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第二十六話

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 翌日のこと。礼安と院が英雄学園に登校すると、校舎前にクラス分けが発表されていた。
 英雄学園の一年次は六クラスに分けられる。当人の学業成績、実績成績に応じて最初のクラスが決まるのだ。入学試験トップの成績を持つ者は一組に、そうでもないものは二組から六組に振り分けられる。六組に存在するものは、初年度から落第の危険性があるのだ。
 学年ごとに一組ずつ減っていき、最高学年が四年次となるため、最終学年は三組構成である。
 年度が切り替わるタイミングで、成績に応じてクラスの再編が行われる。そのため、入学前に人助けや自身の英雄の力を覚醒させることによって、クラス格上げを虎視眈々と狙う人物が多い。案外、英雄の世界も因子持ちだからとは言っても、決して楽なものでは無いのだ。
 礼安、院の二人は最も優れているとされている一組に配分されていた。そして、新入生主席である天音透|《アマネ トオル》もまた、同じ一組であった。
「あの、ビッグマウスだった主席の子も、我々と同じ一組らしいですわ、礼安」
「まあ、多分仲良くなれるよ!」
 何とも能天気な礼安、そんな様子を見て小さな競争社会と化したこの現場の雰囲気も、とても和やかなものとなっていた。
 しかし、そんな柔らかな雰囲気を打ち壊す、一人とその取り巻き二人。それぞれ示し合わせたような黄色のメッシュをたなびかせていた。そして礼安と院に食って掛かるのは、正面切ってこちらに歩く存在、透であった。
 男女共用たる通常制服|《ブレザー》を早速着崩し、制服内側に黄色のオーバーサイズ気味なパーカーを着込む。学校推薦のスラックスやスカートではなく、レトロチックかつタイトなダメージジーンズ。若年モデルのような美しい体型は、見る者を惹きつける美しい存在であった。しかし、性格は実に刺々しい。
「よお、七光り二人。俺と同じクラスなんだってな」
 その毒がふんだんに詰まった発言を理解できていない礼安と、それに対し敵意をむき出しにする院。
「私の事を馬鹿にするならまだいいですわ、でもお父様と礼安を馬鹿にする行為は何人たりとも許せませんわ」
 どうも険悪なムードの中、一触即発な何かを感じ取ったのか、丁度近くにいた丙良が声をかける。
「ちょっとちょっと、華々しい最初のクラス分けだってのに、喧嘩すること無いだろう?」
 リュックサックとロック・バスターを携えた青年、丙良慎介|《ヘイラ シンスケ》は、院と透の間に割って入った。
「君は……新入生主席の後輩ちゃんか。ハングリー精神に満ち溢れているのは結構だけど、喧嘩を売るのは英雄として失格なんじゃあないかい?」
「――アンタも、その七光り二人の肩を持つのかよ。おまけに俺の名前も覚えてねえと来た……結局は長いものに巻かれるクソ下らない精神な訳かよ」
 その発言にどうも思うところがあった丙良は、透に対して言い放つ。
「井の中の蛙、って言葉知ってるかな。英雄学園の入学試験は相当難しいものなんだけど……それに首席合格程度で、粒立てた実績もない中で『最強』だなんて笑わせないで貰えるかな? 少なくとも、君が噛みついている相手は三人とも――――君より強いと思うが」
 つい先日あった『教会』神奈川支部との直接対決により下した六人。うち二人は礼安と院。少なくとも、ごろつきのそれとは訳が違う修羅場を何度も潜り抜けてきた二人は、少なくとも『七光り』だなんて言葉で片づけてしまうのはもったいない存在である。
 しかも丙良が手塩にかけてコーチングした存在であったがために、馬鹿にされることが我慢ならなかったのだ。
「噛みつく相手は、きっちり選んだ方が良いと思うよ」
 珍しく、丙良は怒っていたのだ。あの事件の顛末を知らない部外者に、どうこう言われることが、何より苛立っていたのだ。
 その場に、言い知れないほどの重圧がのしかかる。それは、丙良によって発せられた魔力によるもの。他の生徒はただのとばっちりだが、透に向けられるものは他の生徒よりも圧倒的なものであった。
 礼安が、丙良の肩を軽く叩く。それにより、その場を包み込む殺気が一気に発散される。
「丙良ししょー、私たちの為? に怒ってくれたのはありがとう。でも……天音ちゃんも悪気はないと思うよ!」
 礼安は、明確に自分に対して敵意を抱いている透を、庇ったのだ。敵意を持った存在である透を庇ったのだ。
 しかし、それが透にとってたまらなく不快であったのだ。
「――ふざけんなよ、ふざけんなよ瀧本礼安!! 何もかも恵まれたお前に、分かられてたまるかってんだ!!」
 礼安に向けられた、明確な敵意。それでも、礼安は透を優しさで包もうとしていたのだ。礼安にとって、透のバックボーンがどうだとか、そういった小賢しいノイズはどうだってよかった、ただ皆には笑顔でいてほしかっただけなのだ。
 和解の意味を込めた、握手。礼安から提示されたそれを、透は荒々しく弾く。取り巻きを引き連れ、礼安たちよりも先に一組の教室へ向かっていった。
「――礼安ちゃん、大丈夫だったかい」
「大丈夫、時間をかけてでも……天音ちゃんと仲良くなって見せるよ、丙良ししょー」
 握手を完全に拒否されたことに酷く落ち込みながらも、何とか笑って見せる礼安。そんな健気な彼女に、辺りの新一年次は心打たれたのであった。
 そして、透の様子を見守っていた院は、どこか思うところがあった様子で、考え込んでいた。
(天音、透。入学式以前、どこかで聞いた記憶のある名前ですわ――――)

「――ということで、エリートである一組の皆さん。瀧本さん、真来さん、天音さんらトップ層の皆さんだけに留まらず、生徒全体の模範として行動するように。無論勉学もですが、その学年の『最高』であり続けてくださいね」
 担任の教師、目白からのホームルームの締め。それと同時に、皆が一堂に立ち上がり、礼をする。それによって放課後の時間が訪れる。
 入学初日はガイダンスだけで、手早く終わった。詳しい授業は明日からであった。
 生徒は、放課後の時間を有意義に扱う事が出来る。戦闘面で自身に足りない要素を見出すために広大な運動場を用いて戦闘訓練を行うもよし、図書室等で勉学の時間に充てるもよし。バイトや奉仕活動で、学園都市内で扱える通貨を稼ぐもよしである。
 その中で、礼安たちは学園の様子を見て回ることにしたのだが……。
「英雄学園は上昇志向の塊のような人ばかり、そう聞いてはいましたが……」
 院が呆れかえった顔で見やるその先には、一組のほぼ全員の生徒がわんさと礼安に近づいて教えを請おうとする様子であった。
「瀧本さん! 力の扱い方を教えてもらえるかな?」
「是非お友達になりましょう!」
「確か座学が苦手だったよね、手取り足取り教えてあげるよ!」
「お肉あげるから付き合って!!」
 最後の一名に有難い拳骨を食らわせながら、人だかりをかき分け進む院。案の定、困った顔で身動きが取れず着席状態の礼安がいた。
「院ちゃんどうしよう……みんな助けてあげたいよぉ」
「某超優良血統忍者よろしく貴女大量に影分身なんて出来ないでしょうに、淑女たるもの出来ない約束はしないものよ」
 そんな院の言葉に、閃いたように院の手を両手で握る礼安。
「――――あ。私、今一番したいことがあるの」
「珍しい、滅私奉公な貴女が要望だなんて」
 そう言うと、院を後ろに連れて教室の一角に歩み寄る。その先には、透と取り巻きの姿があった。
 礼安にとって、この教室内で現状一番仲良くなりたかったのは他でもない透だった。別に、礼安に話しかけていた大勢と仲良くなりたくない、という訳ではない。それこそ友達百人でも作って、小高い山の上で握り飯でも頬張りたい欲は確かに存在する。
 しかし、自分に何か非があるのだったら謝って仲良くしたい。あれから実に不満げな彼女の笑顔を見てみたい欲が、今の礼安にはあったのだ。
「――んだよ、七光り。明らか、暇じゃあなさそうだが?」
「天音ちゃん、私から一つ言わせて!」
 そう言うと、礼安は透の目の前に手を差し出す。握手を求めていたのだ。
「私と、友達になろうよ! 何ならマブダチ!」
「ヤなこった」
 ぴしゃりと即答すると、取り巻きについてくるようハンドサインで指示し、礼安からすぐに距離を取る。
 まるで、物言わぬ彫刻かのように、あるいはスイッチが強制的に切られたロボットのように表情を変えることなく静かに落胆する礼安。それを察知した院は何も言うことなく肩を優しく叩くも、礼安はそれくらいでめげる脆弱|《ヤワ》な精神は持ち合わせていなかった。
 すぐさまスイッチを入れなおし、院に向き直る。それと同時に院にはとてつもなく嫌な予感が立ち込めていた。
「院ちゃん!!」
 ほんの一瞬、止めた方が良いのかもしれない親心に似た感情が院の胸中を支配していたが、経験則上この状態の礼安はどうやっても止まらない『ハイパーお人よしモード』に入ったことを意味していた。
「――――止めても無駄なようね、礼安。……グッドラック」
「うん!!」
 そう言うと、礼安は教室を飛び出して透を追いかけ始めた。縁を結ぶため、仲良くなるため。何とも強引かつ脳筋な計画であった。こんな人物がこの間あの騒動を収めた英雄の卵そのものなのだから、脳が理解を拒否してしまう。
 もう出て行ってしまったものは仕方がないと、クラスメイト達は悲しい顔でそれぞれの放課後を送り始め、院はデバイスを用いて前々から気になっていた透の素性を調べ始めることにした。
(どうも、引っかかるというか……放っておきたくはない謎がそこにある気がします、実に気になりますわ)


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 翌日のこと。礼安と院が英雄学園に登校すると、校舎前にクラス分けが発表されていた。
 英雄学園の一年次は六クラスに分けられる。当人の学業成績、実績成績に応じて最初のクラスが決まるのだ。入学試験トップの成績を持つ者は一組に、そうでもないものは二組から六組に振り分けられる。六組に存在するものは、初年度から落第の危険性があるのだ。
 学年ごとに一組ずつ減っていき、最高学年が四年次となるため、最終学年は三組構成である。
 年度が切り替わるタイミングで、成績に応じてクラスの再編が行われる。そのため、入学前に人助けや自身の英雄の力を覚醒させることによって、クラス格上げを虎視眈々と狙う人物が多い。案外、英雄の世界も因子持ちだからとは言っても、決して楽なものでは無いのだ。
 礼安、院の二人は最も優れているとされている一組に配分されていた。そして、新入生主席である天音透|《アマネ トオル》もまた、同じ一組であった。
「あの、ビッグマウスだった主席の子も、我々と同じ一組らしいですわ、礼安」
「まあ、多分仲良くなれるよ!」
 何とも能天気な礼安、そんな様子を見て小さな競争社会と化したこの現場の雰囲気も、とても和やかなものとなっていた。
 しかし、そんな柔らかな雰囲気を打ち壊す、一人とその取り巻き二人。それぞれ示し合わせたような黄色のメッシュをたなびかせていた。そして礼安と院に食って掛かるのは、正面切ってこちらに歩く存在、透であった。
 男女共用たる通常制服|《ブレザー》を早速着崩し、制服内側に黄色のオーバーサイズ気味なパーカーを着込む。学校推薦のスラックスやスカートではなく、レトロチックかつタイトなダメージジーンズ。若年モデルのような美しい体型は、見る者を惹きつける美しい存在であった。しかし、性格は実に刺々しい。
「よお、七光り二人。俺と同じクラスなんだってな」
 その毒がふんだんに詰まった発言を理解できていない礼安と、それに対し敵意をむき出しにする院。
「私の事を馬鹿にするならまだいいですわ、でもお父様と礼安を馬鹿にする行為は何人たりとも許せませんわ」
 どうも険悪なムードの中、一触即発な何かを感じ取ったのか、丁度近くにいた丙良が声をかける。
「ちょっとちょっと、華々しい最初のクラス分けだってのに、喧嘩すること無いだろう?」
 リュックサックとロック・バスターを携えた青年、丙良慎介|《ヘイラ シンスケ》は、院と透の間に割って入った。
「君は……新入生主席の後輩ちゃんか。ハングリー精神に満ち溢れているのは結構だけど、喧嘩を売るのは英雄として失格なんじゃあないかい?」
「――アンタも、その七光り二人の肩を持つのかよ。おまけに俺の名前も覚えてねえと来た……結局は長いものに巻かれるクソ下らない精神な訳かよ」
 その発言にどうも思うところがあった丙良は、透に対して言い放つ。
「井の中の蛙、って言葉知ってるかな。英雄学園の入学試験は相当難しいものなんだけど……それに首席合格程度で、粒立てた実績もない中で『最強』だなんて笑わせないで貰えるかな? 少なくとも、君が噛みついている相手は三人とも――――君より強いと思うが」
 つい先日あった『教会』神奈川支部との直接対決により下した六人。うち二人は礼安と院。少なくとも、ごろつきのそれとは訳が違う修羅場を何度も潜り抜けてきた二人は、少なくとも『七光り』だなんて言葉で片づけてしまうのはもったいない存在である。
 しかも丙良が手塩にかけてコーチングした存在であったがために、馬鹿にされることが我慢ならなかったのだ。
「噛みつく相手は、きっちり選んだ方が良いと思うよ」
 珍しく、丙良は怒っていたのだ。あの事件の顛末を知らない部外者に、どうこう言われることが、何より苛立っていたのだ。
 その場に、言い知れないほどの重圧がのしかかる。それは、丙良によって発せられた魔力によるもの。他の生徒はただのとばっちりだが、透に向けられるものは他の生徒よりも圧倒的なものであった。
 礼安が、丙良の肩を軽く叩く。それにより、その場を包み込む殺気が一気に発散される。
「丙良ししょー、私たちの為? に怒ってくれたのはありがとう。でも……天音ちゃんも悪気はないと思うよ!」
 礼安は、明確に自分に対して敵意を抱いている透を、庇ったのだ。敵意を持った存在である透を庇ったのだ。
 しかし、それが透にとってたまらなく不快であったのだ。
「――ふざけんなよ、ふざけんなよ瀧本礼安!! 何もかも恵まれたお前に、分かられてたまるかってんだ!!」
 礼安に向けられた、明確な敵意。それでも、礼安は透を優しさで包もうとしていたのだ。礼安にとって、透のバックボーンがどうだとか、そういった小賢しいノイズはどうだってよかった、ただ皆には笑顔でいてほしかっただけなのだ。
 和解の意味を込めた、握手。礼安から提示されたそれを、透は荒々しく弾く。取り巻きを引き連れ、礼安たちよりも先に一組の教室へ向かっていった。
「――礼安ちゃん、大丈夫だったかい」
「大丈夫、時間をかけてでも……天音ちゃんと仲良くなって見せるよ、丙良ししょー」
 握手を完全に拒否されたことに酷く落ち込みながらも、何とか笑って見せる礼安。そんな健気な彼女に、辺りの新一年次は心打たれたのであった。
 そして、透の様子を見守っていた院は、どこか思うところがあった様子で、考え込んでいた。
(天音、透。入学式以前、どこかで聞いた記憶のある名前ですわ――――)
「――ということで、エリートである一組の皆さん。瀧本さん、真来さん、天音さんらトップ層の皆さんだけに留まらず、生徒全体の模範として行動するように。無論勉学もですが、その学年の『最高』であり続けてくださいね」
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 入学初日はガイダンスだけで、手早く終わった。詳しい授業は明日からであった。
 生徒は、放課後の時間を有意義に扱う事が出来る。戦闘面で自身に足りない要素を見出すために広大な運動場を用いて戦闘訓練を行うもよし、図書室等で勉学の時間に充てるもよし。バイトや奉仕活動で、学園都市内で扱える通貨を稼ぐもよしである。
 その中で、礼安たちは学園の様子を見て回ることにしたのだが……。
「英雄学園は上昇志向の塊のような人ばかり、そう聞いてはいましたが……」
 院が呆れかえった顔で見やるその先には、一組のほぼ全員の生徒がわんさと礼安に近づいて教えを請おうとする様子であった。
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「お肉あげるから付き合って!!」
 最後の一名に有難い拳骨を食らわせながら、人だかりをかき分け進む院。案の定、困った顔で身動きが取れず着席状態の礼安がいた。
「院ちゃんどうしよう……みんな助けてあげたいよぉ」
「某超優良血統忍者よろしく貴女大量に影分身なんて出来ないでしょうに、淑女たるもの出来ない約束はしないものよ」
 そんな院の言葉に、閃いたように院の手を両手で握る礼安。
「――――あ。私、今一番したいことがあるの」
「珍しい、滅私奉公な貴女が要望だなんて」
 そう言うと、院を後ろに連れて教室の一角に歩み寄る。その先には、透と取り巻きの姿があった。
 礼安にとって、この教室内で現状一番仲良くなりたかったのは他でもない透だった。別に、礼安に話しかけていた大勢と仲良くなりたくない、という訳ではない。それこそ友達百人でも作って、小高い山の上で握り飯でも頬張りたい欲は確かに存在する。
 しかし、自分に何か非があるのだったら謝って仲良くしたい。あれから実に不満げな彼女の笑顔を見てみたい欲が、今の礼安にはあったのだ。
「――んだよ、七光り。明らか、暇じゃあなさそうだが?」
「天音ちゃん、私から一つ言わせて!」
 そう言うと、礼安は透の目の前に手を差し出す。握手を求めていたのだ。
「私と、友達になろうよ! 何ならマブダチ!」
「ヤなこった」
 ぴしゃりと即答すると、取り巻きについてくるようハンドサインで指示し、礼安からすぐに距離を取る。
 まるで、物言わぬ彫刻かのように、あるいはスイッチが強制的に切られたロボットのように表情を変えることなく静かに落胆する礼安。それを察知した院は何も言うことなく肩を優しく叩くも、礼安はそれくらいでめげる脆弱|《ヤワ》な精神は持ち合わせていなかった。
 すぐさまスイッチを入れなおし、院に向き直る。それと同時に院にはとてつもなく嫌な予感が立ち込めていた。
「院ちゃん!!」
 ほんの一瞬、止めた方が良いのかもしれない親心に似た感情が院の胸中を支配していたが、経験則上この状態の礼安はどうやっても止まらない『ハイパーお人よしモード』に入ったことを意味していた。
「――――止めても無駄なようね、礼安。……グッドラック」
「うん!!」
 そう言うと、礼安は教室を飛び出して透を追いかけ始めた。縁を結ぶため、仲良くなるため。何とも強引かつ脳筋な計画であった。こんな人物がこの間あの騒動を収めた英雄の卵そのものなのだから、脳が理解を拒否してしまう。
 もう出て行ってしまったものは仕方がないと、クラスメイト達は悲しい顔でそれぞれの放課後を送り始め、院はデバイスを用いて前々から気になっていた透の素性を調べ始めることにした。
(どうも、引っかかるというか……放っておきたくはない謎がそこにある気がします、実に気になりますわ)