ある世界線のプロローグ――アクアマリンになりたくて
ー/ー
真夏の夕陽が水面を照らしています。美しいアクアマリンも少し赤みがかっているように見えます。旦那様に連れて行っていただいた、あの日の景色と相違ないと思います。そばには誰も居ませんが。
旦那様とは政略結婚でしたので、正直に申しますとお顔は全く好みではありませんでした。ですが、旦那様はとても優しく私を照らしてくださいました。私が嫌だと思うことはしませんでしたし、して欲しい事を察してすぐに行動してくれました。
また、私の人生は旦那様に会うまで名家の者としての振舞いを気にして自分の意志がない弱い人間でした。その上、家以外の世界を全く知りませんでした。まさに籠の中の鳥に等しい存在でした。……貴方は私を連れ出して、自分の意志を作ってくださいました。
そんな貴方に私はいつしか惚れていました。貴方以外の殿方にする事など考えられなくなっていました。
ただ、そんな貴方と強制的に離婚させられてからは地獄の日々でした。新しい夫は暴力三昧。それで済めばいい方です。一族は見て見ぬふり。私は屋敷を飛び出し、身を潜める暮らしを選びました。
ですが、外の世界を知ったとは言え経験の浅い私は他人から食い物にされました。戸籍が全て使えないから日雇いで食い繋ぎますが、家はなく、一日一食が限界で、誰かに必ず襲われる毎日。身籠らなかったのは奇跡としか言えないでしょう。
貴方の愛した髪も声も体も心ももう全てがボロボロ。汚れ切って壊れる寸前と言った状態です。捨てられる人形と同じ、いえ、それ以下です。
だから今日、貴方とよく訪れていたこの海の一部になる準備をします。数週間の空腹を我慢して用意ができましたので、今日がその日なのです。
海になれれば、いつでも海が、この海が大好きな貴方が見守ってくださるから寂しくはありません。もしかすると、貴方との出会いが悲劇の始まりだったかもしれません。でも、貴方の好きなアクアマリンのお陰で寂しくない最期が迎えられるのですから、良い終わり方だったでしょう。
できれば貴方の笑顔に包まれて目を閉じたかったのですけど……。でも、これからは毎日見ることが出来るのですから。我慢しましょう。
ただ一つだけ。貴方………湊さん。私は湊さんをお慕い申しております。ずっと、最期まで大好きでした。ありがとうございました
手紙は何かで濡れて歪んでいた。震える手と身体でそれを読んだ。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
真夏の夕陽が水面を照らしています。美しいアクアマリンも少し赤みがかっているように見えます。旦那様に連れて行っていただいた、あの日の景色と相違ないと思います。そばには誰も居ませんが。
旦那様とは政略結婚でしたので、正直に申しますとお顔は全く好みではありませんでした。ですが、旦那様はとても優しく私を照らしてくださいました。私が嫌だと思うことはしませんでしたし、して欲しい事を察してすぐに行動してくれました。
また、私の人生は旦那様に会うまで名家の者としての振舞いを気にして自分の意志がない弱い人間でした。その上、家以外の世界を全く知りませんでした。まさに籠の中の鳥に等しい存在でした。……貴方は私を連れ出して、自分の意志を作ってくださいました。
そんな貴方に私はいつしか惚れていました。貴方以外の殿方にする事など考えられなくなっていました。
ただ、そんな貴方と強制的に離婚させられてからは地獄の日々でした。新しい夫は暴力三昧。それで済めばいい方です。一族は見て見ぬふり。私は屋敷を飛び出し、身を潜める暮らしを選びました。
ですが、外の世界を知ったとは言え経験の浅い私は他人から食い物にされました。戸籍が全て使えないから日雇いで食い繋ぎますが、家はなく、一日一食が限界で、誰かに必ず襲われる毎日。身籠らなかったのは奇跡としか言えないでしょう。
貴方の愛した髪も声も体も心ももう全てがボロボロ。汚れ切って壊れる寸前と言った状態です。捨てられる人形と同じ、いえ、それ以下です。
だから今日、貴方とよく訪れていたこの海の一部になる準備をします。数週間の空腹を我慢して用意ができましたので、今日がその日なのです。
海になれれば、いつでも海が、この海が大好きな貴方が見守ってくださるから寂しくはありません。もしかすると、貴方との出会いが悲劇の始まりだったかもしれません。でも、貴方の好きなアクアマリンのお陰で寂しくない最期が迎えられるのですから、良い終わり方だったでしょう。
できれば貴方の笑顔に包まれて目を閉じたかったのですけど……。でも、これからは毎日見ることが出来るのですから。我慢しましょう。
ただ一つだけ。貴方………湊さん。私は湊さんをお慕い申しております。ずっと、最期まで大好きでした。ありがとうございました
手紙は何かで濡れて歪んでいた。震える手と身体でそれを読んだ。