入った白いローブを着ていた。
そして、白い帽子にも同様に橙色の帯が入っている。
茶色の瞳と髪をした美しい女であったが、俺にもその全身から放たれる威圧感は感じられた。
「…」
女は、俺の姿を見るとすぐに口を開いた。
「単刀直入に言います。あなた達と同行している者の中に、司祭苺がいるでしょう。彼女の身柄を渡しなさい」
俺が身構えるより先に、イルクが叫んだ。
「まず、あんたは何者だ!」
「私?私は…|吏廻琉《りえる》。サンライト大神殿の司祭よ」
「神殿の…?なら、苺さんの仲間か?」
単純なイルクに、ラギルが言った。
「いや、どう見ても彼女の味方ではない。…彼女に何の用があるのだ」
「あなた達が知る必要はないわ…と言いたい所だけど、いいわ、少しだけ教えてあげる。彼女には…消えてもらうのよ」
「そうか…」
それを聞くやいなや、ラギルは足を引く。
「ならば、貴様を通す訳にはいかんな」
その刹那、ラギル、イルク、ミロウの3人は電光石火の速さで女に斬りかかった…3人で、華麗な正三角形を描いて。
「連携技か…!」
煌汰が目を見開いた。
なるほど、この世界には連携ってのもあるのか。
俺がもし煌汰達と連携を取れるようになったら…
想像すると、ちょっとワクワクする。
しかし、そんな俺の目の前で、残酷な現実は広がっていた。
女は、3人の攻撃を薄い結界一つで防いだのである。
「…!」
「…物理なんて、大したことないのにね」
女は杖を手に出し、円を描くように振るう。
すると、ラギル達は一斉に吹き飛ばされた。
「ラギル!」
彼らの心配をする煌汰に、女は杖を向けた。
「聞かせてもらうわよ。苺は、どこにいるの?」
「…!」
「言うなら、お前たちは見逃してあげる。でも言わないなら…全員始末する」
「…!!」
煌汰は杖を掴み、歯を食いしばって体を震わせながら女を睨みつける。
その勇気は、大したものだ。
「へえ…あなた、勇気はあるのね。流石は騎士、って所かしら」
女は、何やら俺達一人一人を見つめてきた。
そして全員を見終わると、
「いいわ、今回の所は下がってあげる。でも、次は許さないからね。自分たちが生きるか死ぬか…それは、お前たちが決めなさい」
と言い残し、光の中に姿を消した。
「出来ました!…あれ?」
ちょうどそこで、メニィが飛び出してきた。
彼女ははしゃいでいて、そして俺達を見て凍りついた。
タイミングがいいのか、悪いのか。
メニィ達と馬車に戻り、今あった事を話した。
「…その司祭は、本当に私の名前を呼んでいたのですか?」
「ああ。司祭苺、ってはっきり言ってた」
そこに、メニィが入ってくる。
「苺さん…何か、思い出せませんか?」
ちょうどさっき出来上がった薬を飲ませた所なので、効果のほどを確かめたかったのだろう。
「…残念ですが」
「そうですか…でも、この薬は時間が経ってから効果が現れることもあります。まだ、諦めるのは早いですよ」
「ありがとうございます」
ここで、樹が聞いてきた。
「なあ、その司祭って何て名乗ってたんだ?」
「あ、名前か?あいつは、確か…吏廻琉、って名乗ってたな」
「吏廻琉…か。聞いたことないな」
「だよな…」
すると、突如キョウラが反応してきた。
「吏廻琉…!?本当に、そう言っていたのですか!?」
「な、何だよ急に…?」
「そ…その方は…!」
キョウラは一度深呼吸し、あがる息を整えてから言った。
「…その方は、私の母です」