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「いままで愛茉には、自分の感情を吐き出せる相手がいなかった。僕に対しては、心配かけたくないという気持ちが先に出てしまっていただろうしね」

 整形や母親についてオレに話したことを、愛茉はお父さんに伝えていた。それがきっかけで、智美さんとの再婚話が具体的に進んだらしい。

 お父さんにとって、愛茉の心の傷が一番の気がかりだったのだろう。母親に対する愛茉の本当の気持ちが分からないままでは、再婚に踏み切れなかった。それは仕方ないことなのかもしれない。

「僕が再婚することに関して、本当はあの子も複雑な気持ちがあると思う。だけど桔平君がそばにいてくれるなら、そういうことも受け止めてくれるだろうと、安心できるんだよ。君みたいにまっすぐで大きい心を持った人と出会えて、本当によかった」
「そんなに度量が大きいわけじゃないですよ。ただ、愛茉以外の人間に興味がないだけです」
「そういうところが、まっすぐなんだよ」

 笑いながら、お父さんはオレの猪口に酒を注いだ。

「愛茉と暮らし始めて、嫌気がさしたりしていないかな?」
「まさか。かなり助けられているし、いてくれるだけでありがたいです」
「喧嘩は?」
「しませんね。愛茉は頻繁にヘソ曲げますけど、喧嘩をしたくないからオレが折れます」

 これまで一度も、愛茉と言い争いをしたことはない。ヘソを曲げた愛茉にオレが文句でも言おうものなら確実に喧嘩になるだろうが、そんな気持ちは起こらなかった。
 
「喧嘩するほど仲がいいなんて言葉もあるけど、愛茉と喧嘩するぐらいなら自己主張しないほうがマシですね。大体争いなんて、どっちが悪いとかじゃなくて、正義と正義のぶつかり合いでしょ。自分の正義を振りかざすことで誰かが傷つくのなら、そんなバカげたことはないと思うし」
「争わないって、大事なことだよ。桔平君がそういう人間だから、僕は安心して愛茉を任せられる。きっと君には、ワガママばかり言っているんだろう?」
「そうですね。すげぇワガママです」

 オレの言葉に、お父さんはやたらと嬉しそうに声を上げて笑った。

 ふたりで酒を酌み交わす。自分の父親が生きていればこんな日が来たのだろうかと、ふと頭をよぎる。

 最近、家族というものについて考えることが増えた。オレの家は一般的な家庭とはかけ離れているから、心のどこかで憧憬の念を抱いていたのかもしれない。

 翌日は3人で家の大掃除をした。その次の日は、智美さんも一緒に南樽市場(なんたるいちば)で買い出し。智美さんはこの日から年明けまで泊まることになったので、愛茉が喜んでいた。なにかと神経質な愛茉がここまで懐くなんて、智美さんも只者じゃないな。

 こんな風に、「家族」と穏やかに過ごす年末年始は初めてだ。一生縁がないと思っていた風景の中に、自分がいる。本当に、人生はどう転ぶか分からない。

 愛茉と智美さんが長時間かけて作ったお節料理は絶品で、それをいただきながらお父さんと飲む酒は、これまでの人生で一番美味かった。


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「いままで愛茉には、自分の感情を吐き出せる相手がいなかった。僕に対しては、心配かけたくないという気持ちが先に出てしまっていただろうしね」
 整形や母親についてオレに話したことを、愛茉はお父さんに伝えていた。それがきっかけで、智美さんとの再婚話が具体的に進んだらしい。
 お父さんにとって、愛茉の心の傷が一番の気がかりだったのだろう。母親に対する愛茉の本当の気持ちが分からないままでは、再婚に踏み切れなかった。それは仕方ないことなのかもしれない。
「僕が再婚することに関して、本当はあの子も複雑な気持ちがあると思う。だけど桔平君がそばにいてくれるなら、そういうことも受け止めてくれるだろうと、安心できるんだよ。君みたいにまっすぐで大きい心を持った人と出会えて、本当によかった」
「そんなに度量が大きいわけじゃないですよ。ただ、愛茉以外の人間に興味がないだけです」
「そういうところが、まっすぐなんだよ」
 笑いながら、お父さんはオレの猪口に酒を注いだ。
「愛茉と暮らし始めて、嫌気がさしたりしていないかな?」
「まさか。かなり助けられているし、いてくれるだけでありがたいです」
「喧嘩は?」
「しませんね。愛茉は頻繁にヘソ曲げますけど、喧嘩をしたくないからオレが折れます」
 これまで一度も、愛茉と言い争いをしたことはない。ヘソを曲げた愛茉にオレが文句でも言おうものなら確実に喧嘩になるだろうが、そんな気持ちは起こらなかった。
「喧嘩するほど仲がいいなんて言葉もあるけど、愛茉と喧嘩するぐらいなら自己主張しないほうがマシですね。大体争いなんて、どっちが悪いとかじゃなくて、正義と正義のぶつかり合いでしょ。自分の正義を振りかざすことで誰かが傷つくのなら、そんなバカげたことはないと思うし」
「争わないって、大事なことだよ。桔平君がそういう人間だから、僕は安心して愛茉を任せられる。きっと君には、ワガママばかり言っているんだろう?」
「そうですね。すげぇワガママです」
 オレの言葉に、お父さんはやたらと嬉しそうに声を上げて笑った。
 ふたりで酒を酌み交わす。自分の父親が生きていればこんな日が来たのだろうかと、ふと頭をよぎる。
 最近、家族というものについて考えることが増えた。オレの家は一般的な家庭とはかけ離れているから、心のどこかで憧憬の念を抱いていたのかもしれない。
 翌日は3人で家の大掃除をした。その次の日は、智美さんも一緒に|南樽市場《なんたるいちば》で買い出し。智美さんはこの日から年明けまで泊まることになったので、愛茉が喜んでいた。なにかと神経質な愛茉がここまで懐くなんて、智美さんも只者じゃないな。
 こんな風に、「家族」と穏やかに過ごす年末年始は初めてだ。一生縁がないと思っていた風景の中に、自分がいる。本当に、人生はどう転ぶか分からない。
 愛茉と智美さんが長時間かけて作ったお節料理は絶品で、それをいただきながらお父さんと飲む酒は、これまでの人生で一番美味かった。