「
支倉くん、
真鍋さんいる? 呼んでくれない?」
昼休み。
三組の教室へ行き、開けっ放しの後のドアから一歩中へ踏み込む。
河瀬 陽希はすぐ目の前、廊下側最後列の席で一人弁当を食べている支倉
翔聖の背中に声を掛けた。
すでに恒例行事と化している光景。
「なんだ。また頼まれたのか? ……本人に来させろよ、これくらい」
「俺が好きでやってるから」
大柄で不愛想。
見た目は少し怖いけれど、翔聖は意外と真面目で優しい。ぶつぶつ言いながらも教室の中心へ向けて声を上げ、真鍋
沙也香を呼んでくれる。
沙也香が、食べかけの弁当が入っているのだろう口元を押さえながらドアまでやって来た。
「わ~! ハルちゃん、さんきゅうー」
「ううん。じゃー、渡したからね!」
陽希から手紙を受け取って、一拍おいて口の中のものを飲み込んでから彼女が礼を言うのに笑って軽く手を振る。
「あ、河瀬くーん。あたしのも頼んでいい?
美和ちゃんに」
もう一人、別の女子生徒がバタバタと駆けて来た。
「いいよ~。
柴田さんだよね?」
一応確認した陽希に、
吉見 七緒は笑顔で頷く。
「そうそう。あ、これあげる~。いつもありがとね!」
「わ~! 嬉しい。ありがと、吉見さん。これ、預かってくね」
託す手紙と同時に彼女から渡されたのは、陽希の好きな銘柄のチョコレート。
先日、好みを訊かれたのはこのためか。わざわざ買って来てくれたのだろうか。
お手紙配達請負人。
今の陽希の副業だ。もちろん報酬は発生しない。ただし、時々お菓子が手に入る。
いまどきスマートフォンを持っていない高校生なんてほとんどいない。
電話でもメールでも、通信アプリでも。同じ学校の友人と連絡を取る方法なんていくらでもある。
タイムラグなく、労力も使わず、スマートに。
「メッセージ届けるよ。デジタルな時代だからこそ、究極のアナログの『お手紙』ってどう? 記憶にも記録にも残るよ~」
休み時間の教室での陽希の突然の提案に、それでも数人が興味を示した。無反応で聞き流したクラスメイトの方が多かったのは確かだが。
陽希としては、ちょっと特別で珍しいからこそ、所謂『告白』や恋人同士のレター交換などのとっておきを想定していたのだ。
しかし、実際に頼まれるケースは女子生徒同士の日常のやり取りばかりだった。
何度か使者を務めて信頼関係もできたあとで、陽希はよく頼んでくるクラスメイトの大崎 毬絵に尋ねてみた。
「なんで女の子同士ばっかなの? いや、それは全然いいんだけど。俺、恋のキューピッドみたいの考えてたから」
陽希の問いに、彼女はやれやれと言わんばかりに両掌を上に向けた外国映画や漫画みたいなわざとらしいポーズで答えた。
「ハルちゃん、それは古いってか夢見過ぎじゃない? カップルは逆に、二人の間に他人を入れたくないと思うよ。あたしと沙也香とか、普通の友達同士ならちょっと面白いし楽しいけどさぁ」
「そっか、そうだよな。わざわざ俺を挟むより直接会いたいよね」
感心し掛けたところへ、毬絵はいきなり非情な言葉を放つ。
「でもあたしはそれよりも、別れた後にカタチが残んのがイヤかも」
予想外のシビアなご意見に、陽希は一瞬絶句してしまった。
「……ラブラブで付き合ってても、そんな別れたら~とか考えんの? 大崎さんのイメージとちょっと違うんだけど」
恐る恐る口にするのに彼女は平然と答える。
「うーん、普通の子はない、かも。あたしも今まで彼氏いたことないから実際そうなったらわかんないけど。……お姉ちゃんがフッた男に『プレゼント全部返せ!』とか言われて、すっごい怒って帰って来たことあるんだよね」
「そ、それ、どーしたの……?」
そこまで訊いていいのか、と口にした後で気づいたがもう遅かった。
「頭から湯気出しながら部屋引っ掻き回して、プレゼントはもちろん一緒に出掛けたりした記念のちょっとしたもんまで、全部段ボールに詰めてその男に送り付けてたよ」
「……」
言うべきことが見つからずに口を噤んだ陽希に、毬絵はあっけらかんと笑う。
「でもさぁ、ホント楽しいよ! 最初は冗談ってか、ただその場のノリだったんだけどさ。便箋に書いた字を読むのって、中味なんてくだらないことだし、メールとかとおんなじなのに、なんかスマホの文字とは全然違うんだよね」
見るからに嬉しそうな毬絵に、陽希にも自然笑顔が戻って来た。
実際に毬絵と相手の沙也香は、陽希の一番の『お得意様』だ。気に入ってくれているのは確かなのだろう。