【1】①
ー/ー「いい? ママの言うとおりにして。ほら、早く廊下に出て『おまわりさん』を──」
雪が散らつく中を古びた二階建てアパートに押し寄せた、制服とスーツが入り乱れる警察官の群れ。
星が一歩後退ったのを見て取ると、場の責任者らしい壮年の男性が少し離れたところで控えていた仲間に声を掛けた。
「おい、井口。お前の出番だぞ」
「はい! 小谷野さん」
呼ばれて、長身の若い女性が緊張した面持ちで近づいて来る。

「パパはいっつもきららをたたいてたの。いたくていやだった。すごいこわかった。でもママが、『パパはしんだから、ママもきららもじゆうになれるよ』って、ちがいっぱい──」
ショックを受けているだろう幼子に寄り添おうとしたところ、いきなり堰を切ったように話し出した星に、彼女は一瞬顔を歪め言葉を詰まらせた。
「あ、……ちょっとだけ待っててね。お姉ちゃん、どこにも行かないから。あのおじさんとお話するだけ。ここから見てて」
平静を装いつつそれだけ告げて、彼女は足早に数歩離れた男性たちのもとに向かう。
「小谷野さん、吉倉さんを呼んでいただくことはできますか? もうひとり女性がいたほうが、……すみません、私──」
「おう、わかった。でも、お前のその若さとか未熟さがあの子に安心感を与える部分もあるんだ。それは多分、吉倉よりお前のほうが相応しい。少なくとも、俺たちじゃ星ちゃんを怯えさせただけだからな」
吉倉に病院向かうように言っとけ、と他の部下に冷静な指示を飛ばしながらの小谷野の言葉に、井口が頷いている。
おそらく井口は、「小さな子どもがいる」ために女性刑事だというだけで連れて来られたのだろう。
まだ経験も浅そうな彼女が、自分一人では受け止められない、ケアできない、と判断するのも無理はない。
「もう大丈夫よ、星ちゃん。何も怖くないから。病院に行こうね。お姉ちゃんが一緒にいるから心配しないで。──寒くない?」
そそくさと戻ってきた彼女の問い掛けに、黙って首を左右に振る。
柔らかい表情と口調に、星は半年前まで通っていた小さな幼稚園で一時担任だった教員を思い出した。
──ようちえん、たのしかったな。ゆみせんせいやさしかった。でも、すぐいなくなっちゃった。……きららがいいこじゃなかったから?
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「いい? ママの言うとおりにして。ほら、早く廊下に出て『おまわりさん』を──」
雪が散らつく中を古びた二階建てアパートに押し寄せた、制服とスーツが入り乱れる警察官の群れ。
|星《きらら》が一歩後退ったのを見て取ると、場の責任者らしい壮年の男性が少し離れたところで控えていた仲間に声を掛けた。
|星《きらら》が一歩後退ったのを見て取ると、場の責任者らしい壮年の男性が少し離れたところで控えていた仲間に声を掛けた。
「おい、|井口《いぐち》。お前の出番だぞ」
「はい! |小谷野《こやの》さん」
呼ばれて、長身の若い女性が緊張した面持ちで近づいて来る。
「はい! |小谷野《こやの》さん」
呼ばれて、長身の若い女性が緊張した面持ちで近づいて来る。
「パパはいっつも|きらら《星》をたたいてたの。いたくていやだった。すごいこわかった。でもママが、『パパは|し《死》んだから、ママも|きらら《星》もじゆうになれるよ』って、|ち《血》がいっぱい──」
ショックを受けているだろう|幼子《おさなご》に寄り添おうとしたところ、いきなり堰を切ったように話し出した星に、彼女は一瞬顔を歪め言葉を詰まらせた。
ショックを受けているだろう|幼子《おさなご》に寄り添おうとしたところ、いきなり堰を切ったように話し出した星に、彼女は一瞬顔を歪め言葉を詰まらせた。
「あ、……ちょっとだけ待っててね。お姉ちゃん、どこにも行かないから。あのおじさんとお話するだけ。ここから見てて」
平静を装いつつそれだけ告げて、彼女は足早に数歩離れた男性たちのもとに向かう。
平静を装いつつそれだけ告げて、彼女は足早に数歩離れた男性たちのもとに向かう。
「小谷野さん、|吉倉《よしくら》さんを呼んでいただくことはできますか? もうひとり女性がいたほうが、……すみません、私──」
「おう、わかった。でも、お前のその若さとか未熟さがあの子に安心感を与える部分もあるんだ。それは多分、吉倉よりお前のほうが相応しい。少なくとも、俺たちじゃ星ちゃんを怯えさせただけだからな」
吉倉に病院向かうように言っとけ、と他の部下に冷静な指示を飛ばしながらの小谷野の言葉に、井口が頷いている。
おそらく井口は、「小さな子どもがいる」ために女性刑事だというだけで連れて来られたのだろう。
まだ経験も浅そうな彼女が、自分一人では受け止められない、ケアできない、と判断するのも無理はない。
「おう、わかった。でも、お前のその若さとか未熟さがあの子に安心感を与える部分もあるんだ。それは多分、吉倉よりお前のほうが相応しい。少なくとも、俺たちじゃ星ちゃんを怯えさせただけだからな」
吉倉に病院向かうように言っとけ、と他の部下に冷静な指示を飛ばしながらの小谷野の言葉に、井口が頷いている。
おそらく井口は、「小さな子どもがいる」ために女性刑事だというだけで連れて来られたのだろう。
まだ経験も浅そうな彼女が、自分一人では受け止められない、ケアできない、と判断するのも無理はない。
「もう大丈夫よ、星ちゃん。何も怖くないから。病院に行こうね。お姉ちゃんが一緒にいるから心配しないで。──寒くない?」
そそくさと戻ってきた彼女の問い掛けに、黙って首を左右に振る。
柔らかい表情と口調に、星は半年前まで通っていた小さな幼稚園で一時担任だった教員を思い出した。
そそくさと戻ってきた彼女の問い掛けに、黙って首を左右に振る。
柔らかい表情と口調に、星は半年前まで通っていた小さな幼稚園で一時担任だった教員を思い出した。
──ようちえん、たのしかったな。ゆみせんせいやさしかった。でも、すぐいなくなっちゃった。……|きらら《星》がいいこじゃなかったから?