第39話 『二人』の司祭
ー/ー「二重人格…?」
それってつまり、一つの体に2人分の人格が入ってる、ってことか。
人間界では多重人格という言葉自体は聞いた事があったが、実際に会った事はなかった。
まさかこの世界で会うことになるとは。
「そう。さっきまであなた達と話してたのは、『青』の苺。私は、『紫』の苺よ」
「青?紫?」
すると、苺は俺の顔を覗き込むように見て、
「あっ、ごめんなさい。分かりづらかったかしら。
私はね、一つの体に2つの人格が入ってるの。どっちの私が喋ってるのかは、目を見て貰えばわかるはずよ」
「目…?」
『今』の苺の瞳は、両方とも鮮やかな紫色だ。
…あれ、そう言えばさっきまで苺の瞳は青かったよな?
「あれ?」
俺は思わず口に出した。
すると、苺は安心したように言った。
「わかったでしょ?私はね、度々体の主導権を握る人格が入れ替わるの。それを見分ける一番確実な方法が、瞳の色。あなた達の知ってる苺は、瞳が青い。今喋ってる私は、瞳が紫。理解してくれた?」
「あ、ああ…」
理解は出来た。
だが、見た目も声も同じなのに中身が別人、というのはなんだか変な感じだ。
「えーと…じゃあ、なんとお呼びすればいいんでしょう…苺さん…で、いいんですか?」
「それでいいわ。私もあいつも同じ『苺』だし」
ここまで見た限り、「紫」の苺は「青」の苺とは性格が異なるようだが、詳しい性格はわからない。
ちょっとアレだが、全くの別人として考えた方が良いかもしれない。
「仕掛けは解いたし、さっきの所に戻りましょう。これで通れるようになってるはず」
「あ、ああ、そうだな…」
道中で、メニィが口を開いた。
「あの…苺さん」
「何?」
「さっきの…「青」の苺さんと今の苺さんは、別人なんですよね?」
「そうよ。本人格はあいつだけど」
「えっ…てことは、今喋ってる苺さんは後づけの人格なんですか?」
「ええ。まあ『私』は生まれつき2つの人格を持ってるんだけどね」
「どういうことですか?」
「私達は、本当は姉妹で生まれるはずだったの。でも、私が生まれる前に母にトラブルがあって…結局私達は、2人分の人格だけが一つの体にまとまって生まれたの。
そんな訳で、私達2人は生まれてこのかた、一心同体でやってきたのよ」
そんなことあるのか。
人間界では聞いた事ない話だが。
「それって、結構大変なんじゃないですか?」
「まあ…ね。私とあいつは性格が合わない所もあるし、好みもちょっと違うから、揉めることもあるにはあるわね」
「ふーん…あれ、てことは今の苺さんは記憶が残ってたり…するのか?」
樹がにわかに希望を持ったように言った。
「残念だけど、私も記憶がない。魔法はいくつか覚えてるけど、過去に自分が何をしてたのかとか、どこから来たのかとかはまるで思い出せないの」
「そっか…そりゃ残念だ。…。オレの予想では、苺さんはサンライト大神殿の関係者…それも、恐らく大司祭とかなり近い立場にある司祭だと思うんだが」
「どうしてそう思うの?」
「苺さんは自分の事はほぼ何も覚えてないのに、魔法は結構覚えてるじゃんか。記憶の大半を失ったのに魔法だけは優秀だなんて、元々相当に強い司祭だったに違いないぜ」
「そうかしら」
「きっとそうだ。もし仮にそうじゃなかったとしても、最上位種族に会って、しかも一緒に冒険が出来たんだ。貴重な経験をしたことに、変わりはないぜ」
すると、苺は優しく笑った。
「へえ…あなた、ポジティブなのね。そう言ってもらえると、私としても悪い気はしないわ。
私も、転移者と旅をするのは久しぶりよ」
突然そう言われ、驚いた。
「…え、俺のこと言ってるのか?」
「…そうね。あなたが最近転移してきた白い人なのは知ってる。でも…まさかこんなにたくさんの白い人といっぺんに出会う事になろうとは思わなかったわ」
それには、樹も驚いた。
「え、オレたちが転移者なのも知ってたのか!?」
「何となくね。それに、あなた達は出会って間もない者同士にしては、妙に親密だもの」
「そうか?」
樹は頭をかく。
俺も、樹たちとそんな親密にしてるつもりはなかったのだが…。
「ええ。私達は…要は頭の中に操縦席があって、表に出てる方がそこに座って、もう片方が後ろにいるような感じなのだけど…青の方が出てる間、私は青の後ろから見させてもらったわ…あなた達の生活ぶりを、ね。
私が見た限り、あなた達は前々からかなり親しい関係にあるみたいね。…羨ましいわ」
最後の方はどこか悲しげに感じられた。
「苺さん…」
メニィもそれを感じ取ったのか、少し悲しげな顔をした。
通路まで戻ってきたが、見た限り特に変化はない。
あちこちに空いてる小さな穴が塞がっているという事もなく、本当に通れるのか心配になる。
「なあ…一応確認だけど、大丈夫…なんだよな、これ?」
「大丈夫だって。疑うなら、先に行って見せようか?」
樹はそう言って、ためらいもせずに踏み出した。
「あ、おい!」
若干焦ったが、樹が通路の中頃まで走っても何も起こらない。
そして、とうとう樹が通路を走り抜けるまで何も起きなかった。
樹は通路を走り抜けると、こちらを振り向いて叫んだ。
「ほらな、大丈夫だったろ!ほら、来いよ!」
「はあ…まあでも、大丈夫そうだな。よし、行こうぜ」
そうして俺達も通路を通ったが、無問題だった。
通路の先の角を曲がった先には、無数の蛇の塊のような異形が3体いた。
「斧技 [水平割り]」
「[ヒート]」
俺とメニィは1体を一緒に攻撃して撃破し、
「棍技 [居合い打ち]」
「[グリーム]」
樹と苺はそれぞれ1人で1体を撃破していた。
この時ふと気になったのだが、メニィと苺は共に一冊の本を開いて魔法を使っていた。
それは何なのかと聞いた所、「魔導書」というものらしい。
一冊に一種類の魔法の力が込められた書物で、術と比べると少し威力が低いが、魔力の消費が少なく、扱いやすいという特徴があるらしい。
あれなら、俺でも使えるだろうか。
と思っていたら、なんと奥の壁がシャッターのように降りてきて、通路を塞いでしまった。
慌てて壁に駆け寄り、調べてみたが、破壊は無理そうだ。
どうするか…とあたりを見回して気づいた。
今倒した3体の異形の足元の床…そこは、意味ありげに白くなっていた。
それとなく俺と樹とメニィで乗ってみたら、奥の壁が動いて先へ続く通路が現れた。
しかし、床から離れるとまた壁が降りてきて通れなくなってしまう。
「何か、重りが必要だな…」
「それなら、私にまかせてください![ブロック]!」
メニィが魔法を唱えると、大きな岩が降ってきて床に乗った。
そして、通路を塞ぐ壁が上がり、通れるようになった。
「おっ!やったな。よっしゃ、行くぞ!」
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