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妖魔

ー/ー



紅く輝く右の目は『紅血の魔眼』。使用時には第三の目(サードアイ)と呼ばれる紅く巨大な異形の目が出現する。
 蒼く煌めく左の目は『蒼静の魔眼』。『紅血の魔眼』と同じく、使用時には第三の目(サードアイ)と呼ばれる巨大な蒼い異形の目が出現する。


「原因によって、結果は一義的に求められる」


 漂う緊張感をよそに、魔女マーリンは語り出す。


「簡単に言えば、全ての出来事はそれ以前の出来事のみによって形成されるってことさ」


 魔女マーリンの噛み砕いた説明も、旭には理解できなかったようだ。だが、そんなことは当然で、稀代の天才と謳われていた魔女の理論など、誰に理解されるはずもない。魔女マーリンは少し悲しそうな顔をして続けた。


「紅血の魔眼、蒼静の魔眼。この2つの魔眼を組み合わせることで、私は擬似的な『未来視』を可能にしている。もっとも、実際に未来が見えているわけではないがね」

「……長ぇ」

「ん?」

「説明が長ぇんだよ」


 一時的に収まっていた焔が再び燃え盛る。旭を包み、紅い焔を身にまとっている。旭の今日のコンディションは過去類を見ないほど最高だった。なぜだか、身体の芯から熱くなっている。身体の内に熱を溜め込むまでもなく、旭の体温は急上昇していた。身体に溜まった熱のせいか、頭もぼんやりしてきている。
 陽炎のように視界が歪む。旭には既に、魔女マーリンの表情も、姿さえも見えなくなっていた。熱の上昇と同時に呼吸も激しくなっていく。心拍数が徐々に早くなって、耳の先までじんわりと熱くなる。どこかの血管がはち切れてしまっていそうなほど、血の巡りが早まる。


「……それ以上は限界だ。やめておきなさい」

「断る。死んだらそれまでだ」


 旭の返事に魔女マーリンは顔を歪めた。マーリンには、2つの魔眼の影響で未来が見えている。


「……そのままでは、君は数日後に死ぬ。私が見た確実な未来だ」

「へぇ、大層なことで。知るかよバカが。お前の見てる未来なんて捻じ曲げてやる」


 もはや衝突は避けられない。旭はとうに腹を括っている。それを理解した魔女マーリンも、ようやく覚悟を決めた。深く深呼吸をし、紅い目と蒼い目で旭を見つめる。


「”――――”」


 水曜(ミエルコレス)にも放った認識できない魔法が旭を襲う。水の中にいるみたいに、詠唱はまるで聞き取れなかった。それどころか、魔法を知覚することもできない。この感覚を、旭は知っている。


(……次元が、違う)


 人間と妖では、生きている次元が違うから、見ることも触れることもできない。この状況も、同じなのだ。今の旭と、魔女マーリンでは実力の次元が違う。旭の知らない次元に至っている魔女マーリンの魔法を、旭は知覚できない。


(……頼むぞ)


 ぎゅっと首にかけた黒白の宝石を旭は握りしめる。じんわりと、黒白の宝石を通じて、何かが旭に伝わってくる。これも、知っている。それはもう既に()()している。


「俺に力を貸せ! 八重!」


 その瞬間、ゆったりの旭に流れ込んでいた()()が、一気に入り込んでくる。身体の隅々を侵食するように巡り、旭の身体に流れる魔力と反応する。


「……後悔するよ」

「したことがねぇな!」


 あの日、八重と戦った時に旭が放った魔力と妖気が混ざりあった技は、とてつもない力を持っていた。今までの魔法とは違う。だが、妖術とも異なる技だ。


『魔と妖は水と油。決して混ざり合うことのない均衡』


 だが、それを破るものが現れた。他でもないモニカ・エストレイラと騎獅道旭だ。両者の共通点は()()()()()()()()持つ、ということだ。モニカは人と妖を「繋ぐ者」。そして、旭に課せられた使命は――


「”妖魔・不知火(しらぬい)”!」


 力が均衡することはなかった。旭の渾身の一撃も、魔女マーリンにとっては児戯に等しい。火の粉を払うように、ふぅっと虚空に息を吹きかけると、旭は突如吹き飛んだ。
 古書館に納められていた本が次々に巻き上がり、旭は壁に激突する。みしみしと軋む音がしているのが壁なのか、自分の体なのか、旭にはもう分からない。だが次の瞬間、旭が神精樹の外壁を突き破ったことで、ようやく理解する。


 死――


 もうすぐそこにまで迫っている死の感覚。爆音を立てて破壊された神精樹の外壁。旭の身体は古書館から飛び出し、重力し従って落下していく。抵抗する力など残されてはおらず、旭はただながれる景色を見ていることしかできなかった。

 ただ、それは一筋の希望のように。旭を優しく包み込んだ。


(誰……だ)


 脇に抱えられているのか、旭から顔はまったく見えなかった。何を言うわけでもなく、真っ直ぐ落下していく旭をキャッチし、再度上昇していく。そして、破壊された外壁の上に立ち、旭を抱えた何者かは言った。


「これ以上、()()()()に手を出すな。『終極』。」

「お前は――」


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紅く輝く右の目は『紅血の魔眼』。使用時には|第三の目《サードアイ》と呼ばれる紅く巨大な異形の目が出現する。
 蒼く煌めく左の目は『蒼静の魔眼』。『紅血の魔眼』と同じく、使用時には|第三の目《サードアイ》と呼ばれる巨大な蒼い異形の目が出現する。
「原因によって、結果は一義的に求められる」
 漂う緊張感をよそに、魔女マーリンは語り出す。
「簡単に言えば、全ての出来事はそれ以前の出来事のみによって形成されるってことさ」
 魔女マーリンの噛み砕いた説明も、旭には理解できなかったようだ。だが、そんなことは当然で、稀代の天才と謳われていた魔女の理論など、誰に理解されるはずもない。魔女マーリンは少し悲しそうな顔をして続けた。
「紅血の魔眼、蒼静の魔眼。この2つの魔眼を組み合わせることで、私は擬似的な『未来視』を可能にしている。もっとも、実際に未来が見えているわけではないがね」
「……長ぇ」
「ん?」
「説明が長ぇんだよ」
 一時的に収まっていた焔が再び燃え盛る。旭を包み、紅い焔を身にまとっている。旭の今日のコンディションは過去類を見ないほど最高だった。なぜだか、身体の芯から熱くなっている。身体の内に熱を溜め込むまでもなく、旭の体温は急上昇していた。身体に溜まった熱のせいか、頭もぼんやりしてきている。
 陽炎のように視界が歪む。旭には既に、魔女マーリンの表情も、姿さえも見えなくなっていた。熱の上昇と同時に呼吸も激しくなっていく。心拍数が徐々に早くなって、耳の先までじんわりと熱くなる。どこかの血管がはち切れてしまっていそうなほど、血の巡りが早まる。
「……それ以上は限界だ。やめておきなさい」
「断る。死んだらそれまでだ」
 旭の返事に魔女マーリンは顔を歪めた。マーリンには、2つの魔眼の影響で未来が見えている。
「……そのままでは、君は数日後に死ぬ。私が見た確実な未来だ」
「へぇ、大層なことで。知るかよバカが。お前の見てる未来なんて捻じ曲げてやる」
 もはや衝突は避けられない。旭はとうに腹を括っている。それを理解した魔女マーリンも、ようやく覚悟を決めた。深く深呼吸をし、紅い目と蒼い目で旭を見つめる。
「”――――”」
 |水曜《ミエルコレス》にも放った認識できない魔法が旭を襲う。水の中にいるみたいに、詠唱はまるで聞き取れなかった。それどころか、魔法を知覚することもできない。この感覚を、旭は知っている。
(……次元が、違う)
 人間と妖では、生きている次元が違うから、見ることも触れることもできない。この状況も、同じなのだ。今の旭と、魔女マーリンでは実力の次元が違う。旭の知らない次元に至っている魔女マーリンの魔法を、旭は知覚できない。
(……頼むぞ)
 ぎゅっと首にかけた黒白の宝石を旭は握りしめる。じんわりと、黒白の宝石を通じて、何かが旭に伝わってくる。これも、知っている。それはもう既に|学《・》|習《・》している。
「俺に力を貸せ! 八重!」
 その瞬間、ゆったりの旭に流れ込んでいた|妖《・》|気《・》が、一気に入り込んでくる。身体の隅々を侵食するように巡り、旭の身体に流れる魔力と反応する。
「……後悔するよ」
「したことがねぇな!」
 あの日、八重と戦った時に旭が放った魔力と妖気が混ざりあった技は、とてつもない力を持っていた。今までの魔法とは違う。だが、妖術とも異なる技だ。
『魔と妖は水と油。決して混ざり合うことのない均衡』
 だが、それを破るものが現れた。他でもないモニカ・エストレイラと騎獅道旭だ。両者の共通点は|理《・》|か《・》|ら《・》|逸《・》|脱《・》|し《・》|た《・》|力《・》持つ、ということだ。モニカは人と妖を「繋ぐ者」。そして、旭に課せられた使命は――
「”妖魔・|不知火《しらぬい》”!」
 力が均衡することはなかった。旭の渾身の一撃も、魔女マーリンにとっては児戯に等しい。火の粉を払うように、ふぅっと虚空に息を吹きかけると、旭は突如吹き飛んだ。
 古書館に納められていた本が次々に巻き上がり、旭は壁に激突する。みしみしと軋む音がしているのが壁なのか、自分の体なのか、旭にはもう分からない。だが次の瞬間、旭が神精樹の外壁を突き破ったことで、ようやく理解する。
 死――
 もうすぐそこにまで迫っている死の感覚。爆音を立てて破壊された神精樹の外壁。旭の身体は古書館から飛び出し、重力し従って落下していく。抵抗する力など残されてはおらず、旭はただながれる景色を見ていることしかできなかった。
 ただ、それは一筋の希望のように。旭を優しく包み込んだ。
(誰……だ)
 脇に抱えられているのか、旭から顔はまったく見えなかった。何を言うわけでもなく、真っ直ぐ落下していく旭をキャッチし、再度上昇していく。そして、破壊された外壁の上に立ち、旭を抱えた何者かは言った。
「これ以上、|私《・》|の《・》|生《・》|徒《・》に手を出すな。『終極』。」
「お前は――」